「不登校」という言葉が社会で認知されるようになってから久しくなりました。その間に教育機会確保法が施行されたり、調査が行われたり、不登校の子どもを対象とした学びの多様化学校が設置されたりするなど、さまざまな対策が打ち立てられてきました。その一方で、2023年度の文部科学省の調査によると学校に通わない子どもの数は過去最多となっています。
そこで今回は、不登校の現状を改めて整理するため、認定NPO法人Learning for All (以下、LFA)の世田谷エリアマネージャーである細田 詠平氏にお話を伺いました。
後編では、課題に取り組むために世田谷エリアで行っている活動をお話しいただきます。
前編はこちら:
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プロフィール:細田 詠平氏
大学4年次にボランティアとしてLearning for All の前身の活動に参加し、以降学生スタッフ・教師として1年間、学習支援プログラムに従事。
その後、東京都の中学校教員として11年間勤務。多くの子どもと関わる仕事の喜びと、困難を抱えた子どもに向き合う中で葛藤の日々を送る。そんな中、子ども第一のLearning for All のビジョンに再び惹かれ、2024年4月に入職。
現在は世田谷エリアの居場所づくり、地域ネットワークのマネージャーを担当。
現場で感じている課題
—それでは、実際に現場で活動する中で感じている課題を教えてください。
活動する中で感じている課題は、
- 公的支援の手薄さ
- フリースクールだけではない、「居場所」の必要性の認知度
- 出口支援の難しさ
です。それぞれについて、お話しいたします。
1. 公的支援の手薄さ
1-1. 量的な不足
公的支援については、まず義務教育の期間である小・中学生とそうではない高校生世代で内容が異なります。
小・中学生向けには、行政が運営する「ほっとスクール」という不登校の子どもが通える場所があり、学校が開いている時間帯はそこで過ごすことができます。区内3か所で合計300人近くがに登録していて、半数ほどが常時そこで過ごしています。けれども、すでにどの施設も登録待ちの子どもが何人もおり、量的にはまだ不足していると考えられます。また、世田谷区は行政がかなり不登校支援に力を入れているため、2024年4月時点で全国に35校しかない「学びの多様化学校」(注1)の2校目の設置も計画されています。しかし、こちらも1学年あたり50人ほどしか通うことができません。
義務教育ではなくなる高校生世代については、全国的に不登校の子どもが通う施設や支援のしくみが不足していると言えます。世田谷区が行った令和5年度子どもの生活実態調査によると、生活困窮世帯の子どもたちは不登校の割合が高いというデータが出ています。施策にはまだ移されていないものの、区としても今後取り組みたいという考えはあるのではないかと思います。
(注1)「学びの多様化学校」とは、不登校の子どもの実態に配慮した特別の教育課程を編成する必要があると認められる場合、特定の学校に置いて教育課程の基準によらずに、特別の教育課程を編成することができる特例の学校のこと。(引用:https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1387008.htm)
1-2. 繋がる難しさ
さらに、全世代に共通する課題として、不登校になった子どもに公的にアウトリーチする方法が実は非常に少ないことが挙げられます。生活保護受給世帯など、福祉の面で行政のサポートが入っていればケースワーカーなどを通じてコンタクトを取ることができますが、そうでない場合は、子どもの情報を直接もっている学校以外に直接的な対応をすることは行政でも難しいのです。
行政が意欲的に取り組んでいる世田谷区でさえ、残念ながら支援が足りていない状況なので、全国的にはさらに不足していると思います。
2. フリースクールだけではない、「居場所」の必要性の認知度
近年、自治体によるフリースクールの利用補助が増えてきたこともあり、「不登校=フリースクール」という図式ができつつあると思っていて、学校教員だった立場からすると、特にその風潮を感じます。
もちろん、学校に通わない子どもの選択肢の1つとしてフリースクールがあることはとても重要なのですが、フリースクールに通えるのはある程度自ら活動ができる状態となっている子どもである場合が多いです。回復期の途上にあり、家庭以外の繋がりを潜在的に求めているものの行動が難しい段階の子どもに対して、フリースクールは「参加の壁」が高い場合もあるのです。
そのような子どもたちにとって、フリースクールよりも気軽に通える「居場所」があることは、少しずつ外との繋がりをつくったり、自信を取り戻していく場所として重要だと考えています。しかし、そのような「居場所」の重要性はまだ社会に浸透していないと感じます。
個人的には、不登校の子どもの心理状態やリスクに段階があることが認知されていないからこそ、段階に応じた支援である「居場所」の必要性も十分に定着していないと考えます。そのため、リスクの波も含め、不登校に関する知識や理解がさらに世間で進む必要があると感じています。
3. 出口支援の難しさ
安心できる居場所を見つけた子どもたちを、どのように社会に送り出すのかも大きな課題です。やはり、現在やりたい活動ができて笑顔も見せてくれるようになった子どもたちに対し、その先についても責任を持つ必要があると考えています。
しかし、不登校の子どもたちの進学支援は難易度が高い場合が多く、学校を長期的に休んでいた影響で学力が追いついていなかったり、中には発達特性や精神疾患を抱えており、長時間集中することが難しいような子どももいます。子どもたちの心の回復をサポートしながら、学習支援も進めていかなければいけないことが不登校支援の難しさであると感じています。
就労支援については、私たちが行っている居場所づくり事業だけで実施するのが難しいので、地域の繋がりを頼り、受け入れ先を開拓していきたいと思います。「誰かの役に立っている」という実感が第一歩だと思うので、居場所の運営の手伝いや、地域のイベントへの参加、お年寄りの家の草むしりなども含めて幅広く、他人のために活動する機会を増やしていく所存です。
画像:Loose Drawing・ソコストから作成
世田谷エリアでの挑戦
—最後に、お話しいただいた課題を解決するために世田谷エリアで行っていることを教えてください。
大きく分けて、
- 3つの壁と戦う
- 低迷期・回復期の子どもの受け入れ・アプローチ
- リスクの判別
の3点に注力しています。
1. 3つの壁と戦う
先ほどお話しした「1. 情報の壁」「2. 参加の壁」「3. 定着の壁」を低くするために、さまざまな活動を行っています。
1-1. 情報の壁
まず、不登校の子ども同士を繋げる「子どもネットワーク」を作りました。当事者が互いに繋がり、やりたいことに向けて大人が伴走することを目的として、不定期で会議を設けています。参加者はLFAが運営する居場所づくり事業に登録している子どもが中心ではありますが、登録していない子どもも参加しています。支援先やイベントの情報を共有したり、私たちとも一緒に交流会を行ったりすることで、子どもたちに情報が届きやすくなり、アクセスできる支援を把握しやすくなれば の可視化に繋がればと思っています。
また、世田谷区には不登校の子どもを持つ親を支援する「親の会」という市民の会がいろいろなエリアに複数存在していたため、その主催者のネットワークである「親の会ネットワーク」も形成しました。これまではそれぞれの親の会の繋がりが十分とは言えなかったのですが、主催者同士が繋がることで情報共有をしたり、どのエリアの子どもも来やすいようにイベントの時期を調整したりすることで、より多くの保護者・子どもに必要な情報が届くようになりました。また、この「親の会ネットワーク」は、行政と不登校支援について話し合う際の中心組織となっています。
加えて、世田谷区内で居場所づくり事業を運営している支援者同士のネットワーク「居場所ネットワーク」も作りました。来年度以降、本格的な活動を予定しているのですが、勉強会を行う他、共同開催のイベントを実施して各事業に通う子ども同士の交流を図りたいと考えています。
そして、全てのネットワークが参加する「世田谷ブライトネットワーク」も作りました。1つのネットワークでは実現が難しいことを提案したり、互いのネットワークへの要望を伝えたりできる場となっています。例えば、「親の会」や居場所づくり事業を運営している団体が実施しているイベントの時期を調整し、イベントが被ることを避けたり、毎週末出かけるのが難しい子どもの外出頻度にあわせたものにしたりして、参加しやすくなるように工夫しています。これによって、子どものタイミングに合わせて適切な支援が家庭や子どもにさらに届きやすくなると考えます。
また、支援の可視化を目指して総合相談窓口となるホームページも開設しました。こちらには、区内の支援情報が一覧としてまとまっていて、今まで課題だった「支援先の情報の散逸」の解決に一歩近づいたと考えています。さらに、どの支援機関に繋がるかを悩んでいる方には、メールによる個別の相談支援も始め、より適切な支援先に繋げられるようになったと思います。
1-2. 参加の壁
「参加の壁」を軽減するために、居場所づくり事業の運営のみならず、外出が苦手な子どもの家庭訪問を行ったり、お話しする機会を設けたりしています。きっかけがあれば一緒に外出し、居場所の体験や見学にも同行しています。
登録する前の居場所づくり事業の見学は積極的に受け入れています。子ども本人の見学だけでなく、保護者のみの見学も受け入れています。なぜなら、子どもに薦められると思っていただくためには、保護者が「安心して子どもを預けられる」と思えることが大切だからです。「まだ低迷期にあるため今すぐ通うことは難しいが、もう少し回復したら通わせたい」と、先のことを見据えて見学に来られる保護者の方も多いですね。
1-3. 定着の壁
前編でも説明した通り、文部科学省の定義における「不登校」の子どもだけでなく、行き渋りのある子どもの相談なども受け付けていて、ニーズがあえば居場所づくり事業にご登録いただきます。また、現在は学校に通っていても不登校経験がある子どもも受け入れていて、中退や不登校が繰り返されないよう、支援を行っています。
2. 低迷期・回復期の子どもの受け入れ・アプローチ
2-1. 居場所づくり事業
低迷期や回復期の子どもたちをサポートするために、居場所づくり事業を運営しています。前編でも説明した通り、低迷期や回復期の子どもたちがハードルやプレッシャーを感じずに通える「居場所」の存在は、子どもたちのその後の回復にとって非常に重要であると考えています。
居場所であるため、みんなで交流できるスペースもあれば、1人で創作活動をしたりゆっくり過ごしたりすることもできます。その中で一番大切にしていることは、「どれも自分自身で、そして、ともに」という目標です。自分で決めたことを行いながらも、同じ場で一緒に過ごすことでそれぞれの活動に人となりが現れて、お互いのありのままの姿を認めあう場にしていきたいと考えています。
2-2. アウトリーチ
より多くのニーズのある子どもたちと繋がれるよう、さまざまな手法でアウトリーチしています。
1つ目は、月に1回公民館等を借りて実施している出張居場所です。小学生〜高校生を対象に実施している非登録制の居場所づくり事業で、ここを訪れた子どもが登録制の居場所に興味を持ってくれて、見学を希望する場合もあります。
また、「親の会」からのご紹介も多いです。例えば、「親の会」が主催する、不登校に悩んでいる親子が集まる「オープンデー」と呼ばれるイベントがあり、LFAのスタッフも毎月お手伝いに行っていて、事業のチラシを配っています。また、直接子どもをご紹介いただく他、「まだ居場所に通うのは難しいかもしれないけど、イベントの際に声をかけてほしい」などの情報も教えていただいています。
次に、地域の高校とも連携しています。世田谷区には、不登校経験のある生徒を積極的に受け入れている世田谷泉高校というチャレンジスクールがあるので、高校から生徒を紹介していただいたり、呼びかけを行ったりしていただいています。拠点にはオンライン授業を受けられる環境も整備していて、学校には通わないけれども勉強する場所が欲しい子どもに対応しています。
さらに、保護者からの個別のご相談もメールを通じて受け付けています。お話を聞いたり、子どもともコンタクトが取れそうな場合は家庭訪問を提案したりしています。
最後に、行政機関からの紹介により、居場所づくり事業に参加する子どももいます。
3. リスクの判別
子どもたちと繋がる中で、リスクをきちんと判別することは重要です。なぜなら、医療などの専門的なケアを必要とする場合もあるからです。そのため、新しい子どもと出会った際には、その子がどのような状態にあるのかを不登校・登校渋り 保護者のためのハンドブックや書籍と照らし合わせながらアセスメントしています。ただ、LFAはまだ世田谷エリアでの活動を始めたばかりで専門知識も不足していると思うので、「親の会」の皆さんの知恵を借りながら取り組んでいます。
画像:Loose Drawing・ソコストから作成
まとめ
今回は、細田さんに、不登校の現状と支援の課題について伺いました。ポイントを以下にまとめます。
- 現場で感じている課題として、公的支援の手薄さ・フリースクールだけではない、「居場所」の必要性の認知度・出口支援の難しさが挙げられる。
- 世田谷エリアでは、上述した課題に取り組むために、3つの壁と戦ったり、低迷期・回復期の子どもの受け入れ・アプローチを行ったり、リスクの判別をしたり、さまざまな挑戦をしている。
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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