【第2回】上間陽子さんと共に考える~困難を抱える子どもたちと寄り添い合うには~(こども支援ナビ Meetup vol.14)

2023年3月1日に、子どもに向き合う全国各地の支援者が学び/知見/意見をシェアするオンラインイベント「こども支援ナビMeetup」の第14回が開催されました。

本イベントでは、琉球大学教育学研究科の教授である上間陽子さんをゲストにお迎えし、「困難を抱える子どもたちと寄り添い合うには」というテーマで、上間さんがこれまでのご活動の中で寄り添ってきた子どもたちの話や、困難を抱える子どもたちの背景についてお話を伺いました。

第2回では、上間さんがこれまで行ってきた調査のお話や、調査を経て見えてきた課題、自身が設立・運営に関わっているシングルマザー応援施設「シェルターおにわ」についてお話を伺います。

連載第1回はこちら:

【第1回】上間陽子さんと共に考える~困難を抱える子どもたちと寄り添い合うには~(こども支援ナビ Meetup vol.14)
【第1回】上間陽子さんと共に考える~困難を抱える子どもたちと寄り添い合うには~(こども支援ナビ Meetup vol.14)

プロフィール:上間 陽子氏
1972年、沖縄県生まれ。琉球大学教育学研究科教授。普天間基地の近くに住む。 1990年代から2014年にかけて東京で、以降は沖縄で未成年の少女たちの支援・調査に携わる。2016年夏、うるま市の元海兵隊員・軍属による殺人事件をきっかけに沖縄の性暴力について書くことを決め、翌年『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち』(太田出版、2017)を刊行。ほかに「若者たちの離家と家族形成」『危機のなかの若者たち 教育とキャリアに関する5年間の追跡調査』(乾彰夫・本田由紀・中村高 康編、東京大学出版会、2017)、「貧困問題と女性」『女性の生きづらさ その痛みを語る』(信田さよ子編、日本評論社、2020)、「排除II――ひとりで生きる」『地元を生きる 沖縄的共同性の社会学』(岸政彦、打越正行、上原健太郎、上間陽子、ナカニシヤ出版、 2020)など。現在は沖縄で、若年出産をした女性の調査を続けている。

2つの社会調査

ここからは、私が実施した2つの社会調査の話をします。

①風俗調査/沖縄階層調査(2011年~)

まず2011年から、風俗業界で働く若者に関する調査を実施しました。社会学者の打越正行さんと一緒に調査を進めて、沖縄階層調査からは、岸政彦さんや上原健太郎さんと一緒に調査しました。

先ほどもお話した2010年の自死の事件をきっかけに、2011年に打越さんと一緒に(風俗店の)オーナーに調査をお願いし始めて、2012年から働いている女性たちに話を聞くようになり、それからは口コミで調査を進めていきました。この調査の内容については、「裸足で逃げる」(2017、太田出版)「地元を生きる-沖縄的協働性の社会学-」(2020、ナカニシヤ出版)という本に書いています。

②若年出産女性調査(2017年~)

若年出産女性調査は、しんぐるまざあず・ふぉーらむ沖縄の秋吉代表にも協力してもらいながら2017年から調査を始めました。2018年からは単独調査に切り替えて、現在は77名の方にお話を聞いています。この調査については、「海をあげる」(2020、筑摩書房)という本に書きました。


資料:上間氏作成

若者の生活について聞きたいので、調査では特に仕事について「どうやってその仕事に辿りついたのか」「どうやってルーティーンを回しているのか」などの話を聞いたり、学校生活や家族の話も聞いています。

この聞き取りについて、警察から調書をとられた経験のある子や、裁判で司法面接を経験した子からは「警察・弁護士の聞き取りとは違うね」と言われました。私は事実認定をしたいわけではなく、「どういうことをやって、どう感じたのか」を聞きたいんです。だから、出来事が起きた明確な時期を忘れている子には、「そのとき寒かった?暑かった?じゃあ、夏くらいか」みたいな話し方で聞いています。


資料:上間氏作成

2つの調査の共通点

2つの調査の共通点として、まず「家族の関係が厳しい」「男性との関係が厳しい」というものがあります。

単身世帯の場合は、DVを受けた時の傷やトラウマがあったり、慰謝料・養育費をもらわずに子どもを一人で育てていたりと、関係解消時のダメージを負っていることが多いです。一方で婚姻関係がある場合には、性役割分業がかなり厳しく、単独で家事育児をしていたり、性生活の非協力に悩んでいる方も多かったです。私自身、調査をやるまで、女性の「身体の自己決定権」がここまで奪われているとは思っていませんでした。その裏に暴力が隠れているケースも、どちらの調査でも見られました。

またどちらの調査においても、初職が風俗業界である子が多かったことも驚きでした。10代のママの初職が風俗業界だった子が47名で、圧倒的に業界の仕事が最初だという子が多かったです。


資料:上間氏作成

2つの調査の違い

2つの調査の違いもあります。まず「不登校の開始年齢」に変化がありました。もともと沖縄は、不登校の児童数が日本でもワースト1で、それは調査の中でも感じていました。ただ、前の調査(①風俗調査/沖縄階層調査)では「中学校から学校に行かなかった子たち」だったのに対して、今の調査(②若年出産女性調査)では、「小学校から学校に行かなかった子」がほとんどなんですね。

それに伴って、ネットワークも変わっています。前の調査(①風俗調査/沖縄階層調査))では、一応、同輩集団であるピアグループがあって、地元に根差している子たちが引っかかって来ていたんですけど、今の調査(②若年出産女性調査)では、「むしろ巨大化しているが、リアルでは会っていないグループ」になっていて、学校・地元ベースの関係が縮小しているという変化がありました。

また、幼少期からの性虐待の事例が語られるようになっているなとも思います。トラウマを抱えて生きている「不安定さ」が目につくんですけど、支援者がそのトラウマを認めていないので、支援者の関わりがトラウマのトリガーになってしまうという本末転倒の事態も見られています。


資料:上間氏作成

若年出産をしている女の子の多様性

そういう状況を背景としながら、若年出産をしている女の子たちの多様性についての話をしたいと思います。

私はもともと「トラウマもあって厳しい状況にあるのに、なんで産むんだろう」ってずっと不思議だったんですよね。「何が彼女たちをそうさせているのか」を考えながら77名に聞き取り調査をしてみて分かったのは、「原母(若年出産をした女性の母)の存在がどれくらい安定しているか」が大きく影響しているということでした。原母とママの仲が良くて子育ても協力してくれて、原母が若いママをある程度丸抱えしてくれるおうちだと、赤ちゃんもママも安定していて、赤ちゃんの発語も発達も全く問題ない。たとえママのパートナーが最悪だったとしても、全然やっていけるんです。

あともう1つ「リアルなピアグループがしっかりある」ことも大きいとわかりました。例えば「自分は年上の人と結婚したけど、友達が地元の同級生同士で結婚している」という子の場合、この子も地元(少なくとも地元近隣)に留まろうとするんです。そうなると、同じ自治体に住むピアグループができるので、行政手続き・情報に対してとても強い子たちになるんですよね。たとえば、最近沖縄では食糧支援が流行っているんですけど、そういう支援の情報なんかをグループ内で回して「一緒に受け取りにいこう」「お得な情報は無視しないでおこう」といったやりとりをしているんですよ。そうすると、現金をあんまり持っていなくても、ネットワークがあるからやり切れているんですね。

このように「原母との関係性」と「ピアグループの有無」で大きく以下の4つのグループに分けられます。

Ⅰ.原母との関係性が良く、ピアグループがある
Ⅱ.原母との関係性が良く、ピアグループがない
Ⅲ.原母との関係性が悪く、ピアグループがある
Ⅳ.原母との関係性が悪く、ピアグループがない

Ⅰは、若年出産をする際のいわゆる「勝ちグループ」というか、すごく憧れられている人たちなんですよね。

またⅡの場合だと、ピアグループはいなくても親の経済力が高くて、赤ちゃんを産んだママの親が、ママ・赤ちゃん・場合によってはパートナーまでも吸収して、丸抱えで暮らしているケースもあります。この場合は親に経済力があり、親が持っているネットワークに入れるのでそんなに苦労しません。出産後に学校に戻ろうとするのもこのグループです。また、ピアはいないけど親子関係がカプセル状になっていて、出産がそんなにトラブルにならない家族の場合も、赤ちゃんは順調に育っています。

当初私は、Ⅲ・Ⅳグループの子たちが、どうして産もうとするのかがよくわかりませんでした。調査をする中で、彼女たちがⅠのいわゆる「勝ちグループ」に憧れていることはすぐわかったんですが、もう1つわかったのは、出産によって親子関係が好転する子たちがいるということです。もともと親(原母)との関係性が良くないために家を出て、妊娠してどうしようもなくなって家に帰ると、産むまでは関係性は悪いままなのに、一旦産んでしまうと雪解けが訪れる、というケースがあるんですね。親がその子(ママ)を褒めるようになるし、ママも「お母さんと和解できて本当に良かった」と言う、みたいなケースがあるんです。

女の子たちは、そういう成功事例を見てきているんですよね。彼女たちが「若年出産をする」という決断に至るまでに、赤ちゃんへの期待だけでなく自分と原母(自分の母親)との関係解消への期待も持っているんだなということがわかりました。

まとめ(1)暴力を受けるということ

哲学者のアクセル・ホネットは、承認の第一類型の愛・ケア」の関係における承認の毀損を「暴力」だ、という言い方をしています。

暴力を受けた人は「恥ずかしい」という感覚を持っているんですよね。調査で話を聞かせてもらって、哲学者のシモーヌ・ヴェーユが言った自分の身に起こったことを表現する言葉がない」とは本当にそうなんだな、苦しすぎて話せないことってあるんだな、とわかりました沖縄で貧困問題について議論する際に、「自尊感情を上げましょう」という話にもなるのですが、自尊感情以前の話をもっとみんなでしないといけないし、もっと「私たちはどういう関わり方をするのか」を一緒に考えないといけないと思っています。


資料作成:上間氏

まとめ(2)行動の背後には別の行動や出来事がある

「行動の背後には別の行動や出来事があるということも、調査から教えてもらいました。

不眠や喫煙、不特定多数との交際、自傷行為などは割とすぐに教えてくれるし、わかるんですよね。でもその話にビビっていると、その次の話、つまり背後に隠れているDVやネグレクトの話が聞けなくなってしまうなーと思っています。

また、食べることの困難を持っている方も多く、それはレイプの経験とセットになっている方も多かったんですけど、そういう話に対してもこちらがびっくりしすぎちゃうと「あ、この人にこの話を言うと嫌がられるな」とモニタリングされてしまうので、あんまりびっくりせずに平たくいるようにしています。また、幼少期の性虐待の体験について今までずっと話せずに、初めて大人に話すという人たちもいました。


資料作成:上間氏

まとめ(3)調査からわかったこと

聞き取りをした女の子たちはみんな暴力の問題を持ってはいるんですけど、Ⅰ・Ⅱグループの場合は、暴力は単発で長引かないんです。一方、Ⅲ・Ⅳグループには繰り返し暴力がある。「暴力が繰り返し起こること」のしんどさは固有だなと思っています。

男の子たちが父親になれていないな、とも感じています。本当は「ケアが面白い」「ちゃんとした父親になりたい」という一定のニーズはあるはずなんですけど、そのニーズを発掘できていません。ロサンゼルスのスラム街で、ソーシャルワーカーが「父親になること」をサポートする「プロジェクトファザーフッド」()というプロジェクトがあるんですけど、日本版のそういうものを考えないといけないよな、と思っています。
※関連書籍「プロジェクト・ファザーフッド-アメリカで最も凶悪な街で「父」になること」(2021、晶文社)

また支援・教育の課題として、外傷性トラウマの知識の欠如があると感じます。もう少し私たちみんながトラウマの知識を持たないと、太刀打ちできないなと思っています。


資料作成:上間氏

シェルター「おにわ」を設立

このように調査をやっている中で「やっぱり場所が必要だな」と思い、2020年から着手し、10代の女の子たちの出産応援施設「おにわ」の事業を始めました。

オリオン奨学財団から800万円の助成金を頂いて、同額の寄付金も集めました。労務管理はアソシアさんという会社にお願いしていて、全国のシェルターで多分初なんですが、大学の医学部が出産の受け入れ病院になっています。ケースワークを本村真先生がやっていて、現場統括を私がやっています。

おにわのブログでは結構のんびりした様子を書いていますが、相当数のDVの問題があるため、警察の巡回システムも、救急搬送システムも入れています。出産前後5カ月を入居可能にしていて、利用料は無料にしています。

おにわは、琉球大学医学部が出産の受け入れ病院になっています。出産前後でトラウマが発動することもあるため、精神科がある方がいいと思い、精神科がある琉球大学の医学部に受け入れをお願いしました。今は、トラウマ治療の中でもEMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing:眼球運動による脱感作と再処理法)を専門にされている、元琉球大学の精神科医の斉藤里菜先生にケースワークに入ってもらっています。

全ケースに対して、入居前後のタイミングで要対協(要保護児童対策地域協議会)を発足して、自治体に帰す準備をしています「うち(おにわ)で5か月間幸せでした、おしまい」ではなく、その後もママと赤ちゃんが地域で暮らすための準備をするのが本当に大変で、重要なところでもあります。

現場で大事にしていること


資料作成:上間氏

・発見・探求モード

現場で大事にしていることとして発見・探求モードで行きましょうとスタッフに話しています。スタッフ同士で「どんな子かな、どんなことがあったのかな」と話すんですよね。やっぱり関わりの中で、好奇心や関心はとっても大事だと思っています。しんどい話を聞くときに逃げる支援者は、本当にバレるんですよ。しんどい話に対して、揺らいでもちゃんと戻ってきて聞こうと決めた人に対しては(心を)開いていくんですけど、逃げる人は見抜かれると思います。

・可愛いもの・美味しいものを大事に

また「可愛いものや美味しいものを大事にする」ことも大事にしています。ママがリラックスできるものや嬉しいものを、できればママと一緒に探せると良いなと思っています。

・不定愁訴の訴えはチャンス

おにわにいる専属の看護師は、ママたちから「病院に行きたい」と言われたときは大喜びで病院に連れていくんです。身体の不調を伝えてくれるというのは、ママが変わっていくポイントの1つだなと思います。

・ママの意見を代弁する。「クライエントはママ」

連絡協議会は本当に多いんですけど、私たちが代弁するのはママの意見で、スタッフ同士でも「私たちは最後に絶対「この決定を○○はどう思うかな」って言おう」と確認しています。「クライエントはママだ」というのは絶対に間違えちゃダメだと思います。もちろん、赤ちゃんが大事じゃないという話ではありません。私たちがママを大事にすると、ママは赤ちゃんを大事にできるんですよね。だからこそ、私たちが彼女たちの味方になろうと思っています。


資料:上間氏作成

これはおにわの様子の写真です。大体生後100日でおにわを出るので、そのタイミングで着物を着て写真を撮っています。この着物は、振袖着付隊というボランティアの方が着付けをしてくれています。


資料:上間氏作成

これはおにわのご飯の写真ですね。みんなで「インスタ映えするものを作ろう」とか言って、可愛くておしゃれなもの、そしてその子が食べたいものを作っています。

これからの課題

おにわには、課題もいっぱいあります。

まずおにわは民間団体で、行政的に認められるところまではできていません。現在は助成金も一銭ももらっていないのですが、やはりこれは公(おおやけ)がやる事業だと思っています。以前は、沖縄県知事にも見学に来ていただいたこともあります。

また、現在は「生後100日でおにわを出る」という規定なんですけど、保育園に入所できるところまで期間を伸ばさなきゃだめだな、とも思っています。その他にも、男の子たちへの支援・介入をどうするのか、おにわを出た後も医療をどう継続させるのかなどの課題もあります。今は必死でアウトリーチもやっている状態です。

まとめ

今回は上間さんに、沖縄で実施した2つの社会調査の概要や調査から見えてきた課題、その後設立したシェルターおにわのお話などについて伺いました。

第3回では、参加者の方からの質疑応答の様子をお届けします。

【第3回】上間陽子さんと共に考える~困難を抱える子どもたちと寄り添い合うには~(こども支援ナビ Meetup vol.14)
【第3回】上間陽子さんと共に考える~困難を抱える子どもたちと寄り添い合うには~(こども支援ナビ Meetup vol.14)

※本記事の内容は専門家個人の見解であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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