【連載第3回】児童精神科医 山口有紗さんに学ぶ「トラウマインフォームドケアの視点と実践 ― 私たちが知っておきたい『安全・信頼・つながり』」(オンライン研修)

こども支援ナビでは、これまでゲストをお招きして学び/知見/意見をシェアするイベント「こども支援ナビ Meetup」を開催してまいりましたが、この度新たにオンラインでの研修をスタートしました。

2025年9月17日に開催された初回では、講師に児童精神科医の山口有紗氏をお迎えし、「トラウマインフォームドケアの視点と実践 ― 私たちが知っておきたい『安全・信頼・つながり』」というテーマでの講義と、参加者同士のグループ対話、質疑応答を行いました。

イベントレポート第3回では、子どものレジリエンスを支えること、そのために子どもの声を聴くことについて、またケアする人のケアという視点についてお伝えします。

連載第1回・第2回はこちら:

【連載第1回】児童精神科医 山口有紗さんに学ぶ「トラウマインフォームドケアの視点と実践 ― 私たちが知っておきたい『安全・信頼・つながり』」(オンライン研修)
【連載第1回】児童精神科医 山口有紗さんに学ぶ「トラウマインフォームドケアの視点と実践 ― 私たちが知っておきたい『安全・信頼・つながり』」(オンライン研修)
【連載第2回】児童精神科医 山口有紗さんに学ぶ「トラウマインフォームドケアの視点と実践 ― 私たちが知っておきたい『安全・信頼・つながり』」(オンライン研修)
【連載第2回】児童精神科医 山口有紗さんに学ぶ「トラウマインフォームドケアの視点と実践 ― 私たちが知っておきたい『安全・信頼・つながり』」(オンライン研修)

 

プロフィール:山口有紗 氏 

 

児童精神科医、小児科専門医・子どものこころ専門医、公衆衛生学修士。高校中退後、イギリスでの単身生活や国際関係学部での学びを経て医師となる。現在は子どもの虐待防止センターに所属し、地域の児童相談所などで相談業務に従事。国立成育医療研究センター共同研究員、こども家庭庁アドバイザー。近著は「子どものウェルビーイングとひびきあう――権利、声、「象徴」としての子ども」(明石書店)、「きょうの診察室: 子どもたちが教えてくれたこと」(南山堂)。

子どものレジリエンスを支える

レジリエンスとは、とてもつらいことがあっても自分の内外の力や智慧を周りと協力しながら動員して自分のちょうどよい状態(ウェルビーイングの状態)を保つ力のことです。

レジリエンスに関する研究はここ30年ほど活発に行われているのですが、当初はその人が持つ打たれ強さやしなやかさ、跳ね返す力といった個人の資質に注目して研究されていました。しかし最近は、子どものレジリエンスを個人の力だけでなく周りの環境も含めたレジリエンスとして捉えることが主流になってきています。

先述した子ども時代のポジティブな体験も、まさにレジリエンスの源泉となるものです。こうした部分が保障されていると、子どもたちはいろいろな力を発揮することができます。

子どもたちの力を支えるものは、「自分は今ここにいて大丈夫、明日もさらにその先も大丈夫」という安定感と自己感です。

トラウマ体験がある生活は毎日が読めなくてコントロールできないものですが、安定感と自己感がある生活はその逆です。

自分でコントロールできる小さなホッとするーティンを作ったり、自分で選べること、自分の意見を言えること、周りの人との多様なつながりが保障されていることも子どもたちの力を支えています。

こうした話をするとつい私たちは「よし!子どもたちのために何かしてあげよう!」という気持ちになりがちですが、何かアドバイスや介入をする前に子どもたち自身に尋ねてみることも大切です。

子どもたち自身が工夫と思っていなくても実はいろいろ考えて工夫しているものはたくさんあります。なので、大人からアドバイスをする前に「こういうときどうしているの?」と聞いてみてそれを掘り下げて一緒に眼差し直してみることで、子どもたちが本来持っている力をより豊かに開いていけるはずです。

子どもの声を聴くこと

今盛んに「子どもたちの声を聴くこと」が言われていますが、それが自治体の義務になったからといって自治体のために子どもたちの声を搾取することになってはならないと思います。

声を聴くことが、その子にとって本当にどういう意味があるのか、どうウェルビーイングにつながっていくかという点を私たちは常に考えていく必要があります。

声を聴くことは、子どもの権利条約12条にも意見表明と参画の権利があるように子どもの権利の具現化です。それから、子ども時代に最も大切なポジティブな体験やあたたかい関係性の具現化でもあります。そして、子どもたちは声を聴かれる体験を繰り返すことで、自分の人生や社会に影響を与えられる、ここに居場所があるという自己決定・所属感を持つことができます。

声を聴くことの意義はここに挙げた事柄以外にもあると思いますが、その子にとって声を聴くこと、そのプロセスや結果が意味のあるものだったかをいつも見直していくことこそが「声を聴く」ということだと思っています。

子どもは相談という形ではなくても、すでに身体や行動で、いろいろなことを発信してくれています。言葉になった声は、子どもたちが示すサインのほんの一部です。その下にはもっとたくさんの身体や行動のサインがあります。

また、どんな情報を知っているか、これまでどんな聴かれる体験をしてきたかも「声」を出す前に影響してきます。さらに、子どもは大人の聴く準備ができているかどうかまで意識・無意識下で感じながら声にしてくれているのだろうなと思います。

画像:研修資料より(山口さん提供)

以前、直接子どもたちに聴いてみたいと思って「どうしたら大人は上手に子どもの話を聞けると思いますか?」というアンケート調査もしてみました。

皆さんにはぜひ全部に目を通してほしいんですが、なかでもすごく学びになったのが「いいアドバイスが欲しいわけではなくて、そばにいてほしい、一緒に遊んでほしい、勉強以外のことで自分たちを評価してほしい、遮らないで聴いてほしい」という子どもたちの言葉です。

これはまさに共にあること、ビーイングを示していて、子どもたちにとって話を聴くことはとても広い概念なんだということを学びました。

画像:研修資料より(山口さん提供)

私は児童相談所の一時保護所にも毎週行っているんですが、そこでは言葉にしなくてもよい場所を作りたいと思ってみんなでヨガとティータイムをする場所を設けています。

一時保護所は、ここにきた理由やこれまであった出来事、将来のことなどいろいろと質問される機会が本当に多いです。意見表明が求められることは大切ですが、声にしなければならない場面が多いなと感じていました。

私が一時保護所で設ける場では、アロマを焚きながらゆったりヨガをして好きなお茶を飲んで過ごしてもらっていて、話しても話さなくても大丈夫です。先述した身体へのアプローチにもある方法で、言葉にならないことも大切にしながらゆったり過ごせる時間をルーティンにすることを大切にしています。

ケアする人のケア

人は、誰でも傷つくときがあります。

皆さんのようにいつも相手の気持ちになって仕事をしていると、まるで自分が体験したかのような症状が出たり(代理受傷)、共感のエネルギーを使いすぎて心や身体がヘトヘトになってしまったり(共感性疲労)、自分のことと過度に重ね合わせてしんどくなってしまったりする(逆転移)ことがあります。

これは、能力や経験に関わらず誰にでも起こり得ることです。大事なのは、その傷つきが大きく大きくなって自分が潰れてしまう前に、毎日の中で自分が傷ついたことにちょっとずつ気づいて誰かに話して日々ケアしていくことです。

また、傷つくのは個人だけではなく、組織でも起こり得ます子どもたちの傷つきから生じた反応が現場の職員に伝播し、さらに組織全体にも広がることがあります。

そうしたときには、今起こっている事象を何とかしようとするところから一旦離れて、「私たち最近疲れてるね」「こんな雰囲気になっているね」と今の状況に目を向けてちょっと一息ついてみんなで癒し合うのも大切かもしれません。

個人ワーク・参加者同士のグループセッション

山口さんからの講義の後、個人ワークでこれまで関わってきた子どもたちに見えたトラウマのサインやその子への対応を振り返り、参加者同士のグループセッションで個人ワークで振り返った内容の共有を行いました。

まとめ

今回は、児童精神科医の山口さんに、子どものレジリエンスを支えること、子どもの声を聴くこと、ケアする人のケアという視点について伺いました。ポイントを以下にまとめます。

  • レジリエンスとは、とてもつらいことがあっても自分の内外の力や智慧を周りと協力しながら動員して自分のちょうどいい状態(ウェルビーイングの状態)を保つ力のこと。
  • 大人がアドバイスをする前に、子どもたちに聞いてみることで子どもが本来持っている力をより豊かにひらいていくことができる。
  • その子にとって声を聴くこと、そのプロセスや結果が意味のあるものだったかをいつも見直していくことこそが「声を聴く」ということ。
  • 人は誰でも傷つくことがある。毎日の中で自分が傷ついたことにちょっとずつ気づいて誰かに話して日々ケアしていくことが大切である。

最終回の第4回は、参加者との質疑応答の様子をお伝えします。

【連載第3回】児童精神科医 山口有紗さんに学ぶ「トラウマインフォームドケアの視点と実践 ― 私たちが知っておきたい『安全・信頼・つながり』」(オンライン研修)
【連載第3回】児童精神科医 山口有紗さんに学ぶ「トラウマインフォームドケアの視点と実践 ― 私たちが知っておきたい『安全・信頼・つながり』」(オンライン研修)

※本記事の内容は専門家個人の見解であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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