居場所で過ごした高校生・大学生世代がつくる等身大の夜の居場所 ーPlace Where I Belongの取り組みー

かつて居場所で過ごしていた子どもたちが、今度は居場所を「つくる」側になるーー。
支えられる立場だった子どもたちが、自分たちと同じように「夜に行き場がほしい」と感じる若者の思いに寄り添い、夜の時間帯の居場所を立ち上げました。
今回は、埼玉県戸田市を拠点に活動するPlace Where I Belong(以下、PWIB)の立ち上げメンバーの方々に、居場所づくりに込めた思いや今後の展望を伺います。

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居場所で子ども主導のブカツドウをつくる 〜NPO法人Learning for All の事例〜
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プロフィール:青木美穏 氏

 

PWIB代表。夜に安心して過ごせる「子どもだけの居場所」をつくりたいという思いから、多くの方の協力を得て団体を立ち上げました。現在は地域のイベントなどに参加しながら、多様な学びを得て活動に活かしています。趣味は映画鑑賞と喫茶店巡りです。

 

プロフィール:石橋依千加 氏

 

PWIBでは副代表、連絡担当として主に事務作業(ポスター作成やSNS投稿など)を担当。一緒に焚き火をしないかと誘われたのがきっかけでメンバーと知り合いPWIB を立ち上げる。その日に食べた焼き芋の味は今でも忘れられません。趣味は何かを作ることで、パン作りや編み物をすることが多いです。休日は家の近くの川沿いを歩くことがしばしばあります。

 

プロフィール:竹脇勇人 氏

 

活動を始めたきっかけは“ふわっとした形のないなにか”に誘われ、それから、その“なにか”に人が集まり、流れでPWIBができ、そのままスタッフとして関わる形になりました。PWIBでは来てくれた人とポーカーで遊んだり、話し合いに参加したりしています。普段はYoutubeをよく見ます。それ以外の時間は、ずっとなにかを考えています。

PWIBがつくる安全な夜の居場所

—PWIBの活動内容を教えてください。

石橋さん)私たちPWIBは、埼玉県戸田市で中高生が夜に過ごせる居場所を作ることを目指し、不定期で19時から21時に町会会館で「もふもふ」という居場所を開いています。「もふもふ」では占いやポーカーなどの楽しめるコンテンツや飲み物・お菓子を毎回用意していて、おしゃべりをしながら自由に過ごせる空間を作っています。さらに、焚火などの特別なコンテンツを準備する場合もあります。

竹脇さん)PWIBのメンバー自身が楽しめることを重視しており、メンバーと参加者の中高生が一緒に楽しむ居場所づくりを意識しています私はポーカーがとても好きだったので、多くの人と一緒に楽しみたいという思いから、「もふもふ」で取り入れることになりました。
さらに、普段の生活において中高生だけではできないようなコンテンツを取り入れることにもこだわっています例えば、焚火は、子ども時代にマンションに住んでいたメンバーが「子どもの頃に体験することが難しくて憧れていた」というエピソードから生まれました。特別感のあることをみんなで一緒にやることで楽しく思い出に残る時間を作りたいと思っています。


画像:「もふもふ」での焚火の様子(PWIB提供)

ーPWIBを立ち上げたきっかけを教えてください。

青木さん)私はもともと地域の子どもの居場所を利用していて、その中で、子どもたちが楽しく集ったりいろいろな話ができるような駄菓子屋さんを自分でもやってみたいという思いを持つようになりました。通っていた居場所での縁を通じて、子どもが集う場づくりに一緒に取り組んでくれるような高校生・大学生世代の仲間やそれをサポートしてくれる方々に出会い、PWIBを立ち上げるに至りました。

—PWIBは夜の時間帯(19時以降)から開催していることが一つの特徴ですよね。どうして夜の居場所を作ろうと思ったのですか。

青木さん)居場所をつくる中でも、特に夜という時間帯に着目した背景には、私自身の経験があります。私はもともと、少し問題を抱えながら外で過ごすことの多い思春期を過ごしていました。そこで出会った友人の中には、家庭環境などで悩みを抱えている子が多く、そうした子たちの居場所を作りたいと思うようになりました。
トー横キッズが注目されているように、私や当時の友人のように夜に集まって過ごす若者たちは少なくありません。しかし、夜の時間帯に街で活動していると、事件や事故に巻き込まれる可能性も高く、危険を感じる場面もありました。だからこそ、夜でも安心して集まれる場所を作りたいと考えるようになりました。

石橋さん)私は大学で教職課程の勉強をしているのですが、その中で家庭や学校で生きづらさを感じる子について学ぶ機会が多く、そのような子たちの支えになりたいという思いで居場所づくりを行なっています。
地域には、公共施設や小学生など年齢の低い子どもを対象とした居場所などはありますが、それらは夕方には閉まってしまうことも多く、夜に安心して過ごせる場所が非常に限られると思います。家庭の事情でなかなか家に帰れない子がいたり、部活動や塾で帰りが遅くなる中高生は、自然と夜遅くに出歩くことになります。その流れで夜にコンビニの前などに集まるようになってしまうよりは、遅い時間でも子どもたち同士が安心・安全に楽しめる場が必要だと感じていました。

地域の中に無料で勉強できる場所がほしい

—夜という開催時間以外にも、大切にしていることはありますか。

石橋さん)自分たちが中高生だった時に感じていた思いを生かして居場所を作っていくことは大事にしていて、「もふもふ」の活動内容にも私たちの経験や思いがたくさん反映されています。例えば、今後のイベントとして「みんなで夏休みの宿題に取り組む会」を企画しています(インタビュー時)。その背景には、「地域の中で無料で勉強できる場所が少ない」という悩みがあります。カフェなどで勉強すると、飲み物を注文する必要がありお金がかかってしまうため、何度も利用することは、限られたお金で生活する中高生にとってハードルが高いものであると思います。

青木さん)公共施設の自習スペースもありますが、早い時間に閉まってしまいます。学校には自習室がありましたが、私は友達としゃべるばかりで、勉強をしに行ったことはありませんでした…(笑)このような経験から、無料で落ち着いて勉強できる場を作りたいと考えました。
さらに、中高生と年齢の近い高校生・大学生世代のメンバーに勉強を教えてもらったり見守ってもらうこともいい経験になると考えています。夏休みの宿題は自分だけだと取り組むのを後回しにしてしまう難しさも経験してきました。夏休みにみんなで宿題を進めるイベントを設けることで、宿題に取り組むきっかけになれれば嬉しいです。


画像:「もふもふ」のチラシ(PWIB提供)

参加者募集の工夫

—「もふもふ」の参加者はどのように募集しているのですか。

石橋さん)SNSを使った広報と、地域との連携による告知が主になっています。SNSとしてInstagramを開設していて、「もふもふ」の開催情報を発信しています。それを見てイベントに来てくださる方もいます。
地域との連携としては、まずは様々な団体が集まる近隣のワークショップイベントに参加してチラシの配布を行いました。ワークショップへの参加は、イベントの宣伝に加えて他の団体との関係を作ることにもつながりました。今後は他の団体とも連携して、イベントを紹介し合えたらと思っています。地域連携の2つ目としては、近隣の中学校の先生にご協力いただき、学校でのイベント告知をさせていただきました。

—学校での広報はどのように行っているのでしょうか。

竹脇さん)学校内で広報する際は、定期テストが終わった時期にイベントを告知・開催することにこだわりました。自分たちの経験から、中高生にとって学校のスケジュールは重要で、テストが終わった時期であれば外部のイベントにも参加しやすいのではないかと考えたんです。

石橋さん)さらに、「無料で焼き芋を食べられるよ」のように、体験できることや値段を具体的に伝えるように、告知の際の言葉も意識しました。PWIBの本来の活動理念は、夜に安心・安全に過ごせる居場所をつくることですが、まずは多くの子たちにイベントに来てもらい居場所の存在や雰囲気を知ってもらうことが重要と考え、告知においては無料で様々な体験ができることを伝えるようにしました。結果として、この告知を実施した時の「もふもふ」には約40名の方に参加していただきました。

子ども時代の経験から生まれた思い

—PWIBがつくる居場所をどのような場にしたいですか。

青木さん)来てくれた子たちと一緒に楽しく過ごすことを大事にしたいです。PWIBのメンバーが見守っているだけでなく、来てくれた子たちと関わり合いながら場を楽しいものにしたいです。そして、来てくれた子たちとメンバーが一緒に楽しむ時間を重ねる中で、悩みがあれば話してくれるような関係が築ける可能性があると思っています。
一緒に楽しむ中で悩みを聞くことができる存在になりたいと考える背景には、子ども時代の自分の経験があります。子ども時代に周りにいる大人は親や学校の先生が多いと思いますが、私は親とあまり相性が良くなくて、親に相談することを避けてきました。学校の先生は、社会や常識について語ることが多かったので、「相談してごらん」と言われても自分の思いを素直に打ち明けることには抵抗感がありました。一方で、私は親でも先生でもない年上の方と関わる機会が多かったのですが、自由に生きているその方々と接することで、「大人って楽しそうだな」と感じることが出来ました。その経験から、子ども時代に年上の方と関わる機会やその楽しそうな姿に触れる時間が大事だと考えていて、自分自身が楽しみながら居場所を作ることを意識しています。

石橋さん)メンバーが楽しみながら居場所を作るために、メンバー間の関係を深めることにも力を入れています。メンバーでの議論の前にはいつも、近況報告をしあってお互いへの理解を深めたり、ゲームをして場を温めてから、本題に入っています。さらに、会議にも必ず参加しなければならないというより、参加したいと思った時に関われる範囲で来れるといいよ、というスタンスが共通認識になっています。メンバー自身が楽しく活動に向き合えることが、楽しい場づくりにつながると思います。


画像:「もふもふ」での活動の様子(PWIB提供)

竹脇さん)私はみんなが「自分の好きなように自由に過ごせている」と感じられる場所を作りたいです家でも学校でもなく現実逃避できる場所であることを大事にしています。例えば、「家が嫌だな」「学校にあまり行きたくない」などと感じている子にとって、家や学校のことを考えずにいられる場所があれば、その子が少し楽になるかもしれないと考えています。
この思いの背景には、自分自身の不登校経験があります。私は中学生の頃から学校に行っていないのですが、もしこのような現実逃避できる場があったら何か変わっていたかもしれないと思っています。

石橋さん)私は「もふもふ」を、地域の中高生の心にいつもあるような存在にしたいです。中高生が公園など様々な場所に出掛けるように、行き先の1つの選択肢として「もふもふ」を思い浮かべてもらえればいいなと思います。そして、誰かと過ごしたりおしゃべりしたりする居場所が必要になった時には「もふもふに行こう」と前向きに考えてもらえたら嬉しいです。加えて、みんなで焚火などの特別な経験をしたことが、楽しい思い出の1つとして残ってくれたらより嬉しいですね。活動が将来につながることも素敵ですが、「もふもふ」での活動は、将来につなげるというより、その瞬間が楽しいものであることを重視しています。
私が生まれ育った地域は、地域の人々の関係性や催し物が少なくて、子どもの居場所を利用したこともなく、学童と自宅でほとんどの時間を過ごしていました。そのため、公民館を使ったイベントや地域の人たちの交流への憧れがありました。PWIBの活動を通して、自分が地域の活動に関わらせていただくことが嬉しいですし、この地域のつながりをもっと盛り上げていきたいと思っています。

高校生・大学生世代だからこそできる居場所づくり

ーPWIBは高校生・大学生世代が中心になって運営されていますよね。利用する子どもたちと年齢の近いメンバーで運営することの魅力は何だと思われますか。

石橋さん)同年代の利用者にとって、親しみやすく参加しやすい場づくりができることだと思います。高校生や大学生など若い世代によって運営されている居場所は、大人が運営してる居場所より参加のハードルが低いことに加え、学生ならではの楽しい雰囲気づくりができると考えています。

竹脇さん)私個人の経験としては、自分と年の離れている大人が運営している居場所では、「誰が何のためにこの場所を運営してるんだろう」ということがとても気になり、参加のハードルが高く感じることがありました私たちの居場所では、「活動を拡大してビジネスにつなげよう」という目的や「利用者の中高生に対して何かしてあげよう」という意図はなく、純粋にメンバーも含めてみんなで楽しく過ごすことを重視して、中高生にとって居心地のよい場を目指しています。
さらに、大人のつくる居場所では、明言されてるわけでなくても、「禁止されていることがあるのではないか」「注意されてしまうことがあるのではないか」という不安な気持ちを感じることもありましたそのような経験から、高校生・大学生世代がつくる私たちの居場所では、裏表のない緩い雰囲気を感じて、参加しやすく、そして安心して楽しんでもらえればと思っていますそのためにも、まずはメンバー自身が楽しく無理のない範囲で活動することを大事にしています。

青木さん)今後、団体の規模が大きくなったり、関わらせていただく他団体の数が増えたりしても、学生ならではの発想や雰囲気は私たちの活動の核として大事にし続けたいです。

今後の展望

ー今後の展望を教えてください。

竹脇さん)まずは、「もふもふ」の開催回数を増やし、経験を重ねる中で、今後どうしていこうかという話ができるようになりたいです。現在は、まだまだ開催回数も少ないので、イベントの内容や広報の仕方、資金集めのことなど模索中のことが多い状況です。「もふもふ」の開催を繰り返す中で良かったことを見つけたり難しいことを改善したりと試行錯誤を進め、よりよい形を求めていきたいです。
また、好きなことを全力で楽しむ姿勢は大切にしているので、自分が好きで「もふもふ」の活動に取り入れているポーカーを、今後もいろいろな人と一緒に楽しみ続けられたら嬉しいです。


画像:「もふもふ」でのポーカーの様子(PWIB提供)

青木さん)私は、PWIBを多くの人に知ってもらって「戸田といえばPWIB」と言ってもらえるような戸田地域を代表する存在を目指したいですそして、多くの人にふらっと立ち寄ってもらえたら嬉しいです。

石橋さん)かなり大きな夢ですが、私たちが主催者となってお祭りのワークショップを開くことに挑戦してみたいです現在は、団体の発足から間もないため、すでに実施されているイベントに参加させていただくことが多いのですが、今後、PWIBを知ってくれる方や、つながりを持ってくださる団体が増えていき、PWIBが主催者となってワークショップを開催できたらいいな、と思っています。

まとめ

今回は、中高生の夜の居場所づくりを行うPWIBのみなさんに、活動内容、開催時間、広報の方法、目指す居場所に込められた思いについて伺いました。ポイントを以下にまとめます。

  • 公共施設が閉まってしまう夜の時間帯に中高生が安心・安全に過ごせる場をつくることを理念に活動している。
  • 自分たちの実体験や等身大の悩みをもとに、子どもたちが参加したくなるようなイベントの内容や時期を決めている。
  • 高校生・大学生世代がつくる居場所として、メンバーと参加者が一緒に楽しむ雰囲気を大切にしている。

※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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