こども支援ナビでは、ゲストをお招きして学び/知見/意見をシェアするイベント「こども支援ナビ Meetup」に加えて、オンラインでの研修も実施しています。
2026年3月26日に開催された第2回では、講師に一般社団法人エンドオブライフ・ケア協会代表理事の小澤竹俊氏をお迎えし、「『折れない心を育てる いのちの授業』から考える、困難のなかでも“ひとりではない”と感じられる関わりとは」というテーマでの講義と、参加者同士のグループ対話、質疑応答を行いました。
イベントレポート第1回では、ホスピスでのご経験をもとに、苦しんでいる人が穏やかに過ごすための関わり方や、その土台となる考え方についてお話しいただきます。

プロフィール:小澤 竹俊(おざわ たけとし)氏
1963年東京生まれ。世の中で一番、苦しんでいる人のために働きたい と願い、医師を志し、1987年東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業。 1991年山形大学大学院医学研究科医学専攻博士課程修了。救命救急センター、農村医療に従事した後、1994年より横浜甦生病院 内科・ホスピス勤務、1996年にはホスピス病棟長となる。2006年めぐみ在宅クリニックを開院、院長として現在に至る。「自分がホスピスで学んだことを伝えたい」との思いから、2000年より学校を中心に「折れない心を育てる いのちの授業」を展開。2013年より、人生の最終段階に対応できる人材育成プロジェクトを開始し、多死時代にむけた人材育成に取り組んでいる。
誰かの喜びが自分の幸せになる
皆さん、こんにちは。本日はこのような機会をいただき、ありがとうございます。
私は中学生の頃まで、医師にだけはなりたくないと思っていました。しかし、今は医師として働いています。その理由を一言で表すなら、「幸せになりたかったから」です。
皆さんも、学生時代に将来の進路や職業について悩んだ経験があるかもしれません。私自身も、どのような仕事をして生きていくのか考える中で、「自分自身の幸せだけを追い求めることには限界があるのではないか」と感じるようになりました。
その考えに大きな影響を与えた出来事の一つが、「キャンディーズの解散」です。若い方には馴染みがないかもしれませんが、当時人気だった女性アイドルグループが「普通の女の子に戻りたい」という言葉を残して解散したことは、とても大きな出来事でした。
その姿を見て、どれだけお金を得ても、どれだけ有名になっても、それだけでは本当の幸せには繋がらないのではないかと感じました。そして考え続ける中で、「自分がいることで誰かが喜んでくれること」が、自分にとっての本当の幸せに繋がるのではないかと思うようになりました。
初めは海外で活動したいという思いもありました。しかし、高校生の時に出会ったマザー・テレサの「あなたの国の最も貧しい人のために仕えなさい」という言葉が強く心に残りました。
そこから、日本で苦しんでいる人のために自分には何ができるのか、そして何をすればその人たちの力になれるのかを考えるようになりました。その中で、「いのち」に関わる仕事がしたいと思い、医師を志し、今に至ります。
皆さんも、地域の中でさまざまな困難を抱える方々と日々関わっていらっしゃると思います。私たち自身が幸せでありながら、目の前で苦しんでいる方が少しでも穏やかに過ごすためには何ができるのかを、今日は一緒に考えていきたいです。
小さな力で大きな変化を起こす
目の前にいる「苦しんでいる誰か」を想像してみてください。
それは、仕事で関わっている子どもかもしれません。ご家族やご兄弟、一緒に働く支援者の仲間、あるいは自分自身かもしれません。一人ひとり、さまざまな顔が浮かぶと思います。
もちろん、専門家が一人ひとりに向き合い、その人に必要な支援を届けていくことも大切です。しかし、それだけでは届けられる範囲には限りがあります。
そこで、皆さんと共有したいのが、「小さな力で大きな変化を生む」という考え方です。これは、少しの力でも大きなものを動かすことができる「テコの原理」に似ています。
例えば、じゃんけんをするとき、多くの人が自然と「最初はグー」と言いますよね。しかし、それは学校で教わったわけでも、国や自治体が広めるための制度を作ったわけでもありません。それでも多くの人に広がったのは、「面白い、わかりやすい、真似したい」と感じられるものだったからです。
地域で誰かが困っているときも同じだと思います。一部の専門家だけが支えるのではなく、誰もが理解できて、真似できる形になれば、もっと多くの人に支援を届けることができます。
今日お話しできる時間は限られているので、すべてをお伝えすることはできません。ただ、皆さんが「面白い」「わかりやすい」「自分にもできそう」と感じ、専門家だけでなく、さまざまな人が実践できる形で地域に広がっていけば嬉しく思います。
「元気なあなたには、私の気持ちなんてわからない」
まずは、コミュニケーションについて考えていきたいと思います。
最初に確認したいのが、私たちが目指すゴールです。人生の目的は「幸せ」になることだと考えています。ただ、それは本人だけのものではありません。子どもや家族、支援に関わる方など、それぞれの立場の人が少しでも穏やかでいられることが大事だと思います。
ここでいう「穏やか」とは、ほっとする、気持ちが少し楽になるといった、ウェルビーイングに繋がる感覚の総称です。

画像:研修資料より(小澤さん提供)
では、苦しんでいる人が少しでも穏やかになるために、まず必要なことは何でしょうか。それは、「自分のことをわかってくれる人がいる」と感じられることだと思っています。
「相手のことをわかる」ということは、決して簡単なことではないと、看取りの現場で強く感じてきました。
私は31歳のとき、ホスピスで働き始めました。そこで、人生の最期の時間を過ごす患者さんと関わる中で、ある言葉をかけられました。「先生は若くていいね。私はもう来年の桜を見ることも、子どもたちの成長を見守ることもできない。どうしてこんな体になってしまったんだろう。」そして最後に、「元気なあなたには、私の気持ちなんてわからない」と言われました。
皆さんも日々、子どもをはじめ、さまざまな困難を抱える方と関わっていらっしゃると思います。だからこそ、「私たちは本当に相手の苦しみを理解することができるのか」という問いについて、まず考えてみたいと思います。
もちろん、苦しんでいる人がいれば、「大丈夫かな」と気にかけたり、心配したり、様子を見たりします。それは、すべての関わりの始まりです。
しかし、どれだけ心配し、観察したとしても、その人の苦しみをすべて理解することはできません。医師や看護師、心理の専門家、教育や福祉の現場で長く経験を積んだ人であっても、私たちはあくまで他者です。本人が抱える本当の苦しみのすべてを、他人である私たちが完全にわかることはできないと思います。
相手から見て「わかってくれる人」になるために
では、どうすればよいのでしょうか。
ここで大切なのが、主語を変えて考えることです。つまり、「私が相手を理解する」ではなく、「相手が私を理解者だと思う」という視点が重要です。
苦しんでいる人にとって大事なのは、「自分の苦しみをわかってくれる人がいる」と感じられることです。そのためには、「聴く」ことが鍵となります。
ただし、「聴く」というのは一見簡単に見えますが、実はとても難しいと感じます。例えば、相手に質問していても、支援する側が知りたいことを確認するだけになり、本人が抱える本当の苦しさや思いに気づけないことがあります。また、相手を理解したつもりになることで、本人の言葉や気持ちを十分に聴けなくなってしまうこともあるでしょう。

画像:研修資料より(小澤さん提供)
まとめ
今回は、小澤さんに、苦しんでいる人が穏やかに過ごすために大事なことについて伺いました。ポイントを以下にまとめます。
- 苦しんでいる人が穏やかな気持ちになるために、「自分をわかってくれる人がいる」と感じられることが重要である。
- 小澤さんは、苦しんでいる人を一部の専門家だけが支えるのではなく、さまざまな人が実践できる形で地域に広げていきたいと考えている。
- 医者や支援者であっても、相手の苦しみを本当に理解することはできない。そのため、「聴く」ことを通じて、相手に理解者だと感じてもらうことが大切である。
第2回では、苦しんでいる人の話を聴くための具体的なコミュニケーション方法や、他者の苦しみに気づくためにできることをお伝えします。
※本記事の内容は専門家個人の見解であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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