子どもの居場所には、誰でも好きな時に訪れることのできる非登録型(ユニバーサル型)のものと、登録した子どもたちだけが通うことのできる登録型(ターゲット型)のものがあります。子どもと接する経験が浅い方は子どもとどのように接して良いのか悩む場面もあるかと思いますが、それが初めて出会う子どもであれば尚更ではないでしょうか。
今回は、認定NPO法人Learning for All(以下、LFA)の小学生向けの非登録型の居場所でボランティアとして活動していた2人の大学生に、子どもと関わる中で難しかったこと、意識していたことをお伺いしました。
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プロフィール:Aさん
大学で裁判と法に関する実体法と訴訟法を専攻。自身の高校でのいじめの経験から「居場所支援」に興味を持ち、2023年にLFAの居場所づくり事業にボランティアとして参画。現在は都内の中学校の別室登校拠点でインターンとして、子ども支援にあたる。
プロフィール:Bさん
大学で法律学を専攻。大学1年生から約半年間、LFAの居場所ボランティアとして活動する。趣味は、旅行とミュージカル鑑賞。
社会課題に対する課題意識からボランティアに挑戦
—おふたりはどうしてLFAの居場所ボランティアを始めたのですか。
Aさん:2つ理由があります。1つ目は、自分が経済的に苦しかった経験や高校生の時にいじめを受けた経験があり、その時知った気持ちを生かして誰かの役に立ちたいと思いました。2つ目は、小学生の時にとても仲の良かった友達が病気で突然亡くなってしまい、自分の意思に反して何かが出来なくなってしまうこともあると知り、家庭の経済状況も含め周りの環境によって自分のやりたいことが出来なくなってしまう子どもを減らしたいと思いました。そのような思いから、最初の一歩としてLFAの居場所ボランティアに参加しました。
Bさん:私は、高校の政治経済の授業で子どもの貧困について知り、衝撃を受けるとともに、それまで何も知らなかった自分に不甲斐なさも感じて、社会を支えられる人になりたいと思いました。そこで、自分ができる活動をインターネットで探し、LFAの活動に共感し、応募しました。
—おふたりとも社会課題に対する課題意識をお持ちだったんですね。LFAのボランティアに参加するまでに子どもと関わる経験はありましたか。
Aさん:実家がバレエ教室を運営していて、自分自身も教室に通ってくる小さい子どもと接する機会が多くありました。その子たちのお世話をするのが好きだったため、子ども支援や教育に関わってみたいという思いが昔からありました。
Bさん:私は子どもと関わった経験がほとんどなかったので、初めて拠点に行った時は緊張しました。「子どもに受け入れてもらえるかな」と心配していたことを今でも覚えています。
インタビュー中の様子(画像:LFA)
非登録型の居場所で子どもと関わる難しさ
—非登録型の居場所で子どもと関わる中で難しいと感じたことはありましたか。
Bさん:非登録型の拠点は誰でも好きな時に来られる拠点なので、その日に初めて会う子も多いです。ですから、短い時間で仲良くなることが難しかったです。ボランティアを始めたばかりの頃は、どうしたらいいか分からず、距離感を急に詰めすぎてしまったり、逆に遠くから見ているだけになったりしてました。しかし、他のボランティアや職員の様子を見て学ぶうちに、自分なりに工夫できるようになりました。
具体的には、大人と接する時より一層慎重に相手の表情を見たり、質問を投げかけて話す中で、どういう子なのかを考えていきました。また、相手のことを知るには、まず自分を知ってもらう必要があると思い、私はこういうことが好きでこういう人なんだよ、ということを伝えるようにしました。
Aさん:初めましての子に接する難しさには共感します。私は、初対面の子とも仲良くなれるタイプでしたが、内気な子とは仲良くなるのが難しいと感じたこともありました。しかし、そのような子はすごく熱中しているものを持っている場合が多いと気が付き、「この遊び好きなの?私はよく知らないから教えて欲しい」とお願いすると、たくさん話してくれるようになりました。
—初めて会う子と関係を築いていく方法には様々な工夫があるのですね。他に難しかったことはありますか。
Bさん:誰でも自由に来られる居場所で子どもの入れ替わりが激しい中で、一人一人に丁寧な対応をするのが難しい場面がありました。例えば、ある子と遊んでいる時に、別の子から遊びに誘われて、戸惑ってしまいました。ボランティアを始めたての頃は、自分がパニックになってしまって、それぞれの子の話を最後まで聞いてあげられなかったり、自分が迷っていることで子どもを困らせてしまったりしました。
その悩みを職員に共有して状況を整理するうちに、自分はすべてを丁寧にやろうとしすぎていると気が付きました。そこからは、子どもたちと遊ぶ順番を曖昧にするのではなく、子どもたちのニーズを踏まえて、「今しなくてもいいこと」「自分でなくても大丈夫なこと」を見つけ出し、自分が今しなければならないことに全力を尽くせるように、優先順位をつけていくようになりました。
Aさん:私にとってはすぐに名前を覚えるのが難しかったです。誰でも名前を呼ばれて話しかけられると嬉しいと思うのですが、来場人数が多い日はその日初めて会う子の名前をすぐに覚えられず名前を呼んであげられないこともあり、苦しさを感じることがありました。そこで、たくさん話す中で、この子はこういうことが好きな子だなという特徴を掴んで、その情報と名前を頭の中で結びつけるように意識していました。他には、その子の友達にこっそりと「あの子、〇〇ちゃん?」と確認するなど、子ども同士の関係性に頼ることもしていました。子どもに頼ることは心の距離を近づける上でもよかったと思います。
Bさん:子どもに頼ることで、子どもとの心の距離が近づくこともありますよね。
Aさん:もう1つ難しかったこととして、非登録型の拠点は子どもの人数や遊びが変化しやすいので、大人の動き方については苦労しました。拠点全体を見渡して特定の遊びに集まりすぎない、1人で遊んでいる子がいたらそこに混ざってその遊びを一緒に楽しむことなどを大切にしていました。
—おふたりとも様々な難しさに対面されてきたかと思いますが、試行錯誤し続けようと思えたモチベーションは何ですか。
Aさん:日々の中で自分が変わるほど、子どもたちの反応がよくなったり、子どもたちとの関係が深まっていくことを実感して、やりがいになっていきました。
Bさん:私は、毎日をいい日にするために1つ1つできることをやっていこうと思っています。ボランティア活動の中でいうと、子どもたちと仲良くなれることが、自分にとって「いい日」につながるので、それに向けて努力していました。また、活動の中で悩みや反省があった時も、次に生かせる点が見つかったら「今日はいい日だったな」と感じることができるので、反省にとどまらず次へのつながりを意識しています。
Aさん:他には、非登録型の拠点では、子どもが再び来てくれるか分からない難しさがあるので、毎回その子の記憶に残ろうと意識しています。スタッフと一緒に遊べたという楽しい思い出でも、逆に時間が足りなくて遊びきれなかったという悔しい思い出でも、記憶に残ることでその子がもう一度拠点に来たいと思ってくれたらいいなと思います。
地域の出会いの場としての非登録型の居場所
—最後に、非登録型の居場所は子どもにとってどのような場所だと思いますか。
Bさん:様々な学校の子がやって来るので、初めて会った子同士が一緒に遊んでいる場面を見ると、学校では出会えないいろいろな人と関われる場であると実感します。さらに、子どもたちには他にも様々な遊び場の選択肢がある中で、自由に使い分けてくれているように思います。特定の目的なしに来る子もいますが、これをしたい、これをしないといけないから、この居場所に来たと言ってくれる子が多かったかなと思います。
Aさん:子どもたちにとって学校でも家族でもない、地域のコミュニティを楽しんでくれているのかなと感じました。初めて会った違う学校の子と、面白いことや楽しいことを見つけて関係を作っていける場ではないかと思います。
まとめ
今回は、LFAの居場所ボランティアを経験した2人に、非登録型の居場所で子どもと接する際に感じていたことや意識したことについて伺いました。ポイントを以下にまとめます。
- ボランティアをする中で、初めて会った子どもとの仲良くなり方や一人一人への丁寧な対応、子どもの名前を覚えること、拠点全体の大人のバランスなど、非登録型の居場所ならではの難しさを感じてきた。
- 経験した難しさに対して、他のボランティアの様子や子どもたちの反応から学び、子どもの考えや表情を丁寧に読み取ったり、場全体や子どものニーズを捉えながら臨機応変に行動したりと、多様なやり方で工夫をしている。
- 非登録型の居場所は、子どもたちにとって、新たな出会いがあり、目的に合わせて自由に利用することができる場である。
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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