【後編】私たちなりの中高生の居場所づくり ~中高生との関係性で悩んだこと:Learning for Allの事例~

中学生・高校生の居場所づくりを行っている方は全国にたくさんいらっしゃいますが、中高生とどのような関係を築いているかは、拠点によって様々だと思います。今回の連載では、居場所支援における中高生との関係性づくりについて、NPO法人Learning for All(以下、LFA) の緑川さんと片岡さんにお話を伺います。

前回は、お二人が目指している中高生との関係性や、その関係づくりのために心がけていることを伺いました。後編では、中高生との関係性において困ったことや悩んだこと、うまくいかなかったことなどを伺いたいと思います。

前回はこちら

【前編】私たちなりの中高生の居場所づくり ~私たちが目指す中高生との関係性:Learning for Allの事例~
【前編】私たちなりの中高生の居場所づくり ~私たちが目指す中高生との関係性:Learning for Allの事例~

プロフィール:緑川 大二郎
LFA職員。小学生から高校生までが通う居場所拠点で活動している。前職では学童の支援員なども務めていた。最近ハマっているものは、音ゲー。

 

プロフィール:片岡 優衣
LFA職員。中学生・高校生が通う居場所拠点で拠点長をしている。前職では塾の教室長なども務めた。最近ハマっているものは、Pokémon LEGENDS アルセウス。

 

子どもに共感を求められたらどうする?

ー前回は目指したい子どもたちとの関係性や、その関係づくりのためにどのように振舞っているかを伺いました。子どもたちと接する中で、悩む場面はありますか。

片岡:子どもに共感を求められた時に、どうしようと思うことがあります。自分が共感できなかったとしても、子どもは共感してほしいんだろうなと思うため、どうしたらいいか悩みますね。でも、やはり対等な関係を目指したいので、1人の人間として共感できないと思ったら、子どもから共感を求められたとしても同意はしないようにしています。恋愛の話など人間関係が絡む話で、「〜と思うんだよね」と言われても、共感できない時は「共感できない」と伝えていますその子によって言い方を変えたりはしますが、「共感できない」という内容自体は変えないですね。

ー子どもの話に対して安易に同意しない、共感しない、というのは難しいのではないかと感じます。子どもには、どういう伝え方をしていますか。

片岡:もちろん子どもにもよります言葉でちゃんと伝えないとわからない子なら「それは違うと思うよ」と言います。一方、強く共感を求めるようなナイーブな子だと「そうなんだね」と一旦受け入れるようにしています。そして、否定するのではなく「『私は』こう思うよ」というように、自分を主語にしたメッセージで伝えるようにしています。

ーその子に合わせて伝えるのですね。そもそも、簡単に共感しないようにしているのはなぜなのでしょうか。

片岡:思ってもいないのに共感してしまったら、(自分の発言に)一貫性がなくなってしまうと思います。相手によってスタッフの言っていることが変わると、子どもとの信頼を無くすきっかけにもなるはずです。世の中には自分とは違う考えの人がいて、全員が共感してくれるわけではありません。自分と多少意見の違う人とも上手く付き合っていかなくてはならないですから、そのための力をつけて欲しいと思っています。

 

子どもと大人が互いに興味を持つために

ー緑川さんがこれまで中高生と接してきた中で、「うまくいかなかったなぁ」と思ったことがあれば教えてください。

緑川:ずっと自分のことを話していた、ある高校生の女の子との関係性ですかね。拠点に来るとずっと自分の好きな音楽や漫画の話をしているのですが、基本的に僕たちスタッフはそれを聞くだけになっていました。それだけ話したかったんだと思いますが、本人が「とにかく自分のことを話したい」という状況を脱却できなかったことが良くなかったかなと思っています。どちらか片方だけがもう片方の話をずっと聞いている状態は、対等な関係からはほど遠かったと感じていますその状態から脱却できないまま、卒業を迎えてしまいました。

ー緑川さんとしては、彼女がどうなることが理想でしたか。そして、それはなぜでしょうか。

緑川:彼女がもっと周りに興味を持つ状態が理想だったかなと思います。どちらか片方だけに興味を持っている状態は、対等な関係ではなく、支援者と被支援者の関係だなと思います。

ーそれを受けて、対等な関係を築くために普段心がけていることはありますか。

緑川:相手の話を聞くのはもちろんですが、自分の好きなものも積極的に話すようにしていますなるべく相手が興味を持つ内容を選びつつ、自分の好きなものを伝えて、相手がこちらに興味を持てるように工夫しています。

 

「一対一の関係を築く」だけではなく「場に馴染む」こと

ー片岡さんは、他にうまくいかなかったなぁと感じた経験はありますか。

片岡:拠点に一度来ても継続して来ることがなかった子どもを思い返すと、その子との関係性を築けなかったと同時に、拠点の場に馴染めなかったのかなぁと感じます。

(大人と子どもが)お互いに興味を持つのも大事かもしれませんが、むしろ何もしなくても、黙っていても隣にいれる関係性も大事だと思っています。やりたいことがあったらその時に一緒にやれる、行動を共にできる、というのが対等かなと感じています。

ー片岡さんがいう「場に馴染めない」というのは、「関係性を築けない」というのと何が違いますか。

片岡:「一対一の関係」であれば、その子自身やその子の興味があるものの話を聞いたり、話したりすれば関係を築くことができる場合が多いと思います。ただ、それをスタッフ1人がやってもあまり意味がないと思っています。その人とだけ関係性を築けても、拠点にいる他の子どもからの疎外感を感じることだってありうるので。スタッフと子どもの一対一の関係ができていることも大事ですが、場に馴染めているというのは、他の子どもに対しても心理的安全性が保たれている状態かと思います。

ーでは、子どもが「場に馴染める」ようにするために、心がけていることはありますか。

片岡:場に馴染むまでのプロセスは、まず第一印象で、スタッフや他の子どもの振る舞いを見て安心でき、「他の場所とは違うな」という印象を持つところから始まります。

この時点で場に対する心理的安全性を獲得する子どももいますが、子どもによっては、他の子どもと話す機会がないと「自分はここでも1人なのだろうか?」「他の子どもたちに拒絶されていないか?」と疑念を持つこともあります。そこで、他の子どもとの接点や共通点、異なる点などを見つけて会話できるようになれば、何もしなくてもその場にいることができるような「この人たちは大丈夫だ」という心理的安全性が完全に保たれるようになると考えています。

したがって、他の子どもとその子どもの共通の話題があれば、スタッフが媒介になって他の子どもに話を振ってみたり、教えてもらったりということは、スタッフとしてサポートできると思います。例えば、ある子どもがポケモンカードをやってみたそうだったら、詳しい子に「教えてあげてよ」と言ってみてもいいかもしれません。

もしくは、同じ作業を任せたりもします。例えば、私の拠点では掃除の時間があるので、他の子どもと同じ場所の掃除を任せてみることがあります。そうすると案外子ども同士で話し始めるので、我々は話すきっかけづくりをすることが大事かと思います。

 

まとめ

緑川さん・片岡さん、ありがとうございました。お二人から伺ったことを簡単にまとめます。

  • 共感を求められても、共感できない時は「共感できない」と伝える。ただし、伝え方はその子に合わせ、はっきり伝えることも、「『自分は』こう思う」という形で自分を主語にして話すこともある。
  • 「対等な関係」を築くために、自分が子どもに興味を持つだけでなく、子どもが自分に興味を持ってもらえるよう、自分のことも積極的に話す。
  • 互いに何もしなくても、「一緒に隣にいられる」だけの関係性も大事な関係性。
  • 自分と子どもの一対一の関係づくりだけではなく、子ども同士の心理的安全性を確保し、「場に馴染む」きっかけを考えるのも大事。

今回は、Learning for All の緑川さん・片岡さんにお話を伺いました。居場所づくりをする中で子どもとどう関係性を作るか、少しでもヒントになれば幸いです。

 

※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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