子ども同士が長時間一緒に過ごし、関係性を作っていく子どもの居場所。子ども同士の関係に、大人がどれくらい関わり、どのような声かけをすればいいのか難しさを感じる方もいるのではないでしょうか?
今回は、認定NPO法人Learning for Allで居場所づくりに関わる吉原聡子さんにお話を伺いました。
前編では、子ども同士の関係の中で大人がどのような存在であると考えているか、具体的に子ども同士の関係性に対して大人がどのような関わり方をしているのかについてお話しいただきます。
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プロフィール:吉原聡子
LFA職員。大学卒業後、鉄道会社で商業施設の広報販売促進、中学校英語科教諭を経て、LFAに入職。居場所拠点にて拠点長として勤務している。趣味はライブや演劇鑑賞、植物を育てること、犬を観察すること。
子どもの同士の関係性の中で、「大人」はどんな存在なのか
—はじめに、子どもの居場所は複数の子どもが一緒に過ごし、その中で関係性が築かれていく場であると思います。子ども同士で過ごしている居場所において、大人はどのような存在であると考えていますか。
私は子どもに対して、成長のために知っておいて欲しいことを伝える存在であることと意図を持たずに一緒に楽しく過ごす存在であることの両方が欠かせないと思っていて、場面に応じて両者を使い分けています。
その上で、子どもの年齢によって両者の比重は異なります。相手が小学校低学年の子どもの場合は、楽しい時間をともに過ごす近所のお兄さん・お姉さん的な存在でありながら、先生や保護者に近い側面も持っています。生活の指導やお友達とお互いを理解しながら付き合っていくためのルールなどを伝えたり、一緒に考えたりしながら過ごしています。子ども同士の身体的接触などによる怪我や事故も多い年齢なので、子ども同士の場面にも大人がより注意を配る必要があると考えています。高学年になってくると、指導的な側面は減り、より子どもと同じ目線で一緒に楽しく過ごす場面が増えてきます。
中高生では、身体的接触による危険などは減るので、大人は居場所全体を俯瞰しながら、人と人を繋ぐ環境調整役のような存在でいることが多いですね。

画像:photoAC
居場所に通っている子どもの中には、かなり大変な環境の中で生活をしている子がいます。過去には居場所で出会った子が虐待で一時保護され、今日が会える最後の日だったという経験もありました。そのため、居場所に来てくれる子どもたちには、1日の終わりに「いい1日だったな」「最後は笑えたな」と思って帰ってもらいたいと考えています。子どもたちが子ども同士で関係性を作り上げていく自主性を尊重しつつ、大人はそのような1日を過ごせるサポートができればと思っています。
—子ども同士の関係性に関わる際に、どんなことを意識しているのでしょうか。
子ども同士の関係性への関わり方は、前提として、子どもたち一人一人の個性や個別の人間関係があるので、絶対にこうしなきゃいけないという関わり方があるわけではありません。
居場所は、学校に比べると少人数で、子どもの年齢が入り混じっていたり、場のルールが最低限だったりするので、子どもたちが個性を出しやすい場であると思います。そうなると子ども同士の関係性はより多様になり、もっと言えば子どもと大人の関係性もより多様です。
ですから、一概にこういう関わり方をする、というよりは、それぞれの個性や人間関係を捉えて、お互いの得意・不得意などその人らしさを掛け合わせて、一緒に人間関係や場づくりをしていっているようなイメージですね。
そのような人間関係・場づくりをしていくためにも、一人一人の子どもの得意・不得意などをアセスメントしてスタッフ間の共通認識を作るようにしています。その子の特性や状況をもとに、環境を調整し、その子が居やすい状態を作ったり、少し背伸びをしたら超えられるようなハードルを子ども本人と相談して設定して、それを乗り越えるサポートをしたりしています。子どもたちがどこまでできるかを見立てた上で、友達との関係性に対しても大人がどこまでサポートするかをスタッフ間で話し合いながら決めています。
居場所全体の人間関係としては、お互いの不得意を応援できる場所にしようというメッセージを子どもたちに伝えています。
例えば、誰かが癇癪を起こしてしまうと、周囲の子どもたちもその影響を受けます。しかし、その子も癇癪を起こしたい訳ではなく、癇癪を起こす自分自身にイライラしていたりもします。その際に、癇癪を起こしてしまう子に対して周囲から「あの子がいなければいいのに」という声が出てしまうと、お互いを許容できない関係性になってしまいます。そのため、その子がどういう時にどういう反応が出てしまうのかや、それを克服するために頑張っていることなどを子どもたちとも共有したりして、お互いが不得意なことも許容できる場づくりを目指しています。
同時に、癇癪が起きることで、周囲の子どもは泣き叫んでいる音や居場所全体のピリッとした空気からストレスを受けます。そのため、周囲の子どもたちに我慢をさせてしまうのではなく、癇癪が起きてしまった子どもとスタッフで個室に移動する、移動が難しい場合はパーテーションなどで視界と音を遮るようにするなどの環境調整も行い、癇癪を起こしている子どもも、周囲の子どもたちも、身体的、心理的安全が守られるようにしています。
子ども同士の関わりへの具体的な介入・声かけ
—ここからは小学生の居場所を念頭においてお話を伺っていきます。子ども同士の関係に介入する上で、具体的にはどのような基準を持っていますか。
意識するポイントをいくつか決めています。まず、暴力・暴言・性的な発言に対しては必ず注意します。さらに、工作など危険性のある道具を使う場面では、癇癪が起きたらすぐに周囲の子どもを安全な場に移動させるなど、安全管理の面で、どこで何が起きたらどのように介入するか、を最低限決めています。
それ以外の場面では、子どもの状況に合わせて試行錯誤しながら介入しています。
子どもの様子は日ごとに違うこともあるので、対応は日々変わっていくという考えはスタッフの中で共有しています。その子の家庭状況に応じて、周囲との関わりの様子も変化すると思うので、大人から子ども同士への関わり方も柔軟に変更しています。
—子どもに対しての具体的な声かけはどのようにしていますか。
特に「これを言おう」というよりは、子どもの状況を踏まえて関わり方の方針の部分だけ、スタッフ間で日々アップデートしながらすり合わせをしています。毎日の会話の中で、それぞれの子の状況についての話は出てきますが、論点がさまざま出てくるので、隔週に一度、全員の子どもに対して近況を整理し、関わり方の目標を立てる時間を設けています。
そして、具体的に、どういう場面で働きかけをする、どういう言葉掛けをするなどは、各スタッフが状況に合わせて自分で選んで関わっています。1日の終わりに、子ども同士でこのような場面があった、このように連携できるとよかった、という情報を共有して振り返り、次の目標を修正しています。さらに、何度も同じ場面を経験をしたり、学校の先生と話しあったりする中で対応を変えるようにしています。
まとめ
今回は、吉原さんに、子ども同士の関係の中で大人がどのような存在であると考えているか、具体的にどのような関わり方をしているのかについて伺いました。ポイントを以下にまとめます。
- 大人は、子どもに対して、成長のために知っておいて欲しいことを伝える存在であることと意図を持たずに一緒に楽しく過ごす存在であることの両方が欠かせないと考え、場面に応じて両者を使い分けている。
- 子ども同士の関係性への関わり方は、それぞれの個性や人間関係を捉えて、お互いの得意・不得意などその人らしさを掛け合わせて、一緒に人間関係や場づくりをしている。
- 子どもの状況を踏まえて関わり方の方針の部分だけ、スタッフ間ですり合わせをしたうえで、具体的な働きかけ・言葉掛けは、各スタッフが状況に合わせて自分で選んで関わっている。
後編では、子ども同士が遊んでいる場面や喧嘩が起きてしまった場面で、大人はどのように関わっているのかについてお話しいただきます。
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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