NPOやソーシャルベンチャーによる社会課題の解決に対して、行政の関心が高まってきています。
その中で、文部科学省職員の岸良さんは、研修制度の一環として、関東近郊で学習支援・居場所支援を実施しているNPO法人Learning for All(以下、LFA)に派遣され、半年間勤務していました。
半年間の派遣期間を終えて、NPOのどのような取組が社会課題の解決に効果的と感じたか、公務員としての経験も踏まえて紹介していただきました。
前編では、岸良さんがLFAで実際に行った取り組みについてご紹介いただきましたが、後編では、LFAでの経験から岸良さんが得た学びについてお話しいただきました。
プロフィール:岸良 優太
文部科学省職員(2021.10-2022.3:Learning for All 経営企画事業部)
東京大学法科大学院卒業、司法試験合格後、2013年4月に文部科学省入省。以後、教職員定数・給与制度の企画立案、学校法人の経営に関する指導助言、給付型奨学金・高等教育の修学支援新制度の創設、地方創生に資する産学官連携の振興、世界トップレベル研究大学実現のための「大学ファンド」創設などを担当。2015年度には省内の職員研修制度を活用して、盛岡市の公立小学校で6年生副担任として1年間勤務。
最近ハマっていること:Youtubeの料理動画を見ながら夜食のラーメンを作ること
本気のチェンジメーカーの存在を肌で感じた
LFAでの半年間の勤務を通じて、多くの学びを得ることができました。その1点目は、NPO等の民間領域に、社会問題に対する具体的で解像度の高い問題意識と、その社会問題を解決して社会を変えようという情熱を持った人々(チェンジメーカー)が数多くいるということを肌で感じられた点です。
私は子ども支援の拠点運営に直接かかわるのではなく、バックオフィスでの勤務でしたが、同じバックオフィスで働く同僚の中には、学生時代にLFAの学習支援ボランティアを経験している人が複数いました。LFAでは延べ2,500人以上のボランティアが参加していますが、彼・彼女らの選考から参加前研修、参加期間まで一貫して、団体としての価値観、ビジョンの共有・浸透を徹底して行っています。団体の価値観やビジョンにに強く共感した人が、学生ボランティアからそのまま新卒で職員になることもありますし、一度LFA以外の職業に就いた後にLFAに戻り、ファーストキャリアで培った専門性を武器に、職員として参画している人もいます。団体の価値観やビジョンへの共感がベースになっているからこそ、LFAにはチェンジメーカーが集まっているのだと感じます。
また、アルムナイ(ボランティア経験者や元職員を含めた同窓生)のコミュニティが形成されていることも、組織の厚みを生み、より多くのチェンジメーカーを生み出す素地になっていると感じています。
大切にする価値観の共有の重要性
2点目は、団体として大切にする価値観を職員の中で共有することの重要性です。
LFAは、「子どもの貧困の本質的解決」という団体の使命・存在意義(Mission)に常に立ち返ることを重視しています。月次で開催している全職員でのミーティングをはじめ、各拠点や各部門内部、あるいはそれらを横断するかたちで、情報のみならず価値観の共有・共感を醸成する機会を意識的に設けています。その際には、オンラインツール(Zoom等のウェブ会議ツール、Googleドキュメント等の同時編集可能な文書処理ツール等)を積極的に活用しています。
現在のコロナ禍では、なかなか対面でひとところに集まることができません。しかし、オンラインツールを駆使しながら価値観を共有する取組を重ねることで、複数の拠点にまたがって活動しながら、団体としての一体感や一貫性を確保でき、より効果的な活動につながっていると感じました。
振り返りを重視する人材育成
3点目としては、振り返り(リフレクション)を重視した人材育成を進めている点です。
LFAでは、前述した月次での全職員ミーティングに加え、部門・チームでの週次の定例ミーティング、マネージャーや先輩職員との1on1ミーティングを定期的に実施しており、その中で継続的に「振り返り」の機会が設けられています。これによって、個々の案件(プロジェクト)の進捗管理のみならず、それぞれの職員が自身の到達地点を把握し、成長を実感するきっかけになっています。
LFAでの振り返りは、大きく3つのレベルで行われています。
- 案件(プロジェクト)の進捗
個別の案件(プロジェクト)において達成すべきことは何か、それに向けて今何ができていて、何ができていないか、業務終了後にはそれがどの程度達成できたか、反省点は何か - 自身の状況について
業務全体において自分がどのような状況か、働く目的に照らして十分に取り組めているか、十分でないなら何が足りていないのか - 自身の価値観について
自分が大切にする価値観は何か、それに照らして現状はどのように評価できるか、仕事を通じて価値観に変化はあったか
こうした振り返りの機会を意識的に設けることにより、「業務目的を達成できたかどうか」はもちろんのこと、個々の職員が自分自身の到達点を確認し、「自分は何を得たのか」を明確にすることができていると思います。
強み・適性と意欲を重視する人事と、それを支えるマネジメント方策の確立
4点目としては、強み・適性と意欲を重視する人事を徹底するとともに、それを支えるためのマネジメント方策が確立されている点があります。
私は社会人になって9年目ですが、LFAで私が所属する部門のマネージャーは新卒でLFAに入職してから3年目(ボランティア、インターンを含めるとLFA参加歴は6年目)の職員で、子ども支援部門のエリアマネージャー(地域の複数拠点の統括責任者)も兼任し、私を含む職員のほか、有償インターンや多数の学生ボランティアまで束ねています。そして、私から見る限り、2つのマネージャー業務はいずれも十分に果たされていると思います。
文部科学省をはじめとする省庁でも能力・実績主義の人事管理(適材適所の人事配置、メリハリのある給与処遇等)を掲げていますが、少なくとも私がこれまで経験してきた部署において、3年目の職員にこれだけの人数規模のマネジメントを担わせた例はありませんでした。
このような人事配置を可能としている要因として、①年齢や経験年数に関わらず、強み・適性がマッチし、意欲があれば、大きな仕事を任せる人事制度の徹底に加え、②経験が浅くてもマネジメントを担えるように、マネジメントの要点や枠組みを言語化して共有している点が大きいと思います。
LFAは、他のソーシャルベンチャーと同様、企業や他団体等からの転職者も多く参画しています。また、LFAからコンサルティング会社等の企業に転職した後も、アルムナイとして協力関係にある方も複数います。そのネットワークの中から、効果的なマネジメント手法を積極的に取り入れて、組織内で言語化・浸透を進めることにより、若手であっても資質・能力があればマネジメント業務を担える仕組みが作られています。これは、中小規模の団体が多く、人材確保が重要なNPOの領域において非常に大切なことだと感じました。
組織規模の違いを考慮した工夫は必要ですが、省庁においても、マネジメント手法を積極的に体系化・言語化していくことで、能力・実績主義の人事管理をより一層推進できると思います。
最後に
今回のLFAでの勤務は半年という短い期間ではありましたが、前述した多くの学びを得られただけでなく、「NPOをはじめ、民間の立場から社会を変えよう、子どもの貧困をなくそう」と本気で取り組む人たちの多さを肌で知ることができた経験は、今後文部科学省に戻って教育行政に携わる上で、精神的にも実質的にも、非常に大きな支えになることは間違いありません。
今後は行政の立場から、LFAをはじめとする意欲的な団体の力を結集しながら、子どもの学びの機会を実質的に確保し、もっと子どもの貧困の本質的解決を進められるよう、腰を据えて取り組んでまいりたいと思います。
※本稿の内容は個人の見解であって、所属組織を代表するものではありません。
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