この「全国の居場所づくり」の連載では全国にある居場所支援団体を紹介することで、様々な居場所づくりのあり方があることをお伝えしています。前回は、「社会的不利な状況を生きる子どもたちや、人や社会に傷ついた人たち」の社会参加をサポートしており、その課題意識が「すべての人をフレームイン!」というミッションを掲げられているNPO法人パノラマ(以下、パノラマ)さんの活動内容を紹介しました。
今回は、パノラマさんが行っている中心事業の1つである校内居場所カフェについて、どんな場所でどのようなことをしているのか、お話を伺っていこうと思います。
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プロフィール:小川 杏子
2017年に入職した、NPO法人パノラマの第一号職員。学校連携事業(高校内居場所カフェや個別相談、卒業生・中退生支援)を中心に事業や運営に関わる。
校内居場所カフェを始めた経緯
ー前回はパノラマさんの活動を伺いました。今回は、そのうちの1つである校内居場所カフェについて詳しく聞かせてください。まずは、居場所カフェが始まった経緯を教えてください。
もともとの始まりは、パノラマ代表の石井が公立高校に相談員として派遣されたことです。しかし、相談用の個室に入ってしまっては生徒と出会えないので、生徒と出会える場所はないかと探す中で図書館という場所に出会いました。
最初はカフェではなく、図書館での交流相談という形で、司書さんと話をしたり、生徒と話をしたり、ギターを弾く等して交流しながら相談をしていました。
そんな中、相談員の事業の財源がなくなってしまうことになり、どうにかして校内にこのような事業を高校内に残そうと検討する中で、関西ですでに校内居場所カフェを実施されている団体の存在が話に上がりました。広く生徒にアプローチするために、個別相談室ではなくてカフェという形をとっているとのことで石井の交流相談と目的が似ていました。そこで、石井がいた高校でもカフェをやるのがいいのではないかと考えて、校内居場所カフェという形で実施するようになっていきました。
校内居場所カフェの実施内容や意義:学校内だからこそ生徒と出会いやすい
ー校内居場所カフェでは具体的にどのようなことをされていますか。
カフェのコンセプトは、「安心安全」「文化的な体験の場」「ソーシャルワークの起点の場」です。
週に1回高校の図書館や多目的室で無料でジュースとおかしを提供し、生徒が自由に過ごすことのできる居場所を提供しています。生徒によっては家庭や学校が必ずしも安心して自由にいられる居場所ではないということもありえます。だからこそカフェではまず、生徒たちが安心して自由に過ごせることを大切にしています。
また、時には季節に応じたイベントも企画しています。例えば浴衣パーティ、七夕イベント、クリスマスやハロウィンパーティなどです。様々な文化的な体験をすることはご家庭に余裕がないとできません。カフェの目的の1つは家庭でそのような体験を得にくい若者もいる中で、日々の豊かさや将来の糧になるような文化的な体験を提供することです。
このような季節のイベントだけではなく、校内居場所カフェで日常的に提供している飲食やボードゲーム、楽器の演奏なども、生徒たちがさまざまな価値観や人と出会い、社会へ出たあとの支えとなっていると感じています。
ー学校の外ではなく、学校内に居場所を作ることの意味とは何でしょうか。
外部の支援機関ではなかなか出会うことのできない、高校生年代(10代後半)の世代の困りごとの早期発見、早期支援、すなわち予防支援をすることができるという点です。
実際に、高校生と話していると、外の相談機関には自分からは行かないだろうなと思われる生徒も多いです。その背景には、大人への警戒心、新しいものへの恐怖心などがありますが、支援者が学校に日常的にいることで、そうしたハードルが下がり、卒業・中退後も気軽に話をできることは意味が大きいと感じています。
学校外では出会いにくいけれどもニーズがある生徒たちに校内居場所カフェで出会うことで、必要があれば外の相談・支援機関に繋げることもできます。また、生徒たちの慣れ親しんだ学校に居続けることで、卒業後にまた帰って来られる場になっているという点も大切だと思っています。
ー学校内で活動されているからこそ、幅広い生徒に出会い、繋がり続けられるのですね。校内で居場所を作る際に難しさを感じることはありますか。
正直あまり思い当たらないですが、しいて言うのであれば、いくつか制約がありうるということですかね。特に最近では新型コロナウイルスの感染拡大によって学校活動自体が制限されることがあったため、学校のルールの下で行っている我々の居場所カフェも当然活動の制限を受けました。
生徒たちにとっての居場所カフェとは
ー生徒たちは何を楽しみに校内居場所カフェを訪れていますか。
新型コロナウイルスの感染拡大前はお昼ごはんの時間と放課後にカフェを開いていたのですが、お昼ごはんの時間には、お腹を満たしたくて来る生徒が多かったです。みそ汁などの手作りの食事を提供していたので、「今日は何があるのかな」と楽しみに来ている生徒が多かったです。
恐らく、居場所カフェに来る最初のきっかけの1つは、何かおいしいものが食べられる、暇な時間を楽しく過ごせる、というようなことだと思います。大人との関係が築かれていくと、それが段々と「誰かと話したい」「誰かと遊びたい」という気持ちで来るように変わっていきます。放課後に来る生徒はそのように誰かと時間を過ごすことを求めて来る生徒が多いように感じます。
まとめ
今回は、パノラマさんが実施されている校内居場所カフェがどのような場所なのかについて伺いました。学校の中だからこそできる支援の仕方があるということが見受けられました。次回は、校内居場所カフェによって生徒たちがどう変わっていったか、その変化はスタッフのどのような振る舞いによって促されたものか、さらに深くお聞きしてみようと思います。
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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