【連載第6回】全国の居場所づくり ~パノラマの事例:全ての人が包摂される社会に~

この「全国の居場所づくり」の連載では全国にある居場所支援団体を紹介することで、様々な居場所づくりのあり方があることをお伝えしています。

第4回~第6回では、パノラマ写真のように全ての人がフレームインし、活きいきと暮らせる社会を実現しようという想いから「すべての人をフレームイン!」というミッションを掲げられているNPO法人パノラマ(以下、パノラマ)さんの活動を紹介しています。今回は、パノラマさんが特に居場所カフェの中で大切にされていることや、それによって生徒たちに生じた変化、印象的だった出来事などを伺いました。

前回までの記事はこちら

【連載第4回】全国の居場所づくり~NPO法人パノラマ:全ての人が包摂される社会を目指して~
【連載第4回】全国の居場所づくり~NPO法人パノラマ:全ての人が包摂される社会を目指して~

【連載第5回】全国の居場所づくり~NPO法人パノラマ:全ての人が包摂される社会を目指して~
【連載第5回】全国の居場所づくり~NPO法人パノラマ:全ての人が包摂される社会を目指して~

プロフィール:小川 杏子
2017年に入職した、NPO法人パノラマの第一号職員。学校連携事業(高校内居場所カフェや個別相談、卒業生・中退生支援)を中心に事業や運営に関わる。

「大人がわからないものをわからないままにする」関わり方

ー生徒や若者と関わる上で大切にしていること、気をつけていることなどはありますか。

団体として大切にしていることは2点です。

一つめは指導的な関わりではなく支援的な関わりをすることです。「~しなきゃダメ」「~しちゃダメ」という伝え方をするのではなく、「~しないと困っちゃう」「~すると悲しい」という声かけの仕方をしています。ある先生が言っていた「困った生徒は困っている生徒」という言葉がありますが、生徒たちの背景にも想像をめぐらせることが大切だと思っており、このような関わりを大切にしています。

二つめは生徒の世界に好意的な関心を持ち、想像をすることです。生徒が話すことには知らないこともたくさんあります。自分が知っている価値観だけで判断するのではなく、どういうことなのか、なぜそうしているのか、背景を想像しながら関わるようにしています。

ー生徒の世界を理解して、安心・安全な場所を作られているのですね。他にも大切にされていることはありますか。

人的に大切だと思っているのは、大人も正解を知っているわけではなく、できないことや知らないことがあることも伝えることだと思います。大人ができないことをできないと、わからないものをわからないと伝えながら一緒に悩んだり考えたりすることで、「大人って意外と大したことないじゃん」と思うと、「自分もできることがあるかも」と生徒が思う雰囲気が生まれると考えています。

頼られることが嬉しい生徒もたくさんいます。日常の中で「やらされる」ことはたくさんあっても、誰かのためになって、改めて感謝されるという経験は少ないなと感じます。また、頼り上手になって生きていくのに少し楽になるということや、助けてもらうことは恥ずかしいことではないんだということも何かの形で伝えたいなと思っています。

そのような考えに至ったきっかけは、私がカフェの開始時間を間違えてしまったことです(笑)。両手にお菓子を抱えて急いで向かったら、拍手で生徒が迎え入れてくれました(笑)。生徒たちも「だめじゃん(笑)」と思いつつも、「そんな時もあるよね」という雰囲気で迎え入れてくれたんです。そして、いつもはお菓子をもらいに来るだけなのに、準備を手伝ってくれる生徒もいたのです。そのときに「あ、これでいいんだ」と思えました。

 

関わりによる生徒たちの変化

ー「大人ができないことをできないままにする」ってとても素敵な関わり方だなぁと思いました。そうした関わり方によって、生徒に何か変化が起きたことなどはありますか。

始めた当初は居場所カフェということで私が黒板にメニューのイラストを描いていたのですが、あまり上手ではありませんでした(笑)。

一人でカフェに来て入り口で話しかけないと中に入らないような生徒がいたのですが、ある日その子がイラストが好きだとわかり、その子に頼んでメニューのイラストを描いてもらうようになりました。それから段々私ではなくその子が毎週道具を持ってきてイラストを描くことが定番になりました。

それを見てその子に話しかける生徒や先生が増えたことで、他の人とコミュニケーションをとったり、他の人のために何かをしたりする場面が見られるようになりました。さらに、出会った当初は高校卒業後の進路が少し心配だったにも関わらず、イラスト関係の仕事に就職して無事卒業していきました。

自分の役割を持つことができたのが、その子の成長に影響を与えたのだと思います。

ー「この活動をしていて良かった」と感じる場面などはありますか。

大人にならざるを得なくて鎧を被っている生徒が多く、そうした生徒たちが等身大の自分に戻って、人を信頼し周囲の人に頼れるようになるのがとても嬉しいです。

例えば、浴衣パーティをした時にいつもつっけんどんだった生徒が、浴衣を着て、周囲の人から「きれいだね」「かわいいね」と言われて表情が柔らかくなっていったのが印象的でした。家庭など周囲の環境のために大人にならざるを得ず、鎧を被っているような生徒でしたが、明るくなって等身大の18歳に戻ったようでした。

また、自分たちとの関係が続かなくても地域のどこかで誰かとつながっていたり、その子が困った時に近くの人に「助けて」と援助を求めたりするようになったという話を聞くこともあります。相談したり、助けを求めたりすることができる状況を自分の地域の中で作ることができていたのだと思うと、やっていてよかったと思えます。

人に頼っていいんだ、と思えるようになって卒業して欲しいと感じています。

 

「ぜひボランティアにご参加ください!」

ーこの記事をご覧の方々にお伝えしたいことなどありますか。

ぜひ一度居場所カフェのボランティア養成講座にいらして下さい!このようにお話しして伝えられることも多々ありますが、来て初めて感じられるものもたくさんあると思います。生徒が変化した話や、困難度が重いケースの話だけでなく、そこにいる生徒たちにとって居場所カフェがただただ居場所になっていることは実際に来ることで感じてもらえるのではないかと思います。

また、他の団体の皆さんが活動で生徒と関わる際に大切にしていること、工夫していることもお聞きしたいですね。他の団体の方とお話しするといつも新しく気づくことがあります。

 

まとめ

今回は3本の記事を通して、パノラマさんの活動内容やその中で大切にされていることを伺ってきました。

大人を大人らしく見せるのではなく、意外とできないことが多い存在だと知ってもらうことで、生徒たちにも役割を持ってもらったり肩の荷を下してもらったりする関わり方は非常に素敵なものだと感じました。

ぜひボランティア養成講座にも来てほしいとのことでしたので、もしよろしければ下記ページをご確認のうえ、ご連絡してみてください。

パノラマ様のボランティア養成講座のご案内はコチラです。
https://npo-panorama.com/cafe/#section3
※次回講座のスケジュールは未定となっております。

※個人情報保護のため、一部のエピソードを改変しています
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

 

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