【連載第1回】全国の居場所づくりのあり方~NPO法人ハーフタイム:子どもの歩みを待つ居場所~

子どもたちに安心して過ごせる居場所を提供することは重要ですが、運営する側から見ると何を目指して何をすればいいのかイマイチよくわからないことも多いのではないでしょうか。この連載では全国にある居場所支援団体を紹介することで、様々な居場所づくりのあり方があることをお伝えしたいと思います。

最初にご紹介するのは、2010年から主に東京都葛飾区・墨田区で活動をされている「NPO法人ハーフタイム(以下、ハーフタイム)」様です。3回の連載に分けて活動内容や活動の根底にある思い、子どもたちの様子をお伝えします。初回の今回は、活動内容概要と団体設立の背景をご紹介します。

プロフィール:石原 啓子
ハーフタイム理事長。東京都でケースワーカーを務めたのち、福祉事務所のメンバーとともにハーフタイムを設立(葛飾区は2014年3月退職)。

 

 

プロフィール:三枝 功侍
ハーフタイム事務局長。早稲田大学在学時から早稲田大学広域BBS会会員としてボランティアを経験し、そこで出会った葛飾区関係者とともに、大学院在学時にハーフタイムを立ち上げる。現在はハーフタイム現場責任者と事務局長を兼任。

 

活動内容

ーどのような子どもを対象にどのような活動をされていますか。

三枝:2010年の発足以来、主に東京都葛飾区・墨田区で様々な生きづらさを抱えている子どもへの支援を行っています。

私たちが支援する子どもは現在40~45名ほどですが、様々な事情を抱えた子がいます。中にはゴミ屋敷で生活している子どもや、虐待を受けている子どももいます。また、重度の精神障害を有している子や、援助交際をしてしまっている子どももいます。いじめ被害があったり、不登校、引きこもり、知的障害・発達障害の子どももいれば、一時保護所から帰ってきた子どもや少年院を出たばかりの子どもなど、様々な事情を抱えた子どもへの寄り添いをしています。

私たちは、生きづらさを抱えた子どもが、信頼のおける大人との間で信頼関係を構築し、抱える生きづらさを一緒に一つずつ乗り越えながら、自己肯定感、そして「生きる力」を高めて、社会的に自立していくことを応援しています。

ー様々な子どもに対して、その子らと一緒に生きづらさを乗り越えるためのサポートをされているのですね。具体的には、どのような活動をしていますか。

三枝:具体的には4つの事業を行っています。いずれも、子どもたちの自己肯定感や「生きる力」を高めることを応援するための取り組みです。

①拠点型事業(たまり場)

地域の公共施設などの一室を借りて、生活相談や学習支援を行っています。雑談をしながら、子どもから悩みの共有があればその相談に乗ったり、一緒にトランプや工作に取り組んだりしています。また、漢検や英検の受験などを検討している子が希望すれば、一緒に勉強する機会を作ります。ただ、基本は子どもがしたいことをする場所なので、「来訪したからには必ず勉強をしなさい、○○をしなさい」といった枠組みはありません。

②個別対応型事業

拠点に来訪しているか否かに関わらず、子どものニーズに応じて個別での家庭訪問や高校・大学の学校説明会への同行などを行っています。いじめにあっている等生きづらさを抱える子どもにとっては集団の場に来ることが大きな一歩であり、同世代の子どもがいる場が怖いという子どもも多くいます。そのような子どもに対して、例えば、我々から訪問して近くの公園で会う、というような個別対応を行っています。また、時には緊急対応を行うこともあります。例えば、深夜に子どもから連絡が来て、「保護者から家を追い出された」などの相談を受け、駆けつけることもありました。

③生活訓練事業

隔月でイベントを行っています。料理教室や体育館でのスポーツなど、普段料理や運動の機会が少ない子どもに対して、様々な体験をできる機会を提供しています。我々の支援に繋がっている子どもには、年間登校日数0日など学校にほとんど行っていない子どもや、保護者の方が疾患を抱えていたり生活が困窮していたりして家庭で社会経験を積むことが難しい子どもが多くいます。

例えば、高校受験の志望理由を書く際に「やりたいことや夢がない」という男の子がいました。小学校高学年から中学校3年間がほとんど不登校だったその子は、職業体験や修学旅行などの経験もなかったので、このように様々な体験ができるよう取り組んでいます。

④情報提供事業

外部に対して研修会・講演会を行ったり、SNSなどを通じた情報発信を行ったりしています。

画像:ハーフタイム作成

以上のような活動をしていて、現在は40名以上の子どもに寄り添いを行っています。特徴としては、9年以上関わりがある子どもがいるなど、その支援期間の長さにあると思います。例えばゴミ屋敷に住んでいる子どもや引きこもりの子どもに対して半年や1年間寄り添ったからといって具体的な問題が解決するのはなかなか難しいと考えています。

 

活動メンバーの特徴

ー様々な活動をされていますが、どのようなメンバーで活動をしていますか。

三枝:現在、有給のスタッフは実は私一人だけで、それ以外は無償のスタッフです。大学生のボランティアが約50人いて、その他に社会人のボランティアもいます。立ち上げ当初は大学生と福祉事務所の現役職員・OB・OGだけで運営をしていましたが、地域住民の方やその他の関係機関の職員さんがハーフタイムに共感してくださり、徐々に運営スタッフが増えていきました。

中には正会員という形で寄付で応援してくださる方々もいます。正会員には講演活動や広報活動の中で活動に賛同してくれた方、地域住民の方や、社会人ボランティアを経て財政面でのサポートもしたいと正会員となってくださった方などがいます。


画像:ハーフタイム作成

 

設立の背景

ー団体設立に至った課題意識や背景は何ですか。

石原:先ほどもお話したように、最初は福祉事務所のケースワーカー中心でハーフタイムを立ち上げました。貧困の連鎖を断ち切りたいという思いで、子どもたちに学力をつけて安定した職に就いてもらって自立につなげようと考えていました。でも実際に子どもと会って感じたのは、そもそも学習する以前に学習意欲が生まれるような環境が整っていないということでした。したがって、勉強のサポートは学習支援を中心に活動している地域の他のNPOさんに専らお願いして、私たちは子どもの環境づくりを中心に行おうという方針になりました。

三枝:勉強をする意欲が湧くのは、そもそもの環境が整ってからだと思います。例えば、環境が整っていないことにより、定時制高校を退学して高卒認定試験を受けることも難しい子どもに出会ったことがあります。その子は高校を辞める際に面談をして高卒認定試験を受けようという話になったのですが、3か月ほどはなんとか勉強できたものの、その後勉強を続けることができなくなってしまいました。その背景には、バイトが忙しかったり、声かけをしても体調が悪いことも多く、虐待の後遺症としての精神疾患などもあって精神的にも準備が整っていなかったりという状態がありました。また、家庭も母子家庭・親の障害・生活保護といった感じで、家庭からのフォローもなかなか望めません。そのような状態で勉強を強いても大きく落ち込んだり人間関係が崩れてしまったりすることに繋がる可能性があるので、本人がやりたいタイミングでやるということが大事だと考えています。


画像:ハーフタイム作成

ー貧困の連鎖を解決するために団体を立ち上げ、子どものニーズに応える形で居場所事業をされるようになったのですね。確かに勉強など物事に取り組むためには前提となる安心・安全な空間が必要ですね。お話しいただきありがとうございました。

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次回は、具体的な子どものエピソードとともに、どのような思いで子どもの支援をしているのか、どのようなことを考えて子どもと接しているのか、お話を伺っていこうと思います。

第2回はこちら

【連載第2回】全国の居場所づくりのあり方~NPO法人ハーフタイム:子どもの歩みを待つ居場所~
【連載第2回】全国の居場所づくりのあり方~NPO法人ハーフタイム:子どもの歩みを待つ居場所~

※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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