【後編】子どもが安全・安心に過ごせる「第三の居場所」の空間デザイン ~Learning for All の事例~

前編では、今年の3月に居場所拠点の大規模リニューアルを担当された認定特定非営利活動法人Learning for All(以下、LFA)職員の吉原さんに、具体的なリニューアルポイントを伺いました。後編である今回は、リニューアルに対する子どもたちの反応や変化、拠点の空間デザインをする際に大事にしたいことを伺いました。

【前編】子どもが安全・安心に過ごせる「第三の居場所」の空間デザイン ~Learning for All の事例~
【前編】子どもが安全・安心に過ごせる「第三の居場所」の空間デザイン ~Learning for All の事例~

プロフィール:吉原 聡子
LFA職員。大学卒業後、鉄道会社で商業施設の広報販売促進、中学校英語科教諭を経て、LFAに入職。居場所拠点にて拠点長として勤務している。趣味はライブや演劇鑑賞、植物を育てること、犬を観察すること。

子どもたちの反応

—ガラッと変わった拠点を見て、子どもたちの反応はいかがでしたか?

最初にお披露目した時は子どもたちは驚いていて、中には「わーすごい!魔法でやったの?」と言ってくれる子どももいました(笑)。また、リニューアルのために1日だけ拠点を閉室した時に、私たち職員が一生懸命頑張っている様子を、実は外からチラチラ見ていた子もいたそうです。子どもたちは皆「拠点がどう変わるのか?」が気になっていたみたいですね。

また、リニューアル初日には、子どもたちにルームツアーをやりました。それぞれの部屋の使い方や、声のものさし等のルールについて一緒に確認して、それに対して子どもたちからも質問を受けました。全ての子どもがこのリニューアルを納得感を持って受け入れられるように、全員の子どもが静かに話を聞ける状態になるまで辛抱強く待って、それからしっかり説明したので、結局ルームツアーには1時間半くらいかかりましたね。


写真:部屋のルール(LFA撮影)

特に「活動表」と「掃除当番表」は、今回のリニューアルを機に新しく運用を始めたので、子どもたちがどういう反応をするのかはちょっと不安でしたが、意外と「そうなんだ」と理解してくれて、次の日からスムーズに実施することができました。私が思っていたよりも、子どもたちが受け入れるのは早かったです。

もちろん、慣れるまでは「面倒くさい」「前の拠点のほうが良かった」という声も聞きましたが、「なんで前のほうが良かったの?」と聞くと、はっきりと答えられる子はいませんでした。また、リニューアルしてからしばらく経った後に、ふと「ずっと、(拠点が)こういう風になったら良いなと思っていたんだよね」と言ってくれる子もいました。今の拠点は「大事にしたいことはありつつ、その中に自由はある」という状態になっていると思います。活動表を基にして、子ども同士でも「そろそろラーニング(学習の時間)だよ」「次は掃除だよ」みたいな声掛けも徐々にできるようになっています。

—子どもたちが拠点で過ごしている様子を見ていて、何か気づいた変化はありますか?

今回のリニューアルをきっかけに、拠点で大事にしている最低限のルールとして「皆が気持ちよく過ごすためにはどうしたら良いか」を大事にしています。子どもたちともこのルールを共有しているので、何かトラブルがあったときにも、皆で話し合いができるようになったことが大きな変化だと思っています。

例えば、子ども同士で押し合いでケンカが発生したことがあったんですが、そこで部屋の使い方のルールを見ながら「そもそもここストレッチの部屋なのに、なんで押し合いしてたんだっけ?」「確かに!ルール忘れてた、ごめん」みたいな話をして落ち着くことができました。

「部屋の中では走ってはいけない」というルールに対して、「かくれんぼはしても良い?」という質問が来たこともあります。その質問に対しては「それは決まってないから、皆で考えよう」と返事をしました。すると、子どもたちは「勉強している人がいる横でやるのは迷惑だよね」、「トイレに隠れちゃうと皆が困っちゃうよね」等、「皆が気持ちよく過ごすためにはどうしたら良いか」をベースとして意見を出し合い、皆でルールを考えていくことができました。


画像:
イラストAC

結果的に、子どもに対してより本質的なアプローチができる環境になったと感じています。

以前は部屋の使い方のルールが無かったので、いわゆる「縄張り争い」のような状態になることもあり、そういう争いの際はどうしても声が大きい人が強かったんです。ただ、今は最低限のルールの中で皆で話し合うことができるようになってきているので、今までは声の大きさで何とかなっていた子も、それでは通用しなくなっています。例えばカードゲーム等で負けて嫌だからと言って大きく声を荒げても、思い通りにならなくなってきたんです。そこで、その子とは声を荒げる以外の方法で嫌な気持ちをどうクールダウンしていけば良いのか、を一緒に考えました。その瞬間だけに対処する支援ではなく、その子が集団の中で、また人と関わる中で感じる課題について、本質的なアプローチができる環境になったと感じています。

—子ども以外の、大人の反応はいかがでしたか?

保護者の皆さんにも「どうやら何か変わっているようだ」という空気を感じていただいているみたいです。今まで拠点では勉強をしていなかった子も勉強するようになったので、お迎えの際に「え、今日は勉強したんだ!」と驚く保護者の方もいました。

また、拠点で保護者会を開催した際に、保護者向けにもルームツアーを行いました。それぞれの部屋での子どもの過ごし方についてもお伝えしたので、お迎えの際などに積極的に話ができるようになりました。拠点のリニューアルは、保護者の方との信頼関係を築くきっかけの1つにもなったと思います。

居場所を作るうえで大切にしたこと

—今回の拠点リニューアルで、大事にしていた考え方はありますか?

今回のリニューアルでは「子どもたちのエネルギーを下げる方向」を意識して作っていました。落ち着きがない子は、エネルギーを上げる方向に持っていくのはとても得意なのですが、エネルギーを下げて落ち着くことは苦手なことが多いです。私たちの拠点は子どもにとって「第三の居場所」であり、家に近い環境だと思っているので、非日常ではなく日常の場として、空間を作っていきたいと考えています。日常でずっとテンションが高い人はそんなにいませんよね。寝ていたり、ゆっくりしたり、何もしていないのも日常です。活動したいときに活動できるエネルギーを貯めておくには、日常の環境がある程度整然としていないといけないと思います。そのため「いかに子どもたちのエネルギーを下げるか」という観点で、拠点のレイアウト等を考えました。


画像:
Loose Drawing

一方で「綺麗に整頓されていること」と「使いやすい雑然感」のバランスも大事だと思っています。いくら綺麗に整理整頓していたとしても、「綺麗すぎて使いにくい」となっちゃうと、どちらかというと非日常の空間になりますよね。ほころびとか、ちょっとごちゃっとした感じも適度に必要で、それでいて全体として整然としている感じを皆で微調整しながら作っていくイメージです。そこにいる人たちが使いやすいように環境も変わっていくことを大事にしないと、どんどんつまらない場所になってしまうな、と思っています。

また、子どもが過ごしやすいことに加えて「大人も心地よく過ごせる空間になっているか?」という視点も大事にしました。子どもが心地よく穏やかに過ごせる空間だと、大人が注意しないといけないような言動も減ります。その結果として、大人が過ごしやすくなる面もあるのですが、それ以前に、空間を作っていく段階で「子ども視点だけになっていないか=使う人全てにとって心地良い空間になっているか」という確認もしたいですね。

まとめ

今回は、吉原さんに、子どもが安心・安全に過ごせる居場所の空間デザインについて、子どもたちの変化や反応を交えながら、大切にしたい考え方等を伺いました。ポイントを以下にまとめます。

  • 「皆が気持ちよく過ごすにはどうしたら良いか」を最低限のルールとして共有し、それを基にみんなで部屋の使い方を話し合えるようにする
  • 非日常ではなく日常の場として、「子どもたちのエネルギーを下げる」ための空間デザインを意識した
  • 「綺麗な整頓」と「使いやすい雑然」のバランスを大事にしながら、そこにいる人が使いやすいように日々環境を調整していく

※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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