発達障害の子どもに学習支援・居場所づくりでできるといいサポート ―インクルージョン研究者 野口 晃菜さんの事例―

近年「発達障害」という言葉が広く知られるようになりました。支援現場でも、発達障害の診断を受けている子どもや、診断は受けていないけれど発達障害の傾向が見られる子どもも少なくないと思います。同時に、発達に特性がある子どもに対してどのようなサポートをすればよいのか、悩んでいる方もいるのではないでしょうか。

そこで今回は、学習支援や居場所づくりの現場で発達障害の子どもにできるサポートについて、具体的な事例も交えながら、インクルージョン研究者の野口 晃菜氏に伺いました。

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プロフィール:野口 晃菜
インクルージョン研究者/博士(障害科学)
小学校6年生の時にアメリカへ渡り、障害児教育に関心を持つ。高校卒業時に日本へ帰国、筑波大学にて多様な子どもが共に学ぶインクルーシブ教育について研究。その後小学校講師を経て、現在障害のある方の教育と就労支援に取り組む株式会社LITALICOにてLITALICO研究所所長として、一人ひとりに合わせた支援・教育の実現のための仕組みづくり、自治体・学校との共同研究、少年院・刑務所との連携などに取り組む。国士舘大学非常勤講師。経済産業省産業構造審議会「教育イノベーション委員会」委員、元文部科学省「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議」委員、東京都生涯学習審議会委員、日本ポジティブ行動支援ネットワーク理事、日本LD学会国際委員など。著書・共著に「発達障害のある子どもと周囲の関係性を支援する」「インクルーシブ教育ってどんな教育?」などがある。

学習支援の現場でできるといいサポート

━━発達障害の子どもが学習支援現場で抱えやすい困りごとは何でしょうか

野口:発達障害の子どもは、他の子どもと同じやり方で学習すると学びづらさが生じることがあります。例えば、漢字ドリルを見ながら書き取りをするという宿題が学校から出されることがありますが、そのやり方だと集中できない、書くことができないという子どもがいます。

そのような学びづらさに付随して、一般的なやり方ばかりを押しつけられ嫌な思いをしている子どもが多いです。その結果、勉強に対する抵抗感が大きく、学習に取り掛からない、もしくは取り掛かるまでに時間がかかる子どももいます。

━━そのような困りごとに対して、どのような関わりをすればよいでしょうか

野口:前提として、できていないことよりも、できていることに焦点を当てることが大切です。発達障害の子どもはできていないことに着目される経験を多くしてきている子どもが多いので、できていることに着目するよう意識しましょう。例えば、学習支援の現場に来ていること自体がまず素晴らしいことですよね。他にも、全て完璧にできていないとしても、少しでも取り組めていることがあるのなら、それも素晴らしいことです。

できていないことについては、できなかったという失敗体験をなるべくしないよう、事前にたくさん工夫をしましょう。例えば、ある子どもにとって漢字ドリルを3ページ進めることが難しいとします。その場合、最初から「3ページやろうね」と言うのではなく、「漢字を1つ書こうね」と1つ書くようにステップを刻むといいかもしれません。

また、マス目に字を書くことが困難である子どもには、マスに色を塗り、どの色のマスに何を書けばいいか分かりやすくするということも工夫の一つです。他にも、漢字を分解して覚えるという工夫もできるかもしれません。

このように、それぞれの子どもにあった学び方でステップを踏んで行き、ステップを1つ達成することができたら具体的に頑張ったポイントを伝えましょう。

このような工夫をするためにも、工夫の仕方についての引き出しを自分の中に持っておくといいと思います。自分自身が経験してきた学び方の他にも、ゲーム形式で行う学び方や、漢字を偏(へん)と旁(つくり)に分けてパズルにする学び方など、調べてみると良いかもしれません。

━━子ども一人一人に合わせて学び方を柔軟に変えることが大切なんですね。一方、支援者の中には、学校の教材を子どもに合わせて変えてもいいのか、学校とは違う教え方をしてしまっていいのか、悩む方もいると思います。

野口:2016年4月に施行された「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」により、合理的配慮を可能な限り提供することが、学校にも求められるようになりました。

合理的配慮とは、障害のある方々の人権が障害のない方々と同じように保障されるとともに、教育や就業、その他社会生活において平等に参加できるよう、それぞれの障害特性や困りごとに合わせておこなわれる配慮のことです。

引用:「合理的配慮とは」LITALICOジュニア

とはいっても、支援現場の支援者が学校と直接「このような配慮をしてください」と掛け合うことは難しい場合もあると思います。そのため、支援者と保護者とで話し合った上で、保護者と学校の先生の間で相談してもらうという手順が進めやすいかもしれません。

合理的配慮については、LITALICOのサイトでも説明しています(こちら)。合理的配慮について説明しているハンドブックもLITALICOが無料で配布しているので、参考にしてください。


画像引用:「LITALICOジュニア

 

居場所づくりの現場でできるといいサポート

━━発達障害の子どもと向き合う上で、特に居場所づくりをしている人にとって大切な心構えはあるでしょうか。

野口:居場所は、子どもがありのままに過ごすことができ、自分らしさが大事にされること自体に意味があると思います。

学校は、「スポーツができる」や「勉強ができる」など、ものさしが固定的になりやすい場所です。学校の中だと、発達障害の子どもは、学校で求められること(集団行動やリーダーシップの発揮など)に合わせることが難しかったり、求められている水準に達することが難しかったりする場合が多くあります。その結果、学校の先生から評価されることが少ない場合もあります。一方で、居場所はものさしを多様化させることができるため、インクルーシブな場だと思っています。だからこそ居場所では、学校で使われる物差しでは子どもを測らないことが大切です。

また、困りごとに対してどのように対応するかという視点ではなく、どうすれば子どもが夢中になれたりその子らしさが発揮される場所をつくることができるかという視点を持つようにしてほしいです。

子どもの問題行動を減らさなければならないと大人が考えていると、その考えそのものが子どもにとって抑圧になってしまうことがあります。もちろん、命に危険が及ぶ場合や子どもがお互いの権利を侵害してしまう場合は対応しなければいけません。しかしその他の場面においては、子どものいいところに目を向けてほしいと思います。その子どもらしい一面に目を向け、その上で困りごとにどのように対応するかを考えるという順番でなければ、子どもとの関係性は上手くいきません。

━━発達障害の子どもだから特別な対応をするのではなく、全ての子どもと関わる時に大切なことを、発達障害の子どもに対しても、その子どもに合わせて考えるということですね。

野口:そうですね。発達障害であってもそうでなくても、その子どもの話をきちんと聞くなどの基本は一緒だと思います。その上で、どのようにしてその子どもに合わせたらいいかを考える時に、発達障害についての知識が役に立ちます。

例えば、先の見通しが立たないと不安でしんどくなってしまう子どもがいたとします。そのような子どもに対しては、見通しを明確に立て、計画が変わる場合はなるべく早めに伝えるという対応ができるかもしれません。また、予定が変わってパニックになったりしんどくなったりするのであれば、気持ちを落ち着かせる方法を本人と事前に相談しておくこともできます。

 

野口さんが実際に経験してきた実践

━━野口さんが見てきた実践もしくは、過去に見聞きしてきた実践の中で、大人の関わり方を変えることで子どもが前向きに変化した事例はありましたか。

野口:ここでは学習支援の事例を2つ紹介します。

1人目は、ASDの診断を受けた子どもです。その子どもは電車へのこだわりが強く、相手に対して一方的に電車の話をし続けているということがありました。

私たちの学習支援現場は個別対応の場であったため、その子どもの電車へのこだわりを上手く活用して学びに繋げるようにしました。例えば、算数の文章問題を全て電車についての問題に変えたり、漢字の学習を駅名を用いて行ったりしました。その子どもができることに目を向けて活用するという発想によって、子どもが学習しやすくなったと思います。

2人目は、ADHDの診断を受けた子どもです。その子どもは、勉強することに何もメリットを感じられていない様子でした。

その子どもに対しては2つのことを実践しました。

1つ目が、子どもが目に見える達成感を得られるようすることです。具体的には、その子どもが好きなキャラクターのシールとカードを作り、約束したミッションをクリアできればシールがもらえるというゲーム形式にしました。

2つ目は、学習内容をスモールステップにすることです。その子どもと約束した最初のミッションは、「チャイムが鳴る時に着席する」というものでした。また、子どもが1つできるようになると、すぐに次のミッションを与えたくなる方もいるかもしれませんが、私たちの現場では本人と約束したことだけをやるようにしました。最初の1週間は着席のミッションだけを出し、他のことは要求しない。そして、翌週には席について問題を1問解くミッションを出す、というように、スモールステップにすることで子どもも「勉強も悪くない」と思えてきたと思います。

これらの事例のように、子どもが学習に没頭できる工夫をすることや、子どもに合わせてハードルを下げて接することが大切だと思います。大事なことはその子どもが社会の中で生き延びていくことなので、その場にいることそのものを歓迎する関わりをしてほしいです。

 

まとめ

  • 学習支援の現場でできるといいサポート
    • 発達障害の子どもは、他の子どもと同じやり方で学習すると学びづらさが生じることがある
    • また、一般的なやり方ばかりを押しつけられ嫌な思いをしている子どもが多い
    • 子どもができていないことよりも、できていることに焦点を当てることが大切
    • 出来なかったという体験を子どもがしないよう、事前に工夫をする
  • 居場所づくりの現場でできるといいサポート
    • 居場所では、子どもがありのままに過ごすことができ、自分らしさが大事にされること自体に意味がある
    • 困りごとに対してどのように対応するかという視点ではなく、どうすれば子どもが夢中になったりその子らしさが発揮できる場所をつくることができるかという視点を持つ

学習支援のサポートについてはこちらも是非ご参考ください。

作業療法士に聞く!学習支援における発達障害の子どもとの関わり方
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※本記事の内容は一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

 

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