2023年6月22日に、子どもに向き合う全国各地の支援者が学び/知見/意見をシェアするオンラインイベント「こども支援ナビMeetup」の第16回が開催されました。
本イベントでは、認定NPO法人育て上げネットの執行役員である山本賢司氏をお招きし、子ども支援と若者支援の両方に取り組んでいる知見をもとに、「若者支援に取り組む立場から、子ども支援に取り組むみなさんに知っておいていただくと良いこと」を中心にお話していただきました。
イベントレポート第3回では、若者支援の人・団体・組織を選ぶときの視点3つ目・4つ目と、育て上げネットで行っている働き方拡張支援についてもご紹介します。
プロフィール:山本 賢司氏
認定NPO法人育て上げネット 執行役員。
1977年生まれ。2001年3月法政大学社会学部卒業。大学在学中に関わっていたNPOで「放課後の居場所」としての学習塾や、不登校経験のある子ども達の中間的就労の場づくりなどに取り組む。2004年から育て上げネットを手伝い始め、2005年に入職。各種支援事業(自主・公共)のマネージメントを担当した後、企画・広報、企業連携や他団体連携事業を担当するなどして、現在に至る。
立川市教育委員会「立川市第3次学校教育振興基本計画検討委員会」委員(2019年度)
厚生労働省「職業情報提供サイト(日本版O-NET)普及・活用の在り方検討会」委員(2020年度~)
3. 問い合わせ対応や実際の空気感をチェック
もし「どの団体につなげたらいいかわからない」「どのサービスが本人に合っているのかわからない」と迷った場合は、支援者の方からお問い合わせいただければと思います。問い合わせは、本人はもちろん、家族や周りの支援者からでも問題ありません。
私の視点で若者支援側として聞きたいことを挙げるとしたら、主に以下画像内にあるこの3点です。
画像:認定NPO法人育て上げネット
なお、本人以外の方から問い合わせ・相談をする時には、個人情報保護の観点から本人を特定できない範囲での情報で済ませてください。もしご本人からご本人のことを他機関に伝える了解を得られている場合は、その旨を教えていただけると安心してお話を聞くことができます。
問い合わせの際の電話やメール対応を通して、問い合わせ先の関わり方や雰囲気もなんとなくイメージできるはずです。
そして、できればで良いのですが、本人より先に支援者をはじめとする周りの大人が見学や説明会に参加してみましょう。ここで、本人ではなく、まず支援者が問い合わせや見学をすることは、本人が「行ってみたらなんか違った」と思ってしまうことを減らせる点で重要だと考えています。
画像:認定NPO法人育て上げネット
もともと本人が抱いていたイメージと見学や説明会で感じたイメージが違うと、そのガッカリ感が支援から遠ざかってしまうキッカケになります。これはとてももったいないことで、私はこれを無くしたいと考えています。
信頼する支援者からの情報は、若者にとって重要な情報です。支援者が先に見学して施設の雰囲気を伝えたり、「ここは相性が良さそうだ」と勧めてあげたりすることで、ミスマッチを減らし、次の支援にスムーズにつなげていけるでしょう。
4.どんな事業目標や理念を持っているかをチェック
事業目標や理念は、団体が主体的に持っている場合もあれば、委託元などから持たされている場合もあります。特に委託事業の場合、「どんなKPIを持たされているのか」ということまで知ってみると、その事業の従事者がどこに向かって仕事をするのかという重要な点が見えてきます。
その点に納得できるか、共感できるかどうかをしっかり見極めることで、子どもを託せる団体なのかも見えてくるでしょう。
若者支援は発見・誘導がうまくいかないのが悩み
画像:認定NPO法人育て上げネット
育て上げネットもそうですが、若者支援では困難な状況にある若者ほど「発見・誘導」が難しいという悩みがあります。
例えば育て上げネットでは、若者とつながる段階ですでに数年間の支援の空白期間ができてしまっていることが多いです。これを「社会的ブランク」と呼んでいます。以前までは、育て上げネットにつながる若者は20代後半の方が多い状況でした。私は、20代後半でつながる若者が多い背景には、「このまま30代を迎えるのはまずい」という本人の不安感があったのではないかと考えています。
やはり20代前半でつながったほうが職業の選択肢も多いですし、卒業後すぐにつながれたほうが支援の幅が広がります。この社会的ブランクを無くす・減らすために育て上げネットとしても努力しているのですが、なかなか難しいのが現状です。
また、就労支援とつなげていただくにあたっての子ども支援者側のためらいもあるのかな、と感じています。
就職した人数が「成果」とされている事業もあり、このようなイメージから「うちの子どもをしっかり支援してくれるのだろうか?」という不安感を持ってしまう方も少なくないのではないかと思っています。
たしかに一部事業では事業目標として就職人数が掲げられていることもありますが、すべての事業や団体がそうというわけではありません。現在育て上げネットでは、次のような考え方をもって若者の就労支援にあたっています。
育て上げネットの働き方拡張支援〜支援事例も紹介〜
画像:認定NPO法人育て上げネット
育て上げネットで大事にしているのは、本人の「できそう」「やってみたい」という気持ちを大切にして、その人の「好き」を「稼ぐ経験」につなげることです。
働くことに不安が高いケースほど、人に仕事や支援を合わせる形でないと「やらされている」「働かされている」感が強くなってしまい、ケースに動きをつくりにくくなってしまいます。そもそも就労(準備)支援につながる人の多くは不安ゆえに支援を受けることに対して前向きではないことも多いので、「できそうなこと」「やってみたいこと」を起点にした方が動ける、というわけです。
働き方拡張支援では、具体的に以下のようなことをやっています。
- 手先が器用な人にハンドメイド制作・販売を勧めてみる
- Youtubeが好きな人に動画編集を勧めてみる
- 絵を描くのが好きな人にイラスト販売を勧めてみる
いきなり「雇われる」ことを見据えて型にはめるのではなく、その人の「好き」や「できる」に着目して、そこを起点にケースを動かすという点が、働き方拡張支援のポイントです。
働き方拡張支援を通した就労支援事例
30歳のAさんは、アクセサリーづくりが得意であることを発見したため、オンラインマーケットでの販売を提案しました。スタッフと一緒に挑戦し、すぐに売れたため、「もっと作りたい、売りたい」と思うようになりました。
そこでたくさんの商品を制作したのですが、逆にここで「アクセサリーづくりだけでは食べていけない」ということに気づき、アクセサリーづくりを続けながらアルバイトとして働いて稼ぐことを選択しました。
働き方拡張支援を通して「フリーランスとして稼いでいこう」と考える方は結果的にほぼいません。スモールビジネスで自分の得意なこと・好きなことで結果を出せたことが自信となり、むしろ前向きに雇われる働き方を選択するケースがほとんどです。
実際に働き方拡張支援を始めてから、週20時間以上の就労の実績も上がってきています。雇用でない働き方を支援することは一見遠回りのようですが、これまでいきなり週20時間の就労はハードルが高かった方でも働き始めるケースがよく見られるようになりました。
このような就労支援に興味をもってくださった方がいらっしゃいましたら、「アトオシ・オンライン」で全国どこからでも相談を受け付けています。登録なしでOKという講座は、申し込めばすぐ参加が可能です。少しでも面白そうだなと思ってくださった場合は、ぜひ一度サイトをのぞいてみてください。
画像:認定NPO法人育て上げネット
若者支援と子ども支援でつながる / つなげる
今回は若者支援、主に就労支援について、支援サービスの概要や選ぶ視点、育て上げネットの支援事例などをご紹介しました。
若者支援の支援者と子ども支援の支援者が相互に理解してつながることが、子どもを社会につなげ、途切れ・切れ目のない支援をすることになります。
今回のイベントを通して、若者支援についてもっと知ってもらえたら嬉しいです。
まとめ
第3回では、認定NPO法人育て上げネットの山本さんに、若者支援の人・団体・組織を選ぶときの視点3つ目・4つ目と、育て上げネットで行っている働き方拡張支援について伺いました。ポイントを以下にまとめます。
- 本人より先に支援者や周りの大人が団体・施設を見学し、雰囲気を伝えてあげることで、本人と支援サービスのミスマッチを減らせる。
- 若者支援を選ぶときには、事業目標や理念に納得・共感できるか、その事業や支援者がどこに向かって仕事をしているのかに共感できるかをしっかり確認することが大切。
- 育て上げネットの働き方拡張支援では、本人の「できそう」「やりたい」「好き」を入り口にその人の強みを活かせる形で稼ぐことを体験し、仕事をすることや就職につなげている。
- 育て上げネットの就労支援は「アトオシ・オンライン」で全国どこからでもつながれる。
第4回では、山本さんからご紹介いただいたケーススタディと、認定NPO法人Learning for All代表理事の李さんとの対談形式で行われた質疑応答をご紹介します。
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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