2021年11月25日に、子どもに向き合う全国各地の支援者が学び/知見/意見をシェアするオンラインイベント「こども支援ナビMeetup」の第4回が開催されました。
本イベントでは、一般社団法人ケアラーアクションネットワーク協会(以下、CAN)代表理事 持田 恭子氏に、ヤングケアラーが抱える気持ちや支援現場に繋がった際の望ましいサポート等についてお話いただきました。
イベントレポート第1回では、ケアラーとしての持田氏ご自身のご経験を交えながら、ヤングケアラーがどんな感情や気持ちを抱いているのか、子ども目線で紹介します。
プロフィール:持田 恭子
一般社団法人ケアラーアクションネットワーク協会 代表理事。
1996年に「ダウン症児・者の兄弟姉妹ネットワーク」を開設し、全国80名以上のきょうだいと交流を行う。2003年、父親を看取り、母親の在宅介護とダウン症のある兄のケアを仕事しながら両立した経験から、ケアラー同士が気持ちを分かち合い、情報を共有し合う仕組みが必要であると強く感じ、2013年、「ケアラーアクションネットワーク」を立ち上げた。翌年から「きょうだいの集い」を始め、2016年~2017年にかけて小学生のきょうだい児を対象にしたART&CHAT CLUBを開催。2017年、電子書籍「自分のために生きる」を出版。2018年、2019年、NHK Eテレ「バリバラ」「ハートネットTV」にゲスト出演をした。2018年に母親を看取り、2019年、一般社団法人化。2020年、ケアラーTubeを開設。これまでに1780人以上のケアラーとの対話を続けている。現在は、ヤングケアラーズ探究プログラム、エンパワメントサポートプログラムなどケアラーの自立促進を目指す教育事業を行っている。
ヤングケアラーとは
━━世の中には、様々なヤングケアラーの定義がありますが、持田さんはヤングケアラーをどのように捉えられていますか。
持田:世の中には、「どのようなケアをしている子どもか」という定義はありますが、「家族の世話をすることでどのような影響を受けているのか」ということは、ヤングケアラーに伝わっていないように思います。
『ヤングケアラー』というのは、簡単に言えば、若い世代で家族のケアを担っている子どもたちの総称です。ヤングケアラーであるか否かというようなレッテルを貼るための言葉ではありません。日本では、児童福祉法の下で「子どもの人権」が保障さえていますが、ヤングケアラーはそうした法の網目から漏れている子どもたちでもあります。もっと広く、総称として「ヤングケアラー」と呼ぶことで、子どもたちの人権を守る範囲を広げ、メンタルヘルスやウェルビーイングを維持したり高めたりするサポートしていくことがヤングケアラーへの取り組みだと考えています。
ヤングケアラーの中には、「自分は大したことはしていないから、ヤングケアラーと名乗れない」と言う子どもがいます。「もっと頑張らなくちゃ」、とひとりで家族の世話を頑張りすぎる状況を心配しています。
━━本人が自覚していないのであれば、ヤングケアラーに向けた支援やコミュニティに本人が出会うことはなかなか難しいのではないでしょうか。
持田:そうですね。ヤングケアラーと一言で言っても、多種多様な子どもがいます。部活に入り、塾にも通っていて一見、何も不自由がなく見える。でも、親は精神疾患を抱えていて兄弟には知的障がいがある、というようなケースもあります。子どもたちが自分の状況を誰かに打ち明けない限り、自分と似たような環境にいる同年代の子どもに出会うチャンスは限りなく少なくなると思います。
私たちが開催していた「きょうだいの集い」に集まった方々の中に、偶然同じ小学校に通っていた同級生が出会った回がありました。幼い頃は、お互いに家族のことを話していなかったそうです。「小学生の時には知り合いだったのに(家族のことは)話さなかったね」と盛り上がりました。
━━自身の家庭環境のことを話さなければ、身近に似たような立場の人がいても、お互いに繋がることが難しいのですね。
持田氏の経験:ヤングケアラーであることを必死に隠していた
━━持田さんも元ヤングケアラーということですが、似たようなご経験をされているのでしょうか。
持田:兄がダウン症で、母にうつ症状がありました。小学生から高校生まで二人のケアをしていました。母は感情の起伏が激しかったので、なだめたり、励ましたりする日々を送っていました。しかし、「これは言っちゃいけない」と思っていたので、周りに(母にうつ症状があることを)悟られないように元気にしていました。
━━なぜ周りの人に隠していたのですか。
持田:母は家の外では普通を装っていたので、周りの人には、母にうつ症状があることは分かりませんでした。
わたしが母の症状のことを大人に話したら、家族がバラバラにされてしまうのではないか、と考えていました。小学生の頃は、子どもが相談できる、今でいう「チャイルドライン」のようなものに電話しようとしては、受話器を持つところまでいってやめる、ということをよくしていましたね。「うちだけ違うという目で見られたくない」、「なるべく周りの同級生と同じでいたい」という気持ちもありました。
小学生の頃には、脳性麻痺のある同級生をからかう男子生徒がいました。彼の名前を呼びながら歩き方を真似るのです。私はその男子生徒をにらみつけていたので、いつも「怖ぇ~」と言われていました。特別支援学校に通っていた兄に脳性麻痺のある親友がいたので、男子生徒が教室で障がいのある生徒をからかうたびに、まるで兄の親友がからかわれているかのように思えてしまって、悔しかったんです。
この「悔しい」という感情は、大人になったわたしが子どもの時の気持ちを想像して話しているだけで、当時のわたしは、なんだかわからないけれど、頭にくる、むかつくと思っていました。
ヤングケアラーが抱える気持ち
━━ヤングケアラーは家族のケアを担わなければならないことでどのような困難を抱えているのでしょうか。
持田:「家族のケアを担わなければならない」とか「困難」という言葉は、大人目線の言葉遣いだなと思っています。家族のケアをすること自体は嫌だとはおもっていないんですよね。
家族の世話をすることで困難さを感じているのではなく、家族が抱えている「障がい」や「病気」のことを、ヤングケラーの周りにいる人があまりにも知らなさすぎるのです。知らないから、平気で障がいのある人のことをからかうんです。障がいや病気の話をすると、話題を変えられたり、「大変だね」と言われてしまう。そうなると、自分が期待していた会話ができないので、「わかってもらえないから、もう絶対にしゃべらない」と思ってしまうのです。
「困難がありますか」と聞かれても、子どもは「いや、大丈夫です」と答えることがあります。なぜならば、困難と言われると重たい感じがするので、「いや、うちは大丈夫です!」と反射的に答えてしまうのです。
子どもは、障がいや病気は骨折や風邪のように治るものではないと薄々気づいていて、一生付き合っていくものだとわかっています。周りの大人は「子どもだからまだわからないだろう」と思って障がいや病気のことを何も話さないので、子どもたちは必死に五感を使って情報を集めて、自分なりの解釈をするしかないのです。
困難があるか、と聞かれたら、いま家庭で何が起きているのかという情報を集める困難さはあるかもしれませんね。
━━保護者が病気や障がいを持っているために養育が難しいということも考えられますが、いかがでしょうか。
持田:子どもにしてみれば、親の子育てを悪く言われるのは気持ちのいいものではありません。また、親御さん自身も必死で子育てをしているのに、どうしてもアンバランスになっているのかもしれないし、親御さん自身に障がいや疾患があるかもしれません。親御さん自身もしっかり養育したいのにできなくて困っている状態なんだということを、私たちはもっと理解しなければいけません。
私の母も、うつ症状が重たくなると家事ができない時がありました。当時、母に対するケアがしっかりされていればよかったのにな、と思いますね。
━━子ども目線・本人目線で考えることが大切ですね。小学生、中学生、高校生といったライフステージによって、ヤングケアラーが抱える気持ちに違いはありますか。
持田:未就学児から小学生にかけては、障がいのある子もない子も一緒になって遊んでいる時期なので、それほどケアや世話や介護をしているという感覚はないと思います。小学校高学年になると、友達同士で共通点を見つけてグループ化する時期になるので、その時期に「自分と同じ仲間がいない」ことに気づき始めます。「うちは周りの家庭と違うな」と思い始めるのもこの頃ですね。
中学生になると、「もっと話したい」「話を聴きたい」と思うようになり、大人の世界に憧れ始めます。
高校生になると、少しずつ語彙が増えてくるので、家族の状況を説明することで自分がどう思っているのかを話そうとし始めます。しかし、この頃はまだ自分の気持ちは表現できないんです。
大人から「相談してね」と言われると、今度は自分が置かれている状況説明から始めなければならないので、すごく時間がかかり、話すことに疲れて諦めたり、支離滅裂になったりします。何を話していたのか分からなくなり、うまく表現できないことがストレスになるので「大丈夫です」とか「まぁ、そんな感じかな」と適当に答えてしまうことがあります。
大人から「何かあったら相談してね」と言われても、「『何か』ってなんだろう?」と思うし、相談すること自体、ハードルが高いのです。
虐待や暴行にあって家族のことを好きになれない、大切に思えないという子どももいます。なので、世の中の家族全員が、家族のことを大切に思っているだろう、と思い込んではいけません。
わたしたちは、ヤングケアラーの話を聞くときには、とことん話を聞くようにしています。ジャッジもしないし、脚色もしない。「こうなんでしょ」という言い方は絶対にないように心がけています。
まとめ
今回は、持田氏のご経験を交えながら、ヤングケアラーが抱える気持ちについて伺いました。「困難」のような言葉遣いなど、はっとする部分が多くあるお話でした。
第2回でも、引き続き持田氏の講演の内容を紹介します。ヤングケアラーに向けたサポートや会話時に気を付けることなどについて伺っています。
※本記事の内容は個人の見解であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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