子どもの進路選択サポートをする際、どのように選択するのか、そのプロセスをどう伝えれば良いのか分からないという経験をされた支援者も多いのではないでしょうか。
今回は認定NPO法人Learning for All (以降、LFA)で実施された進路選択サポートプログラム「ミライの選択」について、実施を担当された学校法人 河合塾(以下、河合塾)の山本尚毅さんとLFAの小池さんにお話を伺いました。前半では、プログラムの概要や本プログラムをLFAで実施しようと思った経緯などについてお話を伺います。
プロフィール:山本 尚毅
「河合塾未来研究プログラム」企画開発担当。20代の社会起業を経て現在は河合塾に勤務。進路選択という重要な意思決定は準備できるにも関わらず、決断の仕方は学ばないということに問題意識をもち、河合塾の強みを活かした進路選択に取り組む活動を考え、「ミライの選択」を開発。
プロフィール:小池 広人
LFAの学習支援現場で拠点長として活動。今回、LFAでの「ミライの選択」を中心的に進める。
「ミライの選択」とは?
—「ミライの選択」について教えてください。
山本:シンプルにいうと、進路選択をきっかけにして、「物事を自分で決める方法」を学ぶプログラムです。そして進路選択で学んだ決め方を、人生の様々な決断の局面で使えるようなプログラムをつくりたいと思って開発しました。
—具体的に、「ミライの選択」ではどのようなことを実施するのでしょうか。
山本:「ミライの選択」は学びのプロセスがデザインされており、意思決定の仕方を体系的に学んでいきます。テキストやワークシート、カードなどを使い、手を動かしながら意思決定の方法や、それを進路へ応用していく方法を学んでいくという形ですね。クラス内では生徒ごとに進路に対する進捗や程度はさまざまです。まだ進路について考え始めていない生徒から、ある程度将来が明確になっている生徒もいます。生徒それぞれの学びが生まれるように工夫しています。
※プログラムの詳細資料はこちらのページからダウンロードいただけます。
—なぜLFAで「ミライの選択」を導入してみたいと思われたのですか。
山本:私自身、河合塾で勤務する前に発展途上国の支援をしていて、格差問題に関心があったので、河合塾で何かできないかと思っていました。
また「ミライの選択」を開発するとき、当初は教師と生徒が1対1で進路を考えるものだと想定してプログラムを考えていたんですね。しかし実際に学校で実施するとなると、40(生徒)対1(講師)で使うような形に落ち着いたので、自分の当初の狙いとは少しズレがありました。より1対1の関係性で使ってほしいなと思っていたときに、学習支援をやっている現場であれば子ども一人に対してじっくりと関われるし、生徒をサポートする体制があるのではと考え、こども支援ナビの進路選択の記事(前編・後編)を読んでLFAに連絡をしました。
小池:このプログラムを導入してみたいと思った一番大きな理由は、高校生の学習支援で1・2年生から進路の相談を始めなければまずいなと考えていたからです。今年から今の学習支援拠点を担当し始めて、高校3年生が3人くらいいたのですが、春の時点で進路が全く決まっていませんでした。春から考え始めて夏頃に卒業後どうしたいかが決まってくるのですが、そのタイミングで決まっても試験当日まであと半年しかなく、できることが少ないんです。
また、各種申請や手続きを考えると、学費や奨学金の話も秋までには終わらせなければなりません。そもそも金銭的事情で進学が難しい子どももいます。子どもが進路を選べない状況にならないために、高校1・2年生のうちから進路選択に向けて取り組んでいかなければならないと思っていたところに、山本さんから連絡をいただきました。
—進路サポートにおいて何が課題だと思いますか。
小池:そもそも子どもが高校3年生になるまで進路を考える機会がないことが一番の課題だと思います。貧困の背景がある子どもたちは家庭で進路の話をすることが難しい場合もありますし、学校によっては大学進学を前提とした進路選択のサポート体制がないこともあります。「考える場所がない」というのが一番の課題ですね。
LFAに合わせた「ミライの選択」
—LFAではどのように「ミライの選択」を実施したのでしょうか。
山本:今回、LFAと一緒に行った取組の特徴は、大きく分けて3つあります。
1つ目は、拠点で子どもと大学生スタッフが、プログラムの授業を聞く段階から1対1の関係で取り組んでくれたことです。授業の中で分からないところは子どもの隣にいるスタッフがキャッチアップしてくれました。
2つ目は、練習問題として「バイトの選択」というケーススタディを作りました。河合塾は進学塾なので、従来の「ミライの選択」は、大学進学をベースにした内容となっていました。しかし、今回はより多様な進路の方向性を見据えて、練習問題として「バイトの選択」というケーススタディを作ってやってみました。
3つ目は、フルオンラインで、プログラム時間を短縮して実施しました。通常は14コマですが、今回は90分、90分、60分の全3回という短い時間で調整しました。
—今回の「ミライの選択」実施において、小池さんはどのように関わったのでしょうか。
小池:プログラムは2か月程度のスパンで行いました。最初の1か月は参加者全員で進めていく形で、そもそも進路決定ってこういうことを考えるんだよという話を山本さんからしていただき、ワークを通して「考え方」を学んでいきました。そこから1か月ほどは総合評価表を使って子どもと一緒に進路を考えていきました。子どもと一緒に総合評価表を埋めながら、子ども同士でもお互いの表を見てコメントしあいました。その後、オープンキャンパスなどにも参加しながら、さらに個別で話をしていきました。
ワーク実施後総合評価表イメージ
出典:学校法人 河合塾
—そもそも進路選択をするにあたって、なぜこのような決め方をするのでしょうか。
山本:まずは子どもたちに比較をすることで考えを深めてほしいと思いました。本当は本人の中に判断軸が複数あるはずなのに、自覚していないから判断に納得いかないことがあります。ひとりひとりの生徒が考えていることに対して、「それってどういう選び方をしているの?」と信頼できる大人から問いかけてもらうことで頭の中身をアウトプットすることができるし、他の人からのコメントで気づきを得たり、物事を幅広く考えながら自分自身をメタ認知することができるところもあります。
判断基準についてはカード(例えば、「大学の雰囲気」「学びたいこと」など)で選べるようにしていますが、最後は自分の言葉で書き換えてもらっています。今回、自由な発想ができる場だからこそ出てくる基準、LFAの拠点だからこそ出てくる基準だなと思うものもあって、それがとてもよかったですね。判断基準もいきなり考えるのは難しいので、子どもに自分が好きな有名人やスポーツ選手のインタビュー記事を読んでもらい、この人が何を大事にしているのかを考えてもらうなど、具体的なところから自分への考えを膨らませてもらいました。進路(未来)を考えることは抽象度が高いので、なるべく具体的なステップを踏んでもらうようにしていました。
—「ミライの選択」を通じて意思決定の考え方を伝えることで、子どもたちにどうなってほしいと思いますか。
山本:高校の進路選択において、子どもがあまり考えずに、先生が進路の方向性を決めている場面をみて違和感をもった経験があり、子どもが自分の意思を表明できる手段があると良いなと思いました。
初めての重大な意思決定である進路選択において、自分の人生のハンドルを自分で握る経験をしてもらうことで、今後の人生や社会のあり方についても自分の意思で選択ができるようになって欲しいですね。
まとめ
今回は、河合塾の山本さんとLFAの小池さんに、LFAで実施された「ミライの選択」について伺いました。ポイントを以下にまとめます。
- 「ミライの選択」は、進路選択という機会を通して、「物事を自分で決める方法」を体系的に学ぶプログラムである。
- 進路選択においては、早めに子どもたちが進路について考える機会を設けることが大切である。
- 大きな意思決定である進路選択において自分の人生のハンドルを自分で握る経験をしてもらうことで、子どもたちが今後の人生や社会のあり方についても自分の意思で選択ができるようにという開発者の想いが込められている。
後編では、「ミライの選択」に参加した子どもたちの反応や、今後の展望について伺います。
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません。
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