【連載第3回】全国の居場所づくりのあり方 ~NPO法人ハーフタイム:子どもの歩みを待つ居場所~

この連載では全国にある居場所支援団体を紹介しています。前回はNPO法人ハーフタイム(以下、ハーフタイム)さんに子どもへの思い、関わり方について伺いました。今回は、子どもと関わる中で実際に子どもたちがどう変化していったか、そのためにスタッフの皆さんが悩んできたことなどを紹介していきます。

プロフィール:石原 啓子
ハーフタイム理事長。東京都でケースワーカーを務めたのち、福祉事務所のメンバーとともにハーフタイムを設立(葛飾区は2014年3月退職)。

 

 

プロフィール:三枝 功侍
ハーフタイム事務局長。早稲田大学在学時から早稲田大学広域BBS会会員としてボランティアを経験し、そこで出会った葛飾区関係者とともに、大学院在学時にハーフタイムを立ち上げる。現在はハーフタイム現場責任者と事務局長を兼任。

 

長期的に関わった子どもの変化「自分も子どもを支える大人になりたい」

ーハーフタイムのスタッフさんの関わりによって、子どもが前向きに変化していったエピソードがあれば教えていただけますか。どのような関わりによって変わっていったのでしょうか。

三枝:多子世帯で、外国にルーツのあるとある女の子のエピソードが印象的です。その子は小学生時代にいじめを受けていて、それが原因で不登校になってしまいました。ハーフタイムに繋がった当初はスクールソーシャルワーカーと一緒に家庭訪問をして、一緒に近くの公園まで散歩するところから始めました。アニメが好きな子で、散歩をしながらアニメについてずっと雑談をしていました。

不登校で引きこもりだったため、髪も伸びっぱなしだったのですが、支援を始めて2年くらいした頃、急にバサッと髪を切ってきたのです。本人にとってはただ髪を切っただけで、髪を切るのは当たり前といえば当たり前です。ただ、身だしなみを整えたいと本人が思ったことが、私たちにとってはうれしい好転的な変化でした。

そういった関わりを続けるうちに、同じ散歩でも、「あっちは行ったことがないから散歩してみようよ」等と提案してくれるようになりました。そして急に、「今アニメを見ている時間がたくさんあるけれど、その時間を勉強に充てたら勉強得意になるかなぁ」と相談してくれました。

学校に興味があるようだったので、拠点に来てみないか尋ねたところ、拠点に来ると同世代の子どもがいて怖いということだったので、まずは別室で大人と一緒に過ごすようにしました。それを続けると、今度は彼女のほうから「みんなのいる部屋にも行ってみていいですか?」と聞いてくれたので、実際に連れていったらなじんでくれました。

その後は段々と学校に行ってみたいと発言するようになったため、スクールカウンセラーさんに相談してもらったところ、「自分自身も不登校だけど、自分も将来不登校の子どもを支えられるような大人になりたい」と話してくれました。

雑談を通して本人がエネルギーをためることができてようやく、そういった前向きな挑戦ができるようになったのだと思っています。

石原:1回1回の寄り添いで何をするでもなく、それを半年、1年…と続けることが大事だと思っています。私たちも普段は特別何かをしているわけでもないんです。「こういうことをしてみたい」っていう意欲は楽しいことの積み重ねがあって初めて出てくるのだと思っています。

小さいころからの環境ってすごく大切でそれで意欲が左右されたりすると思いますが、我々のたまり場で継続して過ごすことで子どもたちが自分で持つものが出てくるんじゃないかなぁって思っています。1週間や2週間ではなく、長期的な関わりの中でしか子どもたちの意欲は出てこないと考えています。

 

「待つ」ことの難しさ

ー前回も、「待つ」ことが大事だとおっしゃっていました。居場所を運営するうえで重要ですが、一方で難しいことでもあると思います。子どもの変化を「待つ」上で葛藤を感じることはありますか。

石原:はい。待てないこともあれば、3年、4年と待ってそれでも子どもに変化する様子が見られないということもあります。

正直、我々の週1の関わりで家庭の色々な問題すべてを乗り越えるのは限界があります。

苦しい環境にいる子どもには、子ども自身が力をつけてその環境から抜け出してほしいとも思いますが、それが難しい場合もあります。本人がそういう行動をできるようになるのは、何年も先になる場合もあるので長く関わっていかなければならないと覚悟をしています。

三枝:小学校高学年のときにハーフタイムに繋がったある子はゴミ屋敷に住んでいました。保護者さんも精神疾患を抱えていて、父親から母親へのDVが絶えない家庭でした。里親や児童養護施設に繋がったほうが衣食住が安定すると思い、関係機関と情報共有しながら本人に提案したこともありましたが、家がいいという結論になり決断できませんでした。

そして、中学を卒業するころには前向きになるのではと待ちましたが、中学を卒業して状況は変わりませんでした。いきなり進学や就職に向かうのは難しいと感じたので、一緒に拠点の掃除をしてみたり買い物をしてみたりという働きかけからしてみましたが、本人の強い拒絶があり、こちらが思うようには好転しないことの連続でした。

今では、進学の話やバイト・就職の話はせずに趣味の話を主にしています。そうすると、少しずつ安定的に会えるようになっています。こちらとしては「中学を卒業するタイミングでそろそろ…」と考えていましたが、それはこちら側の思い・都合でしかありませんでした。その子にとってはまだまだ何か動き出すためには早かったのだなとずっと思っており、葛藤し続けています。ただ、何年も粘り強く関わることで変わった子もいるので、本人の「溜め」の時間だと思ってただただ待つように心がけています。

まとめ

ハーフタイムさんで居場所として大切にしている心がけの一つに「待つ」ということがあるようですが、一方でそれは非常に難しいことでもあるというお話を伺えました。

ハーフタイムさんへのインタビューは以上です。石原さん、三枝さん、素敵なお話をありがとうございました!

 

※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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