【前編】外国ルーツの子どもたちと地域をつなぐーNPO法人アイキャンの事例ー

外国籍住民が増加する日本の地域社会において、多文化共生の実現は重要な課題となっています。言語や文化の違いから、外国ルーツの人々、特に子どもたちが地域社会とつながりを持つことは容易ではありません。

今回は、フィリピンで10年以上の支援活動経験を持ち、現在は岐阜県美濃加茂市で外国ルーツの方々の支援を実施しているNPO法人アイキャン(以下、アイキャン)の事務局長 福田浩之さんにお話を伺いました。

前編では、国外での活動に加えて国内での活動を開始された理由や、現在日本で外国ルーツの方々の支援としてどのような取り組みをされているのかなどについてお話しいただきます。

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プロフィール:福田 浩之 氏
学生時代のボランティアを通じ、制度では対応できない人々のニーズを目の当たりにする。制度の改善やその隙間を埋める取り組みが必要だと感じ、2012年にフィリピン大学地域開発学部で修士を専攻。2013年にアイキャンへ入職。その後、約10年フィリピンの紛争地や災害被災地等で現地の人々と共に活動し、2023年事務局長就任。

フィリピンでの10年――地域開発の現場から学んだこと

出典:Stockbyte

—福田さんは、フィリピンでどのような支援活動を行われていたのでしょうか?

私は11年ほどアイキャンで働いていまして、フィリピンでは台風などの災害救援活動、先住民地域での学校建設、首都マニラでの路上生活児童の自立支援など、さまざまな地域開発に関わる事業に携わってきました。

地域開発とは、制度が十分に整っていない地域で、住民が連帯して地域の課題を解決したり政府に政策提言を行ったりする活動です。フィリピンでの活動では、住民の主体性を引き出すことを特に重視しています。そのために、プロジェクトへの参加を呼びかけるだけでなく、住民の視点から見る生活状況と地域に存在する資源を理解することから始めました。

—フィリピンの地域開発の特徴的な点はありますか?

「数は力になる」という考え方、つまり住民が連帯することで行政に対して影響力を持てるという考え方が特徴かと思います。行政に対して強く異議を唱えたり、時には対立的な形で主張することもあります。

—具体的にフィリピンではどのように住民と関わっていたのですか?

私がフィリピンでよく教えられたのは、まず住民と一緒に暮らし、一緒にご飯を食べて、その人たちの状況を理解することから支援は始まるということでした。こちらから「プロジェクトをやりましょう」と呼びかけるのではなく、住民たちが本当は何をしたいのか、その思いを丁寧に引き出していくことを大切にしていました。

フィリピンでは、同じような境遇にある人たち、あるいは同じような問題意識を持っている人たちを組織化していくことで課題を解決していくことが多いです。これを『コミュニティオーガナイジング』と呼んでいます。住民組織を作り、さらにその組織同士をネットワークでつないで、より大きな声として行政に届けていく。このボトムアップの手法は、日本の地域づくりにも活かせると考えています。

三つの柱で進める支援活動

出典:Odua Image

—現在の日本での活動について教えてください。

2023年10月から、岐阜県美濃加茂市で活動を開始しました。美濃加茂市は外国籍住民が人口の10%を超える地域です。以前はブラジル人が多数でしたが、2021年頃からフィリピン人が最も多くなっています。市としても対応の転換期を迎えていました。

活動は主に三つの柱で構成されています。

一つ目は相談支援です毎週水曜日に相談窓口を開設し、外国ルーツの人々の生活上の困りごとを聞き、情報提供や行政窓口への同行などを行っています。窓口に来られない人のために、教会でのアウトリーチ活動や、駅前での居場所づくりなども実施しています。

また、駅前に若者が集まる場所があり、そこで屋外カフェのような居場所を作って、食料や生理用品なども配布してきました。窓口で相談に来るのを待っているだけでなく、こちらから外国ルーツの方たちの中に積極的入っていって、困りごとを見つけていく必要があります。

二つ目は地域づくりです。日本人と外国ルーツの方が交流する機会は、とても限られているのが現状です。単発的な交流イベントではなく、地域の既存組織と連携し、持続的な関係づくりを目指しています各小学校区に設置されているまちづくり協議会と協力し、クリスマス会など、気軽に交流できる場を作っています。

多文化交流イベントを企画したこともありますが、一回限りのイベントではなく、地域に根付いた交流の場が必要だと感じたのです。まちづくり協議会と連携することで、地域の中に自然な形で交流の機会を作っていきたいですね。

三つ目は参加支援です。「外国の人たちで何かやりたいと思っていても、どういうふうに行動したらいいのかわからない。一緒に行動する仲間がいないこともあり、なかなか一歩を踏み出せない」という声に応えるものです。

参加支援の例として、あるフィリピン人の若者の事例を紹介します。彼女は日本語の学習に苦労しながらも大学を卒業し、現在はIT企業で働いています。彼女は「今のフィリピンの若者の多くは、将来に希望を持てず、派遣で働くしかないと思い込んでいる」と感じ、若者向けのキャリア支援をしたいと考えていました。私たちは、そんな彼女の思いに共感する仲間を集め、チームを作り、活動のサポートをしています。

なぜ国内支援に乗り出したのか

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—日本での活動を始めた理由を教えてください。

国内支援を始めた理由は二つあります。一つは私自身の思いです。日本は制度が整っている分、その枠組みに入らないことで制度から取りこぼされてしまう人たちがいます。制度だけでは解決できない課題があるんです。大学で社会福祉を学んだ際に、そのことを強く実感しました。

日本の社会福祉士やソーシャルワーカーは、困っている人を既存のサービスにつなぐ役割が強調されがちです。しかし、制度で対応できない部分については、新しいサービスを作っていったり、うまく機能していない制度に対して住民と共に声を上げていく必要があります。そのために私はフィリピンで地域開発を学び、日本で実践したいと考えました。

二つ目は、フィリピンで培ってきた経験を、日本でも活かせると考えたからです。30年間フィリピンの課題に向き合い、フィリピンの人たちの暮らしや文化への理解を深めてきました。私たちの支援の特徴は、支援する側が答えを与えるのではなく、住民一人ひとりが自分たちの課題に気づき、解決する力をつけていくことを大切にしています。住民と行政が協力して地域の課題解決に取り組んでいく。このような支援の方法は日本でも必要だと考えました。

実際、この理念のもと、外国ルーツの子どもたちの保護者が中心となってシンポジウムを企画・運営したのです。このシンポジウムでは、フィリピンやブラジルにルーツを持つ子どもたち10名が自分の経験を語り、市長を含む約40名の参加者に子どもたちの置かれている状況を伝えることができました。その結果、学校で外国ルーツの子どもたちのサポートをする母子支援員の活動時間拡充などが議会の議題にあがるなど、具体的な支援の拡大にもつながろうとしています。

まとめ

今回は、NPO法人アイキャンの福田浩之さんに、フィリピンでの経験と日本での支援活動について伺いました。ポイントを以下にまとめます。

  • フィリピンでの支援活動を通じて、住民の主体性を引き出す地域開発の手法を培ってきた。
  • 美濃加茂市での活動は、相談支援、地域づくり、参加支援の三つの柱で構成されている。
  • 日本の制度では対応が難しい課題に対し、住民が自ら解決する力をつけながら取り組んでいる。

後編では、外国ルーツの子どもたちへの支援や、行政との連携について詳しくお伝えします。

※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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