【後編】インクルーシブ教育とは?障害のある子どもの権利の保障を考える

前編では、インクルーシブ教育の定義や、日本で障害のある子どもへの教育がどのように展開されてきたかについて紹介しました。

後編では、インクルーシブ教育の現在について、日本・海外での取り組みを紹介しながら、今、私たちが子どもたちに対してできることは何かを考えていきましょう。

前編はこちら:

【前編】インクルーシブ教育とは?障害のある子どもの権利の保障を考える
【前編】インクルーシブ教育とは?障害のある子どもの権利の保障を考える

現在の取組みと限界

前編で、日本はインクルーシブ教育としての「特別支援教育」を構築していること、現在は統合教育からインクルーシブ教育への過渡期にあると言えることを見てきました。では、具体的にはどのようなことが行われているのでしょうか。

現在、文部科学省からは、主に障害のある子ども(注1)に対して下記のような取組みを学校・教育委員会が行うよう、方針が出されています。

  1. 早期からの教育相談
  2. 就学先決定
  3. 一貫した支援

1. 早期からの教育相談

乳幼児期を含めて早いうちから教育相談や就学の相談を行うことが重要とされています。本人や保護者に十分な情報提供を行ったり、保護者を含めた関係者が子どものニーズや必要な支援について共通理解を深められるようにすることで、子どもの個別のニーズに応じた支援や就学のあり方を実現することが求められます。

2. 就学先決定

以前は、就学基準に該当する障害のある子どもは原則特別支援学校に就学する、という仕組みでした。しかし現在では、障害の状態や教育的ニーズ、本人・保護者の意見、専門的な知見を踏まえて子どもの就学先を決定する仕組みとなっています。

決定するのは教育委員会ですが、通常学級に在籍するのか、特別支援学級か、あるいは特別支援学校か、本人・保護者の意見を最大限尊重しながら合意形成することが重要とされています。

3. 一貫した支援

可能な限り早期から成人に至るまでの一貫した指導・支援ができるように、子どもの成長記録や指導内容などに関する情報を、必要に応じて関係機関が共有して活用することが求められています。

このように、できる限り本人や保護者の意思を尊重しながら、合理的配慮のもとで、通常の教育への参加を保障する方針を掲げています。しかし、前の節でも説明した通り、現在は統合教育からインクルーシブ教育への過渡期であり、その限界もあります

たとえば、就学先決定者が教育委員会であるため、子ども・保護者が地域の学校に通うことを望んでいても、実現されない状況があります。また、子ども・保護者の意思が尊重されていたとしても、通常の学校や学級において、支援が十分でなく、結果的に、別の場を選ばざるをえないケースが少なくありません。このようなことを背景に、通常の学校でなく特別支援学校への進学を望む保護者も一定数います。


出典:pexels

どんな取り組みがある?海外の事例

それでは、外国ではどのような取り組みを行っているでしょうか。ここでは、韓国、スウェーデンの事例を取り上げながら、日本とはまた違った教育制度のあり方を見てみましょう。

韓国の場合

韓国の事例のうち、①早期発見、早期無償教育の提供、②通常学級での指導体制、の2つの取組みを取り上げます。

①早期発見、早期無償教育の提供

韓国では、均等で公正な教育機会の保障を掲げ、特殊教育(日本での特別支援教育にあたる)対象者には、そうでない子どもよりも義務教育期間が長く設定されています。この点で日本とは大きく異なります。

具体的には、韓国での義務教育期間は6歳〜15歳までですが、特殊教育対象者は、3歳〜17歳までが義務教育期間となっています。そのため、早期発見の体制を構築し、発見後すぐ満3歳未満の乳幼児に対する無償教育を提供しています。

②通常学級での指導体制

韓国では、障害のある子どもの学びの場として、通常の学級に限らず、特殊学校(日本の特別支援学校にあたる)や特殊学級(日本の特別支援学級にあたる)などがあります。ここは日本と同様のシステムといえるでしょう。

日本と異なるのは、通常学級での指導体制です。韓国では、特殊学級の担任の先生が、通常の学級の授業に、通常の学級担任と対等な役割で参加する場合があります。それだけでなく、特殊学級の担任が主に授業を担当する場合もあるなど、様々な形で協力体制を築いています。

また、ピア・サポーターという制度がある点も、日本とは異なる点です。これは、障害のない子どもが障害のある子どもの学習や移動、遊び等をサポートする制度です。

このように、通常学級の中でも、子どもを含めた複数の人が協力しながら、障害のある子どもへ支援を行う体制を整えているのが、韓国の特徴と言えるでしょう。

スウェーデンの場合

スウェーデンは、そもそも学級編成がない、という点で日本と大きく異なります。スウェーデンでは、1980年以降、学級編成枠を撤廃して、活動に応じて集団を編成する形になりました。このため、基礎学校(日本での通常の学校に当たる)で柔軟な学習集団を形成することが可能になっています。

具体的には、学習活動によっては、人数を均等にすることもあれば、少人数と大人数の集団に編成する、といったことも可能です。障害のある子どもに対しては、必要に応じて、特別な支援として個別に支援したり、特別指導のための集団が編成されます。

また、「フレックスグループ」を設置している学校もあります。これは、障害の有無にかかわらず、学校に適応できない子どもに対して支援を行う場です。通常教員と特別教員の2名が運営に携わっています。学習上の困難さを抱える子どもが自分でできることを増やしたり、落ち着いて過ごせる場が保障されていることを重視しています。フレックスグループを利用している子どもは、状況が改善されると通常の学級に戻る時間を増やしていきます。

ここまで見てきたように、いずれも、従来の教育制度とインクルーシブ教育の折衷的な取組みを行っていることがわかります。取り組みの違いは社会的・歴史的背景の違いなどからくるものも多く、どの形が一番理想的だと一概には言えませんが、日本での教育のあり方を考える参考になるでしょう。


出典:pexels

今、私たちができること

ひと口にインクルーシブ教育と言っても、これまでの経緯の積み重ねや諸外国の動向を見ると、どのような形がいいのか簡単には結論づけられないものであることがわかります。

また、冒頭の市川沙央さんの話からもわかる通り、障害のない人の目線からでは気づけないような困難を、障害のある方は抱えています。この記事も、障害のない筆者の目線で書かれており、障害のある人から見れば違和感を覚える部分もあるかもしれません。

それらを踏まえて重要なのは、ありきたりな結論ではありますが、障害のある子どもの状況に応じて、どのような形で学べるといいのかを、子ども自身・保護者と話し合いながら決定することだ、といえそうです。

たとえば、現在日本の学校では、障害のある子どもがいた場合、下記のような流れで教育の機会保障を行うものとされています。

  1. 本人・保護者からの相談・申出・意思の表明
  2. 内容の協議決定
  3. 合理的配慮の提供
  4. 評価・柔軟な見直し

このステップでも示されているように、一度決めたらおしまい、というものではなく、柔軟に見直していくことが重要です。一概にこの形がいいと言えるものがないからこそ、話し合いながら、子ども本人にとって一番いい形を模索していくことがポイントになるでしょう。

3の合理的配慮の提供をするにあたり、具体的にどのような方法があるかについては、関連記事でも紹介していますので、ぜひそちらもご参照ください。

注1:この記事では障害のある・なしを分けて説明している。これは、障害を連続的なものととらえるインクルーシブの理念に沿わないものとなっている。しかし今の日本では、ある・なしを分けることが一般的であり、分ける視点に立って書いた方が読みやすいと判断して、このような説明を採用した。

まとめ

今回は、インクルーシブ教育の日本・海外の取り組みと、私たちにできることついてご紹介しました。ポイントを以下にまとめます。

  • 日本での現在の取り組みは、1. 早期からの教育相談、2. 就学先決定、3. 一貫した支援、の3つ
  • 諸外国では、義務教育の期間や学級の形などを柔軟に変えながら、それぞれのやり方でインクルーシブ教育に取り組んでいる
  • 実際にインクルーシブ教育に取り組む際は、障害のある子ども・保護者と話し合いながら、改善を重ねていくことが重要

※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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