2023年3月27日に、子どもに向き合う全国各地の支援者が学び/知見/意見をシェアするオンラインイベント「こども支援ナビMeetup」の第15回が開催されました。
今回は、「愛情が循環する未来」を目指して宮城県仙台市で活動している認定NPO法人STORIA(以下、STORIA)代表の佐々木綾子氏をお招きし、「子どもたちのありのままを大切にした居場所づくり」をテーマにお話をしていただきまました。
イベントレポート第3回では、サードプレイスで実施している体験学習によってどのような非認知能力が育まれているのか、なぜこのような成果が出ているのか、またSTORIAが大切にしている考え方・あり方について詳しくご紹介します。
連載第1回・第2回はこちら:
プロフィール:佐々木 綾子 氏
東日本大震災後、「子どもの貧困」の根本解決を目指し、2016年にNPO法人STORIAを設立。「貧困の連鎖から愛情が循環する未来へ」をビジョンに、困難を抱えた子どものサードプレイス事業と保護者の相談支援事業を地域や行政、企業と協働で取り組んでいる。
2014年仙台市ひとり親家庭等自立促進計画策定協議会委員、
2019年仙台市総合計画審議回委員、2020年協働まちづくり審議委員を歴任。
非認知能力の効果測定
私たちは、先ほどお話したオンラインショップ「りゆひま」や子どもラジオ番組「男の人生相談」プロジェクトといった体験学習をすると同時に、非認知能力の効果測定を行ってきました。
効果測定の結果はこのようになっています。
画像:認定NPO法人STORIA
赤枠で囲っているのが実際に体験学習をやる中で特に上がっていった数字です。プロジェクトの前後で比較した際に最も高くなったのは、自制心と共感性でした。思ったこと・やっていることを自分たちで一旦立ち止まって考えられるようになったり、相手がなぜそのような気持ちなのか理解することができるようになったりしていると思っています。また、相手を助ける・相手のために何かするといった社会適応性の数字もしっかり伸びていました。
こうした子どもたちの変化は学校でもみられるようで、学校の先生から「サードプレイスでどんなことをしているのか教えてほしい」と聞かれることもありました。やはり子どもたちが主体的に学んでいくことで、子どもたちが自ら自分の可能性を開いていくんだな、ということをとても体感しました。
子どもたちがありのままでいられる居場所づくり
次に、STORIAではこうした体験学習をどのように開発しているのか、という部分についてお話しします。
画像:認定NPO法人STORIA
体験学習の開発には5つのステップがあります。1つ目は、子どもをよく観察することです。スタッフは、一人ひとりがどんなことに興味があるのかをとてもよく観察していて、子どもたちの興味関心に触れ、面白そうだなというネタをたくさん集めてきます。
2つ目のステップは、1DAYで体験すること。1日でできる体験をスタッフが作って実際に子どもたちが体験し、そこで「もっとやりたい!」と盛り上がった企画をプログラム化していくという形です。
子どもたちからはやりたいことがたくさん挙がるんですが、そこで3つ目のステップとして「子どもたち全員で話し合って何からやるか、いつからやるか、誰とやるかを決めて」と子どもに問いかけます。子どもたち同士で対話しながら決めたことを実際にプログラム化し、子どもたち自身が企画を作って練り上げていくのです。大人は「わからないことは教えるけど、基本は見守り」という姿勢でプログラムに寄り添います。
最後にこうしたプログラムを実践して、大人と振り返りをします。だいたいのプログラムが「もう1回やりたい。もう1回やったらうまくいくと思う」となるので、PDCAを回して改善した上でもう1回チャレンジする、といった形で繰り返し行っています。
非認知能力向上のための大切な4つのポイント
画像:認定NPO法人STORIA
非認知能力を向上させるこうしたプログラムを行う中で、とても大切なポイントがいくつかあります。
1つ目は、子どもと大人が「ありのままの自分」で居られる関係性が築かれていることです。
大人がコントロールする・上からものを言う関係性だとうまくいきません。そのため、子どもだけでなく、大人達もありのままの自分で居られる関係性を作れることがとても大切になってきます。
2つ目は、私たち大人が子どもの可能性を心から信じ、子どもたちが主体的に考えたり決めたりすることを大切にすることです。これは大人側全員が同じスタンスで子どもを見守る必要があります。
3つ目は、大人も本気になって、本物と出会う経験と機会を用意することです。子どもだから「なんちゃって」で良い、とはせず、本物の人と出会わせて本当の体験をしてもらいます。そのためにも、私たち大人もいろいろな方法で本物と出会う機会を探して、本気になることが大切です。
4つ目の「全ての過程と失敗が学びであると大人側が捉え、成功させようと大人がしないこと」は、私が一番大切だと思っていることでもあります。
当たり前ではありますが、子どもたちの視点や経験は大人よりも少ないので、子どもの様子を見ていると大人はつい口出ししたくなります。また、子どもたちへの気持ちがあるからこそ、失敗してほしくないという気持ちが発動するものです。ただ、企画・実施までの全てのプロセスが学びであり、失敗でさえ学びであることを大人がちゃんと捉えて、大人が「成功させよう」としないことがとても大切になります。大人が成功させようとすることで一気に子どもの主体性が無くなるので、大人がどれだけ我慢できるかというのが肝になってきます。私自身もこの部分で葛藤することがとても多いです。
なぜこのような成果が生まれているのか
ここからは、なぜSTORIAの体験学習からこのような素敵な効果が生まれているのかについて解説していきます。
これまで私たちもあまり言語化できなかったのですが、NGOで使われることの多い、価値を言語化するための「モスト・シグニフィカント・チェンジー(MSC)」という手法を用いて、STORIAで生まれている子どもたちの素敵な変化を分析・整理しました。
画像:認定NPO法人STORIA
核となるのが「個の受容・場としての継続・安定」です。これは、「ありのままの自分を受け止めてくれる環境が継続的かつ安定して提供されていること」と言い換えることができ、これがとても重要だということがわかりました。この「ありのままの自分を受け止めてくれる環境」は、場所でもあり人でもあります。
この核となる価値を構成する要素が、私たちの振る舞いやスタンスです。その一つが「相手に対する支配やコントロールから、場の担い手(つまりボランティアの方やスタッフ)が解放される」ことです。「なんとか子どもを変えたい・この場を良くしたい」「課題を解決したい」と思った瞬間に、このスタンスは崩れていってしまいます。
あとは「他者に対する痛みと共感がある」ことですね。サードプレイスにいる子どもたちはいろんな振る舞いがありますが、その背景には必ず痛みやいろいろな経験があります。目の前の言動ではなくその背景に思いを馳せ、共感していくことが重要です。
また「存在そのものを受け止め、すべてを赦し、尊重するスタンスである」という点。サードプレイスにはいろいろな子どもがいるため、表面的に見ると大変なことが起きやすい状況ではあります。しかしそれも受け入れ、許し、「あなたのことを信じている」と繰り返し伝え続けること、そして子どもを尊重することが重要になってくると感じています。
そのほかのスタンスとしては「全ての意見が尊重されていること」「共に考える姿勢であること」も大切です。
そして、こうしたスタンスが私たち大人の中にあることで、子どもたちが得られるものとしては、やはり「自分自身を受け止めてもらえる体験ができる」ということです。あとは、「肯定される経験をもつ」「相手を尊重する関わり方を知る」「良い面を探す視点を知る」などがあります。サードプレイスにつながったばかりの子どもたちから「自分なんて…」という言葉を聞くこともあるのですが、体験学習を通して自分の良い面、友達の良い面を探す視点が得られてきていると感じています。
そうした中で生み出される変化としては、「自分自身を大切にすること」「ポジティブな思考を持つことができる」などが挙げられます。他者との関わりに関しては、「他者のために動く視点を持てるようになる」「他者を信頼し、頼れるようになる」「他者に対して寛容になることができる」といった変化が起きています。
そして、実は子どもだけでなく、大人に関しても同様の変化が起きていることがわかりました。STORIAに関わるボランティアの方やスタッフ、もちろん私も含めて、この場の受容によって大人自身も内包されて、変えられていることが明らかになっています。
子ども・大人の”being(存在)”を受け止めること
ここまでの内容を一言でまとめると、「子どもたちの”being(存在)”を受け止めること」に尽きます。また、大人たちも存在を受け止められる体験をすることがとても重要です。
私自身ビジネスの世界で生きてきたので、何かを成すことが自分の存在意義だと刷り込まれていました。そのため、子どもたちの存在を受け止めることが難しい時期もありました。
例えば、場の中で子どもが大人の言うことも聞かずとにかく自由に過ごしている姿にイラッとすることもありました。でもそこで一旦立ち止まって、なんでイラッとするのかを考えてみると、自分が本当は自由でありたいのに自由を押し込めてきたことで、子どもたちが自由に振る舞っている部分に反応してしまっているんですよね。そのため、大人同士も自分自身の痛みやこれまでの経験を受け止め合う体験をすることが重要なのです。
ビジョンの下にある「PURPOSE(パーパス=あり方)」
画像:認定NPO法人STORIA
ここで、なぜこのような成果が生まれているのかという部分に戻るんですが、私は大人自身が自分らしさを尊重し、互いの関係性を大切にする「あり方」を共通認識として持つ組織であることが重要だと思っています。
そして団体運営はビジョン・ミッションを掲げてスタートしていくと思うんですが、ビジョン・ミッションのさらに下に「PURPOSE(パーパス)」、つまり「何のために団体・私自身が存在するのか」をいつも問うことも重要だと思っています。
もちろん存在目的やあり方は人それぞれ違っていて、その「違い」も大切です。しかしSTORIAに集まっている方は、それぞれ違うパーパスを持ちながらも、どこかが重なっています。その重なりが、組織の中で大切な「PURPOSE(パーパス)」になり、組織・個人それぞれのパーパスが両方大切にされることで私たちはあり方を体現できます。そのあり方を体現していく先に、ビジョンがありミッションがあります。
私たちは、このパーパスという考え方を通して、ボランティアの方やスタッフ一人ひとりが向き合う組織づくりをとても大切にしています。今年度も全員で集まるワークショップを3回開催し「私たち自身がどう生きていきたいのか」「STORIAに関わる中でどうありたいのか」などを語り合いました。
愛情が循環し、卒業生がジュニアボランティアに
画像:認定NPO法人STORIA
そして長年活動する中で、サードプレイスを卒業した中学生・高校生たちがジュニアボランティアとしてここに戻り、子どもの面倒を見たりスタッフと一緒に運営者として場を支えてくれています。
ジュニアボランティアとして活動する一人の子は「STORIAで自分の世界が広がり、通い続ける中で親やスタッフさんから自分がどれだけ大切にされているかがわかった。今は恩返しのつもりでボランティアをしている。」と教えてくれました。
その言葉を聞いたときに、私たちが大切にしていることを守りながら、一つひとつやっていく中で、私たちのビジョンである「愛情の循環」が子どもたちに伝わり、子どもたちがその循環の中でまた愛情を流す人になってくれていることを強く実感しました。
今回紹介した事例は一部で、実際は失敗もたくさんあります。失敗もしながら、このような活動を通じて、子どもたちがありのままで自分らしく、そして自分らしい人生を歩んでいける未来を願いながら、この場を運営しています。
まとめ
第3回では、STORIA代表の佐々木さんから、サードプレイスで実施している体験学習によってどのような非認知能力が育まれているのか、なぜこのような成果が出ているのか、またSTORIAが大切にしている考え方・あり方についてお話しいただきました。ポイントを以下にまとめます。
- 体験学習によって、自制心・協調性・共感性・社会適応性といった非認知能力が大きく向上した。
- 「子どもたちの”being(存在)”を受け止めること」で、自分自身を大切にしたり、相手を尊重していい面を見つけようとする視点が生まれたりする。
- 大人自身が自分らしさやあり方(PURPOSE:パーパス)を大切にすることで、それが子どもにも伝わり、ジュニアボランティアという形で愛情の循環が起きている。
第4回では、参加者の皆様からのご質問を頂き、STORIA代表の佐々木さんに回答いただいた質疑応答の様子をご紹介します。
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
この記事は役に立ちましたか?
記事をシェアしてみんなで学ぼう