近年「発達障害」という言葉が広く知られるようになりました。支援現場でも、発達障害の診断を受けている子どもや、診断は受けていないけれど発達障害の傾向が見られる子どもも少なくないと思います。同時に、そのように発達に特性がある子どもに対してどのようなサポートをすればよいのか、悩んでいる方もいるのではないでしょうか。
そこで今回は、発達障害の種類や、発達に特性がある子どもと接する上で大切な心構えについて、インクルージョン研究者の野口 晃菜氏に伺いました。
プロフィール:野口晃菜
インクルージョン研究者/博士(障害科学)
小学校6年生の時にアメリカへ渡り、障害児教育に関心を持つ。高校卒業時に日本へ帰国、筑波大学にて多様な子どもが共に学ぶインクルーシブ教育について研究。その後小学校講師を経て、現在障害のある方の教育と就労支援に取り組む株式会社LITALICOにてLITALICO研究所所長として、一人ひとりに合わせた支援・教育の実現のための仕組みづくり、自治体・学校との共同研究、少年院・刑務所との連携などに取り組む。国士舘大学非常勤講師。経済産業省産業構造審議会「教育イノベーション委員会」委員、元文部科学省「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議」委員、東京都生涯学習審議会委員、日本ポジティブ行動支援ネットワーク理事、日本LD学会国際委員など。著書・共著に「発達障害のある子どもと周囲の関係性を支援する」「インクルーシブ教育ってどんな教育?」などがある。
発達障害の種類
発達障害には大きく3つの種類があります。
自閉症スペクトラム障害(ASD)
対人関係・社会性やコミュニケーション能力に障害があり、物事に強いこだわりがあります。また感覚が異常に過敏(または鈍感)であったり、柔軟に思考することや変化に対処するのが難しいこともあります。
引用:「発達障害とは?発達障害の分類・症状・特徴・診断方法はどのようなもの?」LITALICO発達ナビ
子ども支援の現場においては、「扉を必ず自分が閉めないと気が済まない」「一度始めたら気が済むまでやり続ける」など、その子ども自身の強いこだわりが見られる場合があります。
注意欠如・多動性障害(ADHD)
「不注意・多動性・衝動性」といわれる、「落ち着きがない」「集中力がない」などは誰にでもある行動のようにも見えますが、ADHDの場合には社会的な活動や学業、日常に支障をきたすほどの症状が見られます。
引用:「発達障害とは?発達障害の分類・症状・特徴・診断方法はどのようなもの?」LITALICO発達ナビ
学習支援の現場において、ADHDの傾向が強い子どもは椅子に座りながら学ぶことが苦痛になり動きまわることもあります。
学習障害(LD)
基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、読む・書く・聞く・計算などのある特定分野における理解・能力取得に極端な困難さがあります。
引用:「発達障害とは?発達障害の分類・症状・特徴・診断方法はどのようなもの?」LITALICO発達ナビ
マス目内に文字を書くことに困難さがある、「ぬ」と「め」を混同して読む、など学習支援の現場ではLDの傾向が強い子どももいると思います。
発達に特性がある子どもと接するときに大切な心構え
━━発達に特性がある子どもについて理解を深める上でのポイントはあるでしょうか。
野口:前提として、発達障害はMRIを取ったり血液検査をしたりして診断されるものではありません。発達障害であるかどうかは、これまでの成育歴の中で本人が抱えていた困りごとや、生活の中で本人がどのくらい困っているか、その困りの背景に典型的な発達をしている人に見られる行動とは異なる行動がどのくらいあるのか、などに基づいて医者が診断しています。そのため、他の障害と比べると見分けにくい障害と言えます。
加えて発達障害は環境の影響を受けやすい障害でもあるため、環境によって困りごとがどのくらい現れるかが変わります。明確に基準を設けて基準を超えれば障害であるという区分けをすることが極めて難しいです。発達障害の診断を受けている子どもについては、今までの生活の中で環境とのミスマッチによる困りが顕在化している子どもたちであるという認識を持つといいかもしれません。
更に、同じ発達障害の診断のある子どもであっても子どもによって特徴が異なったり、いくつかの特徴を合わせもっている子どもも多かったりするため、「発達障害とはこういうもの」というイメージにとらわれすぎずに、目の前の子どもに合わせることを心がけてほしいです。
━━同じように発達障害と診断されたとしても、子どもによって特徴や困難さが変わるんですね。実際に子どもと接するときに大切な心構えはあるでしょうか。
野口:支援現場以外の場所で味方が少ない子どもも多くいるかもしれないので、子どもの味方になってほしいです。また、何かトラブルが起きた時にも子どもを信じ、子どもに対して「信じているから大丈夫だよ」と思えるだけの余裕を、大人が持っておきたいですね。これは障害のない子どもとの接し方も同じだと思いますが。
また、子どもの行動の背景にある事情に目を向けて理解しようとすることが大切です。例えば、子どもが他の誰かを叩いてしまったり、暴れてしまったりしたときには、「その子どもは何を伝えたいのだろう」と考えられるといいと思います。よく「問題行動」と言われる子どもの行動はその子どもの意思表示だと捉えていただきたいです。
発達に特性がある子どもをサポートする方にオススメの書籍
━━発達に特性がある子どもと関わっている支援者の方にオススメの書籍や資料があれば教えてください。
野口:1つご紹介します。
中央法規『発達障害のある子どもと周囲との関係性を支援する』
画像引用:「発達障害のある子どもと周囲との関係性を支援する」中央法規
発達障害のある子どものコミュニケーションに関わる問題を、子どもと周囲の人・環境との相互作用の中にあるズレや障壁に原因があると捉えた上で、解決していくための本です。学校、居場所、療育施設など、具体的かつ様々な場面についての事例が載っています。
まとめ
- 発達障害には、自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠如・多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)の3種類がある
- 発達障害であるかどうかは、これまでの成育歴の中で本人が抱えていた困りごとや、生活の中で本人がどのくらい困っているか、その困りの背景に典型的な発達をしている人に見られる行動とは異なる行動がどのくらいあるのか、などに基づいて医者が診断
- 発達障害は環境の影響を受けやすい障害であるため、環境によって困難さがどのくらい現れるかが変わる
- 発達に特性がある子どもと接するときには、診断名のみにとらわれずに目の前の一人ひとりに向き合い、子どもの行動の背景にある事情に目を向けて理解しようとすることが大切
野口さんには、実際に学習支援や居場所づくりの現場で発達障害の子どもにできるといいサポートについてもお伺いしています。是非こちらもご参考ください。
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