子ども食堂や子どもの居場所づくりが全国に広がる一方で、現場運営を担う人材の確保や、ボランティアとの関係性づくりに課題を抱える団体も少なくありません。特に、大学などが近くにない地域や過疎地では、「人が集まらない」「関わりが続かない」といった悩みが日常的に聞かれます。
今回は、京都府で自学自炊コミュニティnalba(ナルバ)を運営する一般社団法人はぐくみ共同体nalbaの理事長である楠本貞愛(くすもとていあい)さんにお話を伺いました。
後編では、nalbaがボランティアとどのような関係性を築いてきたのかに焦点を当て、試行錯誤の中で大切にしてきた考え方についてご紹介します。
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プロフィール:楠本 貞愛(くすもと ていあい)氏
一般社団法人はぐくみ共同体nalba 代表。1956年、京都市生まれ。
1994年より図書出版「素人社」の代表として出版活動に携わる。
2013年より京都府立大学と連携し、児童養護施設の子どもたちの自立支援に取り組む。2021年に自学自炊コミュニティnalbaを開講し、2022年、一般社団法人はぐくみ共同体nalbaを設立。子どもの居場所づくりを中心に活動を続けている。
子どもにとってのボランティアの存在
―ボランティアさんの存在は、子どもにとってどんな意味を持っていると感じますか。
「何かを教えてくれる人」というより、「同じ時間を過ごす大人」でしょうか。
一緒にご飯を作ったり、隣に座って話したり、思いっきり遊んでもらったりする中で、子どもたちは自然に「大人にもいろいろな人がいる」ということを知っていくのだと思います。
特に中高生くらいになると、「守られる存在」から、自分で考え、選び、少しずつ自立していく段階に入ります。年齢も立場も違う大人と関わる経験そのものが、居場所の大切な要素になると感じています。
「自分の得意」を持ち寄る
―高校生・大学生・社会人とさまざまな立場の方がボランティアとして参画されていますが、それぞれどのような形で活動されているのでしょうか。
大学生ボランティアは基本無償ですが、有償の学生リーダーという形もあります。ボランティアには、自身が来られる日に参加して子どもたちと思いっきり遊ぶことをお願いしていますが、学生リーダーは、全体の子どもとの関係性をつくれるぐらい頻繁に現場に参加し、子どもがチャレンジしたいことに伴走する、時にはやってみたいことを後押しするというところまで関わってもらっています。
学生リーダーが育って、「企画に入りたい」と言い、子どもたちの修学旅行を組み立てて引率したり、スキーのチャレンジを一緒に形にしたりと、大学生なりの挑戦をnalbaでやってくれたのは嬉しかったですね。
しかも、卒業を前に「次のリーダーを育てたい」と、候補を自分で連れてきてくれました。リーダーが次を連れてくる循環が生まれたのは、すごく心強いです。
高校生も、高校生なりに面白がって来てくれます。子どもと全力で遊んだり、キッチンで料理づくりを面白がって腕を磨いたり。なかには、AO入試で「nalbaでのボランティア実績」を書いて、学びを面接で語って進学につなげた子もいました。
一方で社会人の現役世代は忙しくて日常的にはなかなか来てもらえません。でもイベントの場面になると「自分の得意」を持ってきてくれます。
以前マルシェを企画した際、副業でドーナツ屋さんをしている社会人の方が販売を担ってくれたことがありました。特別なイベントを組み立てる時に、プロの仕事を見せてもらえる。これは場にとっても、子どもにとっても嬉しいことです。
多様な大人と出会うからこそ、子どもが育つ
―ボランティアさんとの関係性づくりで、難しさを感じた経験はありますか。
正直なところ、あります。ただ、どんなことも期待しすぎて当てにしたらがっかりすることもあるので、それよりも「成長を見せてくれたらいいな」という感覚でいるようにしています。
忘れられないのが、有償インターンで受け入れた若者のことです。中学の途中から不登校で引きこもり、いろいろな苦労をしてきた子でした。共に働く中で大変なこともありましたが、最後には就職して、今は学童保育で正社員として働いています。一度お土産を持って遊びに来てくれたこともあって、nalbaは「社会に出る力をつけられた場所」だと思ってくれているようです。
「君はどんな花を咲かせるんだい。」——そんな気持ちで待った時間が、結局はその子の力になったのだと思います。
他にも、体調の事情で短期間で離れる子もありました。能力がある・意欲がある、というだけでは続けられない現実もある。これは「本人の問題」ではなく、場と人の相性やタイミングの問題でもあると思います。
―地域の方々との関係はいかがですか。
例えば、定年まで教員を務めた方の「こうあるべき」が強くて、ぶつかることもありました。けれど、子どもたちはそれも含めて「大人にもいろんな価値観がある」と学んでいるように見えます。
実際、合宿の場面で「班行動を自分たちだけやるか」「その方にまとめてもらうか」を子どもたちに選ばせたら、やんちゃな子ほど「お願いしたい」と言ったことがありました。
普段は自由を大事にしていても、ここ一番という場ではきっちり管理してもらった方が安全だという経験も、子どもたちはきちんと理解していて使い分けています。子どもたちは、大人に一方的に導かれるだけの存在ではありません。関係を選び取りながら育っていくのだと思います。
正解のないチームづくりと、これから目指す「みんな食堂」
―多様な価値観をもつ方々が参加する中で、チームづくりはどのように行っているのでしょうか。
不定期ですが、チームビルディングの機会を設けています。
印象深かったのは「意思決定のプロセスに全員が参加する」ことをテーマにしたワークショップです。
意見はあっても、意思がなければ形にはなりません。まずは一人ずつがnalbaに参加した動機と、嬉しかった体験を話し、それを聞いたみんなが「その人が何を大切にしていると感じたか」をアイメッセージで伝え合う。みんなが大切にしていることが出そろったところで、nalbaで大切にしたい姿勢を言葉にするというワークショップだったのですが、アドバイスやジャッジではなく自分がどう感じたかを出し合うと、意見の違いがあっても対立しないということが分かりました。
ワークショップの中で、提案、感想、要望、応援という「意見」をアイメッセージで出したのち、意思決定者に選ばれた学生リーダーがnalbaで大切にしたい姿勢を一言にまとめました。
「正解のない大人と子どもになる場(nalba)」。
外に向けた標語ではありませんが、私たちの関係性をそのまま言葉にしたようで、とても腑に落ちた言葉でした。
―最後に、今後の展望を教えてください。
子どもの居場所や子ども食堂が増える中で、私は「魚を与えるのではなく、魚の取り方を教える」ことが一番大事だと思っています。だから自学自炊コミュニティなんです。
目指すのは、子どもたちが自分たちで料理を作り、地域の人に食べてもらえるような「みんな食堂」みたいな場。そこまでいけば、コミュニティの安心の土台ができて、経済も少しずつ回りはじめるはずだと思っています。
そして会員制度も考えています。支援する・されるの関係だけではなく、時には子どもたちと同じ食卓を囲めて、元気をもらえる。そういう「子どもと触れ合える価値」を共有する形で、助成金に頼らず続けられる基盤をつくっていきたいですね。
まとめ
今回は、楠本貞愛さんに、nalbaがボランティアとどのような関係性を築いてきたのか、その背景にある考え方について伺いました。ポイントを以下にまとめます。
- 大学生や高校生、社会人や地域の大人が、それぞれの立場や得意を持ち寄り、次の担い手へと関係が受け渡されている
- 多様な価値観を持つ大人と関わることが、子どもにとって大切な学びになっている
- 「正解のない大人と子どもになる場」という言葉のもと、対話と試行錯誤を重ねながら文化を育ててきた
- 「魚を与える」のではなく「魚の取り方を教える」居場所として、子どもが中心となり地域にひらかれる「みんな食堂」を目指している
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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