2022年1月26日(水)に、子どもに向き合う全国各地の支援者が学び/知見/意見をシェアするオンラインイベント「こども支援ナビMeetup」の第6回が開催されました。
本イベントでは、子どもの権利を保障するためのアウトリーチ実践について、特定非営利活動法人ビーンズふくしま(以下、ビーンズふくしま)で郡山事業部門アウトリーチ事業長を務める、山下 仁子氏に伺いました。
今回のイベントレポートでは、子ども一人ひとりに寄り添うパーソナルサポート機能の詳細説明や具体的な支援事例のエピソードを一部抜粋してご紹介します。
前回イベントレポートはこちら
プロフィール:山下 仁子
2012年、ビーンズふくしまに入職。郡山事業部門アウトリーチ事業長を務める。子どもソーシャルワーカーのパイオニアとして支援手法を確立しノウハウ本を作成。全国に発信・波及し続けている。他、子どもの権利を考える会「白河こどもねっと」を設立。
パーソナルサポート機能とは
―前回は、ビーンズふくしまの子どものソーシャルワーク機能にどんな機能があるか伺いました。その中の一つであるパーソナルサポート機能は、特に難しく、試行錯誤されている部分だそうです。具体的にどのようなことを実施されているのでしょうか。
私たちのアウトリーチチームでは、パーソナルサポート機能を下記のように定義づけています。
ビーンズふくしま作成
複雑に絡み合った子どもの課題の全体を受け止める
子どもによって様々ではありますが、パーソナルサポートが必要な状態には、劣悪な家庭環境、家庭の複雑な背景、保護者の養育力の脆弱さなどのように課題が一つではなく、複合的な課題が山積しています。したがって、一つの課題だけではなく全体像を把握して受け止めるようにしています。
特定領域の支援やコーディネートのみではなく対象者が必要とする支援を提供する
(複合的な課題の全体を受け止めるため、)特定領域の支援やコーディネートのみではなく、対象者が何を必要としているのかを把握し、それを提供できるようにしっかり準備をしていきます。私たちも日々学びながら実施しています。
子どもの権利を最大限保障し、子どもがどのような状態になろうとも寄り添い続ける
これは言葉にすると「そうだよね」となりますが、日々実践しようとするととても大変なことです。(支援を)やればやるだけ(子どもから)攻撃されるようなことが起きてしまうなど、現場では様々なことが起きます。それでも、やり続けることが必要だと思っています。
「『子どもに嘘をつかれた』『裏切られた』とは思わないのですか」という質問をいただいたこともあるのですが、そのようには捉えていません。「(このやり方が)この子には合わないのだな」「私たちの力が足りなかったのだな」と考え、じゃあ「この子の願いが叶うようにするためには、私たちは何をしないといけないのか」「そのために何を身につけなければならないのか」を日々考えていかなければならないと考えています。それを実践するためには、子どもがどんな状態になろうとも寄り添い続けるだけの体力、気力、そして学ぶ探求心が必要です。ビーンズふくしまの現場スタッフはそれを頑張ってくれているなと感じています。
各領域のマインドを把握し、目標や情報を共有する
よく起きることなのですが、例えば不登校で自傷行為をしている子どもがいた時に、教育マインドに比重を置く方たちは「学習の遅れをどう取り戻すか」「どのように復学を目指すか」に重点を置いて話を進めることが多いです。一方、福祉マインドや医療マインドが強い方だと「自傷行為に対してどのようにケアをするのか」という議論になり、そこを優先したほうがいいのではないか、となることが多いです。
どちらも悪いわけではないですよね。どちらも子どもに必要だと感じることを話しています。でも、そういった違いによって(関係者が)カンファレンスで揉めることもあります。したがって、各領域の方たちが、子どものどの権利のどの部分を重要と捉えて発言しているかを把握したうえで、今子どもに必要なことが何なのかを整理したり分析したりして、(関係者間での)共通理解を図って支援していく必要があります。
生きる力が低下している状態の子どもは、自分の言葉で自分がどうなりたいかを伝えるのが難しいこともあります。したがって、大人がカンファレンスをして大人が揉めてしまうこともあるんですよね。そのような時に、私たちのアドボケイト機能が大事だなと思っています。子どもの気持ちを代弁し、共通理解を図り、適切な支援を提供するということに力を入れています。
適宜、カンファレンスを実施し、支援効果を評価する
支援方針が決まったら、それが適切かどうか(効果を)評価していかなければなりません。
アセスマネジメントを継続的に実施し、適切な支援提供に努める
アセスマネジメントも定期的に行いながら、その時の状態に合わせて適切な支援を提供することに努めています。
エンパワメントの視点を持ち、子どもの自立まで伴走し続ける
パーソナルサポートの話をしていると「子どもの力をそいでしまうのではありませんか」という質問をいただくこともありますが、なぜ(その子どもに)パーソナルサポートが必要なのか、という観点が大切だと考えています。パーソナルサポートは、全ての子どもに提供するわけではありません。継続された劣悪な環境・複雑な背景・山積された複合的な課題があり、非認知能力が備わっていない子どもに対して、エンパワメントの視点だけで(支援を)進めていってしまうと、子どもが子どもならではの課題として、どこかに依存しながら自己を確立させていく機会を奪ってしまうと思っています。
もちろん、子どもの生きる力が備わってきた時に、子どもが自立に向かっていく段階でエンパワメントの視点を持つことは大事です。しかし、その段階にいくまでの間は、私たち大人が「依存してもいいんだよ」という立場でいながら、子どもが徐々に力をつけていく、その後にエンパワメントしていく、というように時間をかけることが大事だと考えています。
パーソナルサポートが及ぶ領域
パーソナルサポートが及ぶ領域は下記のように多岐に渡ります。
ビーンズふくしま作成
このような課題はどれか一つだけというわけではなく、生きる力が低下すると複合的に起きてきます。したがって、このような課題に対してパーソナルサポートを丁寧に実施するというやり方をしています。
アウトリーチ支援の全体フロー
私たちのアウトリーチ支援フローの全体像は下記の通りです。
ビーンズふくしま作成
最初に「直接支援のみ」という期間があります。子どもの主訴が聞き取れるまではとにかく子どもの時間を大切にしており、数か月から数年かかることも沢山あります。
大切なことなので繰り返しお話しますが、(大人が)必要と思ってもすぐには動かない、じっと待つということを、この期間に丁寧に行っています。何の準備を進めていくか考えながら、まずは子どもが「こうしたい」と言えるように時間をかけていきます。ソーシャルワークに移行した時に必要になることが見えれば(その情報を関係者に)事前共有することもあります。ただ、子どもが何か言う前に大人の判断でそれを動かすことはしません。この直接支援で丁寧に時間をかけることで、ソーシャルワークに移行した時にソーシャルワーク機能をしっかり活用することができます。
最後に形として「ゴール(支援終了)」と書いてありますが、ゴールは年齢で決めるわけではありません。子どもが生きる力をつけて「もう大丈夫だよ」と離れていくのを見守っていくのがゴールかなと思います。
事例紹介:向き合ってきた子どもたち
最後に、日々関わっている子どもの事例をお話します。
まず小学生の時に関わり始めたAくんのお話をします。Aくんは母も兄もIQが幼稚園生レベルで、家族の中でAくんが一番IQも精神年齢も高い状況でした。したがって、大人から「お前がしっかりしないでどうするんだ」とずっと言われ続けてきて、ある時疲れ果ててしまいました。大人を見ると大暴れして攻撃するような状態でした。
私たちのもとには、母子分離して兄とAくんを児童相談所に入れましょうという経緯で、母子分離させてほしいという依頼が来て、家庭訪問に入っていきました。しかし、訪問してみると、お母さんの愛情で結ばれている家庭であり、母子分離の前にできることがあるのではないかと感じることができました。子どもたち二人も「お母さんと離れたくない」、お母さんも「子どもと離れたくない」と泣いたのです。したがって、3人で生活していけるようにパーソナルサポートで関わっています。
Aくんが育った家庭は(物で)足の踏み場もありません。3、4日かけて私たちが掃除しても、片づけたそばから足の踏み場がなくなってしまいます。でも、お母さんは出来る範囲で頑張って部屋の片づけや子どもの世話をしていました。子どもたちは「生まれ変わってもお母さんの子どもに生まれたい」と言っていました。
やがてAくんは生きる力をつけ、無事大学に合格することができました。家庭の中にモデルがいない中で私たちを信じ続けてくれたAくん。現場スタッフにも色々な相談をしながら自分の道を歩んでくれています。
また、もう一つ、何年も前の話になりますが、私が担当した女の子のケースを紹介します。その子の母は再婚していて、継父から性的虐待を受けていました。そして、そのことに気づいた母からは身体的虐待を受けていました。
何度も何度も面談をしながら本人の意思を確認し、福島県から何百キロも離れた遠い地への移送が決定しました。新たな地で頑張ってやっていくと希望を持って出発しましたが、ほどなくして毎日電話が来るようになりました。「寂しい」「誰も頼る人がいない」「帰りたい」と。あれほど母から離れたいと言っていたのに「母のもとに帰りたい」と泣きながら訴えてきました。
しばらく経ったある日、移送先の施設から彼女がいなくなったと連絡が来ました。彼女は一人で福島県まで戻ってきてしまっていました。私のもとには「彼女が会いたいと言っている」という連絡が来ました。しかし、私はこの時、彼女に会ってしまうことは無責任であると考えて会いませんでした。その「(私に)会いたい」という伝言が彼女の最後の言葉でした。
彼女が移送される朝、私は彼女が移送される場所に一緒に向かいました。18歳になるまで新しい地で生活しなければならない彼女が持ってきた荷物は小さなバッグ1つで、その中には下着が上下2枚ずつ、生理用品が1つ、大事にしていた小さなぬいぐるみが1つ入っていただけでした。私は、その時に気づいていたらなと今は思います。
この子が14歳でこれからの人生を考えられたか、これから自分に待ち受けているものを想像できたか、何度も面談したけれども私はそれをちゃんと伝えたかな、そんなことがずっと頭の中に残っています。緊急的な支援として命を守ることは大事ですが、この子の生きる力を育むことができなかったのが最大の後悔です。こんなことを抱えながら、日々私たちは子どものもとへ向かっています。
まとめ
今回は、ビーンズふくしまさんが大切にされているパーソナルサポート機能やアウトリーチのフローを、具体的な事例とともに伺いました。ビーンズふくしまさんでは、アウトリーチ支援やパーソナルサポート機能に関するノウハウ本「貧困の連鎖をたちきるために」を無料配布されています。(内閣府のHPでも紹介されたそうです。)
もっと詳しい情報を知りたい方は、ビーンズふくしまさんの下記連絡先までご連絡ください。
【住所】
〒963-8022 福島県郡山市西ノ内1丁目21-4 白龍ビル205
【電話番号】
090-8567-4121(担当者直通)
【メールアドレス】
ビーンズふくしま事務局(法人代表):info@beans-fukushima.or.jp
ビーンズふくしまアウトリーチ事業:info-outreach@beans-fukushima.or.jp
※上記どちらにご連絡いただいても構いません。
また、アウトリーチ事業の日々の様子はインスタグラムでも発信されています。こちらもチェックしてみてください。
https://www.instagram.com/beansoutreach/
続くイベントレポート第3回では、NPO法人Learning for All 代表の李氏と参加者からの質問によって、山下氏のお話を深ぼっていきます。
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※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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