2025年3月8日に、子どもに向き合う全国各地の支援者が学び/知見/意見をシェアするオンラインイベント「こども支援ナビMeetup」の第25回が開催されました。
今回は、一般社団法人青草の原（以下、青草の原）の代表理事である藤田琴子氏をお迎えし、「泊まれるみんなの家『れもんハウス』で、地域のセーフティネットをつくる｜居場所×子どもショートステイの実践」というテーマで、「れもんハウス」での実践や藤田氏の知見・お考えをお話いただきました。
イベントレポート第4回では、認定NPO法人Learning for All の宇地原氏をモデレーターに迎えた参加者との質疑応答の様子をお伝えします。
連載第1回・第2回・第3回はこちら：
プロフィール：藤田 琴子氏
一般社団法人青草の原 代表理事
1992年東京生まれ、横浜育ち。好きなことは旅をすることと、人と話すこと。旅先や人との出会いから児童労働、難民、戦争、貧困などに関心を持つようになる。国際基督教大学卒業前に社会福祉士という仕事を知り、卒業後は専門学校で1年間社会福祉を学び、社会福祉士となる。母子生活支援施設の支援員として、DV・虐待・貧困・障害など様々な事情で入所した親子と生活の場で関わってきた。児童相談所の一時保護所を子どもたちにとって安心できる場にするために任意団体「いちほの会」を2019年に設立。保護所の職員や入所経験者などが交流して意見交換をする場づくりなどを行なっている。2021年、施設で働く中で「家族」を少し離れられる時間や場所の必要を感じ、「れもんハウス」を開き、一般社団法人「青草の原」設立。
プロフィール：宇地原 栄斗氏
認定NPO法人Learning for All 子ども支援事業部 エリアマネージャー
1995年生まれ、沖縄県那覇市出身。
沖縄県立開邦高校を卒業後、東京大学教育学部に進学。
大学時代からLFAでのボランティア、インターン活動に取り組み、子ども達への支援を行う。2019年、新卒でLFAに入職し、現場のスタッフ・マネージャーを務める。
現在は東京都葛飾区、埼玉県戸田市、茨城県つくば市のエリアマネージャーを担当。
2023年度4月より子ども家庭庁が設置する子ども家庭審議会のこどもの居場所部会において委員を務める。2023年度4月より葛飾区くらしのまるごと相談事業推進委員会委員を務める。
れもんハウスの運営面について
—ショートステイとれもん留学を同日に行うことはありますか？
藤田）たまにあります。れもん留学をしている人とショートステイを希望される人の相性が良さそうな場合は、同時期でも受け入れ可能としていますが、別々に過ごしたほうが良さそうな場合は、れもん留学の期間以外で受け入れられるように調整してもらいます。
—れもんハウス内で喧嘩やトラブルが起こることはありますか？また、そうした場合どのように対応されていますか？
藤田）小さなトラブルはありますね。でもそれも含めて、みんな練習したらいいと思っています。間に入っていろいろな話をするときもあれば、外から見守ってしばらく放っておくこともありますが、そうしたトラブルからの解決も含めて、生活の練習として経験してもらえればと思っていますね。
—協力家庭登録メンバーは、れもんハウスに泊まることが前提ですか？また、れもんハウスがいっぱいで泊まれないときに協力家庭登録メンバーの家に泊まることはありますか？
藤田）協力家庭のメンバーでも夕方に来て泊まらずに帰る人もいます。土日の日中だけいる人もいますね。
また、れもんハウスでのショートステイ受け入れをするために協力家庭に登録したメンバーは、れもんハウスではなく自宅でショートステイの受け入れをすることはありません。
これは、新宿区に対してあくまでれもんハウスでの受け入れに協力するメンバーであることを伝えていて、自宅でショートステイを受け入れるということを伝えているわけではないためです。
なかには、新宿区の協力家庭として自宅でのショートステイ受け入れもしつつ、れもんハウスでの受け入れにも協力してくれているメンバーもいます。
—都内でショートステイ事業をやっています。子どもに特性があり、安全性の観点から受け入れをお断りしたことがありますが、れもんハウスはそうした子どもも含めた全ての人が利用できるサービスと考えていいのでしょうか？
藤田）登録メンバーのシフト調整ができずショートステイをお断りしたことはありますが、子どもの特性などの要因で受け入れをお断りしたことは今までありません。
というのも、ショートステイは一世帯ずつの預かりで子どもに個別に対応できるので、刺激が多くなりにくく問題となる行動も起きづらいです。また、協力家庭登録メンバーの中には幼稚園の先生や放課後等デイサービス、施設などで働く人もいるので、他のメンバーも特性のある子どもと接した経験のあるメンバーが一緒だと安心して受け入れられています。
ショートステイを含め、れもん留学では、最初にれもんハウスがどういう場所か、どんなことを大切にしているかを説明して、それでも良いかどうかの確認をマッチング段階でできてからの受け入れになります。
特にれもん留学は、泊まれる日数の制限もないので、居心地が良くてずっとい続けたくなる人もいるんですよね。こうした場合には、ほど良い距離感で長く繋がり続けられるように、れもん留学ではなく日中に遊びに来るようにシフトチェンジしていこうという話をすることもあります。
れもんハウスの土壌は「話し合い」から生まれる
—れもんハウスの日常的なゆるやかな雰囲気は自然にできているものなのでしょうか？その空気感を保つために大事にしていることがあれば教えてください。
藤田）れもんハウス全体のルールを決めないことですかね。その時々で個別に約束を設けることはありますが、基本的には全体のルールはありません。
また、全体で決めているルールがないからこそ、何かあればすぐ話し合う文化があります。それぞれが心地良い、腑に落ちる選択肢を示して、なぜそう思うのか、なぜ別の選択肢だと嫌だと感じるのかを丁寧に話し合います。
この話し合いの際に、私からだけでなく、それぞれの人かられもんハウスの理念的な部分が共有できているので、れもんハウスに来る人全体でこのゆるやかな空気感が保たれているのかなと思います。そういった意味では、全体のルールを設けない分、話し合いをするための余白はしっかり作っていますね。
宇地原）例えば、れもんハウス歴1〜2年の人とれもんハウスに初めて来た人が一緒にいるときに、初めて来た人が発言することに気後れするといったことはあるんでしょうか？私がれもんハウスに行ったときにはあまりそうしたことはなさそうな感じがしたんですが、藤田さんとしてはどのように感じていますか？
藤田）特に分け隔てなく意見が言える環境だと思いますね。たぶん自分から意見を言わなくても、「あなたはどう思う？」と向こうから聞かれると思います。ホストメンバーや協力家庭登録メンバーは、れもんハウスで何か決めごとをするときには「どう思う？」とみんなに意見を聞くことが多いですね。
ショートステイ後も個別に関われるのがれもんハウスの強み
—ショートステイ利用後も関わり続けたほうがいいと思うご家庭に対して、どうやってその後の支援につなげていますか？また、継続した関わりを行っていますか？
藤田）ショートステイ利用後は、れもんハウスの公式グループLINEに案内したり、個別でれもんハウスのイベントにお誘いしたりします。
あとは、グループではない個別の公式LINEで繋がることもあります。普段はショートステイ中の連絡手段として使用するものですが、ショートステイ利用後も食材のお裾分けやイベントのお誘いなどで活用しています。
ショートステイ利用日に子どもが熱を出してしまったご家庭には、れもんハウスで作った夕食を自宅までお裾分けしに行って、そこから親御さんと繋がりを持つこともありましたね。
一般の協力家庭だとショートステイ後に個別の関わりができないので、れもんハウスのショートステイはそこが強みだと思います。
宇地原）新宿区のショートステイの利用から、れもんハウスとの繋がりに切り替えるようなイメージですよね。自治体の制度を利用して、そこから住んでいる地域に繋がりができていくというのがとてもいいなと思いました。
これからショートステイに関わりたい人にやってほしいこと
—宇地原）これからショートステイに関わりたい、始めたいと思っている人に対して、最初の段階で大事なポイントや伝えたいメッセージなどがあればお願いします。
藤田）具体的なところで言うと、まずお住まいの自治体でショートステイがどのように行われているのかをチェックしてみてほしいです。自治体によってはショートステイを実施していないこともあるので。
あとは、ファミリーサポートの実施状況もチェックしてみるといいと思います。ファミリーサポートは、泊まりではなく日中や夜の数時間子どもを預かる制度です。ショートステイよりも実施しているところが多くて受け入れのハードルが低いので、ファミリーサポートから始めてみるのもおすすめです。
また、今は里親のショートステイも始まっています。協力家庭のショートステイという仕組みがない自治体なら、里親になって里親ショートステイの受け入れができることを自治体にアピールしてみるのもいいと思います。
登壇者からの挨拶
本日はありがとうございました。
たくさんの方にご参加いただき、質問もたくさんいただき、こうやってれもんハウスやショートステイの形を広げていけることをとても嬉しく思います。
私が子ども・親子のショートステイを広めたい一つの理由として、子育てを家族だけのことにしたくないという気持ちがあります。
私は、小さいころから毎週日曜は教会で過ごしていて、小さい子どもからおじいちゃんおばあちゃんまで幅広い年代の人がいる環境で育ちました。そのためか、親だけに育てられたという感覚があまりなく、親以外のいろいろな人たちの言葉や価値観に触れて育ってきました。
閉鎖的な家庭だと「こうしなきゃいけない」という価値観が強くなってしまったり、対処方法がわからないことに対して自分の中で蓋をしてしまったりという事態が起きやすいなと感じています。なので、みんなでこうした気持ちをシェアできる地域コミュニティや関わりがあることが大事だと思っています。
そのきっかけとしてショートステイは活用できると思うので、当たり前にみんなで子どもを育てる空気がショートステイから広がっていけばいいなと期待しています。
こうしたショートステイの広がりをつくっていくためにも、ショートステイに少しでも興味を持ってくれたら情報交換用のオープンチャットにぜひご参加ください。
まとめ
今回は、青草の原 代表理事の藤田さんに、れもんハウスの運営面やゆるやかな空気感の秘訣、ショートステイ後の親子との関わりなどについて伺いました。ポイントを以下にまとめます。
- れもんハウスでは、特性がある子どもを含め全ての子どもの受け入れをしている。個別対応かつ特性のある子どもと接する職業の登録メンバーも在籍しているため、対応が可能。
- れもんハウスのゆるやかな空気感は、全体のルールを決めず丁寧に話し合いを重ねることで、れもんハウスの大切にしたい価値観が全体に広まって作られている。
- ショートステイの利用後もれもんハウスのイベントやご飯会に誘ったりして、ゆるく繋がりを継続できるように取り組んでいる。この点が一般の協力家庭にはできないれもんハウスの強み。
- これからショートステイに関わりたい、始めたい人は、お住まいの自治体のショートステイやファミリーサポートについて調べてみるのがおすすめ。
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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