2022年12月19日に、子どもに向き合う全国各地の支援者が学び/知見/意見をシェアするオンラインイベント「こども支援ナビMeetup」の第12回が開催されました。
本イベントでは、認定NPO法人 抱樸(ほうぼく)(以下、抱樸)常務の山田氏をゲストにお迎えし、包摂的家族支援「子ども・家族まるごと支援」の取り組みや「ゴールドマン・サックス 地域協働型子ども包括支援基金」の助成事業の実践事例についてお話を伺いました。
イベントレポート第4回では、認定NPO法人抱樸の山田氏と認定NPO法人Learning for All (以下、LFA)代表理事の李が対談形式で参加者の皆様から寄せられた質問にお答えしていきます。
プロフィール:山田 耕司 氏
大学在学中より、北九州越冬実行委員会(当時)の炊出しボランティアに参加。
2004年7月より、NPO法人北九州ホームレス支援機構(当時)に入職。ホームレス自立支援センター北九州(北九州市委託)の巡回相談や生活相談を経て、2009年4月より同センター施設次長、2010年4月より同センター施設長に就任。2015年4月よりNPO法人抱樸常務。近年では、ホームレス自立支援に加え、若年困窮者の就労支援や子どもの学習支援や世帯の生活支援など、生活困窮者全般の支援事業の現場統括を行う。
プロフィール:李 炯植 氏
2014年に特定非営利活動法人Learning for All を設立、同法人代表理事に就任。これまでにのべ9,500人以上の困難を抱えた子どもへ無償の学習支援や居場所支援を行っている。全国子どもの貧困・教育支援団体協議会副代表理事。2018年「Forbes JAPAN 30 under 30」に選出。
現場スタッフと「今、子どもや家族に何が必要か」を議論して事業を作る
ー参加者)事業の狙いやアイディアは、山田さんが1人で考えられているのでしょうか?またスタッフとのアイディア出しや意見交換の仕方や、役割分担などはどのようにされていますか?
山田:一番最初の事業のアイデアは理事長の奥田が出すことが多いですが、そこから企画を考えたり助成金の申請を行うのは私です。「今関わっている子どもや家族にどんな支援が必要か」「その延長線上に何が必要か」を考えて事業を計画して、助成金の申請をするような流れです。
ただ、今までは企画や申請は私だけで行うことが多かったのですが、最近では現場をよく知る支援員たちと意見交換をしながら「今、何が必要か」を考えて一緒に申請書を作成するようになってきています。現場で実際に子どもたちと関わる支援員と、現場から少し離れて見る私が一緒にアイデア出しをすることで、考えが煮詰まることもなくいい感じに進められています。
李:現場の支援員と組織の管理職として働かれている山田さんとでは、日々キャッチする情報が違うと思いますが、その違いをうまく活かして企画に反映できているのはすごくいいですね。
「支援の入り口」としての支援をどう選ぶか
ー参加者)支援の入り口として学習支援を採用した特別な理由はありますか?私は食べ物支援を入り口としたのですが、本当に必要なものを考えたときに食べ物ではない気がしています。子どもの貧困や困窮を根本的に解決するアイデアやマンパワーもない中での打開策について、何かアドバイスをいただきたいです。
山田:抱樸が子ども食堂をしていない理由は、単純にマンパワーがないからなんです。
以前はフードバンクと連携して食糧支援の活動をしたこともありましたが、ストックを置く場所の問題や、食料を家庭に届けるための十分な流通が確保できない問題などがあり、結局断念しました。
抱樸はもともとホームレスの炊き出しから始まっているので、食事支援の大切さはよくわかっています。一方で、1~2週に1回程度の炊き出しだけでホームレスの方が生きていけるわけではないことも事実です。ただ、炊き出しをすることで相手と関係性ができ、そこから必要な支援につなげる入り口にできることが重要で、これは子ども食堂でも学習支援でも同じことだと思っています。
李:現場のニーズを見つつ、まずは自分たちができる範囲で始めるということが大事だと思いますね。
地域の信頼できる人や連携機関が家庭を見守る体制を作りたい
ー参加者)民生児童委員をやっています。実践報告の中の新規連携先に民生委員は入っていなかったのですが、あまり積極的に関わってはいないのでしょうか?民生委員の足りないことがあれば率直に教えていただきたいです。また他機関との連携の難しさをどう解決しているか、いい連携となるように意識していることがあれば教えてください。
山田:先ほどお見せした連携先の中に民生委員は入っていなかったのですが、個別に児童委員さんと相談しているケースはあります。
抱樸ですべてのご家庭を支援し続けるのは物理的に無理だと思っているので、将来的な形としては、地域で家庭を見守ってもらい、何か困ったときに地域の方から抱樸に報告してもらう形を目指したいと思っています。その時にはまさしく民生委員さんにお願いしたいケースは多いですね。
また連携の難しさについてですが、率直に言うと学校との連携が一番難しいと思っています。地域にもよると思うんですが、北九州は連携のハードルが高い方の地域だと思います。
ただもちろんその中でもうまく連携できるケースもあります。そこから思うのは、学校という「組織」としてNPOと関わりを持つのはハードルが高くても、学校の中に関わりたいという「人」がいれば、そこから関わって徐々に連携できるようになっていく、ということです。信頼できる「関係機関」まではいかなくても、信頼できる「人」を作っていくイメージですね。
李:確かに、関係機関との連携も結局は「人と人」の関係になるので、丁寧に積み重ねていく事が大事ですよね。
地域の子ども支援には重篤度によってグラデーションがあるので、抱樸さんのようなNPO団体や、週に1回子どもたちに食事を提供する子ども食堂など、いろんな人がいることで地域が豊かになると思いますし、それぞれで役割分担をすることがとても重要だと思います。民生委員さんや児童委員さんには、その地域でこども支援を行っている人たちとつながりを持ってもらい、お子さんをいろいろな社会資源につなげる役割をして頂けると、NPOの視点からしてもありがたいなと思います。
常にチームで共有して個人にストレスや問題を抱え込ませない
ー参加者)しんどい・辛いと思うことはないですか?怒りやストレスをどのように処理していますか?また困難度が高いご家庭と関わることも多いと思いますが、職員の方のケアはどのようにしているのでしょうか?
山田:ホームレス支援では、支援がうまくいかないと、最悪の場合は亡くなってしまうケースもあるのでストレスは大きいですね。
一方で子ども支援に関しては、子ども一人ひとりの伸びしろがすごいので、自分が間違った関わり方をして変な方向に行ってしまわないかという別の怖さがあります。
私個人としてはストレスが溜まったらキャンプに行き、それでストレスを発散できるタイプだと思います。しかし抱樸のスタッフは真面目な方が多くて、ストレスを溜め込んでしまうケースも多く見られます。一生懸命なスタッフほど「何とかしなくては」と抱えてしまい、残念ながらバーンアウトしてしまうこともありました。
対策としては、とにかくチームで共有することを心掛けています。子ども支援ではスタッフが夜間に対応することもありますが、そういうときもスタッフから私に、対応についての相談がよく来ます。そこで相談に応じて、「個人の判断」ではなく「組織の判断」とすることで、個人が背負い込まないような形を作るようにしています。やっぱり一番大事なのは「抱え込ませないこと」だと考えています。ただ、どうしても調子を崩してしまうスタッフが出てしまうことも事実なので、その都度しっかり反省して、今後どうしたら良いかを考え続けています。
「つなぎ戻し」で常により良い環境・連携先を提供する
ー参加者)別の支援機関が行うべき支援内容だろうと思うような課題が挙がった場合は、そちらに振るような支援の振り分けはしていますか?またその場合どのような関わり方をしていますか?
山田:これはケースバイケースで、「もともと関わっている支援機関にもっとちゃんとした支援を求めるケース」と、「ある程度抱樸で関わってから、本来関わるべき支援機関に戻すケース」という2つのケースがあります。
1つ目の「本来関わるべき支援機関がうまく機能していない」という場合は、抱樸から直接その団体へ話をします。しかしそれでもうまくいかない場合は、最終的に抱樸で面倒を見るという選択肢も視野に入れていますね。
2つ目の「一定程度抱樸が関わってから、本来の支援機関に戻す」ケースは、本来の支援機関に戻してからも定期的に連絡を取って、うまくいっているかどうかをチェックするようにしています。
このような支援は、ホームレス支援の中では「つなぎ戻し」と呼んでいます。適切な社会資源につないだ後もチェックしてつないだ先が十分に機能していない・その人と合わない場合には一度抱樸に戻して、また別の良い連携先を見つけるという意味です。
この「つなぎ戻し」は、もともと「家族ってそういうものだろう」という考え方からきています。例えば家族の中でおじいちゃんが病院に行ったとして「この病院、あんまりおじいちゃんに合っていないよ」と家族が判断すれば、一回家に戻して、もっと良い病院を探しますよね。ホームレスの方は、そういった「一回戻す」場所を持っていなかったんですが、抱樸がホームレスの方にとって「一度戻れる場所」であることで、その人に常により良い環境・より良い連携先を見つけられるような形をとっています。
李:「つなぎ戻し」という言葉は初めて聞きましたね。このような環境づくりは、最初にお話しいただいた抱樸の「樸」の部分をとても表しているような感じがします。
認定NPO法人抱樸 山田さんからご挨拶
山田:今回ゴールドマン・サックスさんとLFAさんに1年間助成金と応援をいただいたおかげで、子ども支援事業が継続でき、職員・ボランティアともにレベルアップができたと思っています。
私は元々ホームレス支援から入ったので、子どもの支援はあまり知らない状態からのスタートだということもあるかもしれませんが、「こども支援」は本当に難しくてストレスのかかる仕事だなと常に感じます。子どもは一気に成長することもあれば、心を閉ざしてしまうこともあります。
しかしそんな中で、全国で子ども支援に携わる皆様が、それぞれに想いを持って支援に携わっていらっしゃるのだろうと思っています。
私も抱樸もまだ発展途上だからこそ、だからこそ取組を共有して、「社会で子どもたちをどう抱えていくか・育てていくか」を一緒に考えていきたいと思っています。
社会は私たち一人ひとりが形づくっているもので、社会がつながり合うことが、結果的に子どもや家族にとって良い支援・良い社会となるだろうと考えています。だからどうか一人で抱え込まず、いろいろ共有しながらステップアップしていけるようなネットワークが作れればと思っていますので、今後ともどうぞよろしくお願いします。本日はありがとうございました。
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まとめ
最終回の第4回では、NPO法人抱樸の山田さんに、助成金申請といった深い部分でのスタッフとの連携、子ども支援の手段と目的、他機関との連携のコツ、職員に抱え込ませないためのケアなど、幅広い話題についてお話を伺いました。ポイントを以下にまとめます。
- 学習支援・子ども食堂・炊き出し等、支援の種類に関わらず、まず1つの支援から関係を作れれば、次の支援につなげることができる。現場のニーズを把握しつつ、自分が今できる範囲の支援から始めることが大事。
- 他機関との連携では、「機関」ではなく「人」との関係性づくりからアプローチして突破口を作る。
- 職員には悩みや問題を常に共有してもらい、個人ではなくチームで抱えられる体制を作る。支援も個人ではなく組織が判断することで個人に責任を追わせないようにする。
- 抱樸は「つなぎ戻し」をすることで、その人にとって常により良い環境・連携先を一緒に考えている。
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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