【連載第1回】ごちゃまぜの居場所で、「みんなでなんとかしていく」社会をつくる 〜一般社団法人えんがおが実践する全地域住民向けの孤独・孤立対策と関係人口の増やし方〜(こども支援ナビ Meetup vol.24)

2024年11月28日に、子どもに向き合う全国各地の支援者が学び/知見/意見をシェアするオンラインイベント「こども支援ナビMeetup」の第24回が開催されました。

今回は、一般社団法人えんがお(以下、えんがお)の代表理事である濱野将行氏をお迎えし、「ごちゃまぜの居場所で、『みんなでなんとかしていく』社会をつくる 〜一般社団法人えんがおが実践する全地域住民向けの孤独・孤立対策と関係人口の増やし方〜」というテーマで、えんがおの実践や濱野氏の知見・お考えをお話いただきました。

イベントレポート第1回では、えんがおの事業概要や大事にしている地域交流・世代間交流の事例をご紹介し、えんがおが目指す「ごちゃまぜ」でお互いの強みを活かす場とはどのようなものなのかについてお話しいただきます。

プロフィール:濱野 将行 氏
一般社団法人えんがお 代表理事。
栃木県矢板市出身、作業療法士。大学生の頃、東日本大震災を期にNPO活動に関わり始める。大学卒業後、老人保健施設で作業療法士として勤務しながら「学生と地域高齢者のつながる場作り」を仕事と両立する中で、地域の高齢者の孤立という現実に直面。根本的な解決に届く地域の仕組みを作るため、2017年5月「一般社団法人えんがお」を設立し、高齢者と若者をつなげるまちづくりに取り組む。
現在、年間延べ1000人以上の若者を巻き込みながら、徒歩2分圏内に9軒の空き家を活用し、高齢者サロンや学童保育、フリースクール(不登校支援)・地域食堂・シェアハウス・障害者向けグループホームなどを運営。子供から高齢者まで、そして障がいの有無に関わらずすべての人が日常的に関われる「ごちゃまぜの地域づくり」を行っている。
著書に「ごちゃまぜで社会は変えられるー地域づくりとビジネスの話」「居場所づくりから始める、ごちゃまぜで社会課題を解決するための不完全な挑戦の事例集」など。
好きなものはビールとアウトドア。

こんにちは、えんがおの濱野です。

栃木県出身で、栃木県大田原市を拠点に活動をおこなっています。

私は東日本大震災がきっかけでNPO活動や地域の福祉の活動を始めました。また、震災支援をしながら、作業療法士として精神病院と老人保健施設を併設する施設でも3年半ほど勤務していました。そして勤務する中で「地域の孤独と孤立が最も根本的な課題なのではないか」という思いを抱き、本格的にNPO活動を始めました。

本日は、私たちがおこなっている地域の全世代を巻き込んだ取り組みについてご紹介していきます。

えんがおの事業内容

えんがおでは、都心から電車で1時間半ほどの場所にある栃木県大田原市を拠点に、高齢者向けの訪問事業や高齢者サロン、不登校支援のフリースクール、若者向けのシェアハウス、障がい者向けグループホームなど、さまざまな事業をおこなっています

画像:一般社団法人えんがお

「各拠点が徒歩圏内である」ことにこだわって、地域の活用できそうな空き家をもらったり、低価格で借りたりして、近距離で各事業をおこなっています。全事業の拠点が徒歩圏内なので、一つの場所にみんな集まって過ごすことができるのがえんがおの特徴です。

現在は、9軒の空き家とアパート3部屋、空き地1つ(※子ども広場として活用)をお借りしていますスタッフは常勤が9名、非常勤が約30名です。

拠点では、おじいちゃんおばあちゃんが談笑していたり、近所のおじいちゃんが開く麻雀教室に不登校の中学生が参加したりと、それぞれが自由に過ごしています。静かに過ごしたい人向けの奥まったスペースもあり、みんなでわいわい過ごすのが苦手な人はここで静かにゆったり過ごしています。

えんがおの始まりは高齢者の孤立支援から

えんがおは、もともと高齢者の孤立支援から始まりました。

高齢者の孤立支援をおこなっていくうちに、そこに不登校生が来るようになり、高齢者向けに開催したサロンにたくさんの不登校生が集まるということがありました。

不登校生はみんな「居場所がない」と言っていたので、高齢者だけでなく居場所がない人も安心していられる場づくりを進めたところ、精神障害・知的障害をもつ方や家に居場所がない若者、認知症を患う方、シングル家庭の方など、さまざまな背景をもつ人たちが集まってきて、そうした中で少しずつお互いに支え合う関わりができてきた、というのがえんがおの全体像です。

地域の若者、発達に特性がある子ども、不登校の学生、認知症のおじいちゃんおばあちゃん、精神障害があってグループホームに入所している人、など一人ひとりの属性はさまざまですが、みんなで一緒に拠点で過ごしたり出かけたりすることを通してお互いに支え合うコミュニティづくりをしています

えんがおでの地域交流・世代間交流の事例

えんがおでは、子どもから高齢者まで、障害のある人もない人もごちゃまぜで過ごしています。そのため、えんがおならではの人々の交流もさかんです。

ここからは、えんがおで子どもと高齢者が交流してお互いに支え合っている事例をいくつかご紹介します。

事例①認知症のおばあちゃんと学童保育の子どもたち

えんがおでは、拠点の一つとして元ラーメン屋の空き家を利用させてもらっています。

ここには、元ラーメン屋店主で今は認知症を患うおばあちゃんがいて、学童保育を利用する子どもや小学生とよく交流しています

おばあちゃんは比較的進行した認知症のため、もの取られ妄想などで怒ったり怖い表情を見せたりすることも時折あるのですが、子どもたちから誕生日に手紙をもらったり、一緒に勉強をしたりする場面で笑顔や優しい表情も見せています。

子どもたちもそんなおばあちゃんを受け入れ、そうしたおばあちゃんの様子を当たり前として受け入れています。

事例②居住支援を受けているあるおばあちゃんと不登校の小学生

えんがおの居住支援を受けているあるおばあちゃんは、ある不登校の小学生をずっと支援してくれています。

その小学生は発達障害がありこだわりが強いのですが、「食べたことがないから食べたくない」と言っていた栗をおばあちゃんが一生懸命剥いてくれたことで、食わず嫌いせずに食べてみたということがありました。

おばあちゃんが一方的にこの小学生をサポートしている、という関係性でもなく、おばあちゃんは、家族が近くにおらず毎日一人で過ごしていたため、毎日この子がえんがおに来てくれることをとても喜んでいます

事例③発達に特性がある子どもと毎日一人で過ごすおばあちゃん

えんがおの学童保育に通うとある女の子は、発達障害の診断を受けていて集団で過ごすことは他の子より苦手ですが、1対1で話すと相手が嬉しくなるような言葉をかけるのが得意です。

そのため、えんがおに通う高齢者の方との相性がとても良く、すぐに仲良くなれます

このときは、旦那さんを早くに亡くされて毎日一人で過ごしていたおばあちゃんがえんがおの食事当番としてみんなに手料理を振る舞ってくれて、その料理が美味しかったことを直接おばあちゃんに伝えてとても喜ばれている様子がみられました。

また、えんがおの活動では地域の人を巻き込むこともあります。

たとえばハロウィンには、近隣のおばあちゃんへ「えんがおの子どもがお菓子ちょうだいと言いに来ると思うので、よかったらあげてやってください」と伝えたら、普段家から出ないおばあちゃんも頑張ってお菓子を買いに行ってくれて、えんがおの子どもたちにお菓子をくれるといった関わりがありました。

弱みで分断ではなく「ごちゃまぜ」でお互いの強みを活かす

今の社会は、発達障害・認知症・不登校など、さまざまな弱みで分けられ、まとめられる分断的な社会だと思っています。適切な支援をおこなうためにそのような区分が必要な場合もありますが、今の社会の良くない点は弱みを軸に設けた区分で「暮らしまで分けている」ことです。

たとえば、発達障害という側面は、好きな食べ物や嫌いなもの、得意な教科、苦手なこと、といったその子にいくつもある側面のうちの一つに過ぎません。認知症や不登校も同じです。それにも関わらず、発達障害や認知症、不登校という弱みで分断して暮らしまで分けしまうと、「発達障害がある人」「認知症の人」「不登校の人」としてしか生きていけなくなり、当然生きづらい社会になってしまいます

しかし、同じ弱みをもつ人たちをまとめるのではなく、たとえば発達に特性がある子どもと一人暮らしの高齢者、認知症がある人と不登校の子ども、というふうに混ぜると、勝手にお互い助け合っていい方向に向かう性質がもともと人間にはあります。

人間がもつ「協力」の性質によって、混ぜることで勝手に相性がいい人と近づき、勝手にいい方向に向かっていくのです。もちろん相性が悪い人もいますが、そうした人とは勝手に距離を置きます。

えんがおでの交流事例でもわかる通り、こうした関わりでは「どちらが支援者」ということはありません。子どもたちはおばあちゃんや地域の人に助けられていますが、同時に助ける側でもあります

私は、このような「お互いに助け合える存在になれる」ことがごちゃまぜや多世代交流の魅力だと思っていますえんがおでは、日々の暮らしの中にこうした場所も増えてくれたらいいなという願いを込めて、さまざまな事業をおこなっています。

まとめ

今回は、えんがお 代表理事の濱野さんに、えんがおの事業内容や特徴、ごちゃまぜの居場所で過ごすことの魅力について伺いました。ポイントを以下にまとめます。

  • えんがおは、栃木県大田原市で高齢者向けの訪問事業や高齢者サロン、不登校支援のフリースクール、若者向けのシェアハウス、障がい者向けグループホームなど、さまざまな事業をおこなっている。
  • 「各拠点が徒歩圏内である」ことにこだわっていて、各事業の利用者が一つの場所に集まって過ごせるのが特徴。
  • もともと高齢者の孤立支援から始まり、高齢者だけでなく居場所がない人も安心していられる場づくりを進めたところ、さまざまな背景をもつ人たちが集まって、少しずつお互いに支え合う関わりができてきた。
  • 同じ弱みをもつ人たちをまとめるのではなく、様々な人が混ざり合うことで、勝手にお互い助け合っていい方向に向かうことがある。ごちゃまぜの関わりや多世代交流では、どちらかが支援者ということはなく、お互いに助け合える存在になるのが魅力である。

イベントレポート第2回では、えんがおが活動をおこなう背景や解決したい課題を取り上げ、社会の狭間を埋めるために私たちにできることについてご紹介します。

※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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