2024年6月27日に、子どもに向き合う全国各地の支援者が学び/知見/意見をシェアするオンラインイベント「こども支援ナビMeetup」の第22回が開催されました。
今回は、一般社団法人 チョイふるの代表理事 栗野泰成氏をお迎えし、「子どもたちの”選択肢”を増やすための包括的な支援とは」というテーマで、一般社団法人 チョイふるの活動内容や食料支援を入口としたワンストップの支援、他の団体との協働体制などについてお話いただきました。
イベントレポート第1回では、一般社団法人 チョイふるが取り組む「選択格差」とは何か、本当に支援が必要な家庭に支援が届いていない現状についてご紹介します。
プロフィール:一般社団法人 チョイふる 代表理事 栗野 泰成 氏
1990年、鹿児島県生まれ。大学卒業後、小学校教員・JICA海外協力隊での教育現場を経て、2021年に一般社団法人「チョイふる」を設立し、代表理事に就任。
社会経済的に困難を抱える子どもたちが、既存の支援にたどり着けない・頼れる存在がいないといった「本来はたくさんある”はず”の選択肢を、身近に感じられないこと」に問題意識を感じる。
そのため、Choicefulな社会を実現するため、困窮子育て家庭を対象に、①食品配達を通じた見守り ②居場所づくり ③生活相談支援事業を展開している。
一般社団法人チョイふるについて
はじめまして、一般社団法人チョイふるの栗野と申します。
私たちは、東京都足立区という比較的貧困問題が顕著なエリアを拠点に、子どもの貧困問題に取り組んでいる団体です。足立区の貧困率がどのくらい顕著かというと、都内の生活保護受給世帯の10分の1、全国の100分の1が足立区に住んでいるくらい、定量的な側面から見ても貧困問題が顕著なエリアとなっています。
一般社団法人チョイふるは、英単語の「チョイスフル」の略称で、選択肢をたくさん感じられる社会を作りたいという願いを込めて設立しました。
私は大学卒業後、小学校で働いたりJICA海外協力隊として2年間情操教育(体育・スポーツ教育など)の普及活動をしたりしており、帰国後に一般社団法人チョイふるの前進となる団体を立ち上げて、現在に至ります。
一般社団法人チョイふるで行っている事業は主に3つです。
- 食料支援事業
- 居場所事業
- つなぎケア事業
現在チョイふるの有給スタッフは副業メンバー・業務委託メンバー含めて13人ほどおり、さらに200名のボランティアさんに支えられながら活動を行っています。
「選択格差」の解消に取り組む
そもそも私たちがなぜこのような事業に取り組んでいるかというと、その背景には「選択格差」という問題があります。
貧困世帯への支援制度は本当にたくさんあると思うのですが、その支援制度を選択できる人と、そうでない人の間に格差が生まれてしまっているのではないか、と私は考えています。
選択格差を感じた原体験
私は幼少期、父親が全く働かずに借金をして母親に暴力を振るうような家庭環境で育ち、高校生ぐらいまで鹿児島県の市営住宅で暮らしていました。
大学進学の際には、「新聞奨学金制度」という新聞配達をすると学費が免除される制度を知って、これを使って大学に行こうと思ったんですが、この制度について知ったときにはすでに募集が締め切られていて選択することができませんでした。
また、私は結果的に教育ローンや貸与型奨学金を使って大学に行くことができたんですが、私の妹はもっと大変で、行きたかった専門学校に行くこともできずに職業訓練校に行きました。妹は、兄の私が大学に行ったから自分は専門学校に行きたくても行けなかったと恨んでいたというような話も聞いています。
このような原体験から、私は「選択格差」を解消するチョイふるの活動を始めました。
「選択格差」とは
画像引用元:一般社団法人チョイふる
貧困世帯に対する支援制度は本当にたくさんあるのですが、私は本当に困難を抱えている人ほど必要な支援が届いていないのではと考えています。
これは私が経験上感じたことでもありますが、国の貧困対策の方針としても「支援が届いていない、又は届きにくい子ども・家庭に配慮」するアウトリーチ(注1)の重要性が明記されています。
注1:積極的にこちらから働きかけて必要な支援情報を届けるプロセスのこと。
私は、支援情報が届かない・活用できないことで貧困状態から脱せない家庭がある「助けての声が届かない社会」になってしまっているのではと考えていて、それに対してチョイふるが介入することで、支援情報を活用できて子どもたちが将来に希望を持てる社会になるのではないか、という仮説のもとに活動しています。
必要な支援が届かない3つの要因
チョイふるでは、選択格差によって必要な支援が届かない要因を大きく3つに整理しています。
①問題の複雑化・複合化
自治体の支援制度が整えられていたり、支援制度の種類が本当にたくさん用意されていたりすることで、以下のような困りごとが発生しています。
- 支援制度やサービスの手続きが複雑
- 申請書類が多い
- 必要な書類がわからない
- 制度ごとの要件や対象者が異なるため、自分が該当するかどうかの判断や適切な手続きを理解することが難しい
また、貧困世帯では、経済的な環境はもちろんなんですが、それに加えて発達障害やヤングケアラー、精神疾患、アルコール依存症といった複数の課題を同時に抱えているケースが本当に多いです。
こうした場合、どの支援制度を利用すればいいのかわからず、支援制度を選べない・活用できないというふうになっているのではないかと考えています。
②情報の非対称性(注1)
貧困世帯には多くの支援制度やサービスが存在することをそもそも知らない、あるいはどの制度が自分に合っているかを判断できない家庭も多いです。
実際にチョイふるで食料支援をさせていただいているご家庭の中でも、4分の1はそもそも地域に子ども食堂がある、無料の学習支援教室がある、ということを知らないというアンケート結果が出ています。
チョイふるの食料支援につながっているご家庭でさえそういった状況なので、つながっていないご家庭はもっとそういった地域の情報や支援制度を知らないのではないかなと思っています。
(注1)商品やサービスの売り手と買い手の間、または企業と投資家など異なる経済主体の間で保有する情報に格差があることを示す経済学用語。
③社会的孤立(心理的障壁)
支援を必要とする人々がその事実を隠して生活しており、適切なサポートやリソースを探す動機が失われることで社会的に孤立してしまうことを指します。
例えば、経済的な困難や心の問題など、個人の課題をオープンにすることに抵抗感を持つ日本的な文化や環境、生活保護を受けることに対する社会的な偏見や差別、シングルマザーで精神的にも時間的にも余裕がないこと、などがあります。
このような状況になってしまうと、だんだん地域から孤立してしまい、さらに必要な支援制度や情報に辿り着きづらくなっていくのではないかと考えています。
どこでつまずいて必要な支援に辿り着けなくなっているのか
本当に支援が必要な家庭に支援制度が届かない現状について、どういったところでつまずいているのかをまとめてみました。
まず第一のつまずきとして「気付けない」ことが挙げられます。いつの間にか困っている状態が当たり前になってしまっていたり、向き合うのがつらいから考えられなかったりすることで、そもそも支援制度や地域の支援情報に気付けないというつまずきがあります。
次に「見つけられない」ことです。せっかく一歩踏み出して行動してみたものの、情報がバラバラになっていて相談窓口や相談方法がわからないという状態を指します。
その次が「理解できない」ことです。自治体のホームページなどがわかりやすい例ですが、関係者向けの難しい専門用語を使ったものが多く、実際に利用する方向けの説明があまり見られません。そのため、内容が難しくてなかなか理解できずに諦めてしまう方もいます。
その次の「選べない」では、支援制度の多さが逆にハードルになっています。深刻で複雑な悩みほど利用できる支援領域も複数にまたがるため、さまざまな情報を整理した上で自分に適切な支援制度を選択するのが難しいという状態があります。
最後は「利用できない」ことです。自分の悩みや要望を言語化するのが難しい、相談時間や場所が使いづらい、相談に抵抗感がある、など本当にさまざまな原因があって利用を妨げられていることがあります。
こうした現状に対し、チョイふるでは介入した結果この真逆の理想となる状態を生み出したいと考えています。
チョイふるの活動は「診断」と「処方せん」の提供
画像引用元:一般社団法人チョイふる
「選択格差」の主な3つの要因に対してチョイふるが行っている活動をまとめると、このようになります(上図参照)。
チョイふるでは、病院の診断と処方せんのように、子育て家庭の課題をしっかり把握(=診断)して、それに応じて必要な情報を提供(=処方せん)して、活用まで伴走していくというイメージでそれぞれの事業を行っています。
まとめ
今回は、一般社団法人 チョイふる代表理事の栗野さんに、チョイふるが取り組む「選択格差」やその要因、要因に対処するチョイふるの事業について伺いました。ポイントを以下にまとめます。
- チョイふるは、比較的貧困問題が顕著な東京都足立区を拠点に子どもの貧困問題に取り組んでいる団体。
- 選択格差とは、選択肢を知らなかったために必要な支援を選択できない、本当に困難を抱えている人ほど必要な支援が届いていない状態のこと。
- 選択格差の要因は、問題の複雑化・複合化、情報の非対称性、社会的孤立(心理的障壁)の3つ。
- チョイふるでは、この3つの選択格差の要因に対して「診断」と「処方せん」を行う活動をしている。
第2回では、チョイふるのメイン事業である個別伴走支援(食料支援事業、居場所事業、繋ぎケア事業)について詳しくご紹介していきます。
第2回はこちら:
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
この記事は役に立ちましたか?
記事をシェアしてみんなで学ぼう