認定NPO法人Learning for All(以下、LFA)では、それぞれの支援拠点で「拠点ビジョン」および「拠点文化」を定めています。今回は、LFAの居場所拠点マネージャーの安次富さんに、拠点ビジョンと拠点文化の作り方について伺います。
プロフィール:安次富 亮伍
LFA職員。出身の沖縄県で大学在学時から不登校や子どもの居場所の支援に参画し、その後公立小学校教員や子どもの居場所事業のマネージャー職を経て、2021年8月にLFAへ入職。子ども支援事業部エリアマネージャーとして勤務している。趣味は居酒屋巡り。
拠点ビジョン・拠点文化とは
—拠点ビジョン・拠点文化とは何かについて教えてください。
拠点ビジョンとは、拠点の目指していく目標や目的のようなものです。具体的にどのような形で定められるかは、拠点によって異なると思います。例えば、「こういう拠点でありたい」という形で定められることもあれば、「子どもたちにこうなって欲しい」という形で定められることもあります。私がマネージャーを務めている居場所拠点では、両方の要素を含めて拠点ビジョンを定義しています。すなわち、「子どもたち自身のこうなりたい、子どもたちにこうなって欲しい」という子ども主語の目標があり、それを達成するために「こういう拠点でありたい」という拠点主語の目標があります。
拠点文化とは、拠点ビジョンを実現するための土台です。拠点文化の要素としては、ビジョンを達成するための支援者の行動、思考、信念があります。
—拠点ビジョン・拠点文化を定めることの必要性やメリットについて教えてください。
自分たちの拠点がブレずに大切にしたいものを言語化し再確認することができるというメリットがあると思います。居場所拠点には「居場所の要素」と「支援の要素」があり、両者はアンビバレントな関係になっています。前者は、子どもたちのありのままの姿を肯定し、ゆとりを大切にすることに加え、子どもたちがゆったりと安心して楽しく過ごすことのできる空間を作るという要素です。後者は、子どもたちのあるべき姿に関する目標を立て、それを目指して意図的に関わるという要素です。どちらも大切にしたい要素なので、居場所拠点では両者のバランスを取ることが重要な課題になります。拠点ビジョン・拠点文化を議論し定義することは、このバランスをどのように取っていくのか、言い換えれば、大切にすべき要素の間の優先順位をどのようにつけるのかを考えるきっかけになると思います。
また、拠点ビジョン・拠点文化は、現場において支援者が判断に迷った際に立ち返る指標にもなります。日々の支援の中では、対応に悩む事態が拠点で起こった際に、とるべき対応について毎回すぐに他の支援者に相談したり、どの対応が適切なのかについてその場で熟考したりすることができない場合もあります。そうした状況で、支援者はその都度自分で判断して行動することになります。拠点ビジョン・拠点文化を言語化しておくことで、その判断や行動がブレにくくなります。
拠点ビジョンと拠点文化の作り方
—安次富さんがマネージャーを務める拠点では、拠点ビジョン・拠点文化を策定する際には、どのような進め方をしたのでしょうか。
今年度の拠点ビジョン・拠点文化策定は次のようなステップで進めました。
画像:https://www.photo-ac.com/main/detail/24740548
- 昨年度の拠点ビジョン・拠点文化の振り返り
昨年度に定めていた拠点ビジョン・拠点文化の内容の確認 - 拠点ビジョンの策定
短期(今年度)、中期(中学卒業時)、長期(20歳)に分けて「子どもたちのあるべき姿」と「そのあるべき姿を達成するために必要なこと」を議論 - 拠点文化の策定
「2.拠点ビジョンの策定」で定めた拠点ビジョンを達成するために支援者に求められる「行動」「思考」「信念」を議論
以上のステップを経て策定された拠点ビジョン・拠点文化のうち、一部を例として紹介します。
画像:LFA作成
私たちの拠点では、拠点ビジョン・拠点文化策定のための議論は比較的スムーズに進みました。その理由を考えてみると、例えば議論に参加する支援者全員が一定の水準以上の子ども情報を有していたことや、普段の支援スタイルが定着していたことなどが挙げられると思います。
議論する上で大切なこと
—拠点ビジョン・拠点文化を議論する過程で、安次富さんが大切にされていたことは何ですか。
血の通った具体的な拠点ビジョン・拠点文化を立てるために、いくつかのことを意識していました。
「色々な視点から見る」
拠点目標を策定する際、「子ども目線」は確かに大切です。しかし、子どもたちは社会の中で生きており、これからも社会の中で生きていきます。そうである以上、子どもたちが他者からどう見られるか、子どもたちの振る舞いが他者からどう思われるかといった視点を含めて議論することも同様に大切です。例えば、「自分がその子の同級生だったらその子のことをどう思うだろうか」「その子の振る舞いは社会から見てどうだろうか」といった視点も取り入れながら議論します。また、拠点に通う子どもたちの発達段階や生育環境・背景を踏まえて拠点ビジョンを立てることも重要です。
「長期目標からブレイクダウンして考えるだけでなく、子どもたちの現在からボトムアップでも考える」
長期的目標からブレイクダウン(※いくつかの下位項目に細分化すること)して中期・短期の目標を定めていくという考え方は、拠点目標を議論する際に必要とされる視点です。そうしたブレイクダウン的な考え方がしっかりできているからこそ、短期的に達成すべきことやそのために今なすべきことがブレなくなっていきます。
しかしながら、そのような長期的目標はどうしても抽象的な目標になってしまうことが多く、そこから逆算して定めた中期・短期の目標も同じく抽象的になってしまうことが多いです。そのため、ブレイクダウン的な考え方とは反対に、「子どもたちの現在」に焦点を当てて、子どもたち自身が今大切にしていることや興味を持っていることを起点として目標を考えることも大切です。
ブレイクダウン的な考え方によって支援の目標や今なすべきことに筋が通るようになり、ボトムアップ的な考え方によって子どもたちの「今」を大事にしながら具体的な目標を立てることができます。
なお、拠点によってはあえて長期的目標を定めないところもあります。それらの拠点は、「支援の要素」に比べて「居場所の要素」や「子どもたちの今」に特に重きを置いているのだと思います。長期的目標を定める方が良いかどうかというのは難しい問題であり、それぞれの立場にそれぞれの良さがあると思います。
画像:https://www.photo-ac.com/main/detail/2201922
「自分事として考える」
先ほど、長期的目標はどうしても抽象的な目標になってしまうことが多いというお話をしました。長期的目標を具体化するためには、「自分が同じくらいの年齢だとしたらどうだろうか」というように、自分事として考えることも有効です。
例えば、長期的目標として20歳時点における子どもの状態をイメージしようとする時に、「経済的自立」という目標が出てくることがあります。しかしながら、皆さんは20歳の時点で経済的に自立した自分を現実的かつ具体的にイメージできるでしょうか?自分ごととして考えながら議論することで、長期的目標がだんだん人間味を帯びたものになっていくのではないでしょうか。
また、議論を進める上では、参加者が発言しやすいような雰囲気づくりを意識していました。例えば、「正解があるものではない」ということを議論の初めに伝えたり、個人の意見に関してキャリアの短い人から発表してもらうようにしたりといったことです。その結果、参加者がお互いの意見に対して「それはどういうことですか?」と質問をするなど、フラットに会話できるようになっていたと思います。皆がフラットな立場でじっくりと議論したことで、最終的な拠点目標や拠点文化が自分たちなりの血の通った言葉にまとまったのではないかと思います。
拠点ビジョン・拠点文化を立てること自体が目的ではなく、策定までの議論が重要
—最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
先ほどもお話ししましたが、居場所拠点には「居場所の要素」と「支援の要素」があります。そのバランスの取り方によっては、最終的には「拠点ビジョンはいらない」という結論に至るスタンスもあると思います。拠点ビジョンや拠点文化は、立てること自体が目的ではありません。拠点ビジョンや拠点文化を考える中での議論が、自分たちの拠点で大切にしている信念や子どもたちの現状を尊重した上で、拠点がより良い方向に向かっていくにはどうしたら良いかを考えるきっかけになるといいなと思っています。
まとめ
今回は、居場所拠点マネージャーの安次富さんに、拠点ビジョン・拠点文化の作り方について伺いました。ポイントを以下にまとめます。
- 拠点ビジョンとは拠点が目指していく目標や目的であり、拠点文化はその拠点ビジョンを達成するために支援者に求められる行動・思考・信念などの土台である。
- 拠点ビジョン・拠点文化を定めることは、居場所拠点における「居場所の要素」と「支援の要素」の間のバランスを取る指針となりうる。
- 拠点ビジョン・拠点文化策定のための議論においては、「色々な視点から見る」こと、「長期的目標からブレイクダウンして考えるだけでなく、子どもたちの現在からボトムアップでも考える」こと、「自分ごととして考える」こと等が重要である。
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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