居場所や学習支援などの子ども支援の現場は、異なる年齢、経歴、バックグラウンドを持つ人など、多様なスタッフ・ボランティアが集まることの多い場所です。子どもたちに様々な経験や価値観に触れてもらうためにも、人材の多様性は歓迎すべきことでしょう。
一方で、多様な人々が集まるからこそ、価値観・考え方の違いから、意見のすれ違いが起こりやすい側面もあるのではないでしょうか。
今回は、そのような多様な価値観を持つ人々が、共通の目的を持って、お互いの価値観を尊重しながら拠点を運営していくために大切にしたいことについて取り上げます。
前編のテーマは、「『認知の4点セット』と『対話』を通したチームづくり」です。ぜひ、皆さんのチームづくりの参考にしてみてください!
※この記事は一般社団法人21世紀学び研究所(https://learning-21.org/)のOS21メソッドを基に作成されています。
こんなことありませんか?スタッフ間の意見のすれ違い
ここに、とある子どもの居場所拠点を運営するマネージャーとスタッフがいます。この2人は「子どもにとって最善の行動をしたい」という共通の想いを持っていますが、それぞれに異なる「意見」を持ち合わせています。
画像:LFA作成
このマネージャーは、子どもを適切にサポートしていくためにも、「拠点で『できること』と『できないこと』は明確に線引きをするべき」という意見を持っています。一方で、このスタッフは、「子どもにとって必要なことであれば、なんでも取り組むべき」という意見を持っているため、マネージャーの指示の下では自分のやりたいことがやりきれない、というフラストレーションを抱えています。マネージャーからしても、なんでも拠点で引き受けようとしてしまうスタッフの行動は、悩みの種になっています。
このようなすれ違いを抱えたまま活動していると、相手に対して不満が募り、良いチームワークや、チームの一人一人が主体的に行動するモチベーションは生まれにくくなってしまいます。両者とも「子どものために最善の行動をしたい」という共通の想いを持っているにも関わらず、なぜこのようなすれ違いが起きてしまうのでしょうか?
「意見」だけでなく、その背景にある「経験」「感情」「価値観」に目を向ける
前出の例では、マネージャーとスタッフがお互いにお互いの「意見」(とそれに基づいた行動)だけに注目を向けているため、相手に対して不満が募る状態になってしまっています。しかし、個人が何か「意見」を持つとき、その背景にはその人の過去の「経験」「感情」「価値観」が紐づいています。
画像:OS21参考・LFA作成
同じ「犬」という動物を例にあげても、「犬が好き」という意見を持つ人もいれば、「犬が嫌い」という意見を持つ人もいます。「犬が好き」という人は、昔から犬を飼っている経験から、犬を見ると喜びや安心感を感じ、犬に対してポジティブな価値観を持っている場合が多いでしょう。一方、「犬が嫌い」という人は、過去に犬に噛まれた経験から、犬を見ると恐怖を感じ、犬は危ない、という価値観を持っているかもしれません。
意見の相違の背景には、このような経験や感情、価値観の違いが存在するのです。ここではこの「意見」「経験」「感情」「価値観」を合わせて「認知の4点セット」と呼んでいきます。
同様に、先ほどの例のマネージャーとスタッフも、「子どものために最善の行動をしたい」という共通の想いを持っていたとしても、過去の経験や価値観の違いから、意見にすれ違いが生じることがあるのです。
画像:LFA作成
例えば、子どものためにはなんでもやるべき、というスタッフの意見の背景には、過去に子どもの力になりきれなかった経験への後悔があり、このスタッフは、「目の前の子どもに手を差し伸べることが最優先」という価値観を持っています。
一方でマネージャーは、過去にスタッフに精神的負荷がかかりすぎ、その結果として子どもにも悪影響を及ぼしてしまった経験から、「スタッフの心身の健康が最優先」という価値観を優先しています。
このように、「意見」の背景にある「経験」「感情」「価値観」に目を向けると、相手の「意見」だけに注目をしていたときとは違った風景が見えてくるのではないでしょうか?
認知の4点セットを使って「対話」を行う
子ども支援の現場には多様な人材が集まり、そこにやってくる子どもたちもまた多様です。そのような環境では、お互いの価値観への尊重が、良いチームづくりにとって重要になってきます。
だからこそ、意見に食い違いがあった時は、ただ意見を主張し合うのではなく、お互いの認知の4点セットに目を向けた「対話」を行うことが大切です。ここから、「対話」のポイントをいくつか見ていきましょう。
認知の4点セットで伝えて、共感を生む
自分の意見を人に伝える時は、「なぜそれが自分にとって大切なのか」「それを大切だと考える理由・過去の経験はなんなのか」を合わせて語ることで、聴いている人も共感・理解がしやすくなります。特に複数人で意見を出し合うような場面では、「意見」「経験」「価値観」「感情」を合わせた4点セットで伝えることを意識してみてください。
画像:OS21参考・LFA作成
他者の意見を、自分の経験に当てはめて聴かない
他者の意見も聴く際にも、相手の経験・感情・価値観に焦点をあてることが重要です。この時に大切なのは、「他者の意見を、自分の経験に当てはめて聴かない」ということです。
例えば、他者の意見や経験を聴いた時に、「私も同じ経験があるが、私はこうしていた」などと反論をしたくなることがあります。しかし、その人の経験はその人だけのものであり、私がしてきた経験とは違います。他者の意見を聴く際は、自分の経験に基づく価値観や評価判断を一旦保留し、相手の「経験」「価値観」「感情」に目を向けて、意見の真意を理解することを意識できると良いでしょう。
画像:OS21参考・LFA作成
このように、自分の感情をコントロールし、評価判断を保留して他者の話を聴くことは、自分の知らない世界から学ぶ機会を増やすことに繋がります。
拠点外の人との話し合いの際にも、「認知の4点セット」と「対話」を大切に
子ども支援の現場では、学校や行政、地域の人々など、多様なステークホルダーと関わることが多く、そこでも多くの意見の相違が発生することがあるでしょう。時には相手のことを無理解と感じる瞬間があるかもしれません。しかし、そのような場面でも、相手の意見の背景にある「経験」「感情」「価値観」に目を向けること、そして自分の「経験」「感情」「価値観」も共有をしていくことで、これまでとは違った対話をしていくことができるかもしれません。
ぜひ、拠点のチーム内だけでなく、拠点外の人たちと話し合い行う場などでも、「認知の4点セット」と「対話」のポイントを活用してみてください。
まとめ
今回は、「認知の4点セット」と「対話」によるチームづくりについてお伝えしました。ポイントを以下にまとめます。
- 意見の相違の背景には、その人の過去の「経験」「感情」「価値観」が紐づいている。
- 自分の意見だけでなく、「経験」「感情」「価値観」も合わせて伝えること、そして相手の「経験」「感情」「価値観」にも目を向けることが、共感を生む対話に繋がる。
- 自分の感情をコントロールし、評価判断を保留して他者の話を聴くことは、自分の学びの機会を増やすことに繋がる。
さらに、多様な意見・価値観を歓迎し、建設的に意見を交わしながら同じ方向を向いて活動を行なっていくためには、スタッフ間に共通の目的・目標があることも重要です。後編では、共通の目的・目標を作り上げていくプロセスについて取り上げます。
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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