認定NPO法人Learning for All (以下、LFA)では、団体設立当時から様々な資金調達に取り組んできました。
今回は、LFAが活動する葛飾エリアの子ども支援団体の方に向けて実施した、資金調達勉強会の様子をお伝えします。
基本的な資金調達の手法や企業との連携の方法について具体的に紹介しているので、非営利組織でファンドレイズに携わり始めた方や法人寄付に挑戦したいと思っている方などはぜひご一読ください。
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プロフィール:中川 祥子 氏
認定特定非営利活動法人Learning for All コミュニティ推進事業部 企業連携チームマネージャー。
1994年、東京都生まれ。立教大学経営学部国際経営学科修了。
学生時代3年間、LFAにて学習支援ボランティア、拠点統括責任者、エリア統括責任者を経験。
大学卒業後、新卒で(株)リクルートマネジメントソリューションズ入社。約5年間、営業として中小〜大手企業の人材開発・組織開発支援に従事。
2021年、正職員としてLearning for All に転職。経営企画事業部を経て、現職に至る。
資金調達の種類と特徴
まず、資金調達の種類を整理すると
- 個人寄付
- 企業寄付
- 助成金
- 受託事業収益
- 事業収益
があります。
画像:LFA作成
1.個人寄付では、LFAの場合サポーターの方々に月1000円以上の任意の金額をサブスクリプションの形態で寄付いただいています。1件ずつの額は企業寄付と比べると大きくはあまりありませんが、多くの方のご寄付が積み上がるので総額としては大きく、安定性(継続性)が見込める点が特徴です。登録くださった寄付者様には、メルマガや年次報告会などを通して活動の成果を丁寧にお伝えするよう心がけており、その結果、一度ご登録いただくと多くの方が1年以上継続されています。
2.企業寄付は、個人寄付とは対照的に即効性がある点が特徴です。LFAでは企業からの単発での寄付が多くなっています。金額はそれぞれ異なりますが、単価が大きいものは、その年度の収支に大きく影響します。ただ、単発の寄付は1年間で終わってしまったり、仮に2・3年と続いたとしてもその後も継続される保証があるわけではないため、安定的な財源とは言えません。
3.助成金は特定の事業に紐づいているものです。LFAでは、企業寄付のうち使用使途が指定されているものも助成金として計上しています。例えば、「〇〇地区の学習支援拠点で人件費として使用する」といったものがここに含まれます。助成金の特徴としては、単価が大きく即効性の点で会計におけるインパクトが大きいこと、3年間など数年にわたって続くものが多く単発の企業寄付と比べて安定していることが挙げられます。ただ、10年15年と継続されるわけではないので、個人寄付と比べると安定性(継続性)は低いです。
4.受託事業は行政などからの委託を受けて行っている事業の収益、5.事業収益は収益事業を作って得ている売り上げです。収益事業としては、サステナビリティ研修やCSR(企業の社会的責任)研修などで子どもの貧困を知っていただく企業向けの研修を作って販売しています。また、LFAのグッズとして鉛筆等を販売もしています。
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収益構造の考え方
LFAの場合は収入の多くを個人・企業からの寄付が占めていますが、どこからの収入をメインにするかは団体によって変わってくる部分だと思います。ここでは、参考までにLFAの実際の昨年度収支をご紹介します。
画像:LFA作成
収入は全体で7.5億円程度となっています。LFAでは企業からいただいた使途指定の寄付は助成金として計上しており、助成金を含めた企業寄付が2.6億円程度、個人寄付が1.3億円程度、行政からの事業委託は0.6億円程度です。グラフからは一見すると助成金が多いように感じられますが、使途指定の企業寄付を含めた寄付の総額は約3.6億円と、収入の半分以上の割合を占めています。加えて、企業寄付の割合がかなり大きい点がLFAの特徴で、珍しいケースかなと感じています。安定性の高い個人寄付の割合をより大きくしたいと考えていますが、現状では企業寄付が収入の多くを占めている状態です。
LFAにとって、子どもに必要だと考えられることに自由に使える資金は重要であり、使途を限定されない寄付金がその役割を果たしてくれるためです。LFAは子どもたちを支援する仕組みを全国に広げることを大切にしていますが、その元となる成功モデルを作るには、前例がなく行政で事業化されていないことに取り組まなければなりません。そのため、寄付という形で外部から資金を調達し、前例とに囚われず子ども支援のために必要だと考える事業に使える資金が必要になります。
「なぜそのお金が必要なのか」を分かりやすく説明できることはとても大切だと思っています。寄付をいただくためには、その必要性が相手に伝わるように説明する必要があります。「こういう理由があるから、この財源が大事なんだ」というストーリーは各団体で異なりますが、ストーリーを作って話せるようにしておくことは大切なプロセスとして共通しているかなと思います。
ストーリーを整理して話せるようにすることは、寄付に関してだけではなく、団体の説明にも通ずるところで、「どのような切り口・ストーリーラインで語れば、相手(企業など)に刺さりやすくなるのか」はいつも考えています。最初から相手にうまく刺さる形でLFAのストーリーを語れたわけではなかったので、いろいろな企業の方に「LFAのどんなところに共感してくださっていますか」「外から見えるLFAの特徴ってなんだと思いますか」ということをご相談し、意見をいただいて少しずつ改善しています。
LFAの資金調達のあゆみ
LFAは、2015年4月に前身の認定NPO法人Teach For Japanより団体として独立し、そのタイミングで本格的に資金調達が必要となりました。当初は専任の資金調達担当者はおらず代表が資金調達を行っていましたが、広報と資金調達を担う職員が入職し、その他プロボノや業務委託など外部の協力も得ながら、手探りで進んできました。
2018年からは資金調達担当の職員がもう1名増えて2人体制になり、2022年からさらに人数が増えてチームとしての体制構築ができるようになりました。資金調達は団体設立当初から実施していますが、チームとしての体制が整ったのは8、9年目くらいからで、それまでは少人数で行っていたのが実情です。
また、資金調達の金額は団体の規模の拡大に伴って大きくなっており、2015年は企業寄付300万円、個人寄付35万円程度だったものが、徐々に増えてきています。
画像:LFA作成
LFAのそれぞれの調達方法に対する取り組みを以下の表にまとめています。今回は、割合の大きい個人寄付・企業寄付・助成金の獲得のために取り組んでいることをご紹介します。
画像:LFA作成
個人寄付
定期的に寄付をいただくマンスリーサポーターに関しては、最近では広告を運用できるようになったので、広告費に投資してサポーターを増やす形になっています。以前は、月2回程度の活動説明会を開催していました。友人など関心のありそうな人にSNSで声をかけて説明会に参加していただき、テーマに共感していただいた方にサポーターになっていただく活動をひたすら繰り返していました。また、伝手を辿って、個人の富裕層の方が所属しているようなライオンズクラブやロータリークラブ、法人会などを紹介していただき、20分程度の出張講演も繰り返し行っていました。
企業寄付
企業寄付に関しては、すでにつながりのある企業から新たな企業を紹介していただいたり、経営者交流会などに参加したりして、LFAのテーマに共感していただける方を見つけるようにしています。特に外資系の企業だと寄付の文化が根付いている場合も多いので、そのような企業を中心に営業を実施しています。過去には全国規模の企業の支部をひたすら回り、年間100回以上プレゼンを行っていたこともあると、先輩職員から聞いています。一口で多額の寄付をいただくケースは多くはないので、地道な資金調達活動を積み上げていく中で少しずつ支援してくださる企業の輪を広げていくことを大切にしています。
助成金
助成金は、新しく拠点を開設するときや新しい活動を開始する際に獲得できることが多いです。これまではつながりのなかった企業からも「新しい取り組みをするんだったら応援するよ」と支援をいただけることがあり、新しいことを始める際には挑戦しやすいと感じています。
資金調達の難しさ
NPOの資金調達における難しさの1つは日本における寄付者自体の数が伸びていないことです。寄付の市場自体は拡大しているのですが、これは高所得者の寄付額が上がっていたり、ふるさと納税が寄付に含まれていたりすることが影響しているため、純粋な寄付者数が増えているとは限らないのが実態です。
また、日本では寄付へのハードルが高いのではないかという印象を抱いています。寄付をすることが「意識高い」などと揶揄されてしまったり、社会課題に関心を抱き、寄付で貢献しようとする人が一部にとどまっていたりすることが背景にあるのではと思います。
加えて、最近はソーシャルビジネスが台頭してきていることもあり、「その課題はビジネスで解決できないのか」を問われているとも感じます。ビジネスとして成立しない部分を非営利組織が支えているのですが、そこを理解していただく難しさも感じています。
寄付を得るのためのステップ
寄付を集める際、特に企業からご寄付いただく際にどのような流れで考えているのか、我々の事例をご紹介します。
- 自団体の財務構造の現状を理解し、目標を設定する
- 寄付をお願いする企業を探す
- 寄付の必要性を説明するためのストーリーを検討する
- 企業とつながる方法を考える
「1.自団体の財務構造の現状を理解し、目標を設定する」では、まず現状の財務構造を確認し、寄付・助成金・事業委託・その他がどの程度の割合を占めているのか分析します。その上で、それぞれの団体の特色を踏まえて今後どの資金を伸ばしていきたいのか、目標を設定します。
LFAの場合は子どもの貧困がテーマで、基本的にサービス利用者からはお金をいただかない事業なので、事業収入はほとんど見込めません。そのうえで、子どもの声に合わせて自由に施策を変えられる余白を担保したいとの意図があり、自団体で寄付金を集めています。また今後の目標として、将来の安定性のために個人寄付の割合を増やすことを目指しています。ただ当面の活動資金を得るために企業寄付を得る必要があるという位置付けになっています。
画像:LFA作成
「2.寄付をお願いする企業を探す」では、考えられる関係者の中で団体の味方になってくれそうな人を洗い出すために、ステークホルダーピラミッドを作成します。下の図はイメージ画像です。赤い線より上の部分は、すでにつながりがあったり、すぐに声をかけられるような方を書き出していきます。中央の赤ラインと青ラインの間には、人を辿れば紹介してもらえるような方や過去につながりがあった方などを、青ラインの下には、少し距離は遠いけれど人を挟めばアプローチできうる方を書きます。また、左側には金銭的な支援をいただきたい方、右側には物品提供をいただきたい方やボランティアなど労力を提供いただきたい方を書いていきます。
イメージ画像:LFA作成
これらを整理した上で、どの企業に寄付をお願いするのかはチームで話し合って決めます。決めるときはいくつかのパターンを考えていて、例えばLFAだと子ども関連のSDGsテーマが設定されている企業にまず依頼する、外資系企業の方が寄付のハードルが低いかもしれないから外資系企業のリストを作るなどの軸を定めていきます。他にも、他のNPO団体に寄付をした実績のある企業を探すこともしました。それは、企業の中に寄付の座組みがあるところでその枠を増やしていただく方向で働きかけた方が、寄付の枠組みがないところで新しく作ってもらうよりうまくいく確率が高いのではないかと考えたためです。これらの軸を踏まえてエクセルで500社程度のリストを作りました。
「3.寄付の必要性を説明するためのストーリーを検討する」では、企業に寄付をお願いするとき、何を自団体の推すポイントとするかを検討します。LFAだと全国連携・展開と現場運営の両立を目指していることや認定NPOになっていることがポイントとして挙げられます。
団体の価値をどうアピールできるのかを団体内部だけで考えるのは難しいと思うので、ポイントを考える際にはまずは自分たちでアピールポイントを検討した上で、外部の方も相談をしてアドバイスをいただいています。先程のステークホルダーピラミッドの上部に書かれている関係者などにアピールポイントを見ていただき、「こういうところも強みなのではないか」「そこをアピールされても私たちにはあまり響かないな」などの意見をいただいて修正することを繰り返しています。実際去年はこの作業を6回ほど繰り返し、推すポイントを磨いて以下のような成果のまとめ資料を作成しました。
画像:LFA作成
「4.企業とつながる方法を考える」は、先程のステークホルダーピラミッドを参照してどのような繋がりを利用してアピールしたい企業にたどり着けるかなどを検討します。そして、3で構築したストーリーを用いて営業を行い、資金獲得の目的を達成していきます。
まとめ
今回は、LFAの中川さんにNPOの資金調達についてお話しいただきました。ポイントを以下にまとめます。
- 資金調達には、個人寄付、企業寄付、助成金、受託事業収益、事業収益などがある。即効性・安定性(継続性)はそれぞれ異なるため、団体の状況に合わせて組み合わせる必要がある。
- 資金獲得のためには、「なぜそのお金が必要なのか」を相手に刺さる形で説明する必要がある。
- 寄付をお願いする企業を検討する際は、ステークホルダーピラミッドで整理すると、団体と外部とのつながりが明確になる。
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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