「子どもの『今』を尊重したい!だけど…」と悩んだら ~認定NPO法人Learning for Allの事例~

「子どもの選択を尊重したい」「子どもの『今』を尊重したい」と思う一方で、「もっとこうできたら、子どもにとってもきっといいのに」と期待してしまう、そんなことはないでしょうか。

これは子どもに真摯に向き合い、支えたいと思う支援者だからこそ、直面してしまう悩みではないかと思います。自分の思いと目の前の子どもの現状とがかみ合わず葛藤が生じてしまった時、私たちはどのように葛藤に向き合いながら、より良い支援を作っていくことができるのでしょうか。

本記事では、認定NPO法人Learning for All(以下、LFA)の子ども支援事業部のマネージャーを務めていらっしゃる宇地原さんにお話を伺いました。子ども支援の現場でよく聞く悩みから、その悩みに対する向き合い方、そして「子どもの選択を尊重すること」が何故大切だと考えるのかについて取り上げます。

プロフィール:宇地原栄斗

特定非営利活動法人 Learning for All子ども支援事業部 エリアマネージャー。東京大学教育学部卒業。出身である沖縄県での原体験から子どもの貧困に対して関心を持つようになり、大学在学時にLearning for All の学習支援事業に参画し、子どもに対しての包括的な支えのある地域を作ることの重要性を感じ、大学卒業後にLFAに入職。

「行ったり来たり」する悩み

—「子どもの将来を考えるとこれを身に着けることが大事だけれど、子どもが今その段階にないのではないか」という悩みを現場のスタッフから聞いたことはありますか?

あります。話を聞いていると、このような悩みは2つのパターンに分けられるのではないかと思います。一つ目は「支援の目標と子どもの様子とのギャップで悩む」パターン、二つ目は「大人が自身の価値観と現状のギャップに悩む」パターンです。

一つ目については例えば、学習支援につながったけど子どもが勉強に対して抵抗感を示すような場合です。学習支援という目標と子どもの現状とがかみ合わず、「どうすれば子どもが勉強できるのか」という悩みが生じます二つ目のパターンは、さらに2つに細分化されるでしょう。「子どもに今届けている学習支援は、本当に子どもの望んでいることなのか」と悩む場合と、「今居場所的な関わりをしているけれど、長期的に考えてこのままで大丈夫なのか」と悩んでしまう場合です。

支援の目標と子どもの現状がかみ合っていない場合は、「子どもがなぜ〇〇したくないのか」に向き合うことが何より重要だと思います。その問いを無視してしまうと、かえって子どもが拠点に来なくなってしまう可能性があるでしょう。一方、大人が自身の価値観から悩んでいる場合について、特に学習支援現場においては先ほど述べた2つのパターンを行ったり来たりするという話を多く聞くかなと思っています。


画像:LFA作成

—悩みが行ったり来たりするというのは、どういうことでしょうか。

例えば、高校進学に向けて子どもが一生懸命勉強に取り組んでいるとします。しかし、子どもが志望校と自身の学力の差に悩んでいたり、子どもが周囲からの期待や家庭の事情を背負ってしまったりしている等、子どもの負担が大きいのではないかと支援者が思うことがあります。その際、「本当に子どもがこの進学を望んでいるのか。」「もっと子どもに色々な経験を届けてあげたほうが良いのではないか。」等と悩んでしまうのです。

一方で、学習の比重を減らしてしまうと学力向上につながらないため、高校/大学への進学を意識すると「このままで大丈夫だろうか」という不安が生じやすくなります。かといって強制するのも…と方針が行ったり来たりするわけです。

唯一の答えがないからこそ、悩むことは必要

—支援者が悩みのサイクルから抜け出すためにはどうしたら良いのでしょうか?

私自身としては、大人側が悩むこと自体は良いことだと思います。当然ですが人それぞれ考え方や価値観は違うので、子どもの言動を大人側の理屈で解釈してしまうことも起こりうるでしょう。知らず知らずのうちに、大人自身の価値観に基づいて子どもに期待しすぎてしまう状況も起こりかねません。

だからこそLFAの現場では「子どもの目線に立つ」という価値観のもと、内省やチームでの対話をとても大切にしています。誰か一人が決めたことではなく、チームで「この子にとって最適な支援は何だろうか」と対話できる環境は、子どもに何か届けようとする現場にとって強みになると思います。

どんなに大人が悩んでも、何かを選択していくのはやはり子どもである必要があります子どもの決断を尊重するためにも、悩むことは必要な過程だと考えます。


画像:photoac

悩み、乗り越えることができるチームづくり

—一方で、悩み続けなければいけないのもなかなかに大変ですよね。

悩むということは状況の曖昧さに耐えるということでもあります。子どもに寄り添うためにも、答えのない不確実さを許容できる環境が現場に備わっていることも必要でしょう。LFAの場合、チームで悩みを共有出来たり対話出来たりする環境がこれにあたると思います。

先ほどまで取り上げてきた悩みも、つまりは「もっと子どもにこれを届けられるのではないか」という、支援者のより良い支援を追求しようとする姿勢の表れです。この「もっとできるのではないか」について、発展の方向性が少しでも具体的に見えているのであれば、実現に向けて働きかけることでより良い支援につながっていくと思います。しかし、「もっとできるはずなのに、自分には出来ていない」という不全感の表れである場合、支援者のバーンアウトにつながってしまうかもしれません。

特に居場所づくりなどにおいて、活動の成果が見えにくいことがあります。だからこそ、今できていることや自分たちの活動の大切さなどをチームで確認し合うことは、悩みを受け入れ、一緒に乗り越えていくために重要なことだと思います。


画像:pexels 

子どもを「待つ」環境:カナダとの比較

—「子どもの選択を尊重する」というお話がありましたが、進学・就職などのタイミングが間近に迫ってしまうことがあると思います。まだ子どもが前に進めない状態に対する支援者の焦りに、どう折り合いをつけることができるでしょうか。

そのような場合にも、子どもが選択できるときまで地道に向き合っていく必要があると私は考えています。その過程において、子どもを応援したり、自身の将来について考えるきっかけを届けたりといった働きかけを行うことはできますが、子どもに決断を迫ってしまうと、結局後から挫折してしまう可能性があるでしょう。その前に、子どもたちが自分の人生に向き合おうと思えるための回復のプロセスが必要だと思うのです。

しかし日本の支援現場において、この「待つ」支援を行うのはなかなか難しいことだとも考えています。日本では決まった年齢で決まったステージへ進んでいくという、固定的なライフスケジュールが一般的です。中学卒業後すぐに高校に進学する以外の選択肢も存在はしていますが、選びやすいとは言い難いでしょう。LFAでは高校生の居場所づくりを行う拠点がありますが、一般的に学習支援には中学3年生までといった年齢制限があると思うので、「待つ」ことのできる期間にも限界があります。

以前、若年妊娠の女性を支援するカナダの施設を見学したことがあります。何より印象的だったのは州の高等学校と連携して高等教育を受けることができる体制が整っていたことです。妊娠・出産のために彼女らはどうしても学業から一旦離れなければなりません。それでも、いつでも学びに復帰して自分の人生を切り拓いていける状況が整っていることに、一人ひとりの権利が保障されていると感じました。

権利保障としての子ども支援

—権利の保障、ですか。

子どもの貧困とは子どもの権利がはく奪されている状況だと思います。

拠点に通っていた様々な家庭の事情を抱えた子どもが、「自分が我慢すれば上手く事が回る」と話してくれたことがあります。その姿に、自分の人生を自分のものとして生きていくことの難しさを感じました。これはあくまで私の考えですが、子どもの権利が保障されている状態とは、子どもたちが自分の人生に目的とやりがいを持って、自分で選択して生きていくことができることではないかなと思っています。

子どもたちが自分の人生を自分のものとして生きようと思えるようになるまでの時間、そして選択のために必要な情報や機会などを提供することが私たちに出来ることではないでしょうか。つまり、権利保障の基盤として、安心・安全を保障する居場所が必要であり、子どもたちが欲求や意志などを取り戻した後は、「働きたい」「学びたい」などのそれぞれの目的に合った支援が選ばれていくものだと思います。学習支援はその一つであり、学習で得たものが子どもたちの人生を切り拓いていくことに繋がっていくでしょう。


画像:loosedrawing

子どもの多様な選択を尊重するためにも、地域で連携を

—このように子どもたちが自分のペースで、自己選択を積み重ねていくための体制が、日本ではあまり整っていないとのお話でした。

そうですね。どうしても長期的な関わりになってくるため、一つの団体の中で子どもを支えきるということはかなり困難だと思います。今私たちが目指していることでもありますが地域の中で様々な機関が連携し、今の子どもにとって最適な状況は何かを考えられる体制を作っていくことが重要ではないでしょうか。

子どもの選択を「待つ」ことができないのは、大人側にその環境が整備されていないからだとも考えられます。そしてそれは一団体の問題ではなく、地域の社会資源が少なかったり、連携の基盤が整っていなかったりする社会全体の課題です。その構造の悪影響が、「子どもが今頑張れたら良いのに」と子どもに向いてしまわないように、拠点内で悩むことのできる環境と同時に、地域における包括的な支援づくりについても考えていく必要があると考えています。

まとめ

今回は、宇地原さんに、大人が目指したい理想状態と子どもの現状が乖離している際に、支援者が抱く悩みやその向き合い方について伺いました。ポイントを以下にまとめます。

  • 大人の価値観を押し付けることなく、子どもの選択を尊重するためにも、大人が悩みながら視点を更新していくことが大切。
  • 不確実な状況を受け入れるためにも、支援チームの中で現状を振り返ったり、悩みについて対話したりできる環境があると良い。
  • 日本においては固定的なライフスケジュールが一般的だが、カナダには「一人ひとりの生き方に合わせて必要な機会をいつでも得られる」環境がより整っている。
  • 子どもが自分の人生を自分のものとして生きていく権利を保障するために、子どもが休める居場所や学習の機会を提供することが、私たち大人にできることではないだろうか。
  • 地域が連携することで、子ども達がより多様な選択肢を選びやすくなる。

※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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