ボランティアの育成方法ーNPO法人Learning for Allの事例ー

子ども支援団体が活動していく中で、ボランティアの協力は欠かせません。ボランティアが子どもと適切に関わっていくために、子どもとのコミュニケーション方法や学習指導方法等、ボランティア向けの研修を行う団体も多いかと思います。
今回は、NPO法人Learning for All(以下、LFA)で学習支援・居場所拠点を担当している入澤さんに、ボランティアの育成方法について伺いました。

プロフィール:入澤 充
Learning for All 子ども支援事業部。大学生当時、認定非営利活動法人Teach For Japanの1事業だったLearning for Allに参画し、非常勤職員としてLearning for Allのプログラム開発に従事。 大学卒業後、プレイワーカーとして子どもの遊び場の管理運営に携わった後、トロント大学オンタリオ教育研究所に2年間留学。留学先では社会正義教育について研究する。現在、LFA子ども支援事業部事業部長。LFAの活動を通じて、不平等を再生産するこの社会の構造を少しでも変えていきたい。最近ハマっていること:「日向坂で会いましょう」の動画を見ること

子ども支援ボランティアの育成とは

━━なぜ、LFAではボランティアの育成に力を入れているのですか?

一番の理由は、
子どもたちにとって良い影響を与えるには一定の水準の知識や技術を身につける必要があると考えるからです。

LFAでは、ボランティアにはこちらの記事の通り、子どもたちに勉強を教えたり、子どもたちにとって安心できる日常空間を作る等、直接子どもたちに向き合う役割を担ってもらっています。

その為、しっかりとした知識や技術を持ったボランティアが子どもと向き合わないと、子どもの時間を奪うことになると考えています。

また、ボランティアに対して、求めるものが多いからこそ、LFAからきちんと知識と技術を提供する必要があると考えています。子どもとの接し方がわかっていた方がボランティアも安心して活動でき、力を発揮できるだろうと考えており、育成に力を入れています。

━━ボランティアの研修の内容はどのようなものがありますか。

3段階の研修を用意しています。

  1. 事前の動画視聴(e-learning動画)
  2. 子ども指導前の対面での集合研修
  3. 子ども指導中・指導後の対面での集合研修

1の動画視聴では子どもたちとのコミュニケーション方法(褒め方・叱り方など)や心構えなど、子どもと関わる上で必要な知識を動画によって学んでもらっています。

e-learning動画によって、ボランティアをする際に必要な知識を学んでもらう

2の研修は、1の動画で学んだ知識を「実際に使ってみる」目的で実施しています。ロールプレイ(子ども役と教師役に分かれ、子どもへの指導練習を実施)を行うことで、「子どもとどのようなコミュニケーションが発生するか」「指導する中でどのような質問がでるか」等を体験してもらうことができ、指導前に子どもとの接し方をイメージできるようにしています。

3の集合研修については、子どもたちと関わっている最中・または終了後の集合研修です。事前の集合研修で身につけたことをどう活かせたのか、実際に子どもと関わってみてどう感じたか、どのように関わればよかったかなど今までの関わりを振り返り、次の行動を考えていく内容となっています。

集合研修の様子

累計1500人以上のボランティアを輩出する研修の軌跡

━━団体発足時から研修を始めていたのですか?

団体発足時から研修の必要性については感じていました。ただ、最初は何をすればよいかわからない状態でした。
当時は、教育学で有名な大学教授が講義をしてくれたり、チームビルディングを有名なコンサルティング企業に依頼していましたが、概念的な内容も多く、「これは自分たちがやろうとしている、子ども支援にどう繋がるのだろうか」と疑問に思い始めました。
そのため、自分たちの現場に即した研修を1から作成しようと思い、現在の研修の形に作り上げることになりました。

━━最初の研修は外注から始まったのですね。自分たちで研修を作る際はどのようなことをしたのでしょうか。

まずは、現場で活躍するボランティアに「子どもと関わる上で何を大切にしているか」「どういうところに力を入れているか」を聞いていきました。

当時現場のボランティアから出てきた回答は500以上ありました。その中で共通する知識・技術は何かを確認し、項目を整理をすることで、ボランティアに身につけて欲しい知識や技術が少しずつ見えていきました。
例えば、子どもたちへのコミュニケーションの取り方(褒め方・叱り方など)や、子どもたちの発言を肯定的に捉える心構え、子どもが勉強を理解できるように単元を少しずつ教えていく指導方法など、現場で活躍するボランティアが既に持っている良い点をまとめ、研修の素案を作っていきました。

研修の素案ができたら、それを現場のボランティアに共有し意見をもらう、これを繰り返すことで、自分たち独自の研修を完成させました。

当時の研修は、作ったときの満足度はとても高かったのですが、「良い実践内容」を全て詰め込んだこともあり、研修担当の職員やボランティアにとっては負担が大きかったのも事実です。
具体的にいうと、朝10:00~夜19:00までの研修を2日間行ってから子どもと関わり、その後朝10:00~夜19:00までの事後研修を1日行うというスケジュールでした。

━━負担が大きかったという当初の研修は、負担軽減のために再度修正したのですか?

そうですね。拠点を増やしボランティアを増やしていくには研修の大事な部分は残しながらもボランティアが参加しやすい形へと負担を軽減する必要があると感じていたのと、スタッフとしても継続してボランティアを育成していくには負担軽減は必須だと思い、修正しました。

そこで、まずは研修をe-learning動画にして、ボランティアが好きな時に手軽にいつでも知識を学ぶ形に変更し、現在の形に落ち着きました。
現在の研修についても、ボランティアの研修にしてはとても膨大な量だと言われることもありますが、ボランティアから「子どもに関わる時に役に立っている、研修があることで安心して参加できる」という声は多いです。

現場で使われる研修を作るには

━━研修を作るにあたって参考にしたものはありますか?

「学習する組織」という本や、教師教育学に関連する書籍を参考にしました。

画像引用:「学習する組織――システム思考で未来を創造する」英治出版オンラインストア

上記のような書籍は参考にしましたが、読むべき参考書・必要な知識が何かを理解するためにも、研修を作る際には、「ボランティアが行っていることは何か?」を分析することからはじめました。

例えば、ボランティアは「子どもに勉強を教える」「子どもを受け入れるコミュニケーションができる」などの役割を担いますが、前者は教科指導の知識・後者はカウンセリングの知識になります。

このように「実施していること」を分析していくと、「学校の先生を育成することに近いのでは」という考えに至り、教師教育学を勉強しました。

その他、下記のような「組織として一緒に活動する上で必要なこと」も研修に取り入れるようにしました。

  1. ビジョン共有(組織の目的共有)
  2. チームビルディング(組織の協力体制作り)
  3. リスク対応(コンプライアンス・個人情報管理・危機管理)

自分たちが行っていることにはどのような知識や技術が必要か、「実施していること」を詳細に分析すると研修は作りやすいと思います。

━━研修はどれくらいの頻度で更新しているのですか?

研修の更新タイミングは今はほとんどありません。
独自の研修を作った当初は、1回研修を行うたびに現場からの意見を参考にいらないところをカットしたり、わかりやすくしたり、必要な内容を追加したりと何度も調整を行なっていました。

自分たちが目指していることを研修を通してボランティアに伝えていく中で、伝わっていなければ更新や調整が必要です。そのため、現場からの意見は非常に大切にしていました。

まとめ

入澤さん、ありがとうございました。
最後に、LFAにおけるボランティアの育成方法についてポイントをまとめます。

・子どもたちにとって良い影響を与えるには一定の水準の知識や技術を身につける必要がある
・研修作成時は、現場で活躍するボランティアに「子どもと関わる上で何を大切にしているか」「どういうところに力を入れているか」をヒアリングし、要素を洗い出す
・自分たちが行っていることにはどのような知識や技術が必要か、「実施していること」を詳細に分析すると研修は作りやすい
・研修ができたら、現場の意見を聞きながら更新していく

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※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

 

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