2024年3月28日に、認定NPO法人Learning for All(以下、LFA)と東京大学大学院教育学研究科(以下、東京大学)は、「地域協働型子ども包括支援」の実態・成果を明らかにするべく共同で実施した調査に関する公開シンポジウムを開催しました。
イベントレポート第2回は、東京大学大学院教育学研究科博士課程の田中祐児さんと別府崇善さんによるアンケート調査(定量調査)の発表内容のポイントと、調査報告に対する質疑応答を一部お送りします。
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プロフィール:田中祐児 氏
東京大学大学院教育学研究科博士課程在籍.修士(教育学)。専門は福祉社会学。主な業績として、「貧困言説における自己責任論と子どもの貧困論の関係」『現代の社会病理』37(2022)や,「貧困者の子どもの有無が貧困の帰責に与える影響」『社会学評論』74(3)(2023)など。
プロフィール:別府崇善 氏
東京大学大学院教育学研究科博士課程在籍。修士(教育学)。専門は教育社会学。主な業績として、“How do school nonattenders enter high school?” World Education Research Association, Singapore, 2023.11.2(口頭発表)、「学校教育現場に社会モデルはどのように導入できるか」博報堂教育財団、第19回児童教育実践についての研究助成、2024年度研究代表者(研究採択)など。
定量調査の概要
定量調査は「地域協働型子ども包括支援」における子ども支援の効果および現状について、支援に関わる各アクターの状況を包括的に捉えることを目指して実施されました。
本調査の対象は大きく次の3つです。
①6 歳〜18 歳の支援拠点の利用者(以下、子ども調査)
②支援拠点利用者の保護者(以下、保護者調査)
③支援団体のスタッフおよびこども支援に関わる地域の支援者(以下、地域支援者調査)
出典:『地域協働型子ども包括支援の効果と課題:Learning for All×東京大学による質問紙調査を通じて』序章:調査の概要
また、各調査における主な設問項目は次の通りです。
①子ども調査
支援拠点の利用期間や頻度を含めた基本的属性情報の他に、居場所に関する認識、学習意欲、学習環境、自己肯定感、支援拠点の満足度などに関する項目
②保護者調査
現在利用中の社会保障制度や支援拠点の利用期間や頻度を含めた基本的属性情報の他に、経済的困難状況、育児環境、子育て満足度、子育て経験などについての項目
③地域支援者調査
こども支援に関わる支援者の雇用状況、地域社会との連携および自治体の支援状況に対する認識、ボランティア支援者の参加経緯および満足度などについての項目
子ども調査
子ども調査の結果から見えたこと
田中:子ども調査からわかったことは、大きく下記の4つです。
- 利用者の家庭の安定度(家庭の蔵書数)は、やりたいこと意識や拠点満足度などに正の影響をもたらしている。苦しい状況にある世帯の対象者が多いが、その中でも相対的に恵まれているかどうかが重要である。
- 性別との関連を有する項目も多かった。概して、男子よりも女子の方がより肯定的な回答をしていた。
- 家庭の安定度や性別のみが、やりたいこと意識などの項目と関連するのではなく、利用頻度も多く関連していた。利用頻度が高い方が、より肯定的な回答をしていた。
- 利用者の頻繁な利用は、利用者の状況を好転させる効果がある可能性があることがわかった。ただし、団体の活動方針や利用者の都合などもあるため、あくまでも相関なので、全員の利用頻度を高めれば良いという話ではない。
保護者調査
保護者調査の結果から見えたこと
田中:保護者調査からわかったことは、大きく下記の3つです。
- 保護者調査からは経済的な困難さを抱えている世帯ほど、拠点の利用頻度が高いことが示された。
- 子ども調査からは、利用頻度の高さが利用者の状況を好転させる可能性が示唆された。
- 上記のことから、各種の団体による積極的な関わりは、利用者世帯の経済的な困難を乗り越えて、利用者の状況が好転しうることが示されたと言えるだろう。
子ども調査と保護者調査がもつ限界
田中:今回の定量調査では当初、①保護者の回答②子どもの回答③団体が所有する家庭の状況(例えば生活保護受給の有無など)の3つの情報を子ども単位で組み合わせることを目指していましたが、回答者のプライバシーや現場の支援者への負担への懸念のために、組み合わせるための情報を十分に収集できず、実際に組み合わせることはほとんどできませんでした。
「効果検証」という目的を果たすのであれば、適切な調査デザインを行う必要があると思います。そのような調査デザインは対象者や現場の支援者の負担をより強くするかもしれませんが、どのような調査であれ対象者には迷惑がかかるし、中途半端な調査をすることによって当初の目的を果たせないことの方が避けなければならないように思われます。ただしNPOと大学でできることには限界があり、そもそもこのような調査をしなくてはならない現状を含め、行政による活動が求められると考えます。
地域支援者調査
地域支援者調査の結果から見えたこと
別府:調査結果から見えた、3つのポイントをご紹介します。
①地域支援者の労働環境
添付のアンケート結果から、報酬の状況も厳しく、心身の負担も決して楽ではないという、活動を維持するための基盤や展望の希薄さが浮かび上がってきました。
出典:別府さん作成
知識やスキルの育成機会があることで、10年後もこの活動を続けていきたいと思いつつも、今後のキャリアや働き方について不安を感じている割合も一定数ありました。
出典:別府さん作成
②地域社会との連携状況
NPOによる支援は地域の人々に支えられている面が大きく、地域の中には更なる子ども支援のための資源が求められています。
また、所属する組織や従事する活動の内容によって、どこが地域の子ども支援の主導をしているかという認識が大きく異なる結果が出ており、地域内での諸団体の役割分担や協力の可能性について、団体や組織の間での目線合わせがさらに必要とされています。
出典:別府さん作成
③ボランティア支援者について
「支援に必要な知識やスキルに関して教育や相談を受ける機会が多くある」と感じている割合はかなり高いことがわかりました。
しかし、ボランティア活動が今後のキャリアに繋がると考える割合は16%と、とても低い結果となり、子ども支援の領域が、キャリア形成において魅力的であるための政策や行政上の取り組みの必要性があることがわかりました。
出典:別府さん作成
出典:別府さん作成
地域支援者調査の限界と今後の展望
別府:初めての調査であり、試験的な実施だったために、何を母集団として設定するかの難しさが際立ちました。 多様な職種、多様な地域、限定的な回答者数という条件の中で、どのようにして調査をより効果的なものにしていくかが課題として浮かび上がりました。
その上で、調査設計の工夫と今後の発展として、無回答の多さについては調査に関する負担を軽減していくことやどのような仮説を想定し調査するかが重要になっていくだろうと考えます。
質疑応答
ー参加者)調査者のみなさんが印象的に残ったことや意外だったことを教えていただきたい。
田中:利用頻度がこんなにも様々な項目に影響を与えるのだということが印象的でした。子どもへの調査でも保護者への調査でも、同様の結果が出ていました。
別府:今回の調査は回答者数が限られたので仮説的ではありますが、NPOで活動されている方とそれ以外で活動される方の認識が大きく違うことが意外でした。実態がどうなっているかや、それをどうすり合わせていくかということが印象に残っています。
小野:定性調査で印象的だったポイントは、「何もしない」「〜しすぎない」「余白の時間」という、意図的に関わりすぎない点について複数の支援者から言及があったこと。そこをどう評価していくかが今後重要になっていくのではないかと思います。
イベントレポート第3回ではLFA代表理事の李 氏と、共同調査の協力者である東京大学教育学研究科 教授の本田 氏、同 准教授の大塚 氏の3名によるパネルディスカッションの様子をお伝えします。
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