【連載第1回】LGBTの子どもと生きる ーLGBTの子どもが抱える悩みとは?ー

最近はテレビやインターネットなどで、LGBTに関する話題がよく取り上げられています。芸能人でカミングアウト(自分のセクシュアリティを他の人に打ち明けること)をされている方もいらっしゃいますし、以前よりもこのテーマを身近に感じるようになったという人もいるのではないでしょうか。

さて、日本では、LGBTの人たちは3~10%ほど(※)といわれますが、見た目ではわからないため、いないことにされがちです。しかし実際には気づいていないだけで、私たちが関わる子どもの中にも、LGBTの子どもがいるかもしれません

今回は、LGBTの子どもがどのような悩みを抱えて日々を過ごしているのか、「LGBTを含めた全ての子どもがありのままで大人になれる社会」を目指す認定NPO法人 ReBit(以下、ReBit)の小川さんにお話を伺いました。

プロフィール:小川 奈津己
認定NPO法人ReBit教育事業部マネージャー。大学在学中よりReBitで活動。卒業後は私立中高一貫校にて勤務した後、2018年ReBitへ転職。現在は教育事業部マネージャーとして授業や研修、教材制作などを担当している。

 

LGBTとは?

LGBTとは、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字からなる、セクシュアルマイノリティの総称の一つです。インタビューに入る前にまず簡単にそれぞれの言葉の意味を説明します。

レズビアン:自身を女性と自認しており、性的指向が女性に向く
ゲイ:自身を男性と自認しており、性的指向が男性に向く
バイセクシュアル:男性・女性のどちらにも性的指向が向く
トランスジェンダー:身体的性と自認する性が一致しない

(「【当事者監修】LGBTとは?【2021年度最新版】」JobRainbowマガジン)

そもそもセクシュアリティ(性のあり方)は人それぞれで、これらもまた多様な性のあり方のうちの一部です。しかし、身体的性と自認する性が一致していて、性的指向が異性に向くことが「普通」とされる社会では、セクシュアルマイノリティであることで困難に直面することも少なくありません。

それでは、ReBitさんに活動内容やLGBTの子どもが抱える悩みについてお伺いしていきます。

 

ReBitの活動内容

ーReBitさんはどのような活動をされていますか。

「LGBTを含めた全ての子どもがありのままで大人になれる社会」を目指して活動しています。今現在、教育事業とキャリア事業の2つを行っています。

教育事業では、子どもへの授業や保護者・先生への研修を行い、正しい情報と適切な支援が届くことを目指しています。それ以外にも教材や書籍の発行、授業や研修をする講師の育成を行っています。

2013年から始めたキャリア事業では、企業への研修や就労支援者の育成を通して、就活・就労をする人のサポートを行っています。

  • 企業への研修
  • 働くことに悩みを抱える人への個別のキャリアカウンセリング
  • ダイバーシティキャリアフォーラム:年に1回行っており、働きたい方、企業、就労支援者の三者が繋がる機会を作っています。(ReBitさんのイベント最新情報はこちらからご覧いただけます。)
  • nijippo(にじっぽ):就労支援者の育成事業です。大学のキャリアセンターやハローワークの職員さんに対してLGBTへの就労支援ができるよう勉強する機会を提供しています。

さらに、今夏からは就労移行支援事業所のダイバーシティキャリア新宿を立ち上げます。LGBT×障害などのように二重三重のマイノリティをもつ方は、一方のマイノリティには理解を得られても、もう一方には理解が得られないために就職活動でつまずく場面が多いです。そのような複合的マイノリティの方の支援を行っています。

 

LGBTの方が抱える悩み

ーLGBTの子どもはどれくらいの時期に自分の性自認や性的指向に気がつくのでしょうか。

LGBTは大きく分類すると、性的指向に関わるLGB(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル)と性自認に関わるT(トランスジェンダー)に分けられますが、トランスジェンダーで言えば、6割近く(56.6%)が小学校入学までに、8割(80%)が中学校入学までに、性別違和を感じ始めると言われています。就学前から小学生の間に違和感に気づくことが多いです。
(『封じ込められた子ども、その心を聴く:性同一性障害の生徒に向き合う』中塚幹也、ふくろう出版、2017年)

ゲイ・バイセクシャル男性対象の調査では、自分が同性を好きだと気付いた年齢で最も多いのは中学1年生と出ています。自身の性的指向に気づくのは小学校高学年から高校生にかけての思春期が多いと言われています。思春期にありがちな恋愛トークの中で、他の人と自分は違うのではないかと気づくことは多いです。
(「LGBTの学校生活に関する実態調査(2013)」いのちリスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン、2014)

ーLGBTの子どもはどのような悩みを抱えることが多いのでしょうか。

学校の中ではさまざまなことが男女別になっています。例えば、席順や名簿、掲示物の色などです。

トランスジェンダーの子どもは、毎回「いやだな」と思いながら過ごさなければいけません。トイレや更衣室、プール、宿泊時の部屋割りなど、男女別になる場面は数えればきりがありません。

また、裸になったり上半身が見えたりする場面で、困難を抱えるのはトランスジェンダーだけではありません。同性愛・両性愛の子どもも、恋愛対象になりうる人から体を見られることへの抵抗感や、逆に恋愛対象になりうる人の体を見てしまう罪悪感を感じる場合もあります。

さらに、進路選択の時期になると、制服も大きな壁になります。制服のない学校に行きたいと考えていても、地域によってはそもそもそのような学校がない場合もあり、選択肢が狭まってしまうことに繋がります。

ーカミングアウトに関してはどのような悩みを抱えることが多いですか。

カミングアウトに関する悩みも大きいです。周囲の人がLGBTに理解があるかどうかわからないと、自分のセクシャリティに関する相談をしたくてもなかなかカミングアウトできません。実際にホモ・オカマなどの言葉を学校の中で見聞きしたことがある人は中学生の半数以上(51%)いますし、LGBTの人たちの7割ほど(68%)が小学校から高校までの間にいじめや暴力を受けたことがあるという調査結果もあります。
(「多様な性に関する授業がもたらす教育効果の調査報告」ReBit、2019)
(「LGBTの学校生活に関する実態調査(2013)」いのちリスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン、2014)

同じく小学校から高校の間にカミングアウトしたことがある人は約6割(61%)で、その相手で一番多いのは同級生で7割くらい(72%)です。ちなみに、先生の中では養護教諭が最も多く14%、家族の中では母親が最も多く23%となっています。
(「LGBTの学校生活に関する実態調査(2013)」いのちリスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン、2014)

家族へのカミングアウトが意外と少ない理由は、大きなリスクがあるからです。家族に受け入れてもらえないと、住む場所を失ったり、経済基盤を失ったりする可能性があります距離の近さゆえの相談のしづらさは大きな悩みの一つだと思います。

ー就職・就労の過程ではどのような困りごとがありますか。

就職においては、履歴書に性別を書かなければならなかったり、男女別のスーツを着なければならなかったりで、そもそも就職活動の入口に立てないという困りごとがあります。また、学生時代にLGBTに関する活動に力を入れていても、それを履歴書に記載するとセクシュアリティを詮索されてしまうため記載できず、自己PRができないという悩みもあります。

また、たとえ就職活動の入口に立てたとしても、就職活動の過程でSOGIハラスメント(性的指向や性自認に関連して、差別的な言動や嘲笑、いじめや暴力などの精神的・肉体的な嫌がらせを受けること)を受けることが多いです。例えば、トランスジェンダーの人が面接で「君の体で子どもは産めるの?」と言われたという例がありますが、これはSOGIハラスメントであると同時にセクシュアルハラスメントです。

このように、求職時に性的指向・性自認に由来した困難を抱えた経験がある人は、トランスジェンダーで約9割(87.4%)、同性愛者・両性愛者で4割以上(42.5%)います。
(「LGBTや性的マイノリティの就職活動に関する現状調査」、ReBit、2018)

就職後の悩みとしては、例えば同性のパートナーがいることを隠し通さないといけない、同僚から「あの人全然結婚しないけれど、ホモなんじゃない?」等の噂をされるなど、人間関係やコミュニケーション上の課題が原因で働きづらくなることがあります。職場内での心理的安全性が保たれていないことは勤続意欲や勤続年数にも影響します

ー子どもの頃から就職・就労に至るまで、様々な困難を抱えているのですね。最近テレビなどでLGBTの話がよく出るようになりましたが、子どもたち自身や保護者の方のLGBTに対する眼差しに変化は感じますか。

正しい情報の広まりによって、変な人、おかしな人、というイメージは徐々に減りつつあります。それでも自分の身近ではなくTVの中にいる人たちというイメージは拭えておらず、「まさか自分の周りにいるなんて」「こんな田舎にいるわけない」と思う人も依然として多いように感じます。LGBTの人たちが身近にいるかもしれないことを常に想定しながら人と接することが大切だと思います。

 

まとめ

  • 就学前から小学生の間、さらに思春期や第二次性徴期に、自分の性のあり方に違和感を感じる子どもは多い。
  • 学校など様々な場所に不要な男女別が多く、それで悩みを抱えることは多い。
  • カミングアウトにおいては、距離感が近い相手ほど相談がしにくいこともある。

何も考えずに過ごしていると気づかないことや当たり前だと思っていることに対して、LGBTの方が悩みを抱えている可能性があるのですね。小川さんのお話をお伺いして、想像力を働かせていこうと思いました。

次回は、LGBTの子どもにとってどのような環境があると過ごしやすいのか、どのような振る舞いをするスタッフがいると安心ができるのか、お話を伺っていこうと思います。

第2回はこちら

【連載第2回】LGBTの子どもと生きる ーLGBTの子どもにとってどんな環境が過ごしやすいか?ー
【連載第2回】LGBTの子どもと生きる ーLGBTの子どもにとってどんな環境が過ごしやすいか?ー

 

※LGBTの人たちの割合の参考元:「大阪市民の働き方と暮らしの多様性と共生にかんするアンケート」「働き方と暮らしの多様性と共生」研究チーム(2019)、「LGBTに関する職場の意識調査」日本労働組合総連合会(2016)、「LGBTに関する意識調査」株式会社LGBT総合研究所(2016)、「LGBT調査2018」電通ダイバーシティ・ラボ(2018)、「多様な性と生活についてのアンケート調査」日高庸晴・三重県男女共同参画センター「フレンテみえ」(2018)、「高校生の生と性に関する調査」岩手県高校教育研究会学校保健部会・いわて思春期研究会(2013)

※本記事の内容は個人の見解であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

この記事は役に立ちましたか?