【第2回】子どものために大人が手を取り合う社会をつくるには~NPO法人チャリティーサンタの連携事例~

年に1回のクリスマスや誕生日は、多くの子どもたちが楽しみにしている行事です。一方で、これらのお祝いに対して経済的な理由で不安を抱いているご家庭もおり、シングルマザーを対象にした調査では、3人に1人は「クリスマスなんて来ないでほしい」と思っていることも明らかになっています。また行事のお祝いに限らず、様々な体験において経済的な理由で格差が生じており、物価高騰の影響で「体験の格差」が今後さらに拡大することが懸念されています※。
※参照:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000011.000082214.html

本記事では、子ども・家庭のニーズを元に、クリスマスにご家庭にプレゼントを届けるサンタ活動やブックサンタ、誕生日の子どもにケーキを届けるシェアケーキなど様々な事業を展開しているNPO法人チャリティーサンタの代表理事 清輔さんと、理事 河津さんに、団体の活動内容や様々な「連携」についてお話を伺います。

連載第1回はこちら:

【第1回】子どものために大人が手を取り合う社会をつくるには~NPO法人チャリティーサンタの連携事例~
【第1回】子どものために大人が手を取り合う社会をつくるには~NPO法人チャリティーサンタの連携事例~

プロフィール:清輔(きよすけ)夏輝 
NPO法人チャリティーサンタ代表理事。6歳のクリスマスにサンタさんから直接プレゼントをもらったことが原体験。 ヒッチハイクで日本3周。旅で出会った僧侶から「恩送り」という価値観を学びチャリティーサンタの活動を2008年開始。国立 有明高専 建築学科卒。建築設計事務所、ITフリーランス、株式会社サイバーエージェントを経て、2014年より現職。福岡県出身。

プロフィール:河津 泉
大学生時代より、地域づくりやボランティア活動に従事。大学卒業後は一般企業、大学職員などの経歴を経て、NPO業界へ。現在NPO法人チャリティーサンタで主に子どもの貧困に関わる事業や行政との協働事業などを担当。岡山県岡山市出身。

団体の活動内容

ひとり親家庭の体験応援プロジェクト

清輔:サンタ活動やブックサンタなどは全国規模の活動ですが、地域を限定して行っている取り組みとして、ひとり親家庭や困窮世帯の体験支援の取り組みがあります。現在は岡山市を中心に行っています。

河津:私たちはもともと「クリスマス」「サンタクロース」という、社会的認知度の高い活動を通じて家庭が申し込みやすい特徴があります。困窮世帯の支援の入り口をクリスマスとすることで、子どもが子ども時代に必要な体験や思いでをクリスマス以外にも広げていきたいなと思っていたんです。そこで、岡山市の子ども福祉課の担当者に相談してみると「貧困の連鎖を止めたり子どもの自己肯定感をあげるための施策として、体験活動や親子の時間を増やすことが出来たらいいね」という話になりました。ただ、食事や学習と比べると、当時は根拠となる「家庭のニーズ」として見えるものが少なかったため、まずは岡山市内の児童扶養手当受給世帯に対してニーズ調査を行うことにしました。

その際幼少時の子どもたちをもつ家庭にとって体験の支援のニーズがあると考え、岡山市内で3歳から9歳の子どもを持つ児童扶養手当受給中の家庭に対象を絞ってアンケートを実施しました。

そのアンケートでは「子どもがしたいと思った体験ができなかったことはありますか?」と聞いたところ、「はい」と答えたのは約8割。今後の不安も含めると、9割以上のご家庭が、体験や思い出に対してしんどさを持っていることがわかりました。

「夏休みなどに思い出を作ってあげたいのに、仕事を休むと生活できないし、かといって貯蓄もないし、どこにも連れて行ってあげられない。親らしいことが全然できていません。家でも心に余裕が無くイライラするばかりで、本当に申し訳ないと思っています」という声も頂きました。子どもがしたいと思っていることを経済的な理由でさせてあげられないのは、子どもだけでなく親も傷ついているんだなと感じました。

このような状況を解消していくためにどうしたらいいのかを考えて、岡山市と企業とチャリティーサンタが連携して体験の場を生み出す事業を開始しました。

行政は、児童扶養手当や生活援助受給世帯にアプローチができるので、ご家庭にダイレクトに情報を届けられるという強みがあるものの、「体験」の支援数がニーズ数に対して十分ではない部分もあります。一方で、企業からは「子どもやご家庭に対して、自分たちらしい支援をしたいけど、何をしたらいいかわからない」というお悩みの声を頂くことがあります。私たちとして、その両者を上手くつなげられないかと思い、この取り組みを進めています。

清輔:過去には、化粧品メーカーさんが運営しているエステにシングルマザーの方々をお招きして、お母さんのエステ体験と子どもの職業体験ができる取り組みや、ひとり親家庭・困窮世帯の皆さんを完全無料で動物園にご招待する取り組みを行い、とても好評を頂いていました。


動物園に招待している様子(画像提供:NPO法人チャリティーサンタ)

河津:洋服を扱うアパレル会社の方から「服屋でできることって何かあるだろうか」というご相談を頂いたこともあります。

最初は「子どもが店員役になって、売られている服を使ってお母さんのコーディネートをしてもらう」という職業体験のアイディアも出たんですが、「その場だけかわいくしても、その洋服を買って帰れないのはちょっと辛いよね…」という話になり、再度プログラムを考え直していた際に、先方から「古着だったら集まるんですけどね…でも古着って嫌がられますよね?」と言ってもらえたんです。でも、アパレル店員さんの古着っておしゃれなものが多いですし、着用回数もそこまで多くない、新古品のようなものも多い。そこで、アパレル店員さんの古着を集めて、子どもたちにお母さんのコーディネートを組んでもらい、その洋服はそのまま持って帰ることができる取り組みを実施しました。実際にやってみると、親子で楽しめる時間となり、お母さん達が目をキラキラさせて帰っていったんです。アパレル店員さんは「人をエンパワーメントする」プロだと改めて感じました。

清輔:私のお気に入りは、地元の洋品店と連携したプロジェクトです。真珠のネックレスは通常、外国人の首周りのサイズに合わせているため、購入した際にサイズ調整で余ってしまう真珠があるそうです。その真珠に着目したお店が顧客に寄付を募り、1玉のペンダントを作り、ひとり親家庭のお母さんにプレゼントするプロジェクトを行っています。私たちは家庭の対応や、親子の思い出となるような企画のながれづくりをお手伝いしています。今回の企画では、子どもたちに、そのペンダントを入れるケースを作ってもらい、渡すなどのアイディア出しをしながら、当日の企画の流れを作り上げました。

この事例は、洋品店にとっても「そのお店で買うからこそ、困窮家庭の親子のために何かできる」と、お客さんからファンになってもらえるような仕組みになっているんじゃないかと思います。

「食」の分野だとフードバンク等で既に行われていますが、このように余ったリソースをつなぐアイディアって「食」以外にもたくさんの可能性があるんじゃないかと考えています。いつか映画館とも一緒に何かできたらいいなと思っています。

—地域密着型で様々な取り組みをされているんですね。地元の企業との連携づくりにおいて、大事にしていることや工夫していることはありますか。

河津:基本は「家庭の声」だと思っています。先ほどお話したアパレル企業の事例でも、企業の方から「古着って嫌がられますよね…?」と聞かれたときに、私たちは既に過去のアンケート結果から、「古着の交換会」に一定のニーズの声が届いていました。もちろん古着が苦手な方もいるけど、必要だと感じている家庭もいます。普段は自分のために服を選ぶことを我慢しているご家庭もいるのであれば、「自分で選ぶ」ことの喜びを得られる1つのプログラムとして成立するのではないか、と考えて実施することに決めました。

私たちは何事においてもニーズ・調査を重要視している団体です。企業からの「これってニーズがあるの?」「必要とされているの?」という質問に対して、家庭の代弁者としてそのニーズを示せるということは、連携をするときの1つのポイントになるんじゃないかなと思っています。

もちろん、動物園の招待や演劇の鑑賞のチケット提供など、明確にご家庭からのニーズがある企画を企業からご用意いただくこともありますが、いざ招待しようと思っても、自分たちだけで家庭を取りまとめて、家庭にチケットを発送したり、家庭への連絡したり…といったコストを考えると、企業としてはなかなか一歩踏み出せない、ということも少なくありません。

そこで、普段から家庭への情報発信や体験活動などでやり取りをしている私たちが、それらの取りまとめや調整を請け負うことで、積極的に連携してくださる企業が年々増えていると感じています。このようにサポートを積極的に引き受けていくと、子どもやご家庭に届けられる支援のメニューを増やすことにもつながります。


画像:NPO法人チャリティーサンタ作成

—これらの体験活動を通じて、子どもたちやご家庭にはどのような変化が起こったと感じていらっしゃいますか?

河津:体験活動に参加してくださったご家庭に、後日アンケートをとったときに「子育てや子どもの体験活動について、人の力を借りることに少し抵抗が無くなった」と書いてくれた方が増えたのが印象的でした。


画像:NPO法人チャリティーサンタ作成

子ども・ご家庭にとっては、衣食住の支援だけでなく「体験活動」のニーズも高いので、支援の入り口になりやすいなと感じています。体験活動で人と出会ったり、活動の過程でいろんなふれあいがあるので、体験活動を通して前向きな気持ちを届けられているのではないかと思います。

参加いただいた方からは「(案内の)メールが届く度に、楽しみな気持ちで開いています。息子の可能性を広げていただき、感謝しています」「目先の生活でいっぱいいっぱいだったけど、イベントに参加できて、お友達と『こんな休日だったよ』とお話しできました」「自分の気持ちを受けてもらえた喜びを感じています」といった喜びの声を頂いており、体験活動を重ねていくことで、良い変化も生まれているなと感じています。

この取り組みは、地方創生SDGsの優良事例(※)にも選んでいただきました。このような仕組みが多くの地域にあれば、参加できる人も増えるし、新しい魅力的な試みが生まれていくだろうなと思います。今後も様々な地域で実践していきたいですね。
https://future-city.go.jp/platform/case/2021/

おかやま親子応援メール

清輔:岡山市では家庭に情報を届ける仕組みとして「おかやま親子応援メール」という活動も行っています。


画像:おかやま親子応援メールチラシ

前述のニーズ調査(2019年11月)の後、支援活動に繋げる側面から、アンケート回答をした345世帯に対し、継続的に支援情報の提供を行っており、家庭からも情報が届くことへの感謝の声があがるようになりました。その後、2020年7月、新型コロナの発生により、困窮世帯はより生活に困難に陥る家庭が増えました。当初チャリティーサンタでは345世帯への情報を提供していましたが、それ以上に支援の重要性が増し、届ける情報の内容も広げる必要性が強くなっていきました。

岡山市では、チャリティーサンタが体験支援で行っていた支援情報の提供を例として、実際に届けた際の家庭ののニーズがあることを踏まえ、メール配信事業「おかやま親子応援メール」事業を施策に位置付け、さらに広く困窮世帯に支援情報の提供を行うことにしました。

これは岡山市、岡山市社会福祉協議会、岡山の中にあるNPOらと連携し、情報を官民連携で提供する取り組みで、現在は、週に1回メルマガ・LINE配信を送る運営事務局の役割を私たちが担っています。私たちが取りまとめてはいますが、行政が持っている情報と、民間の情報をできるだけ集めて発信するように心掛けており、先ほどお話したような、地域で行っているプロジェクトの案内もお送りしています。

—情報発信に対して、気を付けていることや工夫していることはありますか。

河津:家庭のニーズを確認しながら、何を発信するのかを決めるようにしています。そのため、このメルマガに登録していただく時にアンケートを取って、「どういう情報が必要とされているのか」という家庭のニーズを必ず確認しています。アンケートは結構細かくとっていますし、定期的に定点アンケートも実施して「どんな支援が役に立ったのか」「現在の状況はどうか」等も確認しています。

そこで、たとえば「託児のことで困っている家庭が一定数いるな」という傾向が見えると思ったら、担当課から関係課に「何か家庭に届けるいい情報はないだろうか」と声掛けしてもらう、等の動きをとっています。

またタイミングが合えば、議会質問の時にの回答材料としてアンケート結果を使ってもらったり、議員向けの勉強会に呼んでいただいた際に内容を紹介したりもしています。アンケート結果には「どういうものが必要なのか」という困りごと・ニーズが表れているため、「現状がこうだから、こういうことが必要ですよね」と根拠を持って言えるようなツールになっていると感じます。

—一方的な情報発信ではなくアンケート等を通じて双方向のコミュニケーションをしているからこそ、ニーズに応じた情報も発信できるし、議会などでの次のアクションにもつなげられるんですね。

河津:始めたころは「ニーズ調査とはいえ、アンケートを細かくとりすぎると答えてくれないんじゃないか…」等と不安でしたが、続ける中で「情報が届く」こと自体が、家庭に嬉しいと思ってもらえているんだと実感を持てるようになりました。市役所の皆さんにも「このやり方だったら、ちゃんと家庭に情報を届けられるんだね!」と思って頂き、定着しつつあります。

「おかやま親子応援メール」は、多くの家庭に支援を届けられる、官民協働の良い事例だなと思っています。他の地域でも「頑張っている民間団体はいるけど、なかなか必要な情報が行き届かない…」「行政だけの情報だと堅苦しくて読む人が限られてしまう…」などのお悩みを持っていらっしゃるかもしれません。ただ、岡山でこの取り組みができているということは、他の都道府県でもきっとできるはずだと考えています。

清輔:この「おかやま親子応援メール」は3年ほどやっています。実際にやってみるととてもニーズがありますし、既に市で予算化もされています。他の地域でも、自治体とその地域のNPOが一緒に取り組んで、どんどん広がっていくと良いなと思っています。

まとめ

今回は、NPO法人チャリティーサンタの清輔さんと河津さんに、地域を限定して行っている活動内容について伺いました。ポイントを以下にまとめます。

  • 経済的に厳しい家庭を支援するために、岡山市では地元企業や行政と連携して、「困窮世帯に向けた体験支援の掘り起こし」や「おかやま親子応援メール」という取り組みを行っている。
  • 企業や行政と連携して体験活動を作る際には、それぞれの強みや得意なことを活かした役割分担を行っている。
  • 家庭への情報発信においてもニーズの確認を重視しており、定期的なアンケートの実施等を通じて、必要な支援・情報が何かを把握した上で発信している。

※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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