2022年4月25日に、子どもに向き合う全国各地の支援者が学び/知見/意見をシェアするオンラインイベント「こども支援ナビMeetup」の第7回が開催されました。
本イベントでは、一般社団法人草の根ささえあいプロジェクト代表理事の渡辺 ゆりか氏をゲストにお迎えし、地域で連携して子ども・若者を支えることの必要性や、地域ネットワークづくりの具体的な実践内容についてお伺いしました。
今回のレポートでは、参加者と渡辺様の質疑応答の様子をお届けします。
行政から数値ではなくエピソードを求められるようになった経緯
—参加者:名古屋市から求められる成果が、数値ではなくエピソードになったのは、とても素敵な合意が取れていると感じました。その合意を取った経緯や工夫を教えていただけると幸いです。
もともと合意できていたものと、私たちが仕掛けたものが半分ずつあります。
子ども・若者育成支援推進法が始まる前に、名古屋地域で委員会の皆さんのディスカッションがありました。教育機会確保法ができる前ではありましたが、そのディスカッションの際に「一人ひとりの若者の学びたいスタイルや生きたいスタイルを大事にしよう」という議論が散々なされたと聞いています。
子ども・若者総合相談センターは国の方針に基づく事業ですし、委託事業者の選出(企画コンペ)の際、名だたる地域の団体が8団体くらいエントリーしていました。当時、まだ立ち上げて1年くらいの私たちが受託できたのは、名古屋市と同じ思いを企画書にしたためていたのが決め手だと、後から聞いてます。そのため、受託当初から、合意に近いものは取れていました。
ただ、実際に事業が始まってからは、行政の担当課からは支援に時間がかかりすぎているのでは?丁寧でありすぎるのでは?と指摘をうけました。社会と繋がることに極端な苦手意識を持つ子たちが来るので、私たちはまず本人たちと信頼関係を築いて、それから本人を中心に社会資源を開拓していこうとします。そうするとかなり時間がかかるんですね。名古屋市の担当課からは「今のやり方は若者が滞留する。引きこもりなら引きこもり支援センター、障害なら障害機関センター、不登校なら教育センター、病気なら病院に繋いでくれればもっとスピードアップできるのではないですか?」と言われましたが、そこは話し合いました。
その代わりに「センターの丁寧な支援の中で、こんなことが起きた」という若者のエピソードを、担当課に伝え続けました。段々と、他の地域の方からも注目を頂くようになって、名古屋市としても不安が払拭されると同時に、今まで伝えてきたエピソードがガチっと合わさりました。その担当課の人たちが様々な場所で、私たちがお伝えしたエピソードを語ってくださるようになったんです。行政の担当者が「子ども・若者総合相談センターの実績はもちろん数字もあるけど、周りの理解を得るための最後の決め手はいつもエピソードでした。」と私に言ってくれたこともあります。やはり、エピソードを語ることを止めないのは大きな決め手かなと思います。
オンラインから対面での繋がりにする際のポイント
—参加者:ラインなどのオンライン上の相談から始まったつながりを、対面での関係性に持っていくのは、実際難しいと感じます。何かポイントはありますか?
ライン相談のもともとのコンセプトとして「リアルに会えるためのライン相談」を掲げていました。
オンラインから来所に繋げるコツは「じゃあ相談に来てください」「私たちと会って面談しましょう」ではなく、「ちょっと一緒にお茶しませんか」「オープン型交流スペースにちょっと遊びに来ませんか」と、ふわっとした丸い場所に彼らを誘導することです。もちろん来所が難しい場合はアウトリーチ機能も使って、「近くの公園でお目にかかりましょうね」など、彼らの会うハードルを下げていくのもポイントです。
ただ、ここ何年かライン相談をやっていて思うのは、「会わないことにも意味がある」ということです。オープン型交流スペースに、毎日学校や職場での愚痴を言うようにやってくる子が出てきました。その子たちは引きこもりや精神障害など、明確に「こう困っているから助けてほしい」というところまでは行っていません。ちょっとした息苦しさや、不安があるんです。家族機能がある子は、毎日夕ご飯の時にお母さんに愚痴をこぼすことで、元気が出て明日学校や職場に行くことができます。その部分がごそっと抜けた子に対して、私たちが毎日家族のように愚痴を聞くことで、そのまま彼らが自らたくましくなり、ライン相談から卒業していく現象も起きました。
このことから、彼らのような漠然とした不安は、ガチっと相談につなげすぎなくても良いのではないかと考えています。ライン相談の中で傾聴しながら、一緒に問題を解消できると、リピーターになりすぎずに卒業できることも分かってきました。なので、もともと14%くらいだったライン相談からの来所率を、今はあえて7%くらいに下げて対応しています。
画像:草の根ささえあいプロジェクト作成
地域ネットワークづくりにおける壁
—参加者:地域ネットワークづくりにおいて壁となるものは何でしょうか?今まで直面した課題と乗り越え方を伺いたいです。
もし地域ネットワークづくりに壁があるとすると、それは、本人を中心としない時ですね。本人の困りごとを中心にして地域の人に相談すれば、必ず何か道は開けます。
もし本人を中心としないまま、「名古屋市子ども・若者総合相談センターの〇〇と申します、仲間に入ってほしいので、若者支援協議会にエントリーしてください。」と地域の人に言ったとしたら、恐らく80%くらい断られると思います。私たちは営業マンではないので、相手を口説くことが上手いわけではないですよね。
しかし、例えば「あなたの家の近所で、どうしても家から出られないけど、昆虫が大好きで部屋の中が昆虫辞典だらけの人がいます。昆虫談義をして元気づけたいんけど、私は昆虫が苦手です。〇〇さん、昆虫の標本を1万点持っていると言っていましたよね。昆虫の話をするために、彼の家に一緒に行ってくれませんか」とエピソードを中心にして頼んだら、断る大人は少ないと思います。私たちが壁だと思っているものを取っ払うコツは、「本人を中心としたら意外と地域の人たちは優しい」と信じることだと思います。
ワークショップの手紙
—参加者:できることもちよりワークショップの最後に届く「手紙」は、リアルなものですか?
手紙はリアルに近いです。ワークショップで扱う事例は全てフェイクにするんですが、その事例の中で登場する人物が、普段私たちに口にすることを、お手紙風にアレンジしています。そうすることでリアリティが増し、「彼らが本当に何を望んでいたか」がぐっと相手に届きます。それを受けて改めて「大人として自分ができることは何だろう」と考え始める人が増えるので、お手紙こそリアルなんです。
画像:草の根ささえあいプロジェクト作成
まとめ
今回は、参加者からの質疑応答の様子をご紹介しました。
- 支援の成果としてリアルなエピソードを語ることをやめないことが重要
- 必ずしも来所につなげなくても、会わずに解消できる問題もある
- 「本人を中心とすれば、地域の人たちは優しい」と信じることで、ネットワークづくりの壁を取り払う
渡辺さん、ありがとうございました!
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※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません。
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