【連載第2回】保護者支援 —子どもと保護者との三者面談・NPO法人Learning for Allの実践事例—

子ども支援の現場においては、子どもの保護者と接する機会も少なくありません。子どものよりよい支援を考えるためには、保護者に対する支援を同時に考える必要があります。

連載第1回では、保護者支援に必要な考え方について、NPO法人Learning for All(以下、LFA)の居場所支援拠点に携わっている、佐藤さんに伺いました。

今回は「大作戦会議」と呼ばれる、子どもと保護者との三者面談の実践について、佐藤さんに伺います。

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【連載第1回】保護者支援 —保護者支援に必要な考え方—
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プロフィール:佐藤 麻理子

LFA子ども支援事業部マネージャー。新卒で学習塾に就職し、教室長として多くの子どもや大学生の成長をサポート。管理部門の経験を経て、2017年4月より、LFA にて新規事業の立ち上げ等を担当。環境に左右されず、誰もが自分のやりたいことを選択し、前向きに行動・努力している社会にしたい。そのために、将来の選択肢を広げ、一緒に考えてくれる「人との出会い」、達成に向け「努力ができる場」を創造し続けたい。

大作戦会議とは

——改めて、大作戦会議についての概要を教えてください。

大作戦会議とは、子どもと保護者の気持ちを繋ぎ合い、子どもと保護者とスタッフが同じ目標を共有し、その目標を実現するための具体的な計画=作戦を決めるための場です。自宅で保護者と子どもが一対一で向かい合うと、保護者が感情的になってしまったり、子どもがきちんと自分の希望を伝えられなかったりすることも多いと思います。そのため、スタッフの立ち会いの元で保護者と子どもがお互いに困っていることや希望していることを共有する場を作ることを重視しています。

大作戦会議当日までに、準備として子どもへのインタビューを行います。子どもが今楽しいことや得意なこと、居場所支援拠点でできるようになったこと、保護者に見せたいもの、などを聞きます。また、今困っていることや、保護者や学校の先生など、関わる大人へのお願いなども聞き出しておきます。このインタビューを通して子どもたちは、自分の今に目を向けて、自分の得意や苦手を再認識したり、困りごとや保護者を始めとする大人たちへの希望を整理したりすることができます。スタッフは、インタビューの内容に合わせて子どもの様子が分かる資料(居場所支援拠点での活動の様子を撮った写真など)や、大作戦会議で決まった作戦を書くためのシートなどを準備しておきます。

大作戦会議当日の流れは以下のようになっています。

①スタッフと保護者のみの時間

拠点での子どもの様子を共有しつつ、保護者が子どもに対して困っていること、希望することを聞く

②スタッフ、保護者、子ども三者の時間

保護者、子どもがお互いに困りごとやお願い、希望を共有し、約束や作戦を決める

③スタッフと保護者のみの時間

三者で決めた約束や作戦を実現するために、拠点で行うサポートと自宅で保護者にお願いしたいことを確認する


LFA作成

大作戦会議の事例

——大作戦会議を通じて子どもや保護者の様子が良い方向に変化したと感じる事例について、紹介してください。

小学校低学年のAくんとその保護者の事例を紹介します。大作戦会議前、Aくんと保護者との間の関係性は以下のような状態でした。

Aくん:まだ危ないこととそうでないことの分別があまりついておらず、一人で勝手に行動してしまうことも少なくない。また、そうした行動については、叱られると思ってあまり保護者に話さない

Aくんの保護者:心配性で、Aくんの様々な行動を先回って止めてしまいがち。子どもの失敗や危険に対する恐怖心が非常に強い

そのような状況の元で、Aくんと保護者がそれぞれの希望や想いを丁寧に言葉にし、お互いの想いが伝わるよう、大作戦会議を企画しました。Aくんに対しては、保護者が本人のことを心配しているが故に彼の様々な行動を先回りして止めるのだということを理解してもらい、どのようにしたら自分のやりたいことをやらせてもらえるのかを考えてもらうことを目指しました。保護者に対しては、自身の心配性すぎる部分を少しでも緩めてもらい、適度な失敗や少しの危険を通じて子どもが様々なことを学ぶのだと感じてもらうことを目指しました。

大作戦会議の事前準備として、まずはAくんへのインタビューを行いました。インタビューに際しては、興味のないことへの集中が続きづらいAくんの特性を鑑み、YesかNoで答えられる質問を行いました。Aくんが適当に答えているように思われる場合には、別日に再度同じ質問をしたり、普段の会話の中に質問を織り交ぜたりしました。また、保護者に対しての準備として、子どもの成長を写真や動画、子どもが作った作品などの目に見える形で準備し、Aくんが実際に失敗を通じて学びを得たエピソードも準備しました

大作戦会議当日、会の進行は基本的にスタッフが行いました。スタッフが質問をかみ砕いたりして発言を促しつつ、保護者本人からも「どう思っているの?」「お母さんは(あなたのことを)一番に大切に思っているよ」などの発言がありました。

Aくんは恥ずかしがりながらも自分の想いを保護者に伝えることができ、保護者は子どもの考えていることが知れて嬉しそうな様子でした。また、子どもとゆっくり話をする機会を得ることができて喜んでくれました。大作戦会議の最後には、子どもと保護者との間の「約束」として、「安心と安全を守った上で、わくわくすることにどんどん取り組む」ということを定めました。Aくんは保護者が安心できるように、勝手に何かをすることを止め、必ず保護者に言うことを約束しました。保護者は一定の安全の確認ができたら、少し不安でもAくんの行動を応援することを約束しました。とはいえ保護者としては心配もあるので、その心配はスタッフが受け止めるということを伝えました。

大作戦会議後、Aくんはそれまで以上に、危険なことをする前にスタッフや保護者に確認してくれるようになりました。また、保護者もAくんの行動に対して「危険!」「だめ!」と判断する前に、彼に行動の理由を聞きつつ、危険だと判断される場合はその理由を説明して止めるようになりました。保護者が頭ごなしにAくんを止めたり叱ったりすることがなくなったことで、Aくんが癇癪を起こすことも少なくなりました。

今回の大作戦会議が上手くいった要因として、保護者が変化できたことが大きな役割を果たしています。そしてその保護者の変化には、保護者の特性に合わせたスタッフの対応が寄与したと考えています。具体的には、心配性であること、アドバイスをもらうよりも共感してもらう方が安心できること、不安な瞬間にきちんと反応が返ってこないとどんどん心配が増幅することといった保護者の気持ちに合わせて、スタッフがいつでも不安を聞くというスタンスで、丁寧なメッセージのやりとりや対面での共感的なコミュニケーションを心がけました。また、失敗や危険に対して大きな不安を持っていたので、Aくんのエピソードに加えて、保護者が信頼しているスタッフ自身の失敗談を共有するなどの工夫も行いました。

まとめ

今回は、LFAの居場所支援拠点に携わっている佐藤さんに、LFAで実施している大作戦会議の実践について伺いました。ポイントを以下にまとめます。

  • 子ども、保護者、スタッフの三者で行う大作戦会議は、子どもと保護者の気持ちを繋ぎ、三者が同じ目標を共有することを目的としている
  • 子どもや保護者の課題や特性に合わせて、スタッフの関わり方を工夫することが重要である

次回はLFAで実施している保護者会と保護者のイベント参加の実践について、引き続き佐藤さんに伺います。

【連載第3回】保護者支援 —保護者同士の繋がりを作る・NPO法人Learning for Allの実践事例—
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※本記事の内容はLFAの居場所支援拠点における実践を元にしたものであり、記事内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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