【後編】アナログゲーム×療育の専門家に聞く!子どもの居場所におけるアナログゲームの選び方・遊び方

子ども支援の拠点において子どもたちと楽しく遊ぶために、ボードゲームやカードゲームといった「アナログゲーム」を活用していらっしゃる方は多いと思います。しかしその一方で、「種類が多すぎて、どういうゲームを選べばいいのかわからない…」「ゲームに負けそうになると癇癪を起こしてしまう子に、どのように接すればいいんだろう…」等のお悩みをお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回は、放課後等デイサービスで、主に知的発達障害のある子どもたちへの「アナログゲーム療育」を提唱・実践している松本太一さんに、子ども支援現場におけるアナログゲームの可能性やゲームの選び方のポイント、子どもと一緒にゲームで遊ぶ際のよくあるお悩みへの対応などについて伺います。

前編では、松本さんのご活動内容や、子ども支援現場におけるアナログゲームの強みなどについてお話しいただきました。

【前編】アナログゲーム×療育の専門家に聞く!子どもの居場所におけるアナログゲームの選び方・遊び方
【前編】アナログゲーム×療育の専門家に聞く!子どもの居場所におけるアナログゲームの選び方・遊び方

後編では、子どもと一緒にゲームで遊んでいる際のよくある困りごとへの対応や、今後の展望について伺います。

プロフィール:松本 太一氏
東京学芸大学大学院教育学研究科障害児教育専攻卒業教育学修士。在学中は自閉症児療育の「太田ステージ」開発者である太田昌孝の指導のもと、東大付属病院や通級指導教室でソーシャル・スキル・トレーニングの実践研究を行う。卒業後は、福祉団体や人材紹介会社で成人発達障害者の就労支援に携わったのち、放課後等デイサービスに勤務。
市販のカードゲームやボードゲームを用いてコミュニケーション力を育てる「アナログゲーム療育」を開発する。その後独立し、「放課後等デイサービスコンサルタント・アナログゲーム療育アドバイザー」として全国100ヶ所を超える放課後等デイサービスの研修・コンサルティングを行ってきた。HP:https://www.gameryouiku.com/

子どもと一緒にゲームで遊ぶ際の、よくあるお悩み相談

—ここからは、子どもと一緒にゲームで遊ぶ際によくある困りごとの対応方法について教えていただきたいです。

①自分が負けたら癇癪を起こしてしまう子どもの場合

—ゲームで遊んでいて、自分が負けてしまったら癇癪を起してしまう子どもの場合は、どのように対応すればよいのでしょうか

まず大切なことは「癇癪は、予防するものである」ということです。癇癪を起してしまったら、その後に説明や指導を入れたところで、本人を余計興奮させてしまいます。また、癇癪を起こした場合にはどうしてもゲームが中断して他の子にも迷惑がかかってしまうので、「もうあの子とは遊ばない」など、他の子との関係性も悪くなる可能性もあります。そのため「癇癪を起こさないようにする」ということがまず重要です。

癇癪を予防するためには、「どういうときに癇癪が起きているのか」を分析することが必要です。

癇癪の理由はいろいろありますが、一番多いのは「負けた理由がよくわからないまま負けている」という状況です。どうして負けたのかわからないような理由で、いわばその子からすると「理不尽」に負けているような場面で癇癪が起きることが多いです。

また、「予期せず負けてしまう」ということも、癇癪の理由として多く挙げられます。例えば「全部の手札を出し切ったら勝ち」というゲームの場合に、手札が最後の1枚になったタイミングで突然「ペナルティで、あと10枚が手札に追加されます」と言われてしまうなど、目の前に見えていたゴールが突然遠ざかってしまうような場面で癇癪が起きることが多いです。

—なるほど。これらの事態は、どのように予防することができるのでしょうか。

「なんで負けたのかがわからない」「予期せず負けてしまう」ということは、「ルールがわかっていない」ということです。つまり、その子にとってゲームの難易度が高すぎるんですね。そのため、ルールがわかる程度の難易度まで下げることが必要です。私の体感だと、ルールの難易度を下げるだけで、癇癪の6~7割くらいが減ると感じています。

一緒に遊んでいる大人が声掛けをすることも、すぐ実践できる方法だと思います。ゲーム中に「あと1周でゲームが終わるよ」「今、君は3位だね」「あとで、マイナス20点のカードが出てきちゃうかもよ」などの予期を言葉で伝えて、子どもにとって「突然負ける」という事態が起きないようにすると効果的です。

また、そもそも突然負けてしまうようなタイプ(一発逆転ができるタイプ)のゲームを極力避けることも重要です。


写真:松本氏提供

②本人にとって、明らかに難易度が高いゲームで遊びたがる場合

—明らかに本人にとって難しすぎるゲームで遊びたいと言われた場合、希望通り遊ばせるのが良いのか、「これは難しすぎるからやめておこう」と断ることが良いのか、悩みます。どのように対応すればよいのでしょうか。

先ほど「発達段階に合わせたゲーム選びが重要」とお話したことと矛盾するようなのですが、本人が希望した場合は例外で、難易度が高くても、できるだけそのゲームで遊ばせるようにしています。「もっと難しいことにチャレンジしたい」という子どもの意欲は発達のために何より大切で、それを否定したくないからです。

しかし、「実際にやってみたら難しすぎて、結局癇癪を起こして終わってしまった…」となってしまうと、その子にとっての発達の機会にならないし、もしかしたら「もう二度とやらない」という事態になりかねません。そこで、「難しいゲームでも、ルールを守り合って最後までプレイできた」という成功体験を作ることをゴールにして、「意欲は活かす、でも失敗はさせない」というスタンスで接するようにしています。具体的には、その子には手厚くルールの説明をしたり、戦略について悩んでいたら「今回はAの方法が良いと思うよ」くらいのアドバイスをする、など、いわば「下駄を履かせる」ようなサポートをしますね。

—「その子にとって難易度が高いことにチャレンジしてやり切った」という成功体験のためのサポートをするんですね。その結果、子どもたちにはどのような変化・成長が起こるのでしょうか。

難しいゲームで遊んでみたところ、なんとか最後まで遊べたけれども「やっぱり難しかったから、これ以上のチャレンジはしない」という結果になることもあります。その場合も、自分の限界を知ることができたということで、その子にとって重要な経験だと考えています。

反対に「もっとこのゲームで遊びたい!」と思う場合は、大人から出すヒントの数を徐々に減らしていき、子どもが自分で考える範囲を少しずつ増やしていくようにします。そうすると、いつの間にか大人からのサポートが無くても他の子と遜色なく遊べていることもあります。こういう場合は、むしろ私たち大人がその子の力を過小評価していたのかもしれません。

このように「これはちょっと難しいんじゃないか」と周りから思われていたことが出来た子どもは、自分に自信を持つようになり、ゲームのプレイだけでなく、ゲーム中のマナーや振る舞いがどんどん成長していくんですよね。こういったケースもあるので、本人が難しいゲームを遊びたがる場合には、頭ごなしに「これは難しいから出来ないよ」と言うのではなく、できるだけ大人がサポートをしながらチャレンジさせて、「みんなで楽しめた」という形に演出することが重要だと考えています。


写真:松本氏提供

③負けそうになったら、自分に有利な「自分ルール」を発動しようとする場合

—負けそうになった際に、突然「自分ルール」(自分で考えた新しいルール)を発動しようとする子がいる場合、大人はどのように対応すれば良いのでしょうか。

このお悩みも多く聞きますが、このような相談をする方の中には①「自分勝手なルールの主張を止めさせるためにはどうしたらいいか」という意味と、②「自分ルールの提案をすることが良いことなのか、それとも悪いことなのかをジャッジしてほしい」という意味の、2つの問いが混じっているように感じます。より本質的な問いは、後者の自分ルールの提案が良いことか・悪いことかの方だと思うので、この問いを考えてみましょう。

結論から言うと、私は「新しいルールの提案するのは良いこと」だと思っています。何故なら、ルールを破るのではなく、新しいルールを提案しているからです。例えばすごろくで、さいころの目で3が出ているのに勝手に6マス分動かしたら、それは「ルール違反」です。一方で「こういう条件であれば、さいころの目が3だとしても6マス動かせるようなルールにしよう」という提案の場合は、その子はルールを守ろうとしていますよね。ルールを尊重しようとしているからこそ、ルールの変更を求めているとも言えます。

「自分が勝ちたい」という率直な欲求のために、外枠のルールを変えていこうと考えることは、社会を変えていく原動力につながります。「自分が良い方向に行くためにルールを変えよう」と考えること自体は、発達の観点から考えるととても良いことなので、頭ごなしにつぶしたくないと考えています。

ただし、ルールを変更する際に「他の人の合意を取らずに、勝手に新しいルールで進める」場合は問題です。そこには必ず合意形成が必要になります。逆にいえば、アナログゲームのルール変更の場面は、合意形成を学ぶ練習に活かすことができます。

私は、子どもからルール変更を提案されたときには、まず「なるほど、そういうルールでやりたいんだね。そのルールだと、みんなにどんな良いことがあるの?」と聞くようにしています。

また、ルール変更においては対等な立場のみんなで話し合って、合意形成をすることも重要です。たいていまずは大人に対してルール変更の提案をしてくることが多いのですが、大人が判断するのではなく、一緒に遊んでいる他の子どもたちに聞くように、「みんなにそういうルールにしていいか、聞いてみよう」と促します。

まずはルール変更を提案した子から「なぜルールを変えたいのか」の理由を説明し、他の子たちにもそれぞれの意見を言ってもらい、最終的に結論を出してもらいます。もしどうしても結論が出なければ、最終的にはじゃんけんや多数決で決めても良いと思います。大事なことは、「みんなで話し合い、合意形成をしてルール変更をした(または、しなかった)」という場を演出することです。


写真:松本氏提供

話し合いを経てルールを変更した結果、提案者の子が勝ってしまって、他の子どもたちが「ずるい」と不満を言うこともあります。そういう場合は「そのルールはみんなで話し合って決めたよね。あなたは、次はどんなルールにしたら良いと思う?」と聞くようにしています。そこからまた自分たちで考えながら、より良いルールの作成につながっていくと良いと思っています。

また、ルールの提案が否決されてしまった場合は、可能であれば後で、提案してくれた子に対して「さっきみたいに、自分のルールを考えてみんなに意見を聞けたことは、とても良かったよ」と褒めることも大切です。

このように、一見困った行動に思える「自分ルールの提案」も「ルールは絶対的なものではなく、変えてもいいもの。ただしルールを変えるときには周りへの合意が必要という、将来につながる貴重な学びの機会になり得ると考えています。

—「自分でルールを考えて、みんなに合意をとりながら変更する」という一連のプロセスは、自分たちだけでルールを運営しないといけないアナログゲームだからこそできることですね。

その通りだと思います。デジタルゲームでは、自分たちでルールを変えることは出来ないですもんね。この「ルールを変えていくスキル」は、新しい時代にますます必要になると考えています。

これまでは決められたルールの中で動いていく時代でしたが、これからの時代は、みんながフラットな立場で、お互いに話し合いながら決めていくことが求められます。「守るべき絶対的なルール」がないからこそ、それぞれの意思や行動がバラバラになったり孤立したりする可能性もあるため、お互いがつながるためのルールづくりや意思決定のスキルは絶対に必要になります。アナログゲームは、そのための練習をする絶好の機会だと考えています。

アナログゲームを通じて、子どもと関わる大人を増やす

—松本さんの今後の展望について教えてください。

これからはアナログゲームを通じて、子どもと関わる大人を増やすというコンセプトで動いていきたいなと思っています。

近年アナログゲームはちょっとしたブームにもなり、教育現場でも用いられるようになっていますが、中には実はうまく活用できていない事例もあります。アナログゲームは、子どもたちにただポーンと与えておけば良いものではなく、大人が関わって初めて真価が発揮されるものだと感じています。だからこそ、まずは子どもと関わる大人の方が「ゲームをつかってこんなふうに子どもと関われるんだ!」「子どもと一緒にやってみたい!」と思ってもらえるようなやり方を追求したいなと考えています。

また長期的な展望にはなりますが、「療育」と言っている以上、学術的な効果検証が求められるものの、現状ではあまり手が付けられていません。そのため、アナログゲーム療育の効果検証について、共同研究していただけるような大学の教員・学生の方々も探しています。


写真:松本氏提供

まず直近では、これまではコロナで実施が難しかった、リアルな場でのアナログゲーム療育の講座を復活させたいと考えています。やはりアナログゲームは、皆さまに実際に遊んでいただいて、直接体験いただくことが重要です。また、これまでは法人・学校向けの研修がメインだったので、個人の方が参加できる場がなかなか無かったのですが、ようやく今年の4月から個人の方も参加できる講座が始まるので、興味のある方はぜひご参加いただきたいです。

▼講座の詳細はこちら
すごろくやイベント:アナログゲーム療育講座 (sugorokuya.jp)

まとめ

今回は、松本太一さんに、アナログゲームで遊ぶ際のよくある困りごとへの対応や、今後の展望について伺いました。ポイントを以下にまとめます。

  • ゲームに負けそうになると癇癪を起こす子どもの場合は、まずゲームの難易度を下げてみる。
  • 基本的には、子どもの発達段階に合わせたゲームで遊ぶことが望ましいが、本人が希望する場合は、難易度の高いゲームにもチャレンジさせる。その際には、「意欲は活かす、でも失敗はさせない」というスタンスで、大人がサポートする。
  • ゲーム中の「独自ルールの提案」は頭ごなしに否定せず、一緒に遊んでいる人たちに合意を取るように促すことで、合意形成の練習の場として活かす事ができる。
  • 今後は「アナログゲームを通じて、子どもと関わる大人を増やす」をコンセプトに、リアルな研修や講座を積極的に行う予定である。

※本記事の内容は専門家個人の見解であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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