【前編】進路選択を控える中学生に対して、支援者はどう向き合うか ~NPO法人Learning for All の事例~

進路選択を控えている子どもに対して、どのような支援を行うと良いか悩まれている支援者の方も多いのではないでしょうか。子ども達の人生の中で、高校受験や大学受験などの進路選択をするタイミングにおいて、支援者は子どもとどう向き合えばいいのでしょうか。今回はLearning for All(以降、LFA)で学習支援拠点責任者を務める職員に、高校受験を控えた中学生に対する進路選択サポートについて紹介していただきます。

進路選択サポートの種類

━━進路選択サポートの種類について教えてください。

主に次の5種類に分けられると思います。

  1. 本人の進路選択相談
    高校受験の場合は、中2の夏頃から子どもと一緒に高校を調べたり、そもそも中学卒業後に高校進学したいのか、それとも就職したいのかなど本人の意向を確認しています。

  2. 受験・入学の手続きサポート
    志望校が決まったら、その学校の出願スケジュールを把握して、必要な作業を忘れないようにリマインドしています。また、合格後の入学手続きの際も、保護者が外国にルーツを持つなどで、手続きに必要な書類の内容を理解することや書類の作成が難しいご家庭の場合は、学習支援拠点で一緒に確認しながら手続きのサポートをしています。

  3. 保護者面談
    保護者面談では、定期的に学習支援拠点での子どもの様子を伝えたり、子ども本人とご家族の意向とのすり合わせを行っています。また、外国にルーツをもつ保護者や、受験を経験していない保護者の場合は、受験制度や受験スケジュールの確認をしています。

  4. 受験勉強サポート
    志望校の受験スケジュールを把握した上で、受験カリキュラムを立てます。「志望校に合格する」というゴールから逆算して、計画を立てて支援を行っており、入試日やボーダーラインの点数から「この子どもはこの教科が得意だから〇〇点をとる目標にしよう」「そのためには、大問1と大問3に力を入れよう」などの細かいカリキュラムを立てて、過去問の対策も行っています。

  5. 就労を見据えたサポート
    日々の基礎学力定着の学習支援の他にも、就労支援活動も行っています。例えば、フードパントリーを子どもに手伝ってもらったり、宇宙に興味がある子どもに対して、JAXAで働いている知り合いにオンラインで話をしてもらったこともあります。

LFAでの進路選択サポートについて

━━LFAでの進路サポートの具体的なエピソードについて教えてください。

2人の子どものエピソードを紹介します。

まず1人目の子どもは、勉強は苦手でしたがとても真面目で、定期的に拠点に通ってくれていました。講師と信頼関係も上手に構築できていたので「順調な子」だと感じていました。

しかし、その子が拠点に通い続けて数年経っても、拠点の入口に教師がいないと、拠点のある建物に入ることができず、一人でずっと入り口の前で立っている姿を見かけました。その姿をどのように解釈するのかは人によって異なると思いますが、私はショックを受け、自分に対して「自分がいるところが中心」という感覚が薄い、とても遠慮がちな子どもだと感じました。また、進路について話している時に本人から「自分は馬鹿だし、これからどうしよう」と吐露されることもありましたし、保護者からも「子どもには自分のやりたいことをしてほしいけれど、このままだと子どもが高校に行けるか不安。でもどうしたらいいかわからない」と相談されたこともありました。

この状況が中学3年生の夏くらいまで続いていたのですが、徐々に保護者が高校見学に子どもを連れて行ってくれるようになりました。いろいろな高校に保護者と子どもとで見学に行き、私たちの拠点では「この学校はどうだった?」などと質問して、本人の思いに耳を傾けることを意識しました。

そうすると、秋くらいに本人から「自分は普通科よりも専門の高校のほうがいいと思う、こういう分野の就職に強いから〇〇高校に行きたい」と、進路についての意思を語ってくれたのです。少し前までは自分一人だと拠点に入ってこれなかった子どもが、自分のやりたいことや進みたい進路を決めて、伝えてくれるようになったという成長がとても印象的でした。

また、この成長は、LFAが頑張ったからうまくいったのではなく、家庭が持っている力が解決したと感じています、進路は、子どもと家庭と学校が中心となって話し合い、最終的には子ども自身が決めるものだと考えています。保護者が持っている「子どもをサポートする力」と、子どもが持っている「進路を見つけて、自分で進めていく力」が十分に発揮できるように、LFAは双方から話を聞きながらサポートを行っただけだと思っています。

画像:illustAC

印象的だった2人目のエピソードは、「弁護士になりたい」という夢を持っていた外国籍の子どもです。来日した時からこの夢を持っていたのですが、まずは日本語でコミュニケーションをとれるようになることが必要で、それ自体が本人にとってはとても難しく大変なことでした。

学校の宿題に取り組むときも、まず教科書やプリントに書いてある日本語を理解するのに時間がかかります。他の子だと教科書を横に置いて、5分ほどで写すことができるプリントでも、この子は2時間かけないと終わらない状態でした。2時間かけて1枚のプリントに取り組むことは、講師も本人もお互いに疲れますよね。そのため、子どもも「勉強やらないでゲームしよ!」と、ついゲームに逃げる状況も発生していました。私たちも、このままだと法学部進学を見据えた高校に進学するのは難しいと思いながらも、どうしたら良いのかを悩んでいました。

本人と「このままだと法学部を目指せる高校に行くのは難しいけれど、これから頑張っていこうね」という話をして、少しずつ受験勉強を始めました。特別進学コースのある高校を志望校に決めて、受験日から逆算して勉強し、「この教科は〇〇点あがったね」「こっちの教科はあと〇〇点くらい伸びしろがあるね」と話をしながら受験勉強を進めていました。

印象的だったのは、夏ごろに「なんでこの学習支援は毎日やってないの?もっと回数を増やしてほしい」と講師に話してきたことです。意欲的に勉強しようと思っていることに感心しましたが、一方で「この子の要望通り、学習支援の回数を増やしたとしても、この子が持っている課題を本当に解決できるのだろうか?」とも考えました。きっとこの要望の根底にあるのは、「一人だと勉強が難しい」ということへの不安なのではないか。だとしたら、学習支援の回数を増やすのではなく、子どもの不安そのものを和らげるためのアプローチを考えないといけない、と思いました。

そこで、子どもにどういう声掛けや宿題の渡し方をすれば不安が解消されるかを考え、毎回の授業において、現時点での成績や、今後どの部分をどうやって伸ばしていけばよいかを確認するようにしました。すると、受験前には「自分はできる」「ここまでやったから大丈夫」と本人から言ってくれるようになり、最終的には志望校にも合格することができました。その様子を見ていて「こうやって子どもは一人で進んでいけるようになるんだな」と感じました。

これらのエピソードから、LFAが「こうしよう」と子どもやご家庭に指示をするのではなく、子ども自身が目標に向けて主体的に学べるようにサポートしていく支援方法が大切だと考えています。また、子どもが卒業しても自立して進んでいけるサポートをするために、敢えて少し引いて見守り、サポートが必要なところは手を差し伸べるというバランスを上手に調整することも大切だと思っています。

進路選択サポートの際の困りごと

━━これまで進路サポートをしてきて、進路選択の際によくある困りごとがあれば教えてください。

子ども自身が主体的ではないときに、どうやって周囲の大人が介入すればよいかという困りごとがあります。

今まで支援してきた子どもの中に、本人にとって難易度の高い高校を志望していた子どもがいました。学校の先生を含めた周囲の大人が、もし志望校に落ちてもどこかの高校には進学できるように、「後期では別の〇〇高校を受験しよう」「それでもだめだったら定時制の〇〇高校を受けよう」と何から何まで決めてしまったため、本人も「じゃあこのまま頑張らなくても何とかなるから大丈夫」と思ってしまうようになったことがあります。もちろん、本人が路頭に迷わないように選択肢を考えることは大事ですが、そういう大人のサポートが、子ども自身のやる気や「頑張らないといけない」という気持ちを失わせてしまうんだろうなとも感じています。

画像:PhotoAC

また、中学校までずっと不登校で、高校に進学するかどうか迷っていた子どものエピソードも印象的でした。私たちは「子ども本人が自分のペースで進路を決めれば良いけど、どこにも行く場所がないという状況にはしたくないよね」と思いながら、本人がいつ進路を決めるのかを気にしていました。すると、出願締切の1週間前になって、本人から急に「○○高校に行きたい。出願する時に、行きたい理由や自己PRを書かなければならないから一緒に書いてほしい」と相談を持ちかけられたのです。受験日までにあまり時間がなかったため、十分な受験対策はできず、作文対策として原稿用紙の基本的な使い方のみを確認して受験に臨みましたが、無事に志望校に合格することができました。この時、進路は子ども自身が決めることであり、子ども自身に壁を乗り越える力があるので、大人は先走りすぎないように見守ることが大事だと、改めて思いました。

ただ、基本的には「本人が決めるまで待てばいい」と思っていますが、本人がやりたいと思ったときに手遅れにならないように、「公立の高校に行きたければ、〇〇日までに決めないと出願できないよ」と最終的な締切の話を伝えたり、もし学校に進学しなかったとしても本人の居場所を確保できるように、私たちの拠点を卒業した後にもつながれるような他の支援機関を探すようにしています。つまり、子どもが主体的でないときは、私たちにとって避けたい事態(卒業後の居場所がない、等)にはならないように、子どもがやりたいと思ったときに決められるだけの情報提供やサポートはしつつ、子どもがやる気になるまで待つようにしています。

まとめ

今回は、LFAで拠点責任者を務める職員に中学生の進路選択サポートについてお話を伺いました。ポイントを下記にまとめます。

  • 受験前から入学前まで、様々な進路選択のサポート方法がある。
  • LFAでは、進路選択について子どもが主体的に決めて取り組めるように、「見守り」と「手を差し伸べる」バランスを上手くとりながらサポートしている。
  • 子どもが進路選択について主体的でないときも、大人が先走りすぎないように見守りながら、子どもがやりたいと思ったときの情報提供やサポートをして、子どもがやる気になるまで待つことが大切。

次回は、中学生の進路サポートで大切にしている考え方や、団体として意識していることについて伺います。

【後編】進路選択を控える中学生に対して、支援者はどう向き合うか ~NPO法人Learning for All の事例~
【後編】進路選択を控える中学生に対して、支援者はどう向き合うか ~NPO法人Learning for All の事例~

※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

 

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