【連載第3回】外国にルーツがある子どもの支援 ー明日からできる!支援の一歩目ー

連載第2回では、「外国にルーツがある子どもにとって支援現場はどのような場所であるべきか」について見ていきました。

連載最終回となる今回は、「実際に外国にルーツがある子どもが現場に来た際に何から取り組むべきか」について、引き続き日本女子大学の清水睦美先生に伺います。

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プロフィール:清水 睦美
日本女子大学教授。人間社会学部 教育学科所属。博士(教育学)。専門は、学校臨床学、教育社会学。主著に『ニューカマーの子どもたち: 学校と家族の間の日常世界』(2006年、勁草書房)がある。最近では、グループ研究で、日本で育った外国にルーツのある若者170人へのインタビューを行い、その成果が『日本社会の移民第二世代-エスニシティ間比較でとらえる「ニューカマー」の子どもたちの今』(明石書店、共著)が刊行された。

 

生活の様子を確認すること

「今日はどうだった?」の声かけ

━━前回は「外国にルーツがある子どもにとって支援現場はどのような場所であるべきか」というテーマで、まずは子どもにとって日々の悩みや困りごとを相談できる居場所であることが大切だということなどを学びました。では、支援現場がそのような方向に向かっていくために、実際に外国にルーツがある子どもが現場に来た際何から始めればよいのでしょうか。

まずは子どもの生活の様子を知ることが大事です。外国にルーツがある子どもたちは学校や家庭でうまくいっていないことが多く、周りに合わせようと無理に頑張っていることもあります。「今日どうだったの?」「今日いつもと様子違うじゃん。何かあったの?」といった声かけから支援に入るのがよいと思います。そのような生活の様子に支援者が興味を持っていることが当たり前になると、子どもたちは自分から生活の様子を話すようになったり、「今日はこのことを聞いてほしい」と話すことについて事前に準備したりするようになります。

生活の中の悩みや困難に気づく

━━生活のことについて話すという習慣を作るということですね。それによって子どもが生活の中で抱えている悩みや困難を把握しやすくなる、ということでしょうか。

はい。子どもたちが支援現場で生活のことについて話すようになると、場合によっては全く学習に向かわずに生活のことについて話すだけの日も出てくると思います。子どもたちは支援現場が学習支援教室であることを知っており、それでもなお生活のことについて授業時間いっぱい話すというということですから、それだけ何か大きな悩みや困難を生活の中で抱えているのだということが分かります。

声かけを重ねることによる子どもの変化

━━なるほど。そうした「生活について話す」ということを積み重ねていくと、子どもたちの様子はどのように変わるのでしょうか。

外国にルーツがある子どもたちにとって支援現場が自分のことを聞いてくれる場所になると、かれら、学校での勉強ができるできないに関わらず行こう」と思ようになります。それだけでなく、子どもたち自身が能動的に活動するようにもなります。目的に応じて上手にスタッフを使うようになり、例えば「テストが近いからここについて教えて欲しい」「今日はこの単元を教えて欲しい」と自分からやりたい勉強を提案するようになったりします。もちろん時には「今日は話を聞いて欲しい」というように勉強に向かわない日もありますが、複数言語・文化環境という子どもたちの状況を踏まえつつ、「うまくいかないことが当たり前」という前提の元で焦らず接することが大切です。

 

生活の中での味方探し

子どもの場合

━━子どもたちから生活についての話を聞く中で、例えば日本語を聞き間違えて周囲に笑われてしまった等、言語や文化の葛藤について相談を受けた場合、どのように接することが大切なのでしょうか。

子どもたちがそうした葛藤に居合わせた際の、周囲の反応について確認するとよいと思います。それによって、かれらの生活環境において味方になってくれそうな人の見当を付けることができます。支援者自身が直接的にそうした葛藤の場に居合わせていなくても、かれら周囲に味方を増やす働きかけをしていくためのまなざしを、子ども達自身が身につけていくことが重要です。

かれらの葛藤の解決自体を支援現場で支援者が全て担おうとするのは、支援現場の負担を必要以上に大きくしてしまいます。かれらの周囲に味方を増やすという考え方は、支援者自身が少し肩の力を抜いて支援に向き合うことにもつながります。

保護者の場合

━━味方を見つけることをサポートすることが大切ですね。支援現場に来てくれている子どもの保護者様から相談を受けた場合も、地域の中で味方を見つけるサポートをすることはできるのでしょうか。

まずは、課題解決に関係しそうな諸機関にスタッフから連絡してみるのがよいと思います。相談に乗ってくれそうな機関が見つかった際には、スタッフが保護者と一緒にその機関に相談しに行くというのも方法の1つです。そのような試みを繰り返していくと、徐々に地域のネットワークの様子や困った時に頼れる機関を把握することができるため、地域の中で味方を見つけることも容易になっていきます。

━━全3回に渡り、貴重なお話をありがとうございました。

 

まとめ

今回は、第1回、第2回に引き続き日本女子大学の清水先生に、「実際に外国にルーツがある子どもが現場に来た際に何から取り組むべきか」ついて伺いました。ポイントを以下にまとめます。

  • 生活の様子の確認を習慣にすることで、子どもたちは自分から生活の中の悩みや困難を話してくれるようになる
  • 子どもが「生活について話す」ことを重ねることで、子どもが能動的に現場やスタッフを活用するようになる
  • 実際に言語や文化の葛藤などの相談を受けた場合は、周囲に味方になってくれそうな存在がいないか確認することが重要である

清水先生へのインタビューは以上です。貴重なお話を伺えたこと、この場を借りてお礼申し上げます。ありがとうございました。

 

参考図書

外国にルーツがある子どもの困難や支援についてさらに知りたい方のために、ライターが選んだ参考書籍をいくつかご紹介します。

①『外国人の子ども白書』(荒牧重人ほか、明石書店、2017年)
日本に住む外国籍の子どもの現状について、様々な統計やエピソード等を交えて説明しています。

②『ニューカマーの子どもたち:学校と家族の間の日常世界』(清水睦美、勁草書房、2006年)
今回のインタビュイーである清水睦美先生のご著書で、主に学校と地域の学習支援教室における外国にルーツがある子どもたちの様子を社会学的視点から分析されています。

③『言語マイノリティを支える教育』(ジム・カミンズ、中島和子訳、慶應義塾大学出版会、2011年)
多言語・多文化環境で生きる子どもの言語発達やアイデンティティについて、どういう考え方の元で支援に取り組むべきか等を学ぶことができます。

④『日本社会の移民第二世代ーエスニシティ間比較でとらえる「ニューカマー」の子どもたちの今』(清水睦美ほか、明石書店、2021年)
日本で育った外国にルーツのある若者170人へのインタビューを行った成果がまとめられています。

 

※本記事の内容は専門家個人の見解であり、記事内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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