【連載第1回】外国にルーツがある子どもの支援 ー子どもが抱える困難とその背景ー

日本における外国にルーツがある子どもの数は年々増加しており、彼ら彼女らが抱える困難とその背景について理解することはますます重要になってきています。

今回は、「外国にルーツがある子どもたちが抱える困難とその背景」について、日本女子大学の清水睦美先生に伺いました。

 

プロフィール:清水 睦美
日本女子大学教授。人間社会学部 教育学科所属。博士(教育学)。専門は、学校臨床学、教育社会学。主著に『ニューカマーの子どもたち: 学校と家族の間の日常世界』(2006年、勁草書房)がある。最近では、グループ研究で、日本で育った外国にルーツのある若者170人へのインタビューを行い、その成果が『日本社会の移民第二世代-エスニシティ間比較でとらえる「ニューカマー」の子どもたちの今』(明石書店、共著)が刊行された。

 

外国にルーツがある子どもとは?

「外国にルーツがある子ども」の定義

外国にルーツがある子どもを対象とする教育が必要であるという理解は、そもそも日本社会に広がっていませんし、公的な制度も整えられていません。そのため、外国にルーツがある子どもを対象とする言葉は文部科学省の資料など公的な文書では通常使用されていません。公的に把握されるのは「外国人児童生徒」で、これは外国籍の子どもを指す表現として用いられるのが一般的です。

こうした「外国人児童生徒」という言葉と比較すると「外国にルーツがある子ども」という表現でとらえようするのは、子ども本人の国籍が外国にあるというだけでなく、両親(実親、義親問わず)の少なくともいずれかが外国籍である子どもを含みます。
引用:「平成26年度第2回子供・若者施策調査研究会 田中宝紀氏配布資料」内閣府

では、外国にルーツがある子どもは、日本に現在どれくらいいるのでしょうか?6歳〜18歳の子どもに限って推定してみます。

日本にはどれくらい外国にルーツがある子どもがいるのか

ここでは、先の定義を参照し、外国にルーツがある子ども=外国人児童生徒+両親のうちいずれかが外国籍である子ども(※1)、として、外国人児童生徒、及び両親のうちいずれかが外国籍である子どもの数をそれぞれ調べて推計してみます。

まず、法務省の調査によると「外国人児童生徒」は2020年6月末の時点で約195,000人います。
引用:「在留外国人統計(2020年6月)」政府統計の総合窓口(e-Stat)

次に、2020年6月時点における、両親のうちいずれかが外国籍である6歳〜18歳の子どもの数を推計するために、2002年から2014年に生まれた父母の一方が外国人である新生児の数を集計してみると、約284,000人という結果になりました。(人口動態調査(厚生労働省 2020)より推計)

合計すると、日本には約479,000人(※2)ほど外国にルーツがある子どもがいると考えられます。

 

外国にルーツがある子どもが抱える困難とその背景

複数の言語・文化環境に生きるということ

━━外国にルーツがある子どもたちが家庭や学校で抱える困難について教えてください。

外国にルーツがある子どもたちが抱える課題を考える際に、2つの前提を押さえる必要があると思っています。1つは、複数の言語環境の中で育つ子どもたちの認識は、単一の言語環境の中で育つ子どもの認識とは大きく異なっているという点です。そしてもう1つは、複数の文化環境の中で育つ子どもたちは、常に学校と家庭の文化の違い、あるいは家庭内にある文化の違いに葛藤しながら生きているという点です。

━━複数の言語や文化が混在する環境に生きているということですね。

そうです。これらの点について、日本社会あるいは日本の学校では十分な理解がなされているとは言い難い状況にあります。まず言語について言うと、日本社会の中では「日本語」という単一の言語使用が当たり前とされており、且つ、識字率が非常に高いため、「話す・聞く」技能と「読む・書く」技能との間で獲得の仕方や程度に違いがあるということが理解されづらいです。そして、日本の学校における学力獲得は日本語という単一言語で競争することを前提としているため、複数の言語環境の中で複雑な言語獲得をしている子どもたちは、学力獲得において当然のことながら不利な状況に陥ります。結果として、外国にルーツがある子どもたちは同じ年齢段階での学力獲得の競争においてはかなわないことなります。

━━なるほど。複数の文化環境の中で育つという点についてはどうでしょうか?

学校のルールと家庭のルールが異なることで、日常生活の中で葛藤を抱えることになります。また、父親と母親の国籍やルーツが異なる場合、家庭の中でもそうした葛藤が生じることになります。

日本の学校には、そのような葛藤を大切に育てるというよりは、できるだけ葛藤は避け問題が起きないように進めることがよいことだとする考え方があるように思います。葛藤があること自体が良くないことであるとみなされると、外国にルーツがある子どもたちは文化的葛藤を自分で抱え込み、「うまくいかないのは自分や自分のルーツのせいだ」と、自分たちのルーツに対して否定的な見方をするようになってしまいます

ルーツに対する否定的な態度の形成

━━文化的葛藤を抱えることにより、自身のルーツを否定的にとらえるようになってしまう、ということですね。

はい。そしてそれは、言語と学力の問題にも当てはまります。複数の文化の間の葛藤が良くないことであるとみなされてしまうように、複数の言語環境の中で育つことも良くないことであるとみなされてしまうことがあります。例えば、日本語習得が外国にルーツがある子どもにとって一番大事なことだと考える学校の先生の中には、複数の言語環境自体を避けるために、「おうちで日本語を話してください」と保護者にお願いする方もいらっしゃいます。しかし、保護者が子育てを自分の得意な言語でしないことは不自然ですし、日本語がうまく使用できない場合はやはりそれは難しいことです。こうした保護者に無理を強いる方法は、複数言語環境下の中で育つ子どもたちとの間で、さらに大きな葛藤が生じさせるため、子どもたちは学習を含む日常生活の上手くいかないことを自身のルーツや親のせいにするようになってしまいます

━━周囲の人間が、複数の言語環境・文化環境で育つ子どもの状況を理解して接することが大切ですね。

子どもたちの状況を理解するということは、子どもたちの様子をよく観察するということだと思います。これまでお話しした状況におかれた子どもたちには、一方で消極的で目立たないように行動し、わからずに困っていることもわかるふりをして、葛藤が外に晒されないようにと細心の注意を払って行動する様子がうかがえます。他方で、ふざけて笑いをとることで晒されている葛藤を「そんなの気にしてない」というふりをするけれども、内心はとても傷ついているという様子がうかがえる子どもたちもいます。あるいは、葛藤が晒されることで自分の弱さが露呈していると捉える子どもたちには、抑圧的な振る舞いをする様子もうかがえます例えば、他の子どもにいじわるをする、暴力的に接する等の振る舞いです。こうした場合には「外国人の子どもっていじわるだよね」というような偏見が作られてしまい、外国にルーツがある子どもたちにとってさらに生きづらい環境が作られてしまうことになります。

このように子どもたちのおかれた状況は同じでも、その反応は様々です。だからこそ、子どもの様子をよく観察し、そうした様子が表れてくる背景を読み解く必要があると思います。

 

まとめ

今回は、日本女子大学の清水睦美先生に外国にルーツがある子どもが抱える困難とその背景について伺いました。ポイントを以下にまとめます。

  • 「外国にルーツがある子ども」とは、子どもの国籍に関わらず、両親の少なくともいずれかが外国籍である子どもを指す
  • 日本には、外国にルーツがある子どもが概算で約479,000人いると推定される
  • 外国にルーツがある子どもは複数言語・文化環境下で生きることによる学力不振、文化的葛藤を抱える。その結果として自分のルーツに対する否定的な態度が作られたり、時には他の人に対して抑圧的に振る舞ってしまったりするが、それは外国にルーツがある子どもに対する偏見を再生産することに繋がってしまう
  • 以上の困難の背景には、複数の言語・文化があるという環境で育つということの意味が日本社会や学校現場の中で十分に理解されづらかったり、否定的に捉えられていたりといった構造的な要因がある

次回も引き続き清水先生にインタビューを行い、「外国にルーツがある子どもにとって支援現場はどのような場所であるべきか」について伺います。

第2回はこちら

【連載第2回】外国にルーツがある子どもの支援 ー支援現場・支援者の位置付けー
【連載第2回】外国にルーツがある子どもの支援 ー支援現場・支援者の位置付けー

 

※1 外国にルーツがある子ども数の推計式について:両親のうちいずれかが外国籍である子どもの中には、一部、重国籍の子ども(日本国籍と外国籍の両方を所有)や外国籍の子どももいます。外国にルーツがある子ども=外国人児童(=外国籍を所有する子ども)+両親のうちいずれかが外国籍である子ども、として数えると、上記のような子どもは重複して数えられてしまいますが、今回は概算であるため考慮しないこととしました。

※2 外国にルーツがある子ども数の推計結果について:※1で述べた重複して数えられてしまう問題や死亡・出入国での増減等は考慮していないため、実際の数字とは異なります

※本記事の内容は専門家個人の見解であり、記事内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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