2021年6月27日(日)に、子どもに向き合う全国各地の支援者が学び/知見/意見をシェアするオンラインイベント「こども支援ナビMeetup」の第1回が開催されました。
本イベントでは、これからの社会で求められる子どもの貧困対策、そして、地域での活動と全国の連携について、全国子どもの貧困・教育支援団体協議会代表理事およびNPO法人さいたまユースサポートネット(以下、さいたまユースサポートネット)代表理事である青砥 恭氏をお呼びして、NPO法人Learning for All (以下、LFA)代表 李と対談していただきました。
当日は、全国のNPO団体や企業の方など、120名以上が参加し、多くの質問が出て盛り上がりを見せました。
前編では、青砥氏の講演「子どもの貧困対策の現状とこれから」の内容を紹介します。
プロフィール:青砥 恭
2011年7月にさいたまユースサポートネットを設立。さいたま市で若者たちの包括支援のネットワークと地域拠点をつくる活動に従事。2016年から全国子どもの貧困・教育支援団体協議会の代表理事を務める。
子どもたちはどのような困難を抱えているのか?
貧困の定義には「絶対的貧困」と「相対的貧困」があり、相対的貧困は、その国の生活水準を下回る状態を指します。
全国の17歳以下の子どもの数は約1950万人、その内、相対的貧困状態にある子どもたちは280万人いると言われています(平成28年 厚生労働省調べ)。
また、新型コロナウイルス感染拡大に伴って貧困化が進行していることが、様々なデータから明らかになっています。
例えば、新型コロナウイルス感染拡大に関連する解雇や雇い止めは、2021年4月時点で見込みを含めて10万人を超えると言われています(令和3年 厚生労働省調べ)。また、シフト制の勤務時間が半分以下になったにも関わらず、休業手当を受け取ることができていない「実質的失業者」は女性103万人、男性43万人に上ると言われています(令和3年 野村総合研究所調べ)。
さいたまユースサポートネットで支援をする子ども・若者たちは様々な困難を抱えています。一人の子ども・若者が、発達に遅れがある・生まれた国が外国である・いじめを受けているなど、複合的で重層的な困難を抱えていることが多いです(図①)。
図①ー青砥氏作成
したがって、私たちの団体だけで子どもの困難を全て解決することは難しく、時には他の関係機関に繋ぎながら、地域全体で子どもたちを支えていくことが必要になります。
しかし、このような困難を抱えた子どもたちは、学校の中で「問題児」として扱われたり、周囲の大人から放置されてしまうことも少なくありません。その結果、自己肯定感が低下したり周囲の大人への信頼感が低下したりして、学校や地域から孤立していく傾向にあります。
子どもの貧困対策推進法成立の意義と課題
貧困状態の子どもへの公的支援に対する社会的理解の高まりや、イギリスにおける子どもの貧困法の制定などを背景として、2013年6月に「子どもの貧困対策の推進に関する法律(以下、子どもの貧困対策推進法)」が成立し、翌2014年1月に施行、2018年には一部改訂されました。
子どもの貧困対策推進法の成立によって、子どもの貧困対策を組織的に取り組む仕組みが生まれたことや、地方自治体とボランティア団体が協働する活動が始まったことは大きな意義があります。
一方で、同法には、依然として大きく2つの課題があるのではないかと考えています(図②)。
(1)子どもの幸福を中心に据えた具体的な貧困削減目標がないこと
2014年の「子供の貧困対策に関する大綱」では、子どもの貧困対策は「将来を支える積極的な人材育成策として取り組む」ことが重要であるとされており、子どもを労働市場向けの人材として捉えているようにも見受けられます。
本来は子どもの幸福を中心に据えた子どもの貧困対策でなければならず、子どもが市民社会の一員として活躍できることを目指していただきたいと思っています。
(2)子どもや保護者が権利要求の主体になっていないこと
貧困から抜け出す力を教育によって育てることは大切ですが、親から子への「貧困の連鎖」を断つことだけではなく、子どもが現在持っている権利に焦点を当て、子どもが今、ここの貧困から離脱することを目指す議論がまだまだ弱いと思っています。
2019年に子どもの貧困対策推進法が改正され、「子どもの『現在』および将来」という言葉が入ったことで、貧困からの即時離脱が意識されたのではないかとは考えています。しかし、子どもの貧困対策推進法自体が理念法であり、実際に政策を変えていく力は弱いと感じています。
図②ー青砥氏作成
子ども・家庭支援としての学習支援事業
上記2点の課題に加え、学習支援事業の市場化も重要な論点の一つです。
生活困窮者自立支援法における子どもの学習・生活支援事業は、事業に取り組む団体を自治体が募集し、応募団体を自治体が一定の基準で評価して、委託先を決めることが基本です。委託件数は年々増加しており、特に民間企業への委託が増えてきています。
学習支援事業を民間企業が担うこと自体は決して悪くありませんが、行政からの委託事業価格競争になりつつある実態があります。子どもの貧困対策としての学習支援においては、支援者は単なる学習支援というだけではなく、子どもたち一人ひとりに地域社会をどうつなげるか、というところまで考えることが大切です。学習支援だけではなく、子ども・家庭支援として実現するという活動の質を高めることも考えなければならないと思います。
まとめ
今回の講演を通して、子どもが抱えている困難の複雑さを改めて感じるとともに、貧困からの即時離脱の考え方や子ども・家庭支援としての学習支援の考え方が非常に学びになりました。
青砥先生、ありがとうございました!
メルマガ/LINE@登録者限定公開の後編では、参加者の方々から出た質問にお答えしながら、地域での関係者連携について青砥氏×李で対談した様子を紹介しています。
後編はこちら。
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