【連載第3回】心身のケアまでをワンストップで行う子どもの権利擁護センター「CACかながわ」の取り組み

2022年度の児童虐待相談対応件数は、年間21.9万件以上。統計開始から32年連続で増加しています。

そんな中、2015年から神奈川に設置されていた子どもの権利擁護センター(Children’s Advocacy Center、以下CAC)「CACかながわ」が、2024年4月に児童精神科の医師を採用し、虐待を受けた子どもたちの被害事実を聞き取る面接(司法面接)・全身をくまなく精査する診察(系統的全身診察)・こころの診療(精神療法・心理療法)をワンストップで行うことのできる、国際基準を満たした日本初のCACへと進化しました。

今回は、その「CACかながわ」を運営する認定NPO法人チャイルドファーストジャパンの理事長・山田 不二子さんと司法面接者のおひとりに、なぜCACが必要なのか、CACとはどのような場所なのかなどを伺いました。

連載3回目は、「CACかながわ」の施設内の説明と実際の面接や診察の流れ、MDT(Multi-Disciplinary Team:多機関連携チーム)の連携の様子をお聞きします。

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【連載第1回】心身のケアまでをワンストップで行う子どもの権利擁護センター「CACかながわ」の取り組み
【連載第2回】心身のケアまでをワンストップで行う子どもの権利擁護センター「CACかながわ」の取り組み
【連載第2回】心身のケアまでをワンストップで行う子どもの権利擁護センター「CACかながわ」の取り組み

プロフィール:取材に応じた司法面接者
ChildFirst®司法面接研修およびRIFCRTM研修トレーナー
司法面接者として司法面接を担当
公認心理師、精神保健福祉士、社会福祉士

 

 

CACの施設の構成

玄関

玄関を入ってすぐのスペースは、待合室としてリラックスでき、安心できるような場所となるように意識しています。

写真:玄関の様子(LFA撮影)

実は、入口は玄関の他にもう1つあります。子どもが入ってくる玄関と、警察・検察などのMDT(Multi-Disciplinary Team:多機関連携チーム)の皆さんが入ってくる入口です。このようにして、CAC内で両者が鉢合わせしないように配慮しています。

司法面接の最初に、ビデオを撮っていること、そのビデオカメラを通していっしょにお仕事している人たちが別の部屋で見ていること、およびその人たちからご用があるときに電話がかかってくることは、お子さんにきちんと説明します。とはいえ、ここで知らない大人の人と出会うと不安になったり、お話しすることを躊躇したりもするでしょうから、鉢合わせしないよう配慮をしています。トイレも、子どもや付き添い人用とMDTメンバー用に2ヶ所設置しています。

司法面接室

司法面接室は子どもたちの司法面接を行う場所です。

少し狭い印象を受けるかもしれませんが、幼い子どもが多いので、ソファの上で立ち上がったり、壁との隙間に入り込んだりと、じっとしていられないことも多いです。あまり広いと収拾つかなくなるので、ほどほどの広さにしています。

それから、ケガなどを避けるために、基本的に硬いものは置いていません。テーブルのように見えますが、これもオットマンです。椅子の足も取って高さを低くしており、小さい子でも両足が床について、足をぶらつかせずに落ち着いて座ることができるようにしています。

写真:司法面接室の様子(LFA撮影)

2つのカメラと内線電話

司法面接室内にカメラは2つあります。部屋全体を映す固定カメラと、パンティルトズームカメラと言って子どもの動きに合わせて動かせるものです。

それから、内線電話は鳴ったらすぐに手に取れるよう司法面接者のすぐ横に設置し、立ち上がって受話器を取りに行くなどして話の流れが中断することのないようにしています。例えば内線電話のない部屋だと、外からノックしてもらって司法面接者が外に出てることになり、子どもとの会話の流れが中断するだけでなく、子どもを一人その部屋に残して待たせることになりますよね。内線電話を手元に設置しておけば、子どもに「ちょっと待っててね」と伝えて素早く対応することができるので、私達は手元に設置することをおすすめしています。

アナトミカル・ドール

私たちの手法のいちばん大事な役割として、アナトミカル・ドールと呼ばれる人形を使います。

写真:司法面接に使われるアナトミカル・ドール(LFA撮影)

ドールを使って被害の状況を再現することは、その時の状況を子ども自身が正確に想起すること、そして、それを他者に言語化して伝えることに役立ちます。

例えば、話の中では「脱いでた」と言うだけでも、再現してもらったら、膝の裏までズボンが脱げていたみたいなことがわかったりします。再現していくうちに、「そうそう、そういえば、あの時はこうだった」みたいに当時の記憶が呼び覚まされていきます。

また、言葉で表現しにくいことや表現しようがないこと、少し話しづらいことでも、ドールであれば再現することができることもあります。

アナトミカル・ドールを使うにあたって注意することとして、元々は性教育に使われる人形だったので、人の体と同じ部位がついており、使い方を間違えると誘導的になってしまいます。そのため、非誘導的質問に対して言語による開示があってからしかこのドールを使ってはいけません。言葉開示のない段階でドールを使うことは禁忌です。その他にも注意すべき点がたくさんありますので、私達はChildFirst®司法面接研修の中で、アナトミカル・ドールの正しい使い方を理解して適切に使ってもらえるように厳密に教育しています。

事実と想像を混同しない、司法面接に集中するための配慮

先ほどビデオを撮っていることやそれを見ている人たちがいることは子どもたちに伝えているとお話ししましたが、5歳以下の子どもには説明しません。

もちろん聞かれたらお話しますが、あまりに幼いと、別の部屋にいてここからは見えないMDTメンバーの話をされると、見えない何かを想像してしまいます。司法面接には想像を持ち込んではなりません。あくまで、体験事実として覚えていることを話してもらう場なので、事実と想像が混同することを避けるために幼い子どもにはお部屋の説明をしない、ということにしています。

また、時計やカレンダー、具象画や写真は設置しません。子どもにとって時の概念はとても難しいものです。しかし、おとなに聞かれると「答えなくてはいけない」と考えて、目に入ったものを使って答えてしまうことがあるためです。例えば、何年生の頃に起きた出来事なのかを質問された時に目に入ったカレンダーの日付を答えてしまったり、聞かれたことに答えたくないと壁に掛かっている絵や写真の話題を持ち出して話をそらしたりすることもあります。

また、時計があると、「もうこの時間だから僕帰る、もういいでしょう」みたいな気持ちになってしまうこともあります。時間を気にしだすと気持ちがそこに引っ張られてしまうので、時間を気にしないで会話できる環境を整えています。私達も時計で計った時間ではなく、子どもの状態を見て司法面接の時間を調整しています。

診察室

診察室では、系統的全身診察と言って、医師が子どもを頭のてっぺんからつま先まで問診しながら診察をしていきます。司法面接が終わったら少しトイレ休憩をとってそのままその日に診察を行うのですが、これがすごく大切なんです。医師は司法面接の様子をモニタールームで見ているので、司法面接でお話ししてくれたことを系統的全身診察で開示できないような場合、「先生、〇〇ちゃんがお話しする様子を別のお部屋で見ていたんだけど、何かお胸のことをお話ししてたよね」などと司法面接での話の内容を引用することができます。

系統的全身診察では子どもの頭のてっぺんからつま先まで、虐待とは全く関係がないような事故のケガや皮膚疾患等についても、ひとつずつ質問しながら診ていきます。「ここに何かカイカイができたことある?」などとやり取りをしながら診察していくので、子どもも緊張せずキャッキャ言いながら答えてくれたりします。最後に必ず性器肛門診察があるのですが、「先生はこうやって全部見てくんだな」と理解すると、性虐待を語ることへの抵抗感がだいぶ薄れます。

それから枕元に絵本やパペットなどいろいろなものを置いています。

どの子も、どうしてもこの性器肛門診察に意識が向いてしまうのですが、そうすると解離(注1)が起こったりして、すごくつらい思いをすることがあります。

なので、幼い子どもの場合は、診察に同席している看護師が一緒に本を読んだり、より年長の子どもにはたわいのない話などをしながら、性器肛門診察に意識が向かないような工夫もしています。

(注1)トラウマになるような出来事を体験した人が、起きてしまった出来事のつらさを感知しなくて済むように、心を防衛するために起こる症状。自分の感覚や感情・知覚・アイデンティティーが切り離されたように感じ、現実では到底ありえないような不思議なものが見えたり声が聞こえてきたり、自分が現実を生きているような感じがなくなって体の感覚がそっくり変わってしまったように感じること。

そして、最後に医師が白紙に絵を描いたりしながら、診察した結果を子どもに説明します。

ここに来てくれる子どもたちはみんな、「自分は傷ついている」「もう誰が見たって私はこんな被害にあったとわかるはずだ」など、様々なスティグマを抱えていて本当につらい思いをしていますが、「先生はあなたの頭のてっぺんからつま先まで全部見たけどあなたの体なんともなってないよ、大丈夫だよ」って言ってあげられるんですね。そうすると子どもたちは本当にほっとします。もちろん所見がある子にはそれを正直に伝えますが、コルポスコープというカメラで大きく拡大してようやく傷を見つけられる程度の子がほとんどなのです。

この系統的全身診察の機会を得られた子と得られなかった子では、多分この先の人生が変わってしまうと思います。

また、性被害にあったお子さんは婦人科に連れて行かれることが多いのですが、婦人科の医師は子どもの診察をしたことがない先生も多く、子どもたちとコミュニケーションを取ることが難しいかもしれません。

また、性虐待にあった子どもの診察には特別な知識と経験が必要です。研修を受けていない医師が書いた「性器肛門に異常所見がないから、この子の言っている被害は虚偽である」という意見書によって被告人が無罪になったケースも過去にはありました。

だからこそ私たちは、司法面接と系統的全身診察をセットにして受けることの重要性と、きちんと研修を受けて適切な知識をもった医師に診てもらうことの大切さを強調しています。

モニタールーム(別室)

こちらは児童相談所(以下、児相)の職員、警察官、検察官、診察医などが司法面接を観察する部屋です。この大きなモニターで面接室内の様子を見ながら、追加で質問や確認したい点があれば、内線電話を使って連絡します。

写真:設置されたモニターと内線電話(LFA撮影)

質疑応答

ー施設内の様子や工夫を教えていただいたことで、よりCACがどのように実施されるのかイメージがつきました。CACかながわへの相談は、最初はどこから来ることが多いのでしょうか。

私たちは電話相談の窓口を設けているので、親御さんが電話して来られることもありますし、公的機関の専門職、学校の先生などからの相談もあります。

話を聞いている中で、「司法面接を実施した方がいいですね」となることもあるのですが、CACにおける司法面接は捜査・調査の一環として実施されるので、保護者からの相談は受け付けますが、中立性を維持するため司法面接自体の依頼を当事者から受けることはできず、警察や検察、児相からの依頼で司法面接をすることになります。ですので、司法面接が必要だと感じた場合は、警察や児童相談所に要望を出してくださいと保護者等に伝えています。

とは言っても、児童相談所も警察も受けつけてくれないケースもあります。警察は事件化されそうにないものは対象外、児童相談所は家庭外で起きたことは対象外とすることが多いです。例えば父親からの被害であったとしても、既に別居をしていて一緒に住んでおらず、被害者や保護者が自分たちの安全は確保されたと判断して被害届を出さない場合は、家庭外かつ事件化されないケースとなり、どちらも対応してくれません。

そうすると、ここに子どもがいて、心配している親御さんがいて、でも、どこも関わってくれない状況が生まれてしまいます。そんな時は、MDTコーディネーターが「CACで司法面接を実施しますので来てください」とMDT構成機関に声掛けをして司法面接を実施します。そうすると、MDTを構成する関係機関は「直接自分たちからの依頼という形にはしないけど、司法面接に参加します」と言って集まってくださることも結構あるんです。これも大切なCACの役割の一つだなということを開設してみて初めて気がつきました。

ーCAC内に専属のMDTコーディネーターさんがいらっしゃるんですか?

そうですね、電話相談員の中で特別な研修を受けた人がMDTコーディネーターを兼務しています。他にも、アドボケイトという役割を担う職員もいます。アドボケイトは、司法面接の前に子どもにその場に慣れてもらうために一緒に遊んだり、保護者と司法面接者と診察医がやり取りをしている間に子どものお世話をしたりと、子どもの負担感を減らす役割を果たしています。

また、裁判になった時には子どもに付き添っていくなどの役割もあります。今の所裁判に同行したケースはないですが、必要があれば実施できる体制を整えています。

ーCACの良さを感じるのはどんな時ですか。

司法面接・系統的全身診察が終わった後ですね。「終わったら、はいさよなら」と、すぐにバラバラになるのではなく、モニタールームで「この子、どうしようね」とMDTメンバーが話をするんです。司法面接で子どもが語った事実を共有するから、みんなその子に気持ちが入るんですよ。この子、こんなふうに言ってる」「すごくつらそうだな」とか、みんながそこで気持ちが入るから、一つのチームになって、具体的に動き出そうとします。

例えば、事件化をまだ考えていないケースであれば、警察は「児童相談所さん、ちょっとお母さんを説得してみてください。被害届を出す気になってくれたら僕たちは本当にすごく頑張りますから。」などのやり取りが生まれることもあります。

「私達はこうします」「僕たちはこう動きます」という、次のアクションをそれぞれが決めてその場でやり取りができるので、すごくいいシステムだなと思うし、大切だと思っています。

※本記事の内容は専門家個人の見解であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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