2022年10月28日に、子どもに向き合う全国各地の支援者が学び/知見/意見をシェアするオンラインイベント「こども支援ナビMeetup」の第11回が開催されました。
本イベントでは、NPO法人アスイク(以下、アスイク)代表理事の大橋氏をゲストにお招きし、「ゴールドマン・サックス 地域協働型子ども包括支援基金」の助成事業としてアスイクが自治体と協働した実践事例やアスイクが運営する地域協働型の子ども包括支援事業についてお話いただきました。
イベントレポート第2回ではアスイクが自治体や地域と協働して展開する学習・生活支援事業と不登校生徒の支援事業についてご紹介します。
プロフィール:大橋 雄介氏
1980年生まれ。筑波大学卒業。リクルートのグループ企業で組織開発・人材開発のコンサルティングに携わった後、独立。2011年の震災直後にアスイクを立ち上げる。著書に「3・11被災地子ども白書」等。仙台市協働まちづくり推進委員会副委員長などを歴任。日本青年会議所「人間力大賞」会頭特別賞受賞。
学習・生活支援事業の立ち上げ
震災からちょうど2年後の2013年、仙台市に働きかけて学習・生活支援事業を作りました。
画像:NPO法人アスイク
この事業の柱は「学習支援」「体験機会の提供」「家庭・子どもの相談支援」の3つです。
アスイク側から自治体に現場の実情と必要な支援事業を提案して、協働で作り上げていきました。
また自治体だけでなく地域のさまざまな組織・個人とも協働して、子どもの貧困へのサポートを行っています。
画像:NPO法人アスイク
その中でも、みやぎ生協さんとは事業立ち上げ初期から深く協働して事業を作っています。
家計支援・フードバンク・生協内の集会所の利用など、みやぎ生協さんのリソースをたくさん活用させていただきました。
生協は県内に40店舗以上あり、各地域に点在しています。子どもたちが通いやすい場所にある・利用しているのが目立ちづらい、などの条件が揃っており、子どもが気兼ねなく集まれる場所として、生協はぴったりでした。
学習・生活支援事業の運営体制
当時の学習・生活支援事業は、各教室にサブコーディネーター(非常勤)が1人・ボランティアが数名という形で運営していました。
また、地域の教室をまとめて見るコーディネーター(常勤)を10人ほど置いて、ボランティアの管理や行政などとの企画運営を行っていました。
画像:NPO法人アスイク
しかし子どもたちを取り巻く問題の中には、虐待などヘビーな案件もあります。
専門知識があるわけでもない私たちは、ずいぶん子どもたちに翻弄されました。
そこで仙台市に働きかけ、コーディネーターと別に福祉の専門職のチームを配置しました。
ソーシャルワーカーを入れたことで、子どもが何かサインを出したときに介入したり、必要な機関と家庭をつなぐことがより効果的に行えるようになりました。
学習・生活支援事業ではこのように運営内容を毎年のようにブラッシュアップして、より良い運営ができるように工夫しています。
アスイクが直面したさまざまな子どもの問題
さて、皆さんご存知の通り、子どもの貧困はいろいろな理由で見えづらいです。
画像:NPO法人アスイク
外から見るとなかなかわかりにくいですが、学習・生活支援事業などを通して子ども・保護者と関係ができていくと、次第に貧困や困りごとの実情が見えてきます。
画像:NPO法人アスイク
子どもたちが抱える問題は、虐待・性虐待・ヤングケアラーなどさまざまです。
こうした問題は外から見えづらいものですが、アスイクでは子どもの見守りを強化する・小さなSOSを拾い上げていくことを大切にして事業を運営しています。
高校進学後のサポートを追加
学習・生活支援事業を数年続けていくなかで、高校を中退して相談に来る子どもが段々と増えてきました。
実際に卒業生の追跡調査を行ってみたところ、2013年度の卒業生は1割以上が中退・3割が連絡も取れない状況でした。
そこでこうした調査データをもとに仙台市に働きかけをし、高校生対象のサポート事業も追加しました。
画像:NPO法人アスイク
高校生向けのサポートは、学習支援よりも学校が終わった後にふらっと遊びに来れるような居場所の提供がメインです。
子どもたちと交流しながら相談を聞いたり、中退しそうなサインがあればサポートしたりと迅速な対応ができるよう心がけています。
また、高校生向けの居場所は「利用者がなかなか集まらなくて難しい」という問題がよくありますが、アスイクではスタッフがかなり工夫して中学から高校のつなぎをスムーズに行ってくれています。
具体的には、中学卒業が近い子と高校生サポートスタッフの顔つなぎをしたり、利用している高校生から居場所の楽しさをプレゼンしてもらったりなどですね。
こうした取り組みのおかげで、アスイクでは登録している高校生は400人くらいいて、かなり大所帯になっています。
逆に中学から高校のつなぎがうまくいかないと見守りはなかなか難しいですね。高校生になってわざわざ知らない人たちのいる場所に行くハードルは高いです。
またアスイクでは、過去の卒業生全員に定期的なモニタリングをして状況確認や困りごとのサポート、いつでも戻ってこられるような環境づくりをしています。
画像:NPO法人アスイク
最初は仙台市の1つの区で実施していた学習・生活支援事業ですが、現在は県内3市21町村の36教室、およそ宮城県の半分以上のエリアまで拡大しました。
不登校生徒の支援事業
宮城県は不登校率が高く、最近の文科省調査では中学生の約6%が不登校という結果が出ています。
アスイクの学習・生活支援事業に来ている子どもたちの不登校率はそれよりも高く、登録者の10%ほどです。
不登校状態にある子どもの中には教科学習への拒絶が強かったり、同じ学校の生徒と会いたくなかったりする場合もあり、学習支援事業ではつながりにくい子どもも少なくありませんでした。
そこで2015年、学習・生活支援事業とは別に、不登校の子どもたちのための居場所を作りました。
画像:NPO法人アスイク
これは自主事業で立ち上げたもので、いわゆるフリースクールのような施設です。
教科学習よりも、一緒に遊んだりイベントを企画して実施したり、施設に来られない生徒には訪問支援を行ったりします。
2015年の設立以降、登録者は右肩上がりで増加中です。
画像:NPO法人アスイク
自治体と協働した不登校支援・居場所づくり
不登校生徒の居場所運営は自主事業のため、最初は経済的に余裕がある家庭には会費を払ってもらって余裕がない家庭は減免、足りない分は寄付で補う形を想定していました。
しかし実際には経済的な余裕のない家庭が多く、途中から会費無料で運営することにしました。自主運営の4年間は、1年で多い時には10近くの助成金を組み合わせて、なんとか運営していましたね。
2019年には仙台市の市民協働提案制度を利用して、実験的に仙台市のもつ居場所と連携する協働事業となりました。
この期間の実績が認められて、2021年からは仙台市の公的な施策として委託を受ける形になっています。
ただし委託料だけで運営費をまかなえているわけではないので、まだまだ課題はたくさんあるなという状況です。
ちなみに仙台市が運営する子どもの居場所「ふれあい広場」は、アスイクと市とが連携する前は利用者が減っている状況でしたが、連携開始後は一気に3倍近くにまで利用者が増えました。
画像:NPO法人アスイク
また利用者数の調査以外にも、利用者の定性的な変化の調査など、実績を整理して市民協働事業から委託事業になったという経緯があります。
市民協働事業のときに関係機関(児童相談所・発達相談支援センター・学校など)のヒアリングにも力を入れていました。
関係機関から見た「今どういう居場所が必要なのか」という意見を集めてまとめて仙台市に提出し、働きかけをしていきました(下図参照)。
画像:NPO法人アスイク
実際は義務教育後だけでなく義務教育段階の子どもにも生存保障・社会参加といった側面で受け皿となっています。
虐待件数も過去最高を更新し続けていますが、ふれあい広場の登録者のうち2割ほどは児童相談所が関わっているケースです。
アスイクでは、虐待ケースをはじめとした「どこにも居場所がない」と感じている子どもの居場所をちゃんと作ることが必要だと考え、子どもたちのための居場所を運営しています。
まとめ
第2回は、大橋 雄介さんにアスイクが自治体や地域と協働して展開する学習・生活支援事業と不登校生徒の支援事業について伺いました。ポイントを以下にまとめます。
- 学習・生活支援事業は、自治体や地域と協働して小・中学生から高校生まで切れ目なくサポートしている。
- 不登校生徒の支援は自主事業から市民協働事業、2021年からは市の公的な委託事業になった。
- アスイクは高校中退リスクがある子や、虐待の問題を抱えて居場所がない子どもなど、より困難度の高い子どもたちのサポートに注力している。
第3回ではアスイクの幼少期の子どもに向けた事業や新型コロナ後に開始した食糧支援事業、自治体との協働事業などについてご紹介します。
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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