支援現場を運営していく中で、保護者の方との関わり方・コミュニケーション方法にお悩みの方も多いのではないでしょうか?
今回は、「支援現場における保護者の方とのコミュニケーション方法」について、関東近郊で学習支援を実施しているNPO法人Learning for All(以下、LFA)のスタッフに伺いました。
※個人の特定を防ぐため、匿名で掲載させていただきます。
保護者とのコミュニケーション方法の工夫
━━保護者とのコミュニケーションを取る上で、どのような形で連絡を取っていますか?内容による使い分けなどはされていますか?
私が担当する学習支援拠点では、保護者の方とは、メールやお便り、電話や面談などのコミュニケーションツールを使い分けながら連携しています。希望する保護者の方とは、懇談会も実施しています。保護者同士で集まって悩みを相談しあったり、料理教室のイベントを開催したこともありました。面談や保護者会は3か月に一回程度、そのほかは適宜必要なタイミングで行っています。
拠点で過ごしているときの様子や事務連絡などは、基本的にメールやお便りを使用しています。緊急事態や、メールで記載するには少しデリケートな内容についてはお電話をすることが多いです。多様な保護者の方と色々な形で接点を作ることで関係性を作ることを意識しているので、保護者の希望によってはLINEなど保護者の方が使いやすいツールを用いて連絡を取ることもあります。
面談での内容は時期や学年によっても様々ですが、学習支援拠点における子ども一人ひとりの学習状況についても触れ、授業の方針や結果について情報の共有を心がけているほか、保護者自身の育児の悩みなどにも耳を傾ける時間としています。
保護者とのコミュニケーションを通し得られた変化とは?
━━拠点スタッフが保護者とコミュニケーションを取ることによって、子どもにどのような変化があると思いますか?
拠点での子どもの様子を共有することで、次第に保護者の方に信頼してもらうことが出来、悩みの相談を受けることが増えました。
ひとり親のご家庭を中心に、困難を抱えた子どもへの関わりの悩みを一人で抱え込んでしまう保護者の方は多くいらっしゃいます。保護者の方の悩みや負担が増えすぎた結果、子どもに対して強く当たってしまうなど、子どもと適切に関われなくなることもあると思っています。
私たち拠点スタッフと保護者の方とで子どもの悩みについて話し合うことで、保護者の方の中に、「子どもについて一緒に考えてくれる人がいる」と言う安心感が生まれ、その結果、保護者の方が子どもに寄り添った関わりができるようになると感じています。
そのため、保護者の方と関わることは、結果的には子どもとの関わりにおいても良い影響を与えることに繋がると信じています。
━━実際に子どもへの対応だけではなく、保護者も巻き込んで対応したケースはありますか?
拠点に通っていたお子さんの中に、不登校となり、SNSに夢中になる中で、オンラインゲーム内で知り合った年の離れた異性と交際していたお子さんがいました。
スタッフが子どもから交際の話を聞いた際に、まずは「他の人にも伝えて良いのか」「この話は親は知っているのか」を確認しました。子どもの拠点スタッフに対する信頼を損ねないように、一番最初に子どもの気持ちを確認するようにしています。
次に、保護者の方との連携を行い、子どもの気持ちについての共通認識と役割分担の合意を行いました。交際自体を責めるのではなく、その行動の裏にある子どもの寂しさを理解してもらい、「まずは子どもの気持ちに寄り添おう」という共通認識を持つことができました。
保護者が子どもを責めてしまう背景には、「心配」と「寄り添いたい」という両方の気持ちが存在していると思います。子どもに対して、「心配」を伝える役割は拠点スタッフが担い、保護者にはただ寄り添ってもらう形で役割分担をすることで、保護者の負担も軽減できたと感じています。
その結果、その子と交際相手が会う際には家族や年上の知り合いが同席するなど、家族・拠点としての見守りの体制が構築できています。共通認識と役割分担によって本人の居場所が失われずに、見守りができる関係を保護者と築けたと感じています。
━━そこまで介入できた成功の秘訣は何だったのでしょうか?
子どもだけでなく、保護者の方とも信頼関係が築けていたからだと思います。
上記の子どもはLFAの拠点に数年間通っており、その中で保護者の方へ何度もご連絡をしていました。送り迎え時の会話や、メールでの情報共有など、日々の関わりの中で常に保護者の方には子どもの変化を伝え続けてきました。
その結果、「LFAのスタッフは子どもの変化を一緒に喜んでくれる、私たちの味方だ」と思ってもらうことが出来、上記のような連携が出来たのではと感じています。
保護者と関わる上で大切にしていること
━━保護者対応で「これだけはしない」と意識していることや、スタッフ間で共有してる大切なポイントはありますか?
保護者の方に子どもの対応に対するアドバイスすることは控えています。保護者の方が、誰よりも子どもの事を理解しており、そして誰よりも子どもの幸せを願っていると思っているからです。
その代わりに、保護者の方と一緒に悩むことを大切にしています。
子どもの対応について保護者の方から相談された際も、「こうしたら良い」というアドバイスはせず、「私たちの現場にいるときのお子さんはこのような言動をとっていて、このような声かけをしたらこう答えてくれました」のように、拠点でのお子さんの情報をご共有しています。
その上で、「保護者の方はどうしたいのか」という気持ちを聞きながら、どうすれば良いかを一緒に考えています。
スタッフ間で意識している大切なポイントは、多様な意見を尊重することです。
ひとりの子どもへの対応方法についても、担当するスタッフ一人で考えるのではなく、常に多様な価値観を持ったスタッフ数人で話し合いをするようにしています。そのため、当団体では子どもの対応方法を相談するときに、スタッフ・ボランティア・団体のソーシャルワーカーなどにも情報を共有し、話し合いを行っています。
例えば先ほどの子どもの例をとっても、スタッフ間での話し合いでは「慎重に見守ろう」という意見だけではなく、「すぐに交際を辞めさせた方が良い」という意見も出ました。このように様々な意見が出る空間を作る、そのために様々な価値観を持った人に関わってもらうことを意識しています。
「なぜ自分はそう考えるのか」という点について、意見の裏にある自分自身の価値観や経験まで伝えてもらうことで、異なった意見を持つスタッフ間の話し合いでもお互いの意見を尊重できるようになると感じています。
━━様々な意見が出ることは重要である一方、議論が発散して結論が出ないことも多いと思います。どのように話し合いを進めているのですか?
議論が発散することはありますが、
- 長期的に見たときに、その判断がどのような影響を与えるのか?
- 拠点としてできる範囲はどこまでか?
という判断軸を大切にしています。
先ほどの子どもの例をとっても、スタッフ間で意見が割れたとお話しましたが、
仮に、子どもを叱責するなどして交際相手と別れさせた場合、子どもはきっと拠点への信頼を無くし、拠点に来なくなります。拠点にも通わなくなり更に気持ちが不安定になり、寂しさを紛らわす手段として、また別の異性を見つける可能性もあると考えました。
①の判断軸に基づくと、仮にすぐに交際を辞めさせてしまった場合は、拠点への信頼を無くし、子どもが別の異性と交際するという同じ事を繰り返す対処療法的な対応になってしまうのではと考えました。
行動の裏にある気持ちは何か?その気持ちに答えることが出来ているか?を考えて判断した結果、拠点としては見守りの体制を構築する方向で対応を決定しました。
また、②の判断軸も大切にしています。例えば、子どもと交際相手の交際を見守るという対応を取るときに、拠点が交際相手の連絡先を聞きやりとりすることも可能だと思います。
ですが、そこまでの対応を一人ひとりの子どもに行うと、今度は現場のスタッフが疲弊してしまう可能性があります。どこまでなら拠点として負荷がかからない形で対応できるか?という視点も忘れないようにしています。
まとめ
今回は、保護者とのコミュニケーション方法について様々なお話を伺いました。
LFAでの実践ポイントを下記にまとめました。
・保護者との連絡は、保護者が一番連絡しやすいツールを用いる
・誰よりも子どもの事を理解しており、そして誰よりも子どもの幸せを願っているのは保護者であると理解する
・保護者と一緒に子どもの対応を考える時は、子どもの気持ちを尊重しつつ、保護者の方とは子どもの気持ちの共通認識をとりつつ役割分担を決める
・様々な価値観を持つスタッフで意見交換をし、その場の判断基準を意識することで議論の発散を防ぐ
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
この記事は役に立ちましたか?
記事をシェアしてみんなで学ぼう