【連載第2回】心身のケアまでをワンストップで行う子どもの権利擁護センター「CACかながわ」の取り組み

2022年度の児童虐待相談対応件数は、1年間で21.9万件以上。統計開始から32年連続で増加しています。

そんな中、2015年から神奈川に設置されていた子どもの権利擁護センター(Children’s Advocacy Center、以下CAC)「CACかながわ」が、2024年4月に児童精神科の医師を採用し、虐待を受けた子どもたちの被害事実を聞き取る面接(司法面接)・全身をくまなく精査する診察(系統的全身診察)・こころの診療(精神療法・心理療法)をワンストップで行うことのできる、国際基準を満たした日本初のCACへと進化しました。

今回は、その「CACかながわ」を運営する認定NPO法人チャイルドファーストジャパンの理事長・山田 不二子さんと司法面接者のおひとりに、なぜCACが必要なのか、CACとはどのような場所なのかなどを伺いました。

連載2回目は、引き続き山田さんに、概念や仕組みすらなかったCACを日本で開設するまでに至ったお話や、日本で広めるために取り組まれていること、子ども支援者が虐待の第一発見者になった場合に気をつけることなどをお聞きしました。

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連載第1回はこちら:

【連載第1回】心身のケアまでをワンストップで行う子どもの権利擁護センター「CACかながわ」の取り組み
【連載第1回】心身のケアまでをワンストップで行う子どもの権利擁護センター「CACかながわ」の取り組み

プロフィール:山田不二子 氏
医療法人社団三彦会 山田内科胃腸科クリニック 副院長
認定特定非営利活動法人チャイルドファーストジャパン(CFJ)理事長
国際子ども虐待防止学会(ISPCAN)理事
一般社団法人日本子ども虐待防止学会(JaSPCAN)理事
一般社団法人日本子ども虐待医学会(JaMSCAN)副理事長
国立大学法人東京医科歯科大学 医学部 非常勤講師
昭和大学 助産学専攻科 兼任講師
東邦大学 医学部 特任講師

 

CACを開設するまで

ー日本ではほとんど例がないCACですが、開設しようと思われたきっかけや思いをお伺いできますか。

私のパーソナリティに起因しているところも大いにあると思います。昔からおかしいと思ったことは口にしていたし、それを変えるために行動に移すことも苦ではなかったです。

それだけでなく、医者になり、生まれたこの地で開業してから様々な先生との出会いや導きがあって今ここにいるわけですが、団体を立ち上げてすぐに出会ったある女の子のことは今でも忘れられません。

一人で受診に来た、ある中学生の女の子

「子ども虐待ネグレクト防止ネットワーク」という団体を立ち上げた1998年、もうあと何日かで夏休みというところで、私のクリニックに中学生の女の子が受診してきました。一人で受診してきたので、「一人で来たの?」と聞いたら、「お父さんが車で待っている」と。家族構成を聞くと、お母さんはその子が小さい時にいなくなって、おじいちゃん、おばあちゃん、お父さん、お兄ちゃんとその子の五人家族でした。

微熱がずっと続いていて、気管支炎ではないかと本人は言っていました。

当時はまだ、内科の診療所で採血をしてすぐに結果を見られる検査ができず、レントゲンと検尿を行いましたが、腎臓の病気かもしれないということしかわからず、病院に紹介状を書いて入院することになりました。そこで色々と調べたところ、膣内異物によって炎症が起こっていました。まず手術で異物を除去しましたが、癒着する恐れがあったので、夏休み中ずっと入院を続けて洗浄して、幸い癒着は免れました。

入院中に、病院の先生が「どういうことがあったの?」と聞いても、「何かが挟まった」としか言わない。自分でやったとも誰かにやられたとも言わないけども、絶対に自動的に異物が入ることはないので誰かが入れたか自分で入れたかしかないし、自分で入れたら自分で出すであろうから、やはり性虐待だろうと推察され、通告することになりました。

児童相談所(以下、児相)も性虐待だと判断したので、その子は保護されて里親さんに委託されました。でもあの子は結局、入院中に誰からされたかなどは話せなかったんです。だから、体の癒着は防止できたけれども、心のケアについては何もやってあげられなかった。

その時に、こんなことがまかり通っていいはずがない、何か聞き取る方法や治療のシステムがあるはずだと思い、私なりに調べたら、アメリカに子どもの権利擁護センター(CAC)というものがあり、司法面接という手法があるということがわかりました。これをやらんわけにはいかんと、やるべきことの青写真を描きました。

アメリカに行って現地の子どもの権利擁護センターを見学させて貰い、間違いなく日本にも導入しなければならないと感じましたが、その頃は日本語に訳された研修などはありませんでした。ですので、まずは日本語で司法面接の研修を行えるように整備をしました。少しずつ人材が育ってきたところで、いよいよ場所を作ろうとなり、CACを開設しました。気づいたら出来上がるのに15年かかっていましたね。

新しいこと、日本で初めてのことをここまでよく成し遂げられましたねと言われることもありますが、これが必要と思ったらやる必要があるわけで、そのためには一足飛びにはできないから手順を踏む。それをやっていくことは私にとって苦ではありませんでした。

何より、やはり被害を受けた子どもたちに出会っていますから。その子たちにちゃんとやってあげられているんだったら今のシステムでもいいかもしれないけれども、できていないことがこんなに明らかなのに、このままでいいはずがないじゃないかという思いでやってきました。

日本ではまだ2ヶ所しかないCAC

ー今取り組まれていることや今後の展望はありますか。

まだまだやるべきことはたくさんあります。改正刑事訴訟法によって司法面接の録音録画が裁判の証拠として認められるようになりましたが、司法面接の質はまだまだ低いです。全ての子どもに対して、質の高い司法面接・系統的全身診察・こころの診療をワンストップで提供できる環境を届けたいと思っています。

それから、少なくとも親権者等の保護者から虐待を受けて心を病んだ子どものこころの診療には時間がかかるので、保険診療だけでは賄えないので、税金も併せて投入すべきだということを国に訴えていかないといけないと思っています。そのため、この一年は赤字覚悟で、患児さんからは自費診療の予約料等をいただかずに、小児医療費等を使いながら保険診療で被虐待児の治療を行い、どれだけ人件費や治療費がかかるのかについて実績を出して、保険診療ではやっていけないということを訴えて、国が予算をつけてくれるように活動をしていきます。

他にも、CACのような場所を作っても専門性を持った人材が育っていなければやっていけませんので、様々な研修や年1回「子ども虐待防止シンポジウム」という名称の公開国際シンポジウムを実施しています。

虐待の第一発見者になり得る子ども支援者ができること

ー子どもの居場所などを運営していると、児相への通告となるような子どもたちの吐露や身体的な兆候に出会うことも多々あります。子ども支援者が学んでおくべきことはありますか。

虐待の第一発見者になりうる機会のある子どもと接する職業やボランティアをしている方向けの、発見の仕方と子どもへの聞き方を1日かけて学ぶRIFCR(リフカー)研修も実施しています。

身体的虐待であれば「不審なケガがないか?」だとか、ネグレクトだったら「洋服が汚れてないか?」「ご飯を食べさせてもらってないんじゃないか?」とかということをある程度目で見て発見することができますが、性虐待は外見上所見が出ないので、子どもが語ってくれないとわかりません。なので、第一発見者がどう聞くかが大きなポイントになります。

ただ、このRIFCR研修は1回40名までという制限があり、日本に何百万人、何千万人いる子どもと接している方たちに受講してもらうにはキャパシティの問題があります。そこで、我々はホームページに「虐待発見者の聞き取り」というページを作り、聞き取りの時にしてはいけないことをまとめました。

画像:認定NPO法人チャイルドファーストジャパン作成

表の1つ目は、発見現場になった学校・幼稚園・保育所・医療機関等が司法面接を習得していないのに詳細に聞き取ってしまうと、こどもが語っていない情報を含めた誘導質問をしてしまったり、聞いてはいけない日時や被害回数、頻度などをきいてしまったりして、子どもの語りの信用性を傷つけてしまいます。また、その後、司法面接を実施しても、「〇〇先生に全部話したから、ここでは話したくない」と言われ、子どもの語りを録音録画して証拠に残すことができなくなることもたびたびです。ですので、必要最小限に留めることが大切です。そこで語られているのは被害のたった一部かもしれないという懸念を持つことは大事ですが、だからと言ってもっとあるのではないかと思って、根掘り葉掘り聞いてはいけません。

2つ目は、子どもは信じてもらえないと感じると、「今のは冗談だよ」などと言って被害を撤回したり、信じてもらえそうな内容に話を変えてしまうことがあるので、「それってほんとう?」などと真偽を確かめないのは当然ですし、疑っている素振りも匂わせてはいけません。

3つ目は、第一発見者が、自分だけでは抱えきれず所長さんや校長先生にも話して、他の人にも子どもの話を聞いてもらいたくなってしまうかもしれないけれど、それはしないでくださいということです。偉い人であればあるほど子どもが威圧感を感じて迎合したり、「大ごとになったらまずい」と思って話を撤回したり、変えたりということが起きやすくなります。

後で話が変わったという事実が判明すると、「嘘をついている」「子どもの話の全てが捏造だ」とみなされて無罪になってしまうケースもあるので、他の人にも話してもらう、2度3度聞くことはしないということが大切です。

4つめと5つ目は、日本では通告すると保護者からクレームが来るから前もって保護者に連絡をしておこうという風潮もありますが、それはやめましょう、ということです。

虐待を疑われたことを知った人が、「なんで、喋ったんだ!」と子どもに脅しをかけたり暴力を振るったりするかもしれませんし、疑われた人間が家族だった場合、家庭に調査が入ったら「こういうふうに言えよ」と、家族に口止めや口裏合わせをさせようとするかもしれない。何か器物を使っていたらそれを捨ててしまうかもしれない。結果的に、調査・捜査が入ったときには、子どもの虐待を立証することができなくなってしまうことがあるので、通告の前に虐待を疑ってることを虐待の加害者と疑われている人物やその配偶者に絶対話してはいけないのです。もちろん、通告することについて加害者から同意や承諾を取るなどもってのほかです。

実際の場面で使える聞き取りシートも作成しましたので、活用してもらえると嬉しいです。ですが、RIFCRで大切にしているエッセンスが入っているわけではないので、深く知りたいと思ったら是非、RIFCR研修を受講してください。

ーーー

次回は、司法面接を担当する工藤さんに、CACの施設内の説明と実際の司法面接、系統的全身診察の流れ、MDT(Multi-disciplinary Team:多機関連携チーム)の連携の様子をお伺いします。

連載第3回はこちら:

【連載第3回】心身のケアまでをワンストップで行う子どもの権利擁護センター「CACかながわ」の取り組み
【連載第3回】心身のケアまでをワンストップで行う子どもの権利擁護センター「CACかながわ」の取り組み

※本記事の内容は専門家個人の見解であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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