【前編】ありのままでいられる居場所の中で若者たちの自立を支える~川崎若者就労・生活自立支援センター「ブリュッケ」の事例~

子ども・若者の支援に携わる中で、本人の「自立」をどのように見据えるのか、また、そのために支援者として何ができるのかを考える場面も少なくないかと思います。

本記事では、認定NPO法人「フリースペースたまりば」(以下、たまりば)で川崎若者就労・生活自立支援センター「ブリュッケ」のセンター長を務めていらっしゃる三瓶さんにお話を伺いました。ご活動内容や、若者の「自立」を支えるための居場所の在り方、関係者との連携などについてインタビューしました。

プロフィール:三瓶 三絵
川崎若者就労・生活自立支援センター「ブリュッケ」センター長。

川崎若者就労・生活自立支援センターブリュッケとは

—ご活動について教えてください。

川崎若者就労・生活自立支援センター「ブリュッケ」(以下、ブリュッケ)は、川崎市の福祉事務所および生活困窮者支援事務所などで支援を受けている15~39歳の若者で、引きこもり傾向にある若者が自立に向けて利用している登録制の居場所です。

大きく分けて「居場所支援」と「就労支援」の2つの活動があります。

◆居場所支援

毎日昼食を作り、ご飯が出来上がったころには、みんなで集まってミーティングで語り合ったり、午後はグループワークをします。グループワークは、「名作を語る」「サイコロトーク」等の語り系のワークもあれば、講師をお呼びして「太極拳」「お灸カフェ」等体と心を整える学びのワーク、モノづくりのワーク、「いってみたい、やってみたい」を形にする外出企画など、多種多様な講座を行っています。

◆居場所の就労支援

それぞれに合った生き方・働き方を一緒に考えていきます。居場所の仲間との会話の中にもアルバイトのことが話題に出始めるようになると、必要に応じて、職場見学・体験、ハローワークでの求人情報収集、有償ボランティア体験、短時間・スポット就労など、少しずつ体験を重ねていきます。

画像:ブリュッケ玄関のボード(LFA撮影)

—若者の居場所と就労支援がひと続きになっているのがブリュッケの特徴だと思いますが、このような形式にしたのは何故ですか。

まずは、この地域で居場所を長くやってきたたまりばだからこそ、委託事業を受けた入り口が居場所からスタートできた、ちょっとした偶然性みたいなのもあると思います。

また、もともとたまりばは「生きてるだけですごいんだ」という理念でやっていますので、「働かなくてはいけない」「就労だけを目標に自立の支援をする」っていうのはちょっと違うのではないか、という考えもあります。

私自身、ブリュッケに来る前は、もともと障害のある方の就労支援を10年近くやってきて、「就労支援でできることって、限界があるな」というのをずっと感じていたんです。その当時にも、たまりばの存在はうっすら知っていました。たまりばのフリースペースえんを利用していた20歳くらいの男の子が「あそこには差別がなかった」というのを私に語ってくれたこともあって、「どんな場所なんだろう」みたいな想いを抱きながら、就労支援をしてたんですね。

就労支援をしている中で、仕事が続く人と続かない人がいることは感じていて、その違いは何なんだろうって思いながら仕事をしていたんです。その中で、私の中で1つあるかもなと思ったのが「ふるさとを持っている人は強い」っていうのがあって。この「ふるさと」にはいろんな意味合いがあるんだけれども、ありのままの自分でいられた時間とか、何かの成果・評価みたいなものだけではない人とのつながりを持てている時間。就労する前に、そんな時間を過ごせたことがある人、人とのつながりがある人の強さをとても感じていて、「もしかしたら就労支援には、支援よりもふるさとが必要なのかもしれない」という想いがずっとあったんですね。そんな中、西野さん(※たまりば代表)との出会いもあり、ぜひブリュッケをやってみたいと思い、参加しました。

—三瓶さんが感じられた「支援の限界」というのは、そのふるさとを作る、というところだったんでしょうか。

そうですね。特に障害者雇用だと、企業の「雇用率」という数値目標に直結しますよね。そういう企業側の雇用目的と、就労する本人のモチベーションや自己実現とが合致しなくなっていくような場面も多かったというのはあるかもしれないです。

あとはやっぱり今、正社員で働いていける人は、しっかりと学歴を積んで、心身ともに健康な、とても限られた人たちになりやすい現実があると感じています。様々な特性や凸凹があったり、背景に困窮があったりという人たちにとって正社員で働くハードルは想像以上に高く、なんとか頑張ってアルバイト、パートといった非正規雇用の仕事に就いても、その先の暮らしが成り立っていく、というイメージがどうにも持ちづらいですよね。「働けば、その先自分の人生が成り立っていくんだ」って思えないところに、そもそも就労支援で無理やり仕事に繋げて自立を促しても、結果として孤立してしまうんだなという実感がすごくありました。

まずは孤立しないつながりというものを作った上で、そこから自分の生き方を探していくこと。もちろんその中に就労があれば良いに越したことはないんですけど、まずは人とつながって「自分自身のままで良いんだ」って思えるようになる時間が必要なんじゃないか。ただ求人につなげさえすれば、そこで自立して終わり、ということではないなというのは、前職で就労支援をしていた時から感じていました。

若者の変化と「就労支援はしない宣言」

—ブリュッケで過ごす中で、若者が培っているもの・得ているものとはどういうものがあると思いますか。

就労の前段として、グループワークで自分の好きなもので人とつながる経験はすごく大きいかなと思います。有償ボランティア等をする前に、まずは居場所で好きなものを誰かと共有して、ちょっとずつ自己肯定感ができていく、という感じですね。

ブリュッケの開所当初からずっとやっている「名作を語る」というグループワークは、パワーポイントを使ったりyoutubeを流したりしながら、自分が好きなものについてプレゼンし合うんです。ブリュッケの若者たちは、人とつながれなかった頃、家に引きこもっていた時に全く何もしてなかったかというと全くそうではなくて、みんなそれぞれ自分の好きなものをめちゃくちゃ深めてるんですよね。それを誰かと共有できる時間が始まってから人は変わっていくな、というのはすごく感じます。

自分が好きなアニメやゲームをプレゼンし合うと、「それ、自分も好き!」とか「知ってる!」という共感が生まれるんです。コミュニケーションで人と共感しあうのは苦手な人だけど、好きなものを通じてだったら自然と共感が生まれるんですね。最初は他の人がプレゼンしている様子を外から見てるだけなんですけど、ちょっとずつ近づいてきて、いつの間にか中心で話してる、みたいな感じです。こういうところからの自己肯定感って大きいなと思います。

あとは、大事なのは「欲」です。ブリュッケにつながってくるときって、たいていはケースワーカーに連れてこられる人がほとんどなので、心のシャッターは大体閉じてるんですね。その状態で「何やりたい?」なんて聞いたら余計シャッターが固く閉じちゃうので、まずはゆるく一緒にいながら、何から欲が出るのかを見るのが重要です。

食べ物で「何食べたい?」ってところから欲が出るのは多いかな。例えば、今までウナギを食べたことがない外国ルーツの子が「ウナギを食べてみたい」と言ったので、みんなで一緒にひつまぶしを作って食べたり。食べたかったものがいつでも食べられる状況ではなかった生育の人もいるし、季節行事も「知ってるけどやったことがない」という人もいるので、一緒にお雑煮作ったり、恵方巻を作ったりもします。

画像:たまりば作成

自分の欲を諦めることで自分を守ってきた人が多いので、「何かやりたいことくらいあるでしょう」みたいに聞いたとしても、本当に何も出てこないんですよね。今まで諦めてきた時間の長さ分、諦めた欲が出るまで時間はかかるんだろうなと思っています。

また、一緒に料理を作ると、自然に相談が生まれるんですよ。今まで人に相談することなく一人で生きると決めてきた彼らが、料理を一緒に作るとなると自然と「これ、どうしたらいい?」と相談しながら一つのものを作ることになる。いまだに人に相談するのは苦手だけど、厨房に入れば、自然と相談しながらコミュニケーションをとれる時間が作れるんですね。

こういった日々の生活みたいなところから、「自分は自分でいいんだ」という自信がちょっとずつ生まれているんだと思います。

—先ほど伺った「就労だけを自立として考えない」ということについては、利用者である若者にも伝えているのでしょうか。

そうですね。ちょうど1年前の4月に、みんながワイワイしている中で私が「就労支援はしない宣言」をしたんです。「私は就労支援はしません。なぜなら、自分で探してこない仕事は大切にしないから。そして、それよりも、ここ(ブリュッケ)が、どんなことがあっても弱音を吐きに来れるような”ふるさと”であることの方がよっぽど大事。だから、皆さん頑張って。」と。ただ、ブリュッケは委託事業なので、これからもずっとブリュッケがあり続けられるかどうかは、就職率等の実績も関係してくることは事実です。そのことも合わせて伝えたら、その後からみんなアルバイトを自分で探してきて、やる人が増えていったんです。

とはいえ、就労支援も何もしていなかったわけじゃありません。その2年前くらいから、法人内のコミュニティスペースえんくるという場所を使って、若者が有償ボランティアからチャレンジしていける場を作ったんです。えんくるのフードパントリーの在庫チェックをしてもらったり、調理補助や清掃のお手伝いをしてもらったりしています。

画像:たまりば作成

最初はできそうな若者に声をかけてやっていたのが、「あ、あの人もできるんだったら自分もやってみようかな」みたいな感じで、他の若者も興味を持ち始めて。そういった利用者同士の横並びの関係で、お互いに刺激し合いながらの「場の力」の就労支援は、私たち支援者からの「そろそろやってみたら?」という声掛けよりも絶大な効果がありました。

この有償ボランティアでスモールステップを踏んで、そこからアルバイトにチャレンジしていく人も増えましたし、そのまま就労につながらないとしても小さい自信になっているんだろうなと感じる人もいます。例えば、通信の学校をずっと休学していた子が、有償ボランティアを経験した後に、就職ではなく復学をしたんですね。復学してから、学校の先生が紹介してくれたアルバイトを始めています。

今は、この有償ボランティアをもっと地域につなげていきたくて、「はたらくを探そうプロジェクト」というものを立ち上げました。「私たち職員も働く場を開拓するけど、あなたたちも一緒に開拓員になろう」と、若者たちにも自分たちが働ける場所の開拓調査員として入っていってもらい、そこに調査費をつけるという試みです。今は、近所の高齢者施設のスペースでカフェをやってほしいと言われています。

画像:ブリュッケカフェの運営メンバー募集のチラシ(LFA撮影)

また、私が先ほどの「就労支援はしない宣言」をした後も、中には「絶対に働きたくない」って言う若者もいました。私としても、自立って働くことだけじゃないと思っているので、「みんなが居場所の中で”これが自分の生き方だ、幸せだ”っていうものを見つけていけば、それが自立だと思う。この居場所で楽しく過ごしていることが、すでに社会を変えていく活動になると思うから、ここで自分の生き方と幸せを探してください。」って言ったら、その若者が地域の困りごとを解決する「よろずや」というボランティアグループを始めたんです。近所の幼稚園で使う飾りを作ったり、近所の八百屋さんのホームページを作ったり、地域にある放課後等デイサービスのドッジボールの練習相手をやったり…街のお掃除もやっていますね。就労をしない人たちは、これらのボランティア活動をやっています。

画像:たまりば作成

やっぱり就職という形じゃなかったとしても、誰かの役に立つことを通して、自分の価値みたいなものを感じていくんだということを、改めて若者たちから教えてもらっているように思います。居場所の就労支援でここまで実績が出るとは私も思っていなかったですが、結局全部「つながる」ことが必須です。居場所の就労支援は非常にポテンシャルが高いというか、手ごたえを感じています。もっとこの形を展開していけるといいなと思います。

まとめ

今回は、三瓶さんに、「ブリュッケ」の理念や具体的なご活動について伺いました。ポイントを以下にまとめます。

  • ブリュッケでは、就労だけを自立とは決して考えず、ここにつながってから生き方を一緒に探していく支援の在り方を模索している。
  • 好きなものをプレゼンし合うグループワークや、一緒に料理を作ることで、共感や相談が自然と発生するコミュニケーションを積み重ねている。
  • 居場所において、利用者同士が横並びで刺激し合う「場の力」の就労支援はポテンシャルが高いと感じている。

※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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