2025年8月7日に、子どもに向き合う全国各地の支援者が学び/知見/意見をシェアするオンラインイベント「こども支援ナビMeetup」の第27回が開催されました。
今回は、NPO法人CoCoTELI(以下、CoCoTELI)の理事長である平井 登威氏をお迎えし、「精神疾患の親をもつ子どもをひとりにしないーNPO法人CoCoTELIの取り組みー」というテーマで、CoCoTELIの実践や平井氏の知見・お考えをお話いただきました。
イベントレポート第4回では、認定NPO法人Learning for All の宇地原氏をモデレーターに迎え、平井氏の講演後の質疑応答の様子をお伝えします。
連載第1回・第2回・第3回はこちら:

プロフィール:平井登威 氏
NPO法人CoCoTELI 理事長
2001年8月静岡県浜松市生まれ、関西大学4年生。精神疾患の親をもつ子ども・若者の支援を行うNPO法人CoCoTELI代表。幼稚園年長時に父親がうつ病になり、名前のつかない困難や虐待、情緒的ケアを経験。精神疾患の親をもつ子ども・若者支援の土壌をつくるために日々奮闘中。ForbesJAPAN 30 UNDER 30 2024「世界を変える30歳未満」30人に選出。

プロフィール:宇地原 栄斗氏
認定NPO法人Learning for All 子ども支援事業部 エリアマネージャー
1995年生まれ、沖縄県那覇市出身。
沖縄県立開邦高校を卒業後、東京大学教育学部に進学。
大学時代からLFAでのボランティア、インターン活動に取り組み、子ども達への支援を行う。2019年、新卒でLFAに入職し、現場のスタッフ・マネージャーを務める。現在は東京都葛飾区、茨城県つくば市のエリアマネージャーを担当。2023年度4月より子ども家庭庁が設置する子ども家庭審議会のこどもの居場所部会において委員を務める。2023年度4月より葛飾区くらしのまるごと相談事業推進委員会委員を務める。
今のCoCoTELI利用者は現状を言語化できる子に限られている

画像:認定NPO法人Learning for All
—参加者)現在CoCoTELIにつながっている利用者さんはどのようにCoCoTELIを知った人が多いのでしょうか?
平井)今出会っている子たちはSNSと検索が多いですね。あとは紹介もあります。
私たちはオンラインで活動しているからこそSNSを活用しやすいですし、子ども・若者世代にとっても馴染みのあるツールで利用しやすいというのがあると思います。
検索でCoCoTELIを知る子たちは親の病名などで検索していることが多いので、ある程度自分の状況や抱える困難を言語化できている子が多い印象です。そうした意味ではつながる子ども・若者の偏りは大きいと感じています。
他には既存の支援機関から「こんな団体があるから相談してみて」と紹介されて出会うケースも結構あります。
ー宇治原)話を聞いて、当事者である子ども・若者がどれだけ自分の状況を自覚して言語化しているかが大きく関わっているなと感じたんですが、そこはやっぱりハードルがありますか?
平井)そうですね、自分から相談に来るまでのハードルはとても高いと思います。今相談に来てくれている子たちは、言語化が上手かったり言葉にしないとしんどい状況にまでなっていたりする子が多いです。
これも結局当事者である子どもが言葉にできないとつながれない支援だからこそそうなってしまっている側面も大きいと思います。
自分を主語にする経験が希薄な子が多い
—宇治原)精神疾患の親をもつ子ども・若者の、なかなか外から見えづらい・分かりづらいけどもぜひ知っておいてほしい日常での体験や気持ち、大変さなどはありますか?
平井)たくさんありますが、一番感じているのは自分を主語にして話したり判断したりする経験が希薄なことですかね。
一つひとつの体験としては小さいものですが、積み重なることで子どもに大きな影響を与えていると思います。小さい体験なのでなかなか注目されづらいのですが、24時間365日常的に家族の顔色を伺って、親と離れている時間でも親の思考が気になって自分のやりたいことを選択しないようになっている子はとても多いです。
これはなかなか理解されづらいものの、慢性的な生きづらさ・困難として大きなものと言えると思います。
また、親のことを気にする考え方が癖になっていると、支援を受ける際にも「自分よりも大変な人がいる」と考えることがあります。自分は後回しで他の人のことを考える思考は、自分の辛さに目が行かなくなるきっかけにもなっているように感じますね。
親の支援への抵抗感が少なくなるまで焦らないことが大事

画像:認定NPO法人Learning for All
—宇治原)親が子どもの支援を必要としていないときのアプローチの仕方や難しさ、子どもの支援に入るリスクについてどう考えていますか?
平井)親子のパワーバランスは親のほうが強いことを考えると、子どもの支援をする際には支援が入ることで親側にどんなメリットがあるかを伝えていくことと、親の支援に対する抵抗感を少なくしていくことが大切だと思っています。
基本的には子どもを起点とするのではなく親を起点として考えることが大切だと思っていて、親がまず既存の支援体制につながることがファーストステップになると考えています。親が支援につながって支援に対する抵抗感が少なくなってきたタイミングで、子どもにも介入を始めるほうが親の抵抗感は少なくできるのではないかと思っています。
逆に子どもを起点とした支援で親の支援もしようとすると、見えないところで子どもの傷つき体験を生んでしまったり、子どもが今の最善と思って現状維持を選択しているところに支援者が焦って介入して、かえって状況を悪くしてしまったりするリスクがあります。こうしたところはとても難しいですね。
今子どもとつながれているのであれば、「時間がかかる」「そう簡単に状況は変わらない」ことを前提として、2つのアプローチの仕方が有効だと思います。
- 逆境体験を減らすアプローチ
- 肯定的な経験を増やすアプローチ
逆境体験を減らすためのアプローチは、親を支援することとつながりますが、これには時間がかかります。
そのため、子どもの話を否定しない場を作ったり、子どもが安心安全に自分を主語にして話せる機会を作ったり、といった肯定的な経験を増やして子どものレジリエンス(注1*)を強くすることがファーストステップになると思っています。
(注1*)レジリエンス…困難やストレスに直面したときに、それを乗り越えてしなやかに回復する力(回復力、復元力、耐久力、再起力、弾力など)
そうした関わり合いを通して子どもが言語化できたことの中に介入のチャンスが待っていることもあるので、まずは焦らないことが大事ですね。
子どもが好きと思えることに出会えたり、好きなことを安心して好きと言える場・環境を周囲がどのように整えていくかが大切だと思います。
予防的支援は仕組みと親の治療関係に対する心配が課題
—宇治原)CoCoTELIの今後の展望として、子どもからSOSが出る前に予防的アプローチができる事業づくりを挙げていました。最初に親子に出会う場所である医療機関などの視点で現状どんなものが子どもの予防的支援を阻んでいるのでしょうか。
平井)仕組みの問題として、そもそも既存の支援の枠組みにないので子どもの支援まで介入することに医療機関のメリットがない、むしろリスクになってしまうというのがまず一つです。
そして、精神保健医療福祉の機関の視点だと、クライアントは親なので、親に子どもや子育ての心配を伝えてしまうとクライアントにとって否定的な体験になってしまわないかということを心配します。
もし否定的な体験になって病院に来ることを拒否されると、現在の治療関係が崩れることになり、親にとっても子どもにとっても悪い結果になりかねません。こうした治療関係に対する心配を話される方が結構多いですね。
今後数年間でやっていきたいこと

画像:認定NPO法人Learning for All
—宇治原)ここから数年でCoCoTELIとして力を入れていきたいこと、参加している方へのメッセージなどありますか?
平井)これからやっていきたいこととしては、ヤングケアラーという考え方をいろいろな支援の文脈から捉えて多面的にアプローチできる仕組みを実現することです。
最近ではヤングケアラーの概念が広がり、言葉自体はいろいろなところで耳にするようになりましたが、実際のヤングケアラーに対する適切な支援となるとあまり上手くいっていないように感じています。
そもそもヤングケアラーという言葉自体、ケアする状態は定義していますが、そのケアの背景はとても幅広いです。背景の例としては親のメンタルヘルスの問題はもちろん、親が日本語が話せない、祖父母の介護をしている、などさまざまなケースがあります。そしてそれぞれのケースで必要としている支援は異なるのが実情です。
ヤングケアラーは精神疾患の親をもつ子ども・若者が経験する多様な困難の一部であり、多様なヤングケアラーのケースの一部です。
今は児童福祉の言葉としてヤングケアラーが使われていますが、例えば精神保健医療福祉の分野でヤングケアラーを考えることで、親が精神疾患になったタイミングで適切な支援をしないと子どもがヤングケアラーになるかもしれない、親視点であれば子育てや子ども視点では親子関係などで多様な困難に直面するかもしれないという視点をもって親子に接することができるようになります。
こうした視点をもって親子に接することで、親子に予防的な支援が届くようになることを将来的に実現していきたいです。予防的支援ができることで親子が修復不可能な関係性になることを防ぎ、それによって世代間連鎖を防ぎたいということをCoCoTELIでは目指しています。
まずはそのための事例づくりを目指して、病院などの医療機関にアプローチをしているところです。
登壇者からの挨拶
私たちが取り組んでいる領域に多くの方が関心をもっていただいて、とても嬉しく思っています。
CoCoTELIでは予防的な支援の事例を作って、長期的に社会に展開していくために制度化していくことを目指して頑張っていきます。
ただ私たちの取り組みもまだ2年ほどで手探りなことも多いので、ぜひこれから皆さんと一緒にいろいろ考えていけたらなと思います。
興味をもってくれる方がいらっしゃいましたら、SNSやメルマガ登録、CoCoTELI主催の講座などご参加いただけると嬉しいです。ご寄付も受け付けています。
本日はお時間いただき、ありがとうございました。


まとめ
今回は、CoCoTELI 理事長の平井さんに、モデレーターや参加者から届いた質問について伺いました。ポイントを以下にまとめます。
- CoCoTELIで今出会っている子たちはSNSや検索からの流入が多く、ある程度自分の状況や抱える困難を言語化できている子に偏っている。
- 活動の中で、自分を主語にして話したり判断したりする経験が希薄な子が多いことを特に感じている。
- 親が子どもの支援を必要としていないときは、今子どもとのつながりがあるなら、時間がかかること・状況が簡単には変わらないことを前提として、逆境体験を減らすアプローチと肯定的な経験を増やすアプローチを通して焦らず見守ることが大切である。
- 今後の展望としては、例えば精神保健医療福祉の分野でヤングケアラーを考えることで、親が精神疾患になったタイミングで適切な支援をしないと子どもがヤングケアラーになるかもしれない、という視点をもって親子に接するようになり、親子に予防的な支援が届くことを実現していきたい。
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
この記事は役に立ちましたか?
記事をシェアしてみんなで学ぼう



