みなさんこんにちは。4月にもなり、子どもの居場所づくりをされている方の中には、新年度のイベントを考えている方も多いかと思います。そこで、今回はNPO法人Learning for All (以下、LFA)の安次富 亮伍 (あしとみ りょうご)さんに子どもを主体としたイベントの作り方についてお話を伺いました。
前編では子どもと接している中で体験格差を感じる場面、子どもに体験してもらいたいこと、また、自身が居場所拠点でイベントをする際に大切にしていることを伺いました。
プロフィール:安次富 亮伍
LFA職員。出身の沖縄県で大学在学時から不登校や子どもの居場所の支援に参画し、その後公立小学校教員や子どもの居場所事業のマネージャー職を経て、2021年8月にLFAへ入職。子ども支援事業部エリアマネージャーとして勤務している。趣味は居酒屋巡り。
体験格差を感じる瞬間
ー子どもと接していて、体験格差を感じる瞬間はありますか。
そうですね。体験格差によって文化的貧困の状態になっているのだろうと感じる子どもは多いです。例えば、今まで出会った子どもの中には、支援拠点で鍋をした時に「初めて料理をした」という高校生の男の子もいましたし、皿の洗い方を知らずに洗剤を過剰に使ってしまう女の子もいました。他にも、雪で帰れなくなった際に一緒にタクシーを利用したら、「初めてタクシーに乗った」と言う子もいました。
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そのような体験の乏しさの積み重ねが社会から排除されてしまう原因になることは往々にしてあると思います。些細なことが周囲から注意を受けたり孤立したりすることに繋がっているのかなと。
また、「自分を大切にする」ということも文化的貧困に関わることだと思います。
ー自分を大切にすることと文化的貧困が関わるというのはどういうことでしょうか。
困難を抱える家庭には、使い捨ての文化があることが多いと感じます。持ち物や靴をきれいに使う、部屋をきれいにする、ご飯を丁寧に作る、というのは家庭の体力的・時間的・経済的な余裕がないと難しいので、そのような余裕がないとどうしてもこれらの習慣が身に付きづらいです。何かを愛でたり、大切にしたりするという感性が育ちづらい環境なのかなと感じます。
ー家庭での文化や体験が「何かを大切にする」ということに影響しているのですね。子どもの体験格差にはどのようなものが影響していると考えてますか。
保護者の方自身の体験が少ないことや、エリアによっては、例えば特定の体験が乏しい家庭が集まりやすいというようなエリア特有の環境が影響していることがあると思います。例えば少し大都市圏から離れて公共交通機関が少ない地域であれば、家庭が車を所有しているか否かで得ることができる体験も大きく変わります。車がないだけで塾や習い事に行けなかったり、通学に時間がかかるために不登校につながりやすくなったりします。
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子どもたちに体験してほしいこと
ーそのような体験格差の状況下にいる子どもたちに対して、どのような体験をして欲しいと考えていますか。
極論、「自分がやりたいことをやったらいい」と思っています。子どもによっては、やりたくてもできない環境、あるいは、チャレンジしづらい環境があります。自信がなかったり、やったことないから不安だったり、といった理由でチャレンジができない時に、一緒にやりたいことを見つけてトライすることが大事だと思っています。やってみて一緒に失敗するかもしれませんが、そのような体験を積み重ねられればいいかなと思っています。
ーやりたいことをやれない、という状態の要因は何だと思われますか。
もちろん色々ありますが、心理的なハードルに起因していることも多いです。自信がない、もしくは、挑戦するだけの心のゆとりがないのではないでしょうか。心理的ハードルが要因でやりたいことをやれないというのは、貧困だろうが裕福だろうが、大人だろうが子どもだろうがあまり関係ないと感じます。
ただ、貧困家庭のお子さんは、チャンスが少ない上にトライアンドエラーがしづらいという点でもハードルがあるかもしれません。例えば、習い事をやってみて合わなかったら別の習い事をやってみるということは時間的・経済的ゆとりがないと難しいのではないでしょうか。
また、チャレンジに対して許容する文化も重要だと思います。チャレンジする人を卑下したり、馬鹿にしたり、過度にいじったりする文化があるような環境にいれば、それもチャレンジしづらさにつながると思います。
イベントをする際に大切にしていること:子どもの「やりたい」という声
ー子どもの体験格差を埋めるための施策の一つとして、支援現場でのイベントが挙げられるかと思います。安次富さんはこれまでにどのようなイベントをしてきましたか。
釣りや水族館に行ったり、BBQをしたり、色々なことをしてきました。いずれも、子どもの「やりたい」という声から実行に至りました。そこに、子どもごとの成長ポイントを加味した工夫を施していくのがイベントを作る流れかなと考えています。
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ー本当に色々なことをやっているんですね。誰かの「〇〇したい!」という気持ちを大切にされているのだなぁと強く感じますが、その言葉を引き出す工夫としてはどのようなものがありますか。
逆説的な回答になってしまいますが、「聞かない」ことが大事だと思います。子どもから出てくる言葉を待ちます。隣に座って「何をしたい?」と直接聞いても本当の「やりたい」は出てきづらいなぁと思います。
本当の「やりたい」を引き出すためには「ちょっとやりたい」を実現していく必要があると思います。例えば普段ゲームに熱中している子どもに何をしたいか聞いても、普段自分がしているゲームのことしか知らないので、「ゲームをやりたい」としか出てきません。「ゲームをしたい」しか出てこない子どもも、他の色々な体験を積み重ねていくことで例えば「実は自分はコツコツやるのが好きなんだ」と、自分が好きなこと・得意なことに気づくことができるかもしれません。そのようにして、新しく「本当にやりたいこと」が見つかるのかなと思っています。
まとめ
・家庭環境・社会環境などの影響による体験の乏しさは、社会からの孤立や、何かを大切にする感性の育ちづらさに繋がりうる。
・イベントを計画する時は子どもの中にある「やりたい」という気持ちを出発点にする。
・「ちょっとやりたい」を実現していくことで「本当のやりたいこと」が見つかる。
次回は、イベントづくりにおける具体的な工夫や、イベント計画過程でのメンバーの巻きこみ方などを伺っていきたいと思います。
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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